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百六十五話 揚げ物

 昨日は逝っちゃってる系の貴族が帰った後、早めに夕食を食べてベル達と少しだけ戯れてから就寝した。トルクさんが沢山料理を作ってくれるから早起きしないとな。


「セバスさん、朝早くからすみません」


「問題ありません。お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 綺麗に一礼して送り出してくれるセバスさん。朝早く出るって一言伝えておいたら見送りに出て来てくれた。なんか申し訳ない。


「では、行ってきます」


 セバスさんに見送られトルクさんの宿屋に向かう。早めに寝たとは言え、いつもは寝ている時間だからかなかなか目が覚めない。キッカなど歩きながら眠ってしまいそうな状態だ。マルコが心配そうに手を引いて歩いている。マルコとキッカは寝かせておいた方が良かったかもな。


 元気なのは沢山の料理が見られそうな事と、次から豪腕トルクの宿屋に泊る時に料理を習う事ができそうでちょっと浮かれているサラと、いつでもお目覚めパッチリの精霊達だけだ。特にベル達は普段と違う早朝の迷宮都市が珍しいのかテンションが高めだ。ガサゴソと屋台の準備をしている様子を見て目を輝かせている。


 薄っすらと明るくなった頃なのに、もう屋台を出す人が居るのは、早朝から仕事がある人達を狙ってるんだろう、意外と迷宮都市の朝は早い。知らない屋台を発見してご機嫌なベル達の報告を聞きながら宿に到着する。


「トルクさん。裕太です、おはようございます」


 裏口からドアをノックしてトルクさんを呼ぶ。厨房からは作業の音が聞こえているから、マーサさんが言った通り徹夜したんだろうな。厨房の音が止まり足音と共に裏口が開く。


「来たか! 入れ入れ、良い食材を回してくれて感謝しているぞ!」


 満面の笑みと充実した雰囲気を漂わせたトルクさんが、中に招き入れてくれる。あれだな、見た目が怖い人の満面の笑みは結構怖いな。キッカも目が覚めたようだ。怖い顔の人が笑うと可愛いってパターンもあるらしいけど今のところ見た事無いんよな。 


「いえ、急に頼んで申し訳ありません。徹夜したんですよね?」


「気にするな。あれだけの食材があれば寝ていられんし、マーサも許してくれたんだ。心置きなく料理ができるのは最高だぞ! 感謝している」


 マーサさんが許してくれたって所に一番力が入っていたな。そこが大事なポイントなんだろう。


「そう言って貰えると助かります。料理の方はどうなってますか?」


「うむ、作り置きが可能な物は大体できているぞ。ケチャップやミートソースももちろん作っておいた。あとは焼き物と揚げ物を仕上げるだけだ。しかし相当な量になるから最初に作ったものはどうしても冷めてしまうぞ。大丈夫か?」


 ……やっぱりそうだよね。冷めても問題ありませんって言うのは、料理を作ってくれたトルクさんに失礼だし、問題にならない感じでウソをつこう。


「ええ、俺の魔法の鞄は特別で、少しの間なら大丈夫なんですよ。内緒にしてくださいね」


 俺が言うとトルクさんの顔に驚きが浮かぶ。時間停止って言った訳じゃ無いのに驚かれる。


「なるほどファイアードラゴンを倒す男の持ち物だ、有り得ん話では無いな。しかし時間関連の魔法の鞄など、国やギルドの持ち物だぞ。分かった、内緒にしておく。周りがうるさいだろうからな」


 時間関連の効果がある魔法の鞄だと理解してくれたらしい。さすが元冒険者だな。


「じゃあ、まずは完成品から受け取ってくれ。鍋や食器は用意してるんだよな?」


「ええ、昨日買い揃えておきました」


 魔法の鞄から鍋や食器を取り出し机の上に並べる。沢山買ったからトルクさん自慢の冷蔵庫を空にしても大丈夫なはずだ。トルクさんが作ってくれた料理を鍋や器に移し魔法の鞄に収納する。


 普通のスープだけでも三種類、それにマグマフィッシュとワイバーンのスープや煮込みもある。ベル達も鍋を覗き込んで大はしゃぎしてるし、いい感じに死の大地での食生活が豊かになりそうだ。


「これで作り置きは全部だな。次は焼き物と揚げ物だ。今から作るぞ!」


 怖い笑顔でトルクさんが言う。本当に料理が好きなんだろう、上機嫌さがにじみ出てる。


「あっ、トルクさん、この子に料理を近くで見させてもらって構いませんか?」


「ん? ああ、そう言えば料理を習いたいとマーサから聞いたな。うむ、構わんぞ。朝なら料理を教えるのも大丈夫だから、次から泊まる時は朝に厨房に来るといい」


 トルクさんがサラの頭を大きな手でグリグリと撫でながら言う。


「ありがとうございます」


 サラが嬉しそうにお礼を言う。トルクさん、大人の包容力がハンパないな。息子が居るだけの事はある。ちょっと嫉妬してしまいそうだ。


「まずは作り慣れているメニューから行くぞ」


 ドン! っとオーク肉の塊とスライスされたニンニクが山盛り用意される。ニンニクって好きなんだけど、あれだけ山盛りだと匂いが心配になる。


 作り慣れたメニューと言うだけあって次々に料理が完成する。サラが「トルクさん凄いです」って言う度に料理の手際が良くなっている気がするが……もしかしてトルクさん、サラに褒められて浮かれているのか?


 孤児達に食べ物を分けていたから子供が好きなんだろうけど、外見で怯えられたんだろうな。俺も初めて会った時はちょっとビビったもん。子供ならなおさらだろう。なんかホロリときた。


「よし、次は揚げ物だな。オークとラフバードを揚げるぞ。油が跳ねると危ないから少し離れていろ」


 トルクさんがサラを遠ざけて油の準備をする。そうだ、聞きたい事があったんだ。


「トルクさん、卵って何処から手に入れてますか? 俺も卵が欲しいんですがラフバードが出る層でも、卵が見つからなかったんですよね」


 鶏に似たラフバードだから、大きな卵が落ちてると思ったんだけど見つからなかった。ダチョウの卵みたいなのが手に入ったらテンション上がるんだけどな。


「卵か、ラフバードの卵は迷宮では取れないぞ。欲しいのならラフバードが居る場所に行かないと無理だな。普通の卵なら早朝に養鶏をやっている村から運んで来るが、注文制だから先に頼んでおかんと手に入らんぞ」


 卵って注文制なのか……どうりで市場で見つからないはずだ。しかしなんで注文制なんだ?


「卵を大量に手に入れたいんですが、その注文って何処で頼めばいいんですか?」


「大量に手に入れたいのなら直接村に出向いた方がいいぞ。運んでくる分割高になるし、他の店の分も運んで来るから量はそれ程手に入らん」


 なるほど、村の場所を聞いて直接買い付けに行くか。ついでに卵を産む鳥を売って貰えないか交渉しよう。ラフバードは無理でも普通の鳥なら飼えるだろう。命の精霊も野生の動物じゃ無いといけないって訳じゃ無いしな。


 エサはその鳥が食べる植物をドリーに生やしてもらえば、勝手に食べるだろうし楽できる。手が掛からない鳥だったら是非とも譲って貰おう。


「村の場所を教えて貰えますか?」


「迷宮都市から一番近い村だから正門から道に沿って歩けば一時間程で着くぞ。迷宮都市に来た時に通らなかったか?」


 ……そうなのか。飛んできたから気付かなかったよ。トマトを買った村は反対方向だったし……抜かったな。


「……そうだったんですか。直接迷宮都市に来ていたので気が付きませんでした」


「そうか、まあ、直ぐ目の前が迷宮都市だからな。わざわざ村に寄る必要もないだろう。村は見た事があるだろうから行ってみると良い」


 村を見た記憶は無いけど、道なりに行けばいいのなら大丈夫だ。


「分かりました、ありがとうございます」


 死の大地に戻る前に村に寄って帰ろう。沢山買えるといいな。トルクさんの手を止めさせてしまったが、おかげでいい情報が手に入った。


 ***


 目の前の金属の網にカラッと揚がったオークカツとラフバードカツが置かれる。揚げ色もパーフェクトだ。


「ゆーた、あれ、おいしい? おいしい?」「キューキュキュー」「はじめてみる」「クククーー」


 ベル達とフクちゃん達が揚げ物に魅了されている。俺に味を聞きに来たり、揚げ物を見たりとせわしなく厨房の中を飛び回っている。早く食べたくてしょうがないようだ。聞きにきたベル達にしっかりと頷く。


「私がこの宿に様子を見にきた時も、大人気だったわね。とっても美味しそうだわ」


 シルフィも揚げ物には興味津々のようだ。気に入ってくれると、大精霊達と一緒の食卓を囲む機会が増えるだろう。楽しみだ。 


 しかしトルクさんの拘りも凄いな。レシピに金属の網で油を切るって書いたけど、トルクさんは鍛冶屋に頼んで作ってもらったそうだ。俺もメルかノモスに作ってもらおうかな? ……自分で揚げ物は面倒だし、トルクさんに沢山作ってもらう事にしよう。


「裕太に教えてもらったレシピを元に、色々改良してみたんだ。味を見てくれ」


 トルクさんが油を切ったオークカツに塩を振りザクザクと切って、俺とサラ達の前におく。食べろって事だよね。目の前にオークカツに釘付けのベル達が居るのに、俺だけ食べるのか……心が痛む。


 だが、食べない訳にもいかないので、一切れ摘まみ口に運ぶ。ザクッっとした衣と弾力のある肉、熱々トロトロのオーク肉の脂身が口の中で混じり合い、ニンニクの香りが口いっぱいに広がる。翌日の口臭など知った事か的な美味さだ。


 改良したって、すりおろしたニンニクで下味を付けたんだな。トルクさんのニンニクに対する拘り、ブレないな。でも、物凄く美味しい。完全に男飯って感じだけど、女性客が嫌がらないかな? マーサさんが大繁盛さって笑ってたから大丈夫か。


 ベル達の視線が辛いが、まずは感想を言わないと「美味しいです」「すごい、おれ、これものすごく、すき」「おいしい」……サラ達に先を越されてしまったか。マルコは片言になるほど気に入ったらしい。何故片言になったのかは分からないけど、それぐらい衝撃が強かったんだろう。


「トルクさん、とても美味しいです。揚げ具合も完璧でニンニクの風味が効いてとても美味しいです」


 俺の言葉にトルクさんが男臭い笑みを浮かべる。こうなってくると、ミルフィーユカツとかチーズカツも食べたくなるよな。後ヒレカツも……オークのヒレってどの部分なんだろう?


 今頼むと今日も徹夜しそうな気がするから、後で作り方を書いてマーサさんに渡しておこう。トルクさんの体調を見てメモを渡してくれるだろう。


 油を切ったオークカツを収納し、トルクさんに断って精霊達を連れて外に出る。これ以上ベル達にお預けをさせていると俺の精神が持たないからな。


(みんな、味見だから少しだけだよ。館に戻ったら沢山食べられるから我慢してね。シルフィ、このカツを人数分に切り分けてくれ)


 オークカツ二皿をシルフィの前に出すと、スパッっと風で切り分けてくれた。


(はい、一人一切れだからね)


 お皿を差し出すとベル達とフクちゃん達が突っ込んできた。待ちきれなかったんだろうな。


「おいしーー」「キューー」「はじめてのあじ」「ククーーー」「「ホー」」「プギャッ」


「ふふ、美味しいわ。これはディーネ達も喜ぶわね」


 精霊達の口にも合ったようだ。シルフィにいたってはディーネ達の分までお墨付きをくれた。皆の顔にもっと食べたいと書いてあるけど、際限がなくなりそうだしここは我慢してもらおう。


 マグマフィッシュやワイバーンの料理も残っているし、まだまだ楽しみな料理が増えるな。

読んでくださってありがとうございます。

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