百七十三話 鳥小屋作成
新しく弟子になったジーナを連れて、泉の家に戻ってきた。結構やる事があって大変だから、一つ一つ熟して行こう。
ベル達の紹介が終わり、続いて大精霊達もジーナに紹介する。急ぎと言う事で簡単な説明で勘弁してもらおう。時間ができたらちゃんとしないとな。
「ディーネ、ノモス、ドリー、何か問題は起こらなかった? 水生生物と小動物は大丈夫だった?」
「そうねー、小魚は少し死んじゃったけど、それ以外は順調だと思うわー」
「小動物は外敵がおらん事が分かって来たのか、少しは落ち着いておる。土も今のところ問題無いな」
「植物は順調ですね。二番目に作った森は実を実らせても問題ありません」
小魚は少し死んじゃったのか、どのぐらい残っているんだろう? まあ、それ以外は問題無さそうだし、詳しくは後で聞く事にして作業を始めるか。
「色々と面倒見てくれてありがとう。詳しくは後で聞かせて欲しい。とりあえず日が暮れる前に鳥小屋と新居の準備をするから、終わったら買って来たお酒を出すね」
毎回、お礼がお酒ってワンパターンだけど、物凄く喜んでくれて、お酒を出していれば大丈夫な気がするから難しい。今まで一緒に居てシルフィ達の物欲がお酒と新メニュー以外に反応した事を見た事無いからな。料理でお礼ってのもちょっと難しいし、どうしたものか。
「そうじゃ、蒸留用の酒を買ったのは聞いておるが、蒸留はいつ始めるんじゃ? しばらく寝かせねば飲めんのじゃから、早めに手を付けたいのう。大きくした蒸留器はもう準備してあるぞ」
お酒が切っ掛けでノモスがウイスキーを思い出したのか、蒸留酒に話が飛んだ。って言うか既に蒸留器の大型化まで済ませてあるらしい。自由にしていいとは言ったけど仕事が早いな。
時間が掛かるから早く飲む為に早く蒸留したいのは分かるんだが、失敗した時の事を考えるとちょっと怖い。そう言えば、菌が見える農大生の漫画で海にお酒を寝かせれば、熟成が早まるって書いてあったな。
試すにしても樽だと腐りそうだけど樽の周りをガラスとかで覆えばいいのか? ディーネも居るし海で寝かせるのもいいかもしれない。瓶で寝かせるパターンも少し試しておいた方がいいかな? ……よく分からんし両方試してみるか。
「色々とやる事があるから蒸留は数日後だね。早く熟成が進む方法を思い出したから、それも試してみよう」
「何じゃと! どんな方法じゃ!」
ノモスが食い付いてきた。当然のように背後にシルフィ、ディーネ、ドリーも並んでいる。期待感がハンパない、今言うべき事じゃ無かったな。
「まあ、それは夜にお酒を飲みながら話すよ。まずは鳥小屋を作らないとね」
ちょっと不満そうな大精霊達をなだめて作業の準備をする。ベル達やジーナ達にも指示を出しておかないとな。大精霊達はシルフィ以外は勝手にやるだろう。
「シルフィは悪いけどグァバードの様子を見ておいて。サラ達は精霊とのコミュニケーションの取り方をジーナに見せながら教えてあげて。ベル達も協力してね」
とりあえず指示を出し、張り切って移動する皆を見送ってから鳥小屋の事を考える。うーん、森の中に鳥を放つと何処にいるのか分からなくなる。それにグァバード十匹で一ブロック丸々使うのは大きすぎるよな。
空いているブロックに区切りを設けて使えばいいか。場所は……拠点内部であれば大精霊達が守ってくれるし、生活空間の近くで鳥を飼うと色々と大変そうだ。外側のブロックで一番離れている場所。……肉食の小動物を放す予定の場所からは遠い方がいいよな。
そうなると……一番東側のブロックで南側から二番目の場所がいい。さっさとやってしまうか。
***
目的のブロックに移動して岩で三十メートル四方を囲む。魔法の鞄から岩を出して並べるだけだから簡単だ。あとでトゥルに岩の下を固めて貰おう。
次は……鳥小屋か……とりあえず風雨が避けられればいいんだよな。雨は降らないけど。この三十メートル四方で放し飼いをする予定だから、好きな時に小屋と外を出入できるようにすればいいはずだ。
問題は鳥小屋の内部だな。大きな岩をくり抜いて稲ワラを敷き詰めておけばいいのか? でもそうしたら、グァバードが卵を産んだとしてもワラに隠れて見逃してしまいそうだ。
稲ワラを交換する必要もあるし全体にワラを敷き詰めると大変そうだな。寝床部分を区切って、そこだけに稲ワラを敷こう。そうすれば卵を産む場所が限定されるはずだ。
大きな岩を取り出し、久しぶりに工作目的で開拓ツールを使う……と言っても岩をノコギリで切ったりシャベルで掬ったりと、使い方を間違ってはいるんだけど……。
岩の内部を掘り出しながら開拓ツールの中身を思い浮かべる。結構な種類の道具があるんだけど全然使いこなせて無いな。時間が有る時に確認はしているが、開拓の中で高度な事をしていないから道具を使う機会があんまりない。
建物も基本的に岩をくり抜いて満足しちゃうし、釘とかも一応買い揃えては居るんだけど、結局使って無い。もう少し自分で何か作るべきなんだろうか?
大金を手に入れちゃったから、買った方がいい物が手に入るのが問題と言えば問題だな。泉の家が落ち着いたら、せめて日曜大工ぐらいには道具を活用したい。このままだと完璧に宝の持ち腐れだ。
考え事をしながら岩の内部をくり抜き、魔法のカンナで内部の凹凸を綺麗に削り取る。単なる岩の箱だけど料理をする訳でも無いし、寝床とエサ箱と水が飲めるようにしておけば十分だろう。
岩の箱を幾つも作り、そこに稲ワラを敷き詰めて寝床の完成。寝床の反対側にはエサ箱と水入れを設置する。鳥とか飼った事が無いから分からないけど、これで良いのかな?
一応村の人に聞いた飼育方法のポイントは注意したけど……まあ、結構生命力が強くて図太いらしいから大丈夫だと信じよう。命の精霊と契約できたら色々と聞いてみればいい。
そう言えば品種改良とか俺にもできるのかな? 確かよく卵を産む鳥を選んで繁殖させるとかだったと思うけど、常に観察できる訳じゃ無いし難しいか。
「シルフィ、この稲ワラの上にグァバードを寝かせて」
俺が頼むと、シルフィが風を操作して、優しくグァバードを寝床の上に横たえる。いきなり環境が変わるから驚くだろうけど、頑張って卵を産んでほしい。
「しばらくしたら目が覚めるんだよね?」
「ええ、ズレはあるでしょうけど、特に問題無く起きるはずよ」
「了解、ありがとう。グァバードが増えただけでは命の精霊との契約には足りないだろうから、また動物を捕まえに行く時にはお願いね」
「ええ、このぐらいならいつでも大丈夫よ。それよりもう直ぐ日が暮れるわよ。急いだ方がいいんじゃない? ディーネ達も宴会を楽しみにしているわよ」
おっとそうだった、鳥小屋が完成したからって満足してもいられないんだ。次はマイホームだな。マイホーム、いい響きだ。
「了解、急ぐね」
シルフィを連れて中心に向かう。うーん、せっかくのマイホームだし設置する場所にも拘りたい。中心のブロックと精霊樹のブロックの境を取り払って、生活スペースを広く取るか。
背後には大きな精霊樹があって周りは芝生。正面には大きな噴水の泉が見えれば気分が良さそうだ。まずは境の岩を収納しよう。岩に手を触れながら魔法の鞄にサクサクと収納し、広いスペースが……精霊樹が大きいからそこまで広くなったようには感じないな。
それに芝生と中心ブロックの境目に違和感を感じる。いっその事、中心部分も畑を除いて芝生にしてしまうか。ジーナも来たし、明日にでもみんなで芝生の種を撒いて成長させよう。
「うん、ここにマイホームを設置するよ。いい場所だよね?」
裏に丁度水路が来るように設置すれば魔道具のパイプを繋ぎやすいし、とっても便利だ。
「そうね、なかなかいい場所だと思うわよ。さっそく設置しちゃう?」
「うーん、芝生を押し潰すのは嫌だし、地面を固めて貰う必要があるね。せっかくだし皆を呼んでから、一緒に設置するよ。みんなで住むマイホームだしね」
「ふふ、そうね。それがいいわね。じゃあ私はディーネ達を呼んで来るから、裕太はサラ達を呼んで来るといいわ」
「うん、お願いね」
別に召喚すればいい気もするけど、近場だしシルフィが動いてくれた方が早いだろう。どうせサラ達は呼びに行かないとダメだしね。シルフィと別れて、サラ達が訓練している場所に向かう。
何も使用していないブロックに入ると、キャイキャイと楽しそうに騒いでいるジーナと子供達がいる。楽しそうにやってるな。
「じゃあ、ラフバードの肉が好きな精霊はこっち、オークの肉が好きな精霊はこっちに移動してくれ」
ジーナが言うと、それぞれの好みの方に精霊達が移動する。って言うか一緒にサラ達も移動しているな。
結果はサラとキッカ、トゥルとレインとウリがラフバード肉派。マルコ、ベル、タマモ、フクちゃん、マメちゃんがオーク肉派か。結構綺麗に分かれたな。俺は……どちらかというとオーク肉派だな。まあ、今のところ一番はドラゴンのお肉だけど。……いかん考えたら食べたくなってきた。今日の晩御飯はワイバーンのステーキにしよう。
「みんな、お疲れ様。訓練は順調?」
「ゆーたー、べるいっぱいおてつだいしたー」「キュキュキューー」「なかよくなった」「ククーーー」
声を掛けるとベル達が頑張ったから褒めろとばかりに突撃して来たので、お礼を言って撫で繰り回す。
「お師匠様に教わった事で、精霊と仲良くなる方法をジーナお姉さんに伝えました」
「うん、それで沢山しつもんしたんだ」
「マメちゃんもがんばったの」
続いてサラ達がどんな事をしたのか教えてくれたので、こちらも頭を撫でてお礼を言う。ある意味サラ達は兄弟子、姉弟子って事になるんだよな。でも俺的にはジーナを鍛えたら保護者的な役割をお願いしたい。
まあ、サラ達なら元から仲が良かったんだし、後から来たくせに偉そうにするな、とか言う事は無いから大丈夫だろう。ジーナも偉ぶるような性格には見えないしね。
「ジーナは訓練をしてみてどうだった?」
「凄かった。みんなちゃんとあたしの話を聞いてくれるんだな。師匠の契約精霊だからか?」
「そうだね。みんなはちゃんとした意識を持っているから、話しかけたら答えてくれるね。でも浮遊精霊でも、意識がハッキリして好奇心が旺盛な子なら答えてくれると思うよ」
ベル達を見ていると気分次第な気もするけど。あと選択式にしないと精霊が答え辛いんだよな。
「そうなのか。迷宮都市では精霊の気配が分かる事を内緒にしてたし、話しかけるなんて思いもしなかったな。親父の雰囲気で何となく関わったらダメだと思ってたし」
まあ、親としても誤爆なんかを起こす精霊術師の噂は聞いた事があっただろうから、子供には警戒させるのはしょうがないだろう。
「実際にはみんないい子達だから、怖がらなくていいよ。真摯に向き合えばちゃんと答えてくれるんだ」
俺、師匠っぽいこと言ってる。なかなかいい感じだ。あっ、それよりもさっさとマイホームを設置しないと。ジーナに師匠っぽいところを見せるのはまた今度だな。
今年最後の更新になります。
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