百五十一話 グランドマスターとの話し合い
途中でワルキューレに出会った等、予定と違う事も起こったが話し合いの為に冒険者ギルドに行くと、何故かギルマスだけではなくグランドマスターとやらが席に座っていた。お偉いさんが増えると、揉めた時に更に厄介になるから勘弁して欲しい。しかもグランドマスター自ら説明してくれるそうだ、嬉しくないけど。
「まずはギルドランクだが、強制依頼が問題で間違い無いよな」
なんか鍛えられた肉体を維持しているし、強いんだろうなーって雰囲気はあるんだけど、謝った時と比べると一気に雰囲気が軽くなった。ギルマスが申し訳なさそうなのが印象的だ。上が自由奔放で下が苦労するパターンか。
「ええ、強制依頼もそうですが、高ランクである事で起こる義務や責任が面倒なんです。無理してランクを上げる理由もありませんし、上げないとダメなら別のギルドに移る事も考えています」
「ああ、そこら辺も聞いている。確かに強制依頼は面倒ではあるが、別の面では名誉ではあるんだぞ。ギルドがその力を見込んで頼むんだからな。報酬もいいしギルドに貸しも作れるからウハウハだ」
両手を銭のマークにして言うグランドマスター。そこら辺にいるおっさんにしか見えなくなってきた。
「言いたい事は分かりますが、俺を都合のいいように利用しようとする人も居ますからね。ギルドと信頼関係があればそれも違ったんですが、俺はまったくギルドを信頼していませんからお断りです」
「耳が痛い話だな。ええ、おい」
グランドマスターがギルマスの背中をバンバンと叩きながら言う。ギルマス、必死に声を出さないように我慢している表情が同情を誘う。あれか? もしかして同情を誘う作戦なのか? 実際のところどうかは分からないが疑り深くなっている。
「まあ、そう言う事なら無理は言えねえ。俺の権限で強制依頼を含むギルドからの依頼を拒否できる事を書面にして渡そう。出された条件の中に冒険者ギルドから一切依頼を出さないと言う話が有ったが、拒否する権利で勘弁してくれ。話を聞いたら受けてもいいと思う事もあるかもしれねえだろ?」
……うーん、どうなんだ? 全部拒否出来るのなら一緒なのか?
「……嫌がらせで毎日依頼を持って来られても困りますし、話を聞くだけで面倒になりそうなので嫌ですね」
「そんな事しねえって言っても無駄だよな。じゃあ書面に嫌がらせと判断される依頼をした場合は処罰する旨を追加する、どうだ?」
どうだって言われてもな。
「何故そこまで、ランクを上げたいのですか? 低ランクで依頼を受けないのも、高ランクで強制依頼を拒否するのも変わらないですよね? 手間や例外が増える分、マイナスなのでは?」
「それはまあ、国や他国の冒険者ギルドに対する牽制の意味合いもある。ギルドのランクは厳密だ。その人数がギルドの力を表す一端にもなる。それに実力ある冒険者を低ランクにしていたら見る目を疑われるだろ」
俺の所にはつえー奴がこんなにいるんだぜって言いたい為に、こんなに手間をかけるのか?
「強制依頼を出せないような冒険者でもですか?」
「ああ、Aランクともなると簡単になる事はできねえ。それが一人増えるだけでそれなりの影響が有るって事だ。本来ならSランクにしたいところだが、Sランクともなると強制依頼を受けないなんて話は通らねえからな。Sランクがいるだけでギルドの格が上がる。そう言う存在だ」
「Bランクでは無いんですか?」
前ギルマスにはBランクって言われたよね?
「ファイアードラゴンを倒せる奴がBランクな訳ねえだろ。いいかファイアードラゴンをソロで倒すなんざSランクでも無理なんだぞ。お前と揉めてなかったらSSランクにあげようかと議論していただろうな」
その事を話す時のグランドマスターの顔はとても悔しそうだった。Aランクでも影響があるのならSSランクとか凄い影響がありそうだよね。ったくこの国初のSSランクが……とかぶつぶつ言ってる。相当凄いらしいなSSランク。まあ、俺には関係ないか。
「それでどうだ? 受けるか?」
身を乗り出して聞くグランドマスター。うーん、そこまで面倒が無さそうなら受けてもいいか。特別待遇のAランク冒険者が師匠ならサラ達も鼻が高いかも。社会的な地位が高ければ弟子をスカウトする時にも役に立ちそうだ。AランクとEランク、誘われたら Aランクを選ぶよね。
「分かりました。書面に問題が無ければお受けします」
「分かった直ぐに用意させる」
秘書さんっぽい女性がグランドマスターの指示で奥に行った。書面の用意をしに行ったんだろう。
「次は、依頼だけでなく勧誘をギルドが阻止するって話だな。いくら冒険者ギルドでも小商いの商人の接近を阻む事は難しいが、こちらも書面を用意させる。それには交渉は冒険者ギルドに一任する事と、違反した場合は冒険者ギルドの利用停止の措置を明記しておく。真っ当な貴族や商人なら手を引くはずだ」
「国や軍、真っ当でない相手やなんかはどうなるんですか?」
そこが一番大事だよね。
「国は冒険者ギルドとは利害関係が一致している。魔物に対する対処は冒険者ギルドが必要だから、Aランク冒険者を無理に引き抜く事なんてしねえよ。騒ぎになって冒険者ギルドが引き上げれば、魔物の対処に手が回らねえ、防衛戦力が減れば他国の侵略を招き、下手すれば国が亡ぶからな」
なるほど、そう言う面で国と繋がっているんだな。そうなるとAランクの冒険者って立場はお買い得だった気がする。
「真っ当でない相手は?」
「そんなの冒険者ギルドでは対処できねえよ。デカイ組織なら冒険者ギルドを敵に回す愚を覚って手を出しては来ねえが、バカや屑はそんなの関係ねえからな。何をやったって来る時は来るんだ。そんな奴らは潰しちまえよ。潰す前に冒険者ギルドに一報を入れておけばケツは持ってやる」
まあ、言ってる事は理解できる。理屈や利害を考えずに勢いで動く人っているもんね。犯罪者にならないのなら大丈夫か? しかしグランドマスターって言い方がいちいち雑と言うかヤンキーっぽいと言うか……まあ、荒事専門の冒険者のトップなんだから間違ってないのか? ……いや、間違ってるな。
「分かりました。それで構いません。俺の周りの人間に手を出させないと言うのはどうなりますか?」
「永遠に冒険者ギルドの職員を張り付けて守るのは無理だ。状況が落ち着くまで職員を派遣するが、その後はその時々で相談してほしい。あとドンドン守るべき相手を増やされても対応はできないぞ」
……んー、常に護衛を用意するのはさすがに無理があるか。四六時中延々と護衛が付く。それが大変なのは分かるが、どうなんだろう? 納得はできる気もするが話に乗せられている気もする。
「俺が頼んだ人達には状況が落ち着くまで、護衛を派遣してくれると考えてもいいんですか? 迷惑が掛からないように、陰ながらの護衛がありがたいんですが」
今のところ俺の知り合いって言ったら、マリーさんとメルと豪腕トルクの宿屋の人達……あれ? マリーさんは護衛が居るしメルにはメラルが居る。トルクさんの所はトルクさんもマーサさんも強そうだ。護衛が必要なのかな? っと言うか、今ぐらいの関係で狙われるのかな?
マリーさんは商売相手、メルと宿屋は基本的にお客さんぐらいにしか見られないような……まあいい、将来大切な人ができたら守って貰わないとな。あっ、ジーナが弟子になったら護衛を頼めばいいんだ。うん、頼んだのは無駄じゃない。
「ああ、さっきも言った通りあんまり人数が多いと手が回らないが、こちらから腕利きを派遣する事は約束しよう。それにこちらでも必要だと感じたら護衛を付ける事も約束しておく」
……それなら問題ないか。
「分かりました。ではそれでお願いします」
「そうか、了解した。で、ここからは相談なんだが、五十層を越える冒険者を増やしたい。対価に冒険者ギルドに望むものは無いか?」
「無いです。前回もギルマスに言いましたが、その条件を変えるつもりはありません」
空気のようにグランドマスターの隣で小さくなっているギルマスを見ながら言う。あの人、叩かれるのが嫌だから気配を消して空気になっている気がする。
「しかしなー、連れて行きたいパーティーが多いんだよ。もう少しなんとかならねえ?」
「こう言っては何ですが、俺が出した条件から結構譲歩しているつもりなんです。要求したのは冒険者ギルドが依頼を俺に一切しない事。外部からの商談を完全に阻止してもらう事。周辺への手出しの阻止。難しいのは分かりますから譲歩しました。でも、人数まで言葉を違えると、頼めば何とかなると思われかねませんから、譲れません」
「いや、譲る譲らないじゃなくてな、こちらも報酬を出すから、その分人数を増やしてくれって話なんだ」
「冒険者ギルドに要求したい事は無いですね。五十層以降に行ける事で得られる利益は莫大ですが、その対価になるほどの魅力的な提案を冒険者ギルドは用意できますか?」
厳密にいえば十人は増えるんだけど、ほいほいと人数を増やしていたら、あっという間に薬草の価値が無くなりそうだよね。
「まじか。金じゃあダメだよな?」
「ダメですね」
魔力草と万能草を一回の採取の五分の一卸しただけで二億になるのに、どれだけのお金が相場なのか分からないよね。
「地位や名誉は?」
「面倒です」
「女は?」
「……立場的に無理です」
心がグラついたが、シルフィの目線が気になった。あとサラ達とベル達に何て言えばいいのか分からないので無理だ。
「なんか脈がありそうだな。こう言っては何だが冒険者ギルドの受付嬢は美人揃いだぞ。受付嬢を集めてパーティーはどうだ? 楽しいぞ」
今まで静かに俺とグランドマスターの話を聞いていた周りの冒険者達がザワついた。ここで反応する辺り共感できる気がする。
チラっとシルフィを見る。
「裕太も男の子なんだしいいんじゃない? ただ、ベル達やサラ達に悪影響を与えないようにね」
……なんて懐が深いんだ。普通こういう場合って軽蔑の目で見られるのに。でも、行っていいよって言われると行き辛い。
「確かに楽しそうですが、それで五十層を突破したいってのは釣り合ってませんよね」
「やっぱりダメか。分かった、じゃあ十人を紹介する。でもいい報酬が思いついたら頼むから、報酬が気に入ったら受けてくれ」
ちゃんと十人を選び終わってたんだな。
「何度も確認されるのは面倒ですから、聞くのは年に一回だけにしてください」
思いついたのを片っ端から聞かれるのは嫌だ。
「年に一回かよ。難しいだろ」
「俺の方は聞かなくてもいいんですから、よく考えて聞いてください」
頭をガシガシと掻きながら頷くグランドマスター。上手く行けば五十層以降に行ける人数が増えるんだ。俺の素行調査とか、対策会議とか始まりそうだな。
「一つ言っておきますが、俺の事を調べるのは構いませんが、俺の知り合いに迷惑はかけないようにして下さいね。もし何かがあった場合は植物でギルドを埋め尽くすような、生ぬるい報復では終わりませんから」
「あ、ああ、分かった。もう直ぐ書面ができるはずだから、その時に連れて行って欲しい冒険者を紹介する」
調べる気満々だな。大丈夫だよな?
「分かりました」
話し合いも大体終わったし、後は書面の確認と連れて行く冒険者達の確認か。そんなに時間はかからないで終わりそうだな。
読んでくださってありがとうございます。