百七十四話 部屋割り
死の大地に到着し急いでグァバードの為の鳥小屋を作った。あとはマイホームを設置して内部に家具の配置をしないとな。それと宴会か。帰って来て早々忙しい。
訓練をしていたベル達とジーナ達を連れて精霊樹の前に行くと、すでに大精霊達も集まっていた。さすがシルフィ、仕事が早い。
「裕太ちゃん、みんな待ってるわよー。はやく新しいお家を出して宴会しましょー」
ディーネがウキウキしている。家と言うより宴会が目的なんだろうが、楽しいのはいい事だよな。
「宴会は家具を配置して、夕食が終わってからだよ」
子供達が居る前で宴会は控えたい。特にベル達はシルフィ達が美味しそうにお酒を飲んでいるから、興味津々だ。ベル達に飲酒グセを付ける訳にはいかない。
「えーー」
頬を膨らませてもダメな物はダメだ。ベル達がエールを一気飲みして「ぷはー」っとか言い出したら悲し過ぎる。
「ディーネ、ここで駄々を捏ねても宴会の時間が遅くなるだけよ、我慢なさい。裕太、待ちきれない子が居るからちょっと急いでお願いね」
「はは、分かったよ」
苦笑いで急ぐように言うシルフィ。まあ、ノモスもドリーも待っているんだし急ぐか。
「タマモ、ここからここまでの芝生を、あそこの土の部分まで移動させて欲しいんだけどできる? あとトゥルには移動させた場所に家を置くから地面を固めてほしい」
俺が頼むと、トゥルとタマモが相談して「できる」「クーー」っと請け負ってくれた。
タマモが「クーーー」っと鳴くとウゴウゴと芝生が動き出す。どうなるんだ? ワクワクしながら注目していると、芝生が自分の葉を地面につけて、踏ん張るようにズポッと根ごと地上に出てきた。
俺が指定した範囲の芝生が、全て地面から自力で根を抜き、器用に根っこを動かしながら指定した場所に向かって歩きだす。……なんかシュールだ。芝生の反乱って感じのパニックムービーがあれば、オープニングで使われそうな気がする。
踏まれ刈られ続けた芝生達の怒りが爆発した。人間よ我々の怒りを思い知れ! 的な……なんかあんまり怖そうじゃないな。パニックムービーは詳しく無いが、たぶん没になるだろう。
目的地にたどり着いた芝生達はズムズムと地面に根をさしこみ、元からそこにあったかのように静かにたたずむ。それを見たジーナ達が凄い凄いと騒いでいる。確かに芝生が歩くんだから凄い光景だよね。
タマモが「クー」っと鳴きながら腕の中に飛び込んでくる。終わったよ、褒めてって言ってる気がするから。褒めまくりの撫でまくりだ。ん? トゥルが俺の目の前に飛んできた。
「トゥル、どうしたの?」
「土をすこしあそこにまいてほしい。固めるとしずむ」
なるほど、芝生も無くなったし、地面を圧縮するとその分沈むよね。トゥルに指示してもらいながら、魔法の鞄からトゥルが指示する量の土を取り出す。頷いたトゥルが右手を前に出すと、盛り上がった土がズンっと沈み周りと同じ高さになった。
「できた」
「ありがとうトゥル」
グリグリと頭を撫でてお礼を言う。
「じゃあ、新しい家を出すね」
トゥルが整地してくれた場所に魔法の鞄から家を取り出す……今更だけど鞄から家を取り出すとかファンタジーだな。
家を取り出すと、ジーナの驚きの声が聞こえる。他のみんなは知ってるから普通だけど、驚いてくれる人が居るとちょっと嬉しい。
「じゃあ、中に入って家具を設置するよ。ジーナ、中は土足禁止だからこのスリッパに履き替えてね。家具を配置しながら家の中を案内するよ」
「あ、ああ、分かった」
リビングにソファーやテーブル、タンスを置く。家具の配置にはシルフィやディーネ、ドリーが指示を出してくれる。俺はセンスに自信が無いから助かるが、拘りがハンパない。
家具もシルフィ達の注文だし、頭の中に新居内の家具の配置を決めていたようだ。家具の配置に拘る大精霊ってどうなのかとも思うが、自分の部屋を作る時の予行練習をしているのかもしれない。聖域に指定されたら、大きな家を作らないとな。
ジーナが家の中を面白そうに見てくれるので、マイホームが完成して人を招待する人の気持ちがちょっと分かった。褒められると結構嬉しいよな。一階の案内と家具の配置が終わったので二階に移動する。
「一番奥が俺の部屋だね。他に四部屋あるから一人一部屋も可能なんだけど、サラとマルコとキッカは本当に同じ部屋でいいの?」
「はい、広いお部屋ですし十分です。それに一緒の方が落ち着きますから」「俺もいっしょのほうがあんしんする」「キッカもひとりはいや!」
スラムでは、サラとマルコ達は別々だったんだが、どうやら一緒の生活に慣れてしまったようだ。
「分かった。でも大きくなると一人部屋が欲しくなるから、その時になったら遠慮なく言うんだよ」
「はい、その時はお願いします」「わかった」「うん」
一緒の部屋に決まって、キッカがケモミミをピコピコさせながら喜んでいる。うーん、俺が自分の部屋を欲しがったのって幾つぐらいだったかな? サラぐらいの時には自分の部屋を欲しがっていた気がするけど、三人の絆は強いから、しばらくは一緒の部屋で十分なのかもしれない。
まあ、三人一緒は予想外だったけど、マルコとキッカは同じ部屋になると思ってたし、問題は無いだろう。マルコが思春期に突入した時が見ものだ。
……そう言えばサラ達が反抗期を迎えたら俺はどうしたらいいんだ? ウザい的な事を言われたら、泣く自信があるぞ。異世界には反抗期が無い事を願いたい。
微かに未来に対する恐怖を覚えながら、サラ達にどの部屋がいいか聞くと、一番手前の部屋を選んだ。後は家具の設置だな。
「お師匠様、今まで使っていたベッドで十分ですよ」
サラが申し訳なさそうに言ってくる。遠慮する必要は無いんだけど、この子達に遠慮しないでって言っても遠慮するんだよね。
「前のベッドはあの家に置いておかないとダメなんだよ。あの家もダンジョンや危険な場所で使う予定だから、ベッドが無くなると困るんだ」
そう言えば、元の家にもジーナのベッドが必要だな。迷宮都市に行った時に買っておこう。サラが納得したので部屋の中に家具を並べる。ベッドに机にタンスを三つずつか……大きな部屋だけど、さすがにちょっと狭く感じる。それに必要な物だけなので殺風景だ。
雑貨屋で買っておいた玩具を並べてみるか……うん、これで少しはマシになった。他はお小遣いを渡して、自分達で買い物に行かせる事も考えよう。
あとカーテンが無い事に今気づいた。必要な物は迷宮都市で揃えたつもりだったけど、まだまだ足りない物が出て来そうだ。ジーナのベッドも含めて足りない物をメモしておこう。
「こんな感じになるけどサラ達は大丈夫?」
「十分過ぎます」「広いし綺麗だし言う事無いよ、師匠!」「キッカ、このおへやすき!」
サラ達はニコニコしているし、遠慮している訳じゃなさそうだ。当面はこのままで、部屋の移動はサラ達が大きくなってからだな。サラとマルコ、どちらが先に一人部屋を望む事になるのか……その時がちょっとだけ怖い。
「分かった、とりあえずこのままだね。何かあったら言ってね」
「はい」「わかった!」「うん」
「じゃあ次はジーナの部屋を選ぼうか。どこがいい?」
「あたしも選んでいいのか?」
「ああ、一番奥の部屋以外なら好きなところでいいよ」
「うーん、じゃあサラの部屋の隣で!」
あっさりと決めたな。できればもう少し部屋の内部とかを見て選んで欲しかったが……まあ、俺の部屋以外は全て同じ作りだからな。何処を選んでも窓から見える景色が違うだけか。
隣の部屋に移動してジーナの言う通りに家具を並べる。うーん、一人で部屋を使う場合はこの家具だけだと部屋が殺風景過ぎる。まあジーナは大人だし、自分で色々と買い揃えるのも楽しいだろう。
「ジーナ、ちょっと殺風景だけど部屋を好きに飾って良いからね」
「部屋を飾るのか? 別にこのままでも十分いい部屋だぞ?」
ジーナがなんで? って顔で俺を見ている。俺の方がなんで? って言いたい。女の子って自分の部屋に拘ったりするよね? ピンクが散りばめられた可愛い部屋とまでは言わないけど、殺風景の部屋ではなく女の子らしい部屋にするように頑張って欲しい。なんとか言いくるめて部屋に拘りを持ってもらおう。
部屋に拘れば服にも興味が出るかもしれないし、そうすれば女の子らしい言葉遣いに発展する可能性もある。せっかくのナイスバディの美女なんだ。そのスペックを存分に発揮して欲しい。
ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、この子達が活躍しだしたら、ワルキューレを越える人気がでる可能性もあるよね。美女と美少女達で男性層は取り込める。あとはマルコが頑張って女性層を取り込んでくれれば、精霊術師最強の名が広まる。……ショタ好きなら今からでも行けると思うけど……。いかん、くだらん事を考えてないで、言いくるめる方法を考えないと。
……女の子は部屋を飾るもんなんだよ! って言っても納得はしてくれないだろう。それに日本だと女性に偏見を持っているって、ひんしゅくを買いそうな言葉だよな。うーん、なんかないか?
「……そうだね。この部屋の中には生活に必要な物が最低限揃ってる。でもそれは最低限しか揃って無いって事でもあるんだ。色々と揃えて、部屋が綺麗で楽しくなったら契約する精霊も喜ぶと思うよ」
ジーナは自分に無頓着っぽいけど、サラ達を可愛がっていたように小さい子に甘い傾向がある。こう言っておけば契約した精霊に色々聞いて、自分の部屋にも力を入れるだろう。
「精霊は部屋に拘るのか?」
不思議そうに首を傾げるジーナ。精霊ってそこら辺に飛んでる感覚だもんね。しっかりとコミュニケーションを取れば、そこら辺も理解できるだろう。
「俺が契約している精霊達はそうだね。ジーナが精霊と契約したら、その精霊と沢山コミュニケーションを取って、ジーナと精霊が楽しめる部屋を作れば、いい訓練にもなるし楽しいと思うよ」
「そうなのか、それなら頑張ってみるよ」
ニコっと笑ってやる気を見せるジーナ。俺は内心でガッツポーズだ。後はジーナと契約する精霊次第だな。シルフィに賑やかな事が好きそうな子をお願いしよう。
「うん、頑張ってね。じゃあ次はベル達みんなのお部屋を作ろうか」
「べるたちのおへやー」「キュキューー」「おへやがもらえる?」「クククーー」
俺が言うと、言葉を聞きつけたベル達が突撃してきた。しがみ付いてくるベル達をなだめて落ち着かせる。
「そうだよ。ベル達とフクちゃん達、みんなで一緒の部屋だけどね。それでもいい?」
「いいー、おへやうれしいー」「キューーー」「いい」「ククーーーー」「「ホー」」「プギュー」
ご機嫌にはしゃぐベル達を装備したまま部屋を移動する。ベル達の部屋は俺の部屋の隣でいいか。
「ベル達のお部屋はここにするよ。家具を置くからちょっと待ってね」
部屋の中に他と変わらないように家具を設置して、雑貨屋で仕入れたボールや人形等を飾る。ベッドはともかく机やタンスをベル達が使うか想像できないが、他と同じようにした方が喜ぶだろう。
「はい完成。これからはベル達がお部屋に置きたい物を何か見つけたら俺に言ってね。ここはベル達のお部屋なんだから、自分達が好きな物を飾るといい。でも散らかさないようにね。玩具で遊んだらお片付けもしっかりする事。いいね?」
「はーい」「キューーー」「おかたづけはだいじ」「クーーー」
とってもいいお返事だ。どんな風に利用するのか想像できないけど、子供部屋を作って良かったな。さて、あとは急いで俺の部屋に家具を並べて夕食、その後宴会だ。
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。