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百七十六話 コーヒー

「ふぅ……これこそが文明の香り……すばらしい」


 マイホームを設置して宴会を終えた翌朝……シルフィ達の飲酒ペースに巻き込まれる事なく、早めに切り上げた俺は、爽やかな気分で目覚めた。


 体中に洗浄の魔法を掛け、気分スッキリと新しい一日を始めようとして、いい事を思いつく。今こそ飲みそびれていたコーヒーを飲む機会じゃ無いのか……と。いそいそとコーヒーを淹れる準備をする。


 インスタントコーヒー、ク〇ープの封を切り、カップに投入。スティックシュガーを半分入れて、魔法の鞄にストックしてある熱湯を注ぐ。ふわっと立ち上るコーヒーの香りに少し涙が出た。


 少し豪華なソファーに座り熱々のコーヒーをすする。何とも言えない穏やかな時間が流れる。ただただコーヒーの味と香りに集中していると、あっという間にカップが空になった。


「もう無くなっちゃった。もう一杯飲みたいな」


 思わず独り言を口に出してしまう。もう一杯飲みたい、と言うか毎日飲みたい。ジッとインスタントコーヒーのビンを見つめる。……でもなー、そんなペースで飲んでいたら直ぐに無くなってしまう。


 ……ん? おお、コーヒーのラベルにコーヒー豆と、緑の葉っぱに赤い実がついた植物が描かれている。これをドリーに見せたらどうにかならないか?


 コーヒーの実が生っても、上手くコーヒー豆の状態まで持って行けるかが問題だよな。カカオは葉っぱに包んで発酵させるって見た事はあるけど、コーヒーはどうだったっけ?


 実を取ったら乾燥させて果肉を取れば良かった気がする。ジャコウネコのふんからコーヒー豆を取るのは、ジャコウネコから捕まえないといけないし……糞から取った豆は個人的に無理だ。


 まあ、ドリーがコーヒーの木を生やせるかを確認してからか。やるべき事がドンドン増えて行くな。コツコツ頑張ろう。


 コーヒーを飲んで欲望が更に刺激された。生活環境を充実させて、理想の異世界生活を手に入れるんだ。


「ゆーた、おはよー」「キューー」「おはよう」「クーー」「「ホー」」「プギャ」 


 気合を新たに自分の部屋から出ると、ベル達が朝のご挨拶をしてくれた。


「おはよう。よく眠れた?」


「うん、べるたくさんねたー」「キュキューー」「かいみん」「ククーー」「「ホーー」」「ププギャ」


 楽しそうに答える精霊達、子供部屋で寝たのが楽しかったのか、普段より二割増しでご機嫌な気がする。しがみ付いて楽しかった事を教えてくれるベル達を連れてリビングに下りる。


「師匠、おはよう」「おはようございます、お師匠様」「おはよう、師匠」「おはようございます」


 リビングに下りるとジーナ達からも朝の挨拶を受ける。新居での生活、なかなかいいな。いままでも朝の挨拶を受けてたけど、ちゃんとした家での挨拶は気分が違う。


「ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、環境が変わったけどよく眠れた?」


「ああ、実家のベッドより快適だった。いい部屋に住まわせて貰って感謝してるよ師匠」


「はい、とてもよく眠れました」「じゅくすいできた」「よくねむれたの」


 ジーナ達も問題無かったみたいだ。とりあえず全員新居での生活は良いスタートが切れたみたいだ。リビングに転がっている酒樽を回収すると、シルフィ達も出てきたので朝の挨拶を交わす。酒樽を三樽空にしてもぜんぜん平気そうなところはさすがだ。


 ***


「じゃあ、朝食でも説明したように、俺はグァバードと小動物達の様子を見た後、火の精霊と契約できるように場を整えるから、サラ達はジーナを案内してあげて。ベル達は自由にしていていいからね。じゃあ解散」


 指示を出すと、キッカがジーナと手を繋ぎ、案内をする為に外に出て行った。ベル達は子供部屋に向かうらしい。俺はとりあえずグァバードの様子見だな。シルフィと一緒にグァバードの小屋に向かう。


 小屋に近づくとグアグアと鳴きながらグァバードが歩き回っている。野生と違って人に慣れているせいか、昨日あんな目に遭ったのに普通に歩き回っている。……ちょっとのんき過ぎる気もするが、環境の変化に対応できないよりかは随分マシか。


 俺が近づいても少し距離を取るぐらいで平常運転なので、気を使うのを止めて小屋の中に入る。エサ箱を見ると、昨日入れた時よりも明らかに量が減っている。ちゃんと食べているみたいだな。


 エサと水の補充をして、次はグァバードの寝床を探る。……卵は見つからない。さすがに初日から卵を産むほどリラックスはできなかったか。新鮮卵は明日に期待だな。


「シルフィ、とりあえず問題は無さそうだけど、何か気付いた事はある?」


「んー、私には分からないわね。見たところ問題無さそうだけど、心配なら命の精霊と早めに契約するといいわ」


「うーん、命の精霊はもう少し動物を増やさないとダメなんだよね。でもその前にジーナが契約する火の精霊が落ち着ける場所を作らないとダメだし、やる事が沢山だ」


「あら、火の精霊なら蒸留所でいいんじゃないの?」


「いま考えている事が上手くいかなかったら、蒸留所でお願いするよ。でも、どうせならもう少しちゃんとした施設の方が精霊も嬉しいだろ?」


「どうかしら? 私が呼ぶつもりの精霊は蒸留所でも喜ぶと思うわよ」


 ……シルフィが呼んでくる精霊って、絶対にシルフィの飲み友達を連れて来てるよね。酒好きの確率百パーセントだ。


「でも下級精霊や浮遊精霊も連れて来るんだろ? お酒に夢中な姿を見せるのはちょっと……それなら別の場所にちゃんとした場所を作る方がいいと思うんだ」


 小さい頃から酒に囲まれて育ったら将来が心配だ。今でさえベル達がお酒に興味を持っているからな、できるだけお酒から遠ざけておきたい。俺の言葉にシルフィがそっと目を逸らす。自覚はあるらしい。


「さて、グァバードは問題無いみたいね。裕太、次は小動物の様子を見るんでしょ、行きましょう」


 話を逸らして出口に向かうシルフィ。うーん、まあ俺もお酒が飲み辛くなるのは困るし、突っ込むのは止めておこう。小屋から出てグァバードの様子を見ながらモフモフキングダムに向かう。


 モフモフキングダムって言っても、遠目から確認するだけで、一度もモフって無いのが悲しい。上空から様子を見て、問題無さそうなら中に入ってみるか。


 シルフィに頼んで空に浮かび、上空からモフモフキングダムを覗く。おっ、木々の隙間から丸い物体がトコトコと歩いている姿が見えた。玉兎だな……あんなにゆっくり動いて、野生動物として大丈夫なのか?


 普通の兎も偶に走っているし木には小猿が居る事も確認できた。後はモモンガなんだけど……巣穴に籠っているからか姿は確認できない。モモンガって夜行性だった気がするから、昼間に姿を見るのは難しいかもな。


「シルフィ、ゆっくり地上にお願い」


「ええ、じゃあ下りるわよ」


 ……小動物を驚かせないようにゆっくりと下りて「あっ!」……小動物達が文字通り脱兎のごとく逃げ出した。玉兎もあんなにのんびりしていたのに、俺に気付いたら物凄い勢いで転がって視界から消えた。あんな方法で逃げ出すとは。


「いなくなっちゃったわね。どうするの?」


 どうするのって言われても、どうしたものか。うーん、このまま此処から離れたら、いつまで経っても慣れる事は無さそうだよね。


「俺が無害だって分かってもらうために、地面に下りてジッとしているよ」


 ………………三十分ほど森の様子を見ながらジッとしていたが、小動物達は一切の動きを見せなかった。周りに果物を置いてみたがそれぐらいではダメらしい。先は長そうだが、タイミングを見てまたここに来よう。こまめに貢物をすれば、少しは慣れてくれるはずだ。せめて俺が姿を見せても逃げ出さないぐらいにはなりたい。


 ジッとしているのを止めて、池に向かって森の中を歩く。小動物達は身を潜めているが、それでも植物以外が無かった時に比べると、何となく森の雰囲気が明るくなった気がする。


 池に到着し、池の中を観察する。透き通った水の中に綺麗な水草が揺らめいている。緑に濃淡があり、その隙間から偶に小魚が見える。日の光を鱗が反射してキラリと光る小魚。


 結構時間が経つし、今日まで生存している事を考えれば、水草も小魚も環境に適応できたと考えても良さそうだ。


 小さなエビや虫なんかは発見できなかったけど、全滅してたらディーネが教えてくれるだろうし、大丈夫だろう。繁殖していけば、小さな生態系が確立するかもしれない。


 釣り堀用にある程度のサイズがある魚を捕まえてくる必要もあるな。その前に、栄養がある泥の確保に水草や、普通の魚のエサになる生物なんかも必要だ。できれば美味しい魚を放流したいが、異世界の淡水魚ってどんなのが居るんだろう?


 日本で食べた事がある川魚は、ヤマメ、イワナ、アユってところだな。海に下って川に戻ってくるような魚は繁殖が難しそうだ。コイやフナだと釣るのは面白いが、食べるとなるとそこまで美味しそうなイメージが無い。


「裕太、考え込んでどうしたの? 何か問題でもあった?」


 池を覗き込んだまま考え事をしていると、シルフィに声を掛けられた。結構長い時間釣り堀の事を考えていたらしい。


「いや、水草も定着しているみたいだし、小魚も見かけたから問題は無いと思うよ。池が上手くいってるから、釣り堀もイケるかなって考えていただけ」


「真剣な顔してそんな事を考えてたのね。釣り堀も良いけど、今は火の精霊の事を考えた方がいいんじゃない?」


 呆れたようにシルフィが言う。ごもっともな意見だ。ジーナと契約する精霊が居ないと、精霊術師もくそもないからな。


「それもそうだね。ねえ、シルフィ。俺が思いついたのは、迷宮で手に入れた炎が出る魔法の杖なんだけど、あれって改造できたりしないかな? ノモスに頼めばなんとかしてくれそうな気がするんだけどどうだろう?」


 もっと早く思いついていれば、マリーさん辺りから魔道具関連の職人さんを紹介して貰えば良かったんだけど、思いついたのが戻ってくる途中だったからな。


 ノモスに頼めばなんとかなる気がするのは、見た目がドワーフだからだ。何となく魔道具とかも興味を持っていじってそうな気がする。


「どうかしら、確かにノモスはそう言う事に興味を持ってるから知識はあるでしょうけど、あの杖が使えるかどうかは分からないわ。さっさとノモスに聞いた方が早いわよ」


 またもやごもっともです。


「じゃあ、とりあえず蒸留所に行こうか」


 昨日ノモスが蒸留器をいじるって言ってたし、俺もノモスが新しく作った蒸留器を確認しておきたい。ちゃんと見ておかないと、気が付いたら蒸留所が大変な事になっている可能性があるもんな。

読んでくださってありがとうございます。

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[一言] だんだん話がつまんなくなてきてる
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