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百七十一話 鳥

 ジーナを冒険者ギルドに登録して、ジーナの両親の護衛をギルマスに頼んだ後に地味な水着を選び、ベル達と合流して雑貨屋と武器屋でジーナに必要な物を揃えた。


 オシャレな訳じゃ無い運動用の服でもサイズがピッタリだと、胸元の破壊力が……ヤバい。俺、完全にエロ親父だ。注意しないと嫌われそうだ。師匠としてしっかりしないとな。


 そしてピートさんが故意にジーナにダボダボの服を着せていた疑惑が深まった。よっぽど嫁にやりたくなかったようだ。頑張って隠していた可愛い娘を、俺が精霊術師として攫って行くのか……いずれ刺されるかもな。


「だいたいの物は揃ったね。ジーナ、しばらく迷宮都市を離れるけど大丈夫? 挨拶しておきたい人とかいない?」


「出発まで時間が有ったから、みんなに挨拶できたし大丈夫。それで、まだ何処に行くのか教えて貰えないのか?」


 ……聞かれちゃった。秘密の場所だから弟子になるまで場所は明かせないって言ったんだけど、もう、弟子になったんだよな。内緒にする訳にもいかないし、できれば泉の家に戻るまで誤魔化しておきたかった。


「うーん、驚くと思うから周りに聞かれないように、迷宮都市を出てから教えるね」


 死の大地に住んでるのか! っとか迷宮都市で騒がれても困る。


「驚くのか! なんか楽しみだな!」


 目が好奇心でいっぱいだ。普通こんな事を言われると不安になると思うんだけど、信頼されてるのか?


「うん、師匠の家はすごいんだ。ジーナ姉ちゃんもぜったいにおどろくよ!」


 ああ、なるほど、ジーナとマルコが楽しそうに話す姿を見て納得した。俺を信じていると言うか、サラ達を信頼しているんだな。


 ***


「えーーー、死の大地!!」


 門を出て迷宮都市に一番近い村に向かい歩いている間に、死の大地に拠点がある事を説明してみた。案の定大きな声で叫ぶジーナ。迷宮都市から出ていて良かったな。


「ジーナ、落ち着いて」


「いや落ち着いてって、死の大地ってあたしでも知ってるぞ。アンデッドの巣窟で水も食べ物も無い地獄だろ!」


 さすが死の大地。庶民の女の子にも評判が最悪だな。ちゃんと説明しないと弟子が辞めてしまいそうだ。ちゃんと開拓をしている事、食料も水も森もある事、魔物が出ても直ぐに片付くからと村に到着するまで懇切丁寧に説明した。


 最初は物凄く疑惑でいっぱいだったが、説明の合間にサラ達が細かい補足を入れてくれたおかげで、なんとかなった。これからも弟子を取る度にこんな苦労が待っているかと思うとげんなりする。


 やっぱり先に説明するより問答無用で拠点に連れて行くのが楽だな。次に弟子を取る時は問答無用で死の大地に連れて行こう。誘拐犯に間違われないようにしないとな。


「そこで止まってくれ。見たところ冒険者……か? えーっとなんの用だ?」


 ちょっと酷い事を考えていると村の門の前に立っている門番に止められた。そして冒険者かどうかを疑問に思われたようだ。俺は鎧を着ているけど、ジーナ達はローブだからな。普通の冒険者に見えないらしい。あと鳥を飼っているからか、他の村に比べて門や柵が少し立派だ。卵で儲かってるんだろう。


「鳥と卵を買いに来たんですが、売って貰えますか?」


「卵は有ると思うが、鳥ってグァバードが欲しいのか? 卵の販売は許可制だし肉にしてもそんなに旨くないぞ。迷宮都市でラフバードを買ったらどうだ?」


 卵を産む鳥はグァバードで、卵の販売は許可制なのか。古くなったものが出回ると危険だからかな? 


「卵を売る気は無いんです。人里離れた場所でポツンと住んでいるので、個人で食べる卵を産む鳥が欲しいんですよ」


「人里離れた? 魔物が居るのに外に住んでるなんてあんた等なんか怪しいな。盗賊じゃねえだろうな、冒険者ならギルドカードを見せな」


 二人の門番が槍を構えた。確かに外は魔物が出るし単独で住んでるなんて確かに怪しいよね。でもここは大チャンスだ。


「盗賊じゃ無いですよ。これ、ギルドカードです」


 ちょっとワクワクしながらギルドカードを手渡す。


「えっ?」


 ギルドカードをマジマジと確認する門番。その後、俺とギルドカードを何回も交互に見る門番。


 さあ、恐れ入るのだ。


「あんちゃん、ギルドカードの偽造は犯罪だぞ」 


「何でだよ!」


 テンプレでは、ま、まさかAランクの冒険者様だったとは……へへーって頭を下げるパターンだよね。空気を読んでほしい。


「いやいや、やり過ぎだろう。これはAランクのギルドカードだぞ。あんちゃんならCランクでも無理がある。おとなしく帰るなら捕まえねえから、子供の為にも真っ当な職に就きな。頑張るんだぞ」


 ……なんか門番が人情味を出してきた。ガッツリ槍を構えたままだけど。


「いやいやいや、門番ならギルドカードが本物かどうか分かるよね? そもそもそう言うのを見分ける道具があるでしょ。調べたら俺がAランクの冒険者って分かるよ。偽造じゃないから!」


 俺が言うと、門番が、ふーやれやれだぜってジェスチャーをする。物凄くカチンとくる。


「大きな町にしかそんな便利な道具は無いぞ。確かにこのカードは本物そっくりだ。だがあんちゃんはまず装備の時点でダメなんだよ。Aランクの冒険者はそんなランクの装備は使わない。俺も元冒険者だからそのぐらいは分かるんだ。なにより高ランクの冒険者には強者のオーラがあるんだよ。あんちゃんは貧相過ぎる」


 ……シルフィが爆笑している。ベル達はキョトンとしているから、話の内容がよく分って無いのかもしれない。そもそも聞いてなかった可能性もあるな。村の中に興味深々みたいだったから。


「師匠はほんもののAランク冒険者だぞ! すごいんだ!」


 マルコが門番に抗議してくれる。門番は、はは、そうかそうかとマルコの言葉を流し、俺にあんまり見栄を張るなよっと視線を向けてくる。もしかして村に入ろうとする度にこんな事になるのか? 立派な装備を早めに手に入れた方がいいかもしれない。メルに頑張って貰わないと。


 だがその前に村に入る方法を考えないとダメだ。迷宮都市に戻って誰か証人になってくれる人を連れて来るか? ……村の門番がAランクの冒険者だって信じてくれないんです! って言いに行くのはさすがに恥ずかしい。自力で何とかしたいな。


 実力があるって分かれば納得してくれるかな? ファイアードラゴンを丸のまま出せば認めてくれる気もするけど、あいにく解体してるしアサルトドラゴンを見せれば何とかなるか? 買って来たんだろうとか言われても、財力がある証明にはなるから安心だろう。さすがにシルフィに頼んで力を示すのは大袈裟だよな。


「じゃあ、倒した魔物を見せますから納得したらAランクだって信じてくれます?」


「ぶはっ、あんちゃんも諦めないねえ。いいぜ、Aランクの冒険者って認められるクラスの魔物が出せたら、俺があんちゃんにグァバードと卵をプレゼントしてやるよ。がはは」


 ちくしょう。普通なら出す獲物を教えて、ビックリさせないように注意するんだけど教えてあげない。しっかり驚いて貰うからな。あと、鳥と卵は絶対にプレゼントしてもらう。


「では、そこに出しますね」


「おう、オークぐらいじゃダメだからな! 期待してるぞ!」


 笑っている門番達の前にドン! っと一番傷がついていて迫力があるアサルトドラゴンを出す。


「「ヒッ!」」


 いきなり目の前に巨大で血まみれのアサルトドラゴンが現れた事で、予想以上に門番達がビックリした。あれ? もと冒険者なんだよね? なんか驚き過ぎじゃないか? 


「アサルトドラゴンなんですけど、これで納得できますか? ダメだったらワイバーンも出しますけど?」


 ニコリっと笑って話しかける。俺は貧相じゃない、インドア派だから行動的に見えないだけで普通だ。アサルトドラゴンに驚いたのかグアグアと鳥の鳴き声が聞こえる。グアグア鳴くからグァバードなのか? 騒がしてごめんね。


「い、いや、いい、いいです。あ、あの、もしかしてAランクの冒険者って本当だったりします?」


「はい、本当だったりします」


 ここで強者のオーラとやらをブワッっと出せればカッコいいんだけど、出せないから穏やかに微笑みながら断言する。これはこれでカッコいいはずだ。


「裕太、本気で村人を驚かしてどうするのよ。驚かせたいって気持ちは分かるけど、やり過ぎよ」


 シルフィから呆れたようなツッコミが入る。マジで? ……目の前には顔を青ざめさせる門番達、村の奥から聞こえる子供達の泣き声。……謝ったら許してくれるだろうか?


「こ、これで信じてくれましたよね。じゃあ、さっさと収納しちゃいますね。あはは……ごめんなさい」


 ……アサルトドラゴンを収納しても、謝っても門番達の表情は戻らない。


 そこからが大変だった。ものすごい勢いで謝る門番達と、合流して謝りまくる村長さん。差し上げますと手渡された沢山のグァバードと沢山の卵。完全に恐喝してる俺。


「いやいやいや、ただ本物だと信用して貰うためにアサルトドラゴンを出しただけでですね。脅そうとかそんな気は微塵も無い訳なんです。信用してくれたのであれば卵と鳥を売って下さるだけで十分に助かりますから、そんなに謝らないでください」


 ウソです。ちょっとビックリさせてやれっとか思ってました。元冒険者だって言ってたから驚かせるにはドラゴンぐらい必要だと思いました。ファイアードラゴンを解体に出していて良かったです。調子にのってすみません。


「いえ、村の者が失礼をして、本当に申し訳ありません。このようなお詫びしかできませんが何卒お許しください。ああ、多少ですが村の貯えから金銭も……」


「いえいえいえ、本当に必要ありませんから。卵とグァバードの雄を三匹、メスを七匹ほど売って頂ければ十分ですから。ああ、エサも売って貰えると助かります」


 熾烈な押し問答の末、グァバードを十匹と沢山の卵を二割引きで購入する事で落ち着いた。せめて半額にっと言う村長さんの押しから二割引きまで戻した自分を褒めたい。


 大金を持っているのに村人を脅して鳥と卵を巻き上げる男とか、そんな噂が立ったら割に合わないからな。


 卵は一個、三百エルトと串焼き三本分の高級品だった事に驚いた。思った以上に卵って高級品だったんだね。鳥は一羽雄が八千エルト、雌が一万五千エルトと高いのか安いのか判断が難しい。


 グァバードは鶏ではなく、大き目のアヒルと言うかカモというかそんな見た目だ。昔は飛べたそうだが飼育していく過程で大きくなり、飛べなくなったらしい。ある程度の高さの柵があれば逃げ出さないそうだ。


 エサも麦を撒いておけば勝手についばむそうで、そこまで手間は掛からないらしい。一刻も早く帰って欲しいのか早口で飼い方を色々と説明してくれた。逃げられない場所と休む為の小屋があれば、なんとかなるらしい。


 とても気まずいので目的の物を買い取ったあとは、村に一歩も入らずそそくさと村を立ち去った。俺の想像では牧歌的な村でベル達とサラ達が、あの子がいい、とか言って鳥を選んでたはずなんだけどね。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 弟子が帯同してなかったら、また前ギルドマスターの時みたいにこじれてたのかもね。
[気になる点] ギルドでの態度と、この門番への対応の違い。収納してあった大物を見せた後に驚かせ過ぎただのなんのと、一方的にギルドカードの偽造まで疑われて、何故怒らないのか?精霊術師がちょっと馬鹿にされ…
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