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百五十九話 帰還

 七十層でボスのシーサーペントの亜種を討伐したので、そろそろ迷宮を出る事にした。大丈夫なのは間違い無いが、サラ達を放っておくのも心配だ。空を飛べば数時間で帰れるんだ、さっさと帰ろう。


「裕太、あそこにあの冒険者達が居るわよ。このまま通り過ぎる?」


 五十六層を飛んでいると迷宮の翼とマッスルスターが、ゴブリンの集団を惨殺している姿をシルフィが発見した。うーん、気が付かなければスルーしても問題無いんだけど、見かけたのなら声ぐらいかけるのが礼儀かな? 大丈夫だとは思うけど帰れなくなってたりしたらそれはそれで問題だ。


 いや、どう見ても大丈夫か、迷宮の翼は連携を取りながら余裕を持って戦っているように見えるし、マッスルスターはあれだ、モグラ叩きをするようにゴブリンをペチャンコにしている。


 なんで魔術師や僧侶が大型の杖やメイスで近接戦をしているのかは不思議だが、あれだけの筋肉があればそう言う選択肢もあるんだろう。魔物の血や臓物を撒き散らしながら暴れるマッスルスターは、オーガにしか見えないな。良かったサラ達を連れて来なくて、教育に悪そうな光景だ。


 ベル達が興味深そうに観察しているのは……今更見るなと言ってもダメなんだろうな。怖がってはいないみたいだし、筋肉を鍛えるとか言い出さない限り様子をみよう。……精霊って筋肉はあるのかな?


「周辺のゴブリンをあの人達が討伐し終えたら、挨拶しておくよ。ここでちょっと待ってようか」


「分かったわ」


 ベル達と戯れながら、Aランクの冒険者達の戦いを見学する。迷宮の翼はゴブリン相手だから力を抜いた、スムーズな戦い方をしている。あれがちゃんと訓練された人達の動きなのかな?


「裕太、ゴブリンの援軍が来てるけど、どうする?」


「……んー、ピンチならともかく凄い勢いで斬殺、撲殺してるし、加わる必要もないかな。もう少し見学しよう」


 それにもう少し戦い方を見てみたい。パーティーとしての行動のしかたが分かれば、サラ達にもアドバイスできそうだ。


 ***


 迷宮の翼とマッスルスターはゴブリンの援軍がきても問題無く全てを惨殺し、素早く移動を開始した。騒がしかったから、追加で魔物が来るのを嫌がったんだろうな。魔石も取らずに一目散だ。まあ、Aランクの冒険者なんだから、職業付きのゴブリンの魔石でも必要無いのかもしれない。


 上空から追いかけていくと、どうやら岩陰で休憩するようだ。今なら顔を出しても大丈夫そうだな。上空から手を振りながら下りると、一瞬警戒した後に構えを解いてくれた。


「裕太さんどうかしましたか?」


 地面に下りると直ぐにアレクさんが聞いてきた。わざわざ下りてきたから何かあったかと勘違いさせたのかもしれない。


「なにもありませんよ。戻る途中で皆さんを見かけたので、一応挨拶をしておこうかと。あと皆さんが冒険者ギルドに戻らないと約束を果たした事にならない可能性もありますし、調子はどうですか」


「ああ、そう言う事ですか。この層は思った以上に大変ですね。倒すのは問題無いのですが、魔物の数が多く、夜襲もあります。マッスルスターの皆さんと共闘していなければ、魔物を倒す事だけで時間を消費していましたよ」


 確かに長々と戦ってたら更に援軍が来そうだもんね。見つかったら素早く魔物を殲滅して移動するか、最初から見つからないようにする必要があるんだろう。


「うむ、私達にも体力の限界はあるからな。一度ゴブリンの集団と戦っている時にオークの大軍に襲われた時は面倒であった」


 マッスルさんの言葉に、アレクさんもその時の事を思い出したのか嫌そうに頷いている。


「ええ、大技を使えば蹴散らせるのですが、そうすると体力や魔力を消耗しますし、音を聞きつけて更に魔物が寄ってくる。本当に面倒です」


 迷宮の翼とマッスルスターの面々がげんなりしている。本当に面倒なんだろうな。


「大変なんですね。言うまでも無いでしょうが、引き際を間違えずに無事に冒険者ギルドに戻ってくださいね。では、そろそろ俺は戻ります」


 一礼して別れようとすると、アレクさんに呼び止められた。


「僕達ももう直ぐ切り上げるつもりなんだ。冒険者ギルドに寄ったらあと十日ぐらいで戻ると、伝言をお願いしてもいいですか?」


 アレクさんから伝言を頼まれてしまった。


「冒険者ギルドに行く予定が無いのでどうなるか分かりませんが、行く事があったら伝えておきますね」


 行く予定は無いけど、行ったら伝言ぐらいは問題無い。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。えーっと、裕太さんは僕達を連れて五十層を突破した事を冒険者ギルドに報告しないのかい?」


 うーん、報告しに行かないといけないのかな? 普通の社会人としては報告は当然だと思うけど、俺は冒険者ギルドと深く関わる気は無い。なんて言うか冒険者ギルドのカードを持っただけの、なんちゃって冒険者みたいな立ち位置を目指したい感じだ。


 サラ達のランクアップも強制依頼を考えると悩みどころだし、冒険者ギルドに行く事は無さそうだよね。マリーさんが素材を引き受けてくれるし、冒険者ギルドは勧誘からの壁役として頑張って欲しい。


「皆さんが魔力草と万能草を持ち帰れば依頼を果たした事が分かるでしょうし、報告はお任せします。では、失礼します。お気をつけて」


 ペコリと頭を下げて、詠唱をするふりをしながらシルフィに視線を送る。まだ何か聞きたそうだったけど、俺は彼らが冒険者ギルドに無事戻る事ができるのなら、なんの問題も無いので気が付かないふりをして飛び立つ。


 ***


 迷宮を出ると真っ暗だ。まあ、帰るのを決めたのが昼を結構過ぎてからだし暗くはなるか。もうサラ達は寝ちゃっただろうな。そもそも、今から戻って中に入れて貰えるんだろうか? まあ、入れなかったとしてもどうにでもなるか。とりあえずさっさと戻ろう。少し足早で館に向かう。

  

「どうぞお通りください」


 門番の人が門を開けてくれた。流石お金持ち、門番も二十四時間体制なんだね。門を通り館の扉の前に立つと扉の前にセバスさんが居る。どうやって俺が戻ったのを知ったんだろう?


 綺麗な一礼で出迎えてくれるセバスさん。夜でも隙が無いな。館に迎え入れて貰い、サラ達の事も教えてくれる。今日はもう寝たそうだが、とってもいい子にしていたそうだ。サラ達が褒められると素直に嬉しい。


 あと、明日の朝、マリーさんが来る事も教えてくれた。俺が戻ったら直ぐにマリーさんに知らせが行く事になっているそうだ。解体場も整えられ準備万端らしい。夜中に突撃して来ないだけマシだな。セバスさんと別れて部屋に戻る。


「裕太さん、おかえりなさい」


 部屋に入るとドリーがニコリと出迎えてくれる。ちょっと幸せ。


「ドリー、ただいま。変わった事は無かった?」


「ええ、サラちゃん達もいい子にしていましたよ。それと何人か裕太さんに接触しようと人が来ましたが、ギルドが布告を出したので落ち着いたようです。ただ、この館を監視する者もいますね」


 監視かー。冒険者ギルドが言っても全員が手を引くわけじゃ無いのかな? 非合法組織とかか?


「危険なの? サラ達が狙われたりしない?」


「それは大丈夫です。冒険者ギルドが人を出して、怪しい人物を排除していますね。よっぽど裕太さんの機嫌を損ねたくないようです」


 マジか……いや、当たり前なのか? 冒険者ギルドの布告に何の意味も無かったら、それはそれでメンツが潰されたって事になる。冒険者ギルドの人より凄腕が来ない限り安心っぽいな。


 冒険者ギルドが人を出しているのなら、俺が戻った事も伝わるか。その護衛兼監視の人にアレクさんの伝言を伝えるか? 一応身を隠しているみたいだし止めておいた方がいいか。必要なら何か言ってくるだろう。


「分かった。ありがとう、ドリー。みんなに働いてもらったから今日はお酒を出すね。ノモスも召喚するから皆で飲んで」


 シルフィとディーネには迷宮でお世話になったし、ドリーにはサラの護衛、ノモスには泉の家の管理、お酒ぐらい出さないと罰が当たる。盛り上がるシルフィ達の前に酒樽を三樽並べ、ノモスを召喚する。


「おっ、酒か!」


 俺を見る事も無く、酒樽を発見するノモス。


「いや、ノモス、せめて酒樽を見つける前に俺と話そうよ。泉の家に変わった事は無い? 動物達は大丈夫?」


「おお、裕太か、心配するな。困った事にはなっておらん。動物達も偶に巣穴から出て来ておるから順調じゃろう」


 偶に巣穴から出て来てるのか。そう言えばノモスを呼んだから、完全に泉の家が無防備になるな。動物達は大丈夫か? ……とは言え酒樽を前に、動物が心配だからと大精霊の誰かを送還するのも気まずい。と言うか怖い。ベル達にお願いするか?


 幼女達を夜中に働かせるのは罪悪感があるが、動物達がレイスにでも殺されたら悲しいからな。ちょっと頑張って貰おう。


「ベル、レイン、トゥル、タマモ、ちょっとお願いがあるんだけどいい?」


「なーにー?」「キュー?」「おてつだい?」「クー?」  


「うん、今泉の家に誰も居ないから、動物達が心配なんだ。明日の朝まで泉の家に送還するから、動物達を守ってくれないかな?」


「いいよー」「キューー」「モフモフ、まもる」「クーー」


 元気いっぱい、いいお返事だ。普段なら任務かどうか聞くのにそれも忘れてやる気満々だ。動物を守るってのが気に入ったようだ。


「みんなありがとう。じゃあお願いね」


 ベル達を泉の家に送還する。ちょっと心配だけどベル達ならやり遂げてくれるはずだ。でも、早起きして大精霊達をさっさと送還しよう。既にお酒を飲みだしている大精霊達なら、朝には飲み干しているだろうから大丈夫だ。俺はさっさと寝るか。


 ***


「お師匠様、おかえりなさい」「師匠、おかえり」「おかえりなさい」


 朝、起きて寝室から出るとサラ達がお帰りなさいと集まってきた。おはようが正しい挨拶のはずだけど、お帰りなさいと言って貰えるのは、これはこれで嬉しい。


「みんな、ただいま」


 ひとりひとり頭を撫でて話を聞く。元気は元気だが外には出ないようにしていたらしく、少し退屈だったようだ。散歩ぐらいならドリーがいるから大丈夫だと言っておいたんだけど、自主的に館に籠っていたらしい。


 子供だったら退屈に負けて外に遊びに行っちゃうと思うんだけど、自己管理がしっかりしていると言うか警戒心が高いと言うか、今の状況で外に出ると余計な揉め事が起こる可能性があると判断したみたいだ。


 フクちゃん達もいるし、大抵の事は大丈夫なのは分かっているんだろうけど、揉め事が起こらないように行動できるのが偉い。ギルマスを煽っていた自分としてはちょっと恥ずかしい。


 サラ達の話を聞いていると、そろそろ朝食が運ばれてくる時間らしい。ディーネ達を送還してベル達を召喚しないとな。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こうなると何故冒険者ギルドにいるのか 甚だ疑問しかないです、、、 ん?? ダンジョンには冒険者ギルドに登録しないと 入れない仕組みとかありましたっけ?? そして主人公の浅はかな…
[一言] 凄く面白いのだがホウレンソウの重要性を知らないのがマイナスポイント。主人公が小学生レベルに見える。
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