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百七十二話 ジーナの空の旅

 ちょっと色々あったけど無事に? グァバードと卵を購入する事ができたので、そそくさと村から離れる。


「シルフィ、悪いけどグァバードを気絶させて運んでくれる?」


 生きているのに両足を紐で縛られ、逆さ吊り状態はさすがに可哀想だ。


「分かったわ、手を放して大丈夫よ」


 シルフィが言葉に従い手を放すと、グァバードが大人しくなり空中に浮かぶ。これで一安心だ。


「えっ? なんで浮いてるんだ? シルフィって?」


 そうだった。ジーナにはなんにも説明してなかったな。


「シルフィは俺が契約している精霊で、グァバード達を眠らせて運んで貰っているんだ。詳しくは後で説明するよ」


「そうなのか、精霊術って凄いんだな」


 マジマジと浮かんでいるグァバードを見ながら、感心したようにジーナが言う。思っても見ないところで精霊術の株が上がったな。サラ達がニコニコと頷いているのは精霊術がジーナに褒められたからだろう、俺もちょっと嬉しい。


 さて……元々の予定では帰りに小動物を捕まえて帰ろうかと思ってたけど、グァバードも居るしジーナにも色々と説明しないとダメだから今回はもう帰るか。


 ジーナにしてもいきなり森に連れて行かれて、小動物を捕まえろって言われても困るよな。サラ達にフクちゃん達を送還するように言い、俺もベル達を送還する。


 何も無い場所に話しかける俺達を見てちょっと引き気味なジーナ。精霊の気配を感じる事はできるから、何をしているのか理解はしているみたいだが、やっぱり違和感があるらしい。


「ジーナ、今から拠点に戻るんだけど空を飛んで帰るんだ。最初は怖いかもしれないけど、安全だから落ち着いてね」


 どうやって帰るのか説明するのを忘れてたからな。ちゃんと言っておかないと、いきなり飛んだらビックリするだろう。


「空を飛ぶ?」


 気持ちは分からないでも無いけど、そんな目で見ないでほしい。まあ、百聞は一見にしかずって言うし、軽く飛べば納得するだろう。


「言葉だけじゃよく分からないだろうから、軽く飛んでみようか」


「えっ? 今から?」


「うん、今から。少し飛んだら一度降りるから安心してね」


「わ、分かった」 


「よし、シルフィ、あんまり高度を上げないようにお願い」


「ええ、怖がらせないようにすればいいのよね。じゃあ行くわよ」


 シルフィの風が俺達を包み込んで空中に浮かびあがり、ゆっくりと空を飛び始める。


「うわっ、飛んでる。本当に飛んでる」


 足が地面から離れた事に驚いたのか、ジーナが手足をワタワタさせてちょっと焦っている。


「ジーナ、大丈夫だから落ち着いて。落ちる事は無いし、体の力を抜いて風に身を任せるんだ」


 ……俺が声を掛けるが聞こえていない。どうしたものかと考えていると、サラがスッっとジーナに近づき手を握った。


「ジーナお姉さん、大丈夫ですから落ち着いてください。私達も何度もお師匠様と飛んでいますが、一度も危ない事はありませんでした。それに空の上はとても綺麗で楽しいですよ」


 手を握った事でサラに気が付いたジーナが、サラの言葉に耳を傾け、次第に落ち着いていく。その役、俺がやりたかったな。モテる男はこういうチャンスを逃さない気がする。勉強になるな。


「あ、ああ、そうだよな。サラ達が落ち着いてるのにあたしがオタオタしてられないよな。大丈夫、もう大丈夫だ。ありがとうサラ」


 子供達の前で情けない姿を見せる訳にはいかないと思ったのか、キリっとした表情を見せるジーナ。子供達の前だと頑張っちゃう気持ちは俺もよく分かる。でもサラの手をギュッと握ったままなのがちょっと可愛い。


 サラとジーナが手を繋いだまま、百メートルほどゆっくりと進む。とりあえず落ちないって事は納得してくれたのか、周りを見渡す余裕もできたようだ。このまま飛び続けても大丈夫かもしれないが、少ししたら降りるって言ったし一度着陸しよう。


「どうだった?」


「あ、ああ、最初はちょっと焦ったけど、もう大丈夫。師匠って本当に凄い精霊術師なんだな」


 空を飛んだことに感動したのか、笑顔で話すジーナ。弟子から尊敬されるのって嬉しいよね。


 ***


 ジーナも問題ないようなので、泉の家に向かって出発する。


 空の景色を楽しんでいたジーナも死の大地に突入すると不安そうに顔を曇らせる。死の大地ってだけで不安になるんだろうな。色々と話しかけ、ある程度落ち着いた後に泉の家や精霊術師について説明する。


「えー、アンデッドと戦うのか?」


 物凄く嫌そうだ。その気持ちはとてもよく分かるが、サラ達もその方法で上手くいったし、俺の修行方法のテンプレートにしたからしょうがない。いずれはアンデッド退治が精霊術師の基礎になる日が来るかもしれないな。


「ああ、サラ達もそれで強くなったんだ。ちょっと臭いがキツかったり、気持ち悪くなったりするかもしれないけど、安全だから我慢してね」


「大丈夫だぞサラ姉ちゃん。キッカでもかんたんに倒せるようになったんだ。なっキッカ」


「うん、キッカ、たくさんたおしたよ。ぜんぜんへいき」


 マルコとキッカが大丈夫だと後押ししてくれる。子供達が平気だと言っている事を嫌だと言い辛いのか、ちょっと引きつりながらも頑張ると約束してくれた。


 あれだな、ジーナってサラ達を引き合いに出せば、大抵の事を頑張りそうな気がする。年長者としてのプライドってやつかもしれない。


「師匠、あたしは直ぐに精霊と契約できるの? 火の精霊と契約できたら薪代とかいらなくなるかな? 料理には火加減も重要だし、細かい調整ができるようになれば凄いよな」


 楽しそうに聞いてくるジーナ。この子は完全に精霊術を食堂に利用する気だな。確かに素材を取って来たら食堂に卸せるよって勧誘したけど、燃料代まで考えているとは思わなかった。もしかして訓練が終わったら食堂に戻る気なのか? いや、ずっと食堂で働いていたから考え方の基本が食堂なのか。


 ……火の精霊って俺も契約した事が無いから分からない。蒸留器に火を維持していれば呼んで来てくれるらしいけど、できればもっとカッコいい施設を用意したいよな。炎が出る魔法の杖を利用すれば何とかなる気がする。


「ねえシルフィ、火の浮遊精霊ってどうなの? 戦いには向いてそうだけど、制限とか無い?」


「んー、そうね。戦いには向いているけど浮遊精霊だと水中では火が使えないわね。あと周りに燃える物が沢山あったりすると戦い辛い事もあるわ」


 うーん、聞いた感じだと悪くは無さそうだな。どの属性にも苦手な部分はあるし、注意すれば問題無いか。子供達に火を扱わせるのは怖いけど、ジーナはもう大人だし問題は無さそうだろう。


 風か土がノウハウもあるし安全な気がするが、ジーナが火の精霊と契約すれば、戦いの幅が増えるのは間違いない。命の精霊がきたら契約して貰って、回復を担って貰うのも有りかと思ってたけど、本人が望んだ精霊と契約できた方が上達しそうだよな。


 回復担当が居るのが心強いけど、大精霊に護衛して貰えば大怪我とかしないから、命の精霊よりも火の精霊と契約する方向で考えてみるか。

  

「分かった、ありがとうシルフィ。ジーナ、火の精霊との契約を考えてみようか」


「ありがとう、師匠! 美味しい料理を作るから期待していてくれ」


 元気よく返事をするジーナ。やっぱり考え方の基本が食堂になってるな。まあ、自分が持っている能力を生かしたいって言ってたし、普通に訓練は受けるんだから問題無いだろう。


 料理が好きみたいだしサラに料理の基礎を教えて貰って、二人ともトルクさんのところで修行させれば、俺の食生活がかなり豊かになる気がする。ジーナの事もトルクさんに頼んでおくか。食堂の娘なら即戦力だし、トルクさん達の力になれるだろう。


「ああ、期待してる。色々と大変だろうけど頑張ってね」


 励ましの声を掛けた後に、再び精霊術師の事や泉の家での事を教える。偶にシルフィやサラ達にフォローして貰いながら、大体の事を話し終えた頃、泉の家が見えてきた。


「ほら、あそこが俺達の拠点だよ。結構凄いだろ」


 俺が指さす先には大きな精霊樹がデンとそびえ立ち、泉の噴水が水を吹き上げ、日の光を反射してキラキラと輝いている。


「本当にあるんだな……話を聞いても想像できなかったけど、本当に泉と森と大木がある! 師匠、あの大木が精霊樹なの?」


 死の大地に泉と森と精霊樹があるって教えても、信じきれてない様子だったからな。精霊樹とかお伽噺の存在らしいから信じるのは難しいか。


「ああ、あれが精霊樹。森の大精霊のドリーが生やしてくれたんだ。この拠点は精霊達に助けて貰ってここまで大きくなったんだ」


「へー、凄いな。芝生もあるし水路も通ってるのか。この目で見ても信じられないよ」


 興奮したジーナを見ると、掴みはオッケーみたいだ。拠点の隅々まで観察するジーナと、施設の説明をするサラ達と一緒にゆっくりと拠点に降り立つ。


「おかえりー」「キュキュー」「おかえりなさい」「ククーー」「「ホーー」」「プギュー」


 直ぐに俺達に気が付いて出迎えてくれるベル達とフクちゃん達。ワチャワチャとしがみ付いてくるベル達を撫で繰り回しながらただいまの挨拶をする。フクちゃん達も嬉しそうにサラ達の周りを飛び回る。


「師匠、たくさん集まってきたのが契約している精霊なのか?」


 ジーナが集まってきた精霊の気配を追いながら質問してくる。


「そうだよ。気配だと分かり辛いだろうけど、順番に紹介するね」


 俺が一人ずつ名前を呼びながらジーナに挨拶してもらう。一人一人がジーナの前でちゃんとペコリと頭を下げて、「ベルー」「キュキュー」「トゥル、よろしくね」「ククーー」っと声を掛けている。


 見えて無いし聞こえて無いだろうけど、気持ちはしっかりと伝わってるよ。偉いよみんな。あととっても可愛い。


 ジーナはベルは幼女なの? レインはイルカで……っと飛んでいる時に教えた名前と見た目を、今感じている気配と一致させるように挨拶している。この調子なら直ぐに仲良くなれそうだ。


 次は大精霊達を紹介して、その後はグァバードの小屋を作らないと、あと新居の設置もしないといけないし家具も置かないとダメだし、森の動物達の様子も見ないと……おおう、結構忙しい。ジーナを案内するの明日だな。とりあえず生き物のグァバードをはやく落ち着かせないと。

感想欄についてなのですが、荒れている?と言えるかどうかは分かりませんが、重い雰囲気になってしまっているように感じます。


感想を頂ける事はとても嬉しい事なのですが、できましたら穏やに感想欄を利用して頂けますと幸いです。よろしくお願い致します。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間社会との関係にオリジナリティがあって、飽きない。 つまり、良い。一話の長さもちょうど良い。
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