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百六十九話 合流

 ジーナのスカウトに成功した。結構スムーズに弟子になってくれたけど、弟子の父親に覚悟を見せられた上で職質され、弟子の母親の好奇心を満たす為に質問に答えたので、トータルでは大変だった気がする。それから二日、今日はジーナを迎えに行って、買い物をした後に泉の家に戻る。


 因みにシルフィに侯爵邸に様子を見に行って貰ったら、大騒ぎになっていたそうだ。すでに次の侯爵の座を狙った動きも出ているらしい。たくましいよね。


「セバスさん、色々とお世話になりました。マリーさんにもよろしくお伝えください」


 俺が頭を下げるとベル達もサラ達も一緒に頭を下げる。いい子達だ。契約者として、師匠として鼻が高い。あと可愛い。


「いえ、ご滞在頂きありがとうございます。マリーお嬢様も顔を出す事ができず申し訳ありません、との事です」


「はは、それはしょうがないですよ。元々、俺が卸した素材が原因ですからね。頑張り過ぎて体を壊さないようにお伝えください」


「ありがとうございます。必ずお伝えいたします」


 素材を卸してから、マリーさんとは一度しか会っていない。その時はヤバいぐらいにハイになってたからな。無理して顔を出さないように俺からお願いした。


 俺が卸した素材が大人気で、雑貨屋担当のマリーさんも駆り出されているそうだ。ファイアードラゴンや神力草が大フィーバーで、ある程度の数を王族や高位貴族に売りつけ、残りを手に入れる為に押し掛けてくる各種勢力を相手に、駆け引きしながら恩を売りつけているらしい。


 マリーさんが目をギラギラさせながら楽しそうに話してくれた。有利な商談と普通では得られないコネを獲得できる今の状況が、忙しいけど楽しくてしょうがないそうだ。


 もう一度セバスさんにお礼を言って別れようとしたが、門まで見送ってくれるらしく一緒に館を出る。館か……生活していると結構慣れるもんなんだな。心底落ち着けるとまでは言えなかったけど、干渉されるのが苦手だと察知したセバスさん達が、極力関わらないようにしてくれたので、意外と過ごしやすかった。


 一つ後悔があるのが、メイドさんを召喚できる魔法のベルを使えなかった事だな。なんかどのレベルの用事ならメイドさんを呼び出していいのか判断できなかった。


 大抵の事は魔法の鞄の中身で間に合うし、簡単な事でメイドさんを呼び出すのも悪い気がして……ついつい遠慮してしまう。自分の弱さが恨めしい。


 セバスさんと迷宮都市の状況を話しながら門に向かっていると、門が開き一台の馬車が入ってきた。おっ、馬車からマリーさんが顔を出し手を振っている。どうやら忙しい中、顔を出してくれたようだ。


「裕太さん、ご招待したのにあまり顔を出せずに申し訳ありません」


 馬車を降りたマリーさんが開口一番にそう言った。


「気にしないでください。セバスさんやメイドさん達が、とても丁寧に接してくださったので、なんの問題も無く過ごす事ができました。感謝しています。それより素材の販売は順調ですか? そろそろ迷宮の翼とマッスルスターが、魔力草や万能草を手に入れて戻ってくると思うんですが」


 話を逸らそう。このままだといつまでも謝られそうだ。


「その二つのパーティーは昨晩戻ったようです。ですが需要はありますので、二つのパーティーが増えたぐらいでは問題はありません。独占が無くなり少しだけ交渉が難しくなりますが、その分、妬み嫉みが分散しますからね。それに神力草は独占していますから」


 そうか昨晩戻って来たのか。じゃあ、俺の情報は冒険者ギルドに流れているな。どんな反応があるのかちょっと楽しみだ。ジーナさんの両親の事を、冒険者ギルドにお願いする予定なので、タイミングが良かったな。


「そうですか、問題が無いのであれば良かったです。次に来た時もまた素材を卸しますから、よろしくお願いします」


「お待ちしています。次にいらっしゃる予定は決まっていないんですよね?」


「ええ、でも予定は決まってはいませんが、そんなに時間を空けるつもりもありませんので安心してください」


 ジーナをアンデッド相手に鍛えて、その後に迷宮都市に来てサラ達と迷宮で探索させれば、いい訓練になるだろう。サラ達にジーナが加わって四人か、どうせならメルを加えて五人パーティーで、慣れたら迷宮を攻略させるのもいいかもな。


 メルを加えれば中級精霊のメラルもついてくるし、それに加えてディーネかドリーを護衛にすれば完璧だろう。ちょっと過保護な気がするぐらいだ。


「お待ちしています。別宅をご利用になりますか?」


「いえ、冒険者ギルドと話し合いもまとまりましたし、次からは宿屋に泊る予定です。お世話になりました」


 セバスさんにしたように全員で頭を下げる。俺が卸した素材で儲かってるのに、宿泊費は受け取れないって言われたから、お礼ぐらいはちゃんと言わないとな。


「いえ、気になさらないでください。いつでもお待ちしていますので、ご利用なさりたい時はいつでも声を掛けてくださいね」


 ゴージャスな気分に浸りたくなれば、お願いしてもいいかもしれない。そうすれば魔法のベルでメイドさんを呼ぶ機会も……うん、タイミングが合えばもう一度ぐらい頼んでみよう。メイドさんに何を頼むか考えてからの方がいいな。


「ええ、機会がありましたらお願いするかもしれません。その時はお願いします」


 笑顔でお待ちしていますと言ってくれたマリーさんと、一礼してくれたセバスさんに別れを告げて館を出る。今日はやる事が沢山あるから頑張らないとな。まずはジーナを迎えに行こう。


 ***


「お待たせ、準備はできてる?」


 ジーナの両親の食堂に到着すると、既にジーナが店の前で待っていた。大きな布袋が一つ横に置いてあるが、持って行く荷物かな? 若い女性にしたら少し荷物が少ない気がする。 


「ああ、準備万端だよ。なんかワクワクして今朝は早起きだったよ、あはは」


 楽しみにしてくれたのは嬉しいけど、やっぱりこの子、もったいないな。スタイル抜群なはずなのに、ちょっと大きめのズボンと大き目の上着。激しく違和感がある。


 サラ達はあんまり気にならないのか、ジーナのところに集まってご挨拶している。……子供達もローブ一択だし、普通の服も用意しないとジーナみたいになってしまう可能性があるな。色々と大変だ。


「はは、そうなんだ。でも、その格好はどうしたの? なんかサイズが合ってないみたいだけど」


 勇気を出して聞いてみる。女の子に服装の事を聞くのは度胸が必要だ。


「ああ、この格好? 兄貴のお下がりなんだ。訓練するのなら動きやすい服装の方がいいよな」


 ニカッっと笑って言うジーナ。……ファッションにまったく興味が無い事は分かった。俺も服装に詳しい訳じゃ無いから難しいけど、精霊術師の訓練に加えて服装と女性らしい言葉遣いも何とかしたいな。


「そ、そうだね。それとお兄さんが居たんだ」


「ああ、兄貴がいるよ。今は別の料理屋で修行してるんだけど、帰って来たら師匠にも紹介するよ」


 お兄さんか……ジーナのお父さんみたいなタイプだと困るな。できれば遠慮したいけど会いたくないとは言い辛い。


「ああ、楽しみにしているよ。これが持って行く荷物? 少ないけど大丈夫?」


「少ないか? 調理道具とか調味料も色々入ってるし、必要な物は全部あるから大丈夫だぞ」


 調理道具や調味料込みでこの量なのか。服はほとんど入って無さそうだな。オシャレな服は後にするにしてもサイズの合った綿の上下は買っておこう。装備はローブを買って、鎧に移行する場合はメルにでも作ってもらえばいいか。


「大丈夫ならいいか、じゃあ荷物は預かるよ」


 ジーナの荷物を受け取り、魔法の鞄に収納していると食堂からジーナの両親が出てきた。会わずに出発したかったのが本音だけど、娘さんを預かるんだからそう言う訳にもいかない。


「ピートさん、ダニエラさん、おはようございます。娘さんをお預かりしますね」


 俺が頭を下げるとズイッっとビートさんが顔を近づけてボソッと呟いた。


「分かってるな?」


 言いたい事はとっても良く分かります。変な事はしませんよ。


「あんた! ジーナのお師匠様に失礼な態度を取らないの。いい加減に諦めて、娘の旅立ちを祝福しなさい!」


「し、しかしな……」


「グダグダ言わない! ごめんね裕太さん、この人は娘と離れるのが嫌で駄々を捏ねてるの。出発すれば諦めがつくから、もう出発しちゃって。ごめんね慌ただしくて、また顔を出してね」


 ダニエラさんがピートさんの顔面を掴みながら、俺達に出発を促す。ここは従うべきだよな。ジーナとサラ達を促し出発する。


 なんか一応、ジーナの門出なんだけど、こんな感じでいいのか? ジーナの様子を見ると両親の争いを見て笑っている。問題無さそうだ。


「楽しいご両親だね」


「はは、仲は良いけど親父はおふくろの尻に敷かれているんだ」


 ケタケタと笑っているが、ジーナもとても優しい顔をしている。いい家族なんだな。ジーナのお兄さんに会ったら面倒な事になりそうだ。


 歩きながらはしゃぐサラ達と、興味津々でジーナの周りを飛び回るベル達を落ち着かせながら、ジーナに今後の予定を説明する。


「冒険者ギルドに行って、あたしも冒険者になるんだな。ふふ、あたしが冒険者か……迷宮にも入るんだよな、楽しみだ!」


 ジーナは冒険者にも興味があったようだ。食堂に貧乏冒険者が来てるって言ってたから、冒険者の大変さも分かっているはずなんだが、それでも楽しみらしい。性格的に冒険とか好きなんだろう。サラ達が楽しそうに迷宮での冒険を説明している。


「ゆーた、べるたちもじーなとあそぶ!」「キューー」「ごあいさつ」「ククーー」


 ベル達が俺の周りに集まって、ジーナと遊びたいと言い出した。新しい弟子を早く紹介して欲しいようだ。


(もう少し待ってね。今日は泉の家に戻るから、帰ったら沢山遊ぼうね)


「わかったー」「キュキュー」「あそぶ」「ククーー」


 コクコクと頷いて納得してくれたベル達を撫でながら冒険者ギルドに到着する。ジーナになんで変な動きをしているの? って目で見られたので、早めに精霊について説明したいな。街中で変な動きをする変人って思われるのは嫌だ。


 さっさと中に入るか……いや、登録や買い物、ギルマスとの話もあるし、ベル達は退屈だろう。遊びに行かせよう。


 ギルマスとの話しにジーナやサラ達をつき合わせるのも可哀想だから、ドリーに護衛を頼んで売店で待っていてもらおう。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドラゴンや神力草の代金、まだもらってない気がする。そのまま拠点に帰っちゃうのかな?
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