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百五十三話 報告

 とりあえずある程度納得できる条件で冒険者ギルドと合意はできたと思う。五十層を突破する人達との顔合わせも済んだし、この話し合いがある程度周知されれば少しはマシになる……といいな。館に戻りセバスさんにも簡単に話し合いの内容を説明しておく。


 マリーさんが冒険者ギルドに人を派遣するって言ってたから、簡単に伝えただけだけど問題は無いだろう。前回派遣した冒険者は所々負傷して帰って来たそうだけど、今回も同じ人を派遣したのかな? まあ、今回は植物を生やしたりしなかったから、無事に戻って報告しているはずだ。


「ゆーた、おかえりー」「キュキュー」「おかえり」「ククー」


 部屋のドアを開けるとベル達が突撃してきた。ワチャワチャと絡みついてくるベル達を撫でながら部屋の中に入る。


「いい子にしてた?」


「べるいいこー」「キューー」「くんれんのおてつだいしてた」「クーー」


 元気に返事をするベル達、皆いい子にしていたらしい。トゥルはサラ達のお手伝いをしていてくれたみたいだ。しっかり褒めないとな。ベル達を撫でまわしているとサラ達もお帰りと出迎えてくれる。


「お師匠様、お話合いは如何でしたか?」


 とっても不安そうに聞くサラ。まあ、冒険者ギルドと仲が悪いのは知ってるから不安になるのも分る。結構な頻度で俺が揉めるから心配しているとかじゃないといいな。


「そうだね、たぶんいい感じにまとまったと思うよ。もう少ししたら落ち着くと思うから、そうしたらメルやトルクさん、ジーナに会いに行こうか。その時にトルクさんに料理の事も頼んでみようね」


 冒険者ギルドが頑張ってくれればの話だけど、その為には迷宮の翼やマッスルスターの前で派手に頑張らないとな。とは言えやり過ぎると全力で殺そうとしてきそうな可能性もあるからバランスが難しい。シルフィとも相談しておかないとな。


「はい! ありがとうございます」


 不安そうだったサラの顔が、一気に喜びに変わる。トルクさんに料理を習うのを楽しみにしてたから、話が早くまとまって良かったよ。


「ねえ、師匠。ジーナお姉ちゃんを仲間にしに行くの?」


「ジーナおねえちゃんがいっしょだと、キッカうれしい。あとメルちゃんとあそぶの」


 マルコとキッカがジーナの名前が出たので興味深々の顔で聞いてきた。


「うーん、どうかな? ジーナがどうするのかは分からないけど、仲間になってくれるといいね」


 美人だし、サラ達とも仲良しだし、大人だし、性格が良さそうだし、美人だし、仲間になってくれたら嬉しいな。サラ達もジーナお姉ちゃんを説得すると張り切っている。


 俺だったらサラ達に頼み事をされたら断れないけど、ジーナはどうだろう? ぜひともサラ達には頑張って欲しい。


「ドリー、子供達の護衛ありがとう。変わった事は無かった?」


「ええ、平和でしたよ。子供達もとってもいい子でした」


 ベル達は普段からいい子だけど、ドリーの前だと更にいい子になるからな。子供ながらにドリーの何かを感じ取っているんだろう。


「そう、良かった。俺の用事は済んだからもう大丈夫だけど、どうせなら一緒に夕食はどう?」


「んー、もう少し森に手を入れておきたいので、今回はご遠慮しておきます」


 森の管理か。小動物達も居るし、手を入れて貰った方が助かるな。帰る頃には新しい森にも実をつける事ができるだろうし、帰りに小動物を捕まえて帰るか。そうすれば命の精霊と契約できるかも。


「そう? 森の管理は助かるけど無理はしないでね」


 言ってから気付いたけどあの程度の小さなスペース、完璧に手を入れたとしても森の大精霊に負担はかからないよね。ドリーもちょっと苦笑いだ。


「えーっと、直ぐに送還する?」


「そうですね、お願いします」


 ドリーが帰るのでベル達がご挨拶をしている。ドリーを送還してソファーでまったりしていると、シルフィが話しかけてきた。ワルキューレの考えが分かったらしい……正直忘れてたよ。なんかいい気分だったんだけど、一気にテンションが下がる。


「えーっと、話を詳しく聞く前に聞いておきたいんだけど、碌でも無い事を考えてなかったかだけ先に教えてくれる?」


 心の準備をする時間が欲しい。 


「ふふ、安心していいわ。しばらく様子見って話になってたから?」


「ん? 様子見? 何でそんな話になったの」


「んー、最初は裕太を口説く方法を考えてたんだけど、彼女達の手下の冒険者が冒険者ギルドからもどってきて、迂闊に近づくのは危険って結論に落ち着いたわ。しばらくは挨拶と簡単な世間話ができる関係に止めるつもりみたいね」


 んー? 黒歴史を生み出す覚悟で強気に出た事が、思わぬところで功を奏したって事か? 完全に関係を断とうとしない所がしたたかだな。状況次第では絡んできそうだけど、ちょっとホッとした。


「ありがとうシルフィ、少しは安心できたよ」


 一時的にかもしれないけど、ある程度の問題が一気に解決した気がする。ホッとしているとマリーさんが来た。来るとは思っていたけど早かったな。


「裕太さん、ファイアードラゴンを是非とも!」


 マリーさんが来て軽く挨拶をしたあとのセリフがこれだ。まあ、今日の話し合いで俺がファイアードラゴンの素材を独占するって言ったから、その事を聞いて急いで来たんだろうな。まだ討伐したわけでも無いのに既に儲けを考えている顔だ。


 元からあんまり隠してなかったけど、最近完全に開き直ったのか、まったく欲望を隠さなくなった。


「マリーさん、落ち着いてください。元々他に素材を卸すつもりはありませんから大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


「ただ、ファイアードラゴンのお肉の半分と、舌と心臓はこちらに回してください」


「お肉の半分に舌と心臓ですか? 凄い量になりますし舌と心臓は何に使われるんですか?」


 焼肉に使ってみるとは言い辛いし、量についてもマリーさんには時間停止の事は言って無いからな。どうしたものか? そもそも舌と心臓は食べられるのかな?


「えーっと、お肉は食べさせたい人達が居るので、そちらにご馳走するつもりです。舌と心臓は故郷で食べていたんで試してみようかと思って……ドラゴンの舌と心臓に毒とか無いですよね?」


「ああ、舌は珍味ですよね。ファイアードラゴンの舌は食べた事がありませんが、アサルトドラゴンの舌は食べた事があります。分厚く切ると独特の噛み応えがたまらなく美味しいです。ただ心臓は魔力が集中している場所ですので食べるのは危険です。手間をかけてようやく薬に処方できる部分ですから」


 心臓は無理っぽいな。でも舌は既に食べられていたか。えー、舌を食べるんですか気持ち悪い。いやこれが美味しいんですよ。食べてみてくださいってドヤ顔したかった。


 しかし、アサルトドラゴンの舌も美味しいのか。前回はお肉しか貰わなかったから失敗したな。


「じゃあ、心臓は必要無いです。五十層に行くついでにアサルトドラゴンかワイバーンを討伐してきますから、そのお肉と舌も解体お願いしていいですか?」


 アサルトドラゴンとワイバーンは魔法の鞄に入っているから、それを出せばいいか。


「大歓迎です。お肉と舌以外は卸して頂けるんですよね?」


「ええ、そのつもりです」


「ありがとうございます」


 マリーさんのウキウキ感がハンパない。五十層を突破したあと、神力草も確保しに行くつもりなんだけど、言ったらどんなリアクションになるか……怖いから黙っておこう。


 商売的には言っておいた方が良いんだろうが、神力草が確実に採取できるかも分からないしね。素材を卸す流れを確認して、マリーさんは帰って行った。夕食を一緒に取るのかと思っていたんだけど、仕事が残っているのと、俺が卸す予定の素材関連で緊急会議をするらしい。


 働き過ぎなんじゃ? とも思ったが、儲けの予感に気力が充実しまくっているようで笑顔で帰って行った。過労死だけは注意して欲しい。まあ、湿原の素材を大量に卸した影響で忙しいらしいから、大半は俺のせいな気もする。


 これでアレクさん達を五十層に連れて行く以外は、緊急の用事は無いよね。メルやトルクさんに会いに行くのはもう少し先にするとして、明日からサラ達の訓練で迷宮に行くか。


 五十層を突破する時も連れて行こうかと思ったけど、あんまり急激にステップアップしても良くないだろうし、お留守番してもらおう。そう言えばアレクさん達との待ち合わせ場所に行くのにどのぐらい掛かるんだろう?


「シルフィ、ファイアードラゴンの部屋まで、急いだらどのぐらいで行ける?」


 俺の言葉にシルフィが考え込む。


「どの程度急ぐかによるわね。全部を私に任せて最短距離を進めばボス部屋を含めて数時間、バレないように広い場所だけ飛んで行くのなら二日と言ったところね」


 ……難しい選択だな。飛べるって事は切り札になるから隠しておいた方がいいのか、依頼は受けないって言ってあるんだから、周りを気にせず好き勝手に飛び回るか……隠すとなったら色々不便だし、毎回迷宮でコソコソするのも面倒だ。


 冒険者ギルドが勧誘を断ってくれるんだし、飛べるって事は隠さないでいいか。それで面倒が起こったとしても、毎回迷宮で長時間、無駄に歩く事に比べたら楽っぽい。


「飛べるのは隠さない事にするよ。今度、アレクさんと合流する時はシルフィにお願いしていい?」


「ええ、問題無いわ。私も低層をダラダラ歩くよりさっさと通過した方が楽しいわ」


「ありがとう。助かるよ」


 シルフィが気にしないでと手を振ってくれる。あんまり大精霊の力に頼り過ぎるのは良くないって分かってはいるんだけど、頼りになり過ぎるから線引きが難しい。でもシルフィが言った通り、迷宮の浅い部分をテクテク歩かなくて済むのはかなり楽になる。 


 あとは皆に今後の予定を伝えて夕食にするか。迷宮でサラ達の訓練をして、アレクさん達と合流、冒険者ギルドとの約束を終わらせてから皆に会いに行こう。シルフィに見てきてもらった時にトルクさんの宿は繁盛していたって聞いたけど、俺も揚げ物の成否が気になる。


 いい加減、マグマフィッシュとかも料理して欲しいしな。次に行った時はマグマフィッシュとワイバーンを調理してもらおう。その次はファイアードラゴンだな。この館の料理人に調理してもらう事も考えたが、どうせならトルクさんに喜んで貰った方がいいよね。

読んでくださってありがとうございます。

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