百五十話 お偉いさんが増えた
休日を満喫していると、冒険者ギルドから使いが来た。話し合いが終わったらしい。シルフィに様子を見に行ってもらっているがどうなる事か。
「ゆーた、あした、おはなし? べる、おるすばん?」
ベルがポスンと腕の中に飛び込み、俺を見上げながら聞いてくる。話し合いの時はお留守番って、覚えたんだな。ベルは天才かもしれない。可愛いし天才だし、もう無敵だな。
「そうだね。ベル達にはお留守番をして貰う事になるね。またサラ達の訓練のお手伝いをしてくれる?」
「わかったー」
元気にお返事したベルにお礼を言って頭をワシャワシャと撫でる。そうするとレインもトゥルもタマモも撫でてって来るのでしっかりと撫でまわす。事あるごとに撫でまわしている気がするが、癒されるので俺は構わない。二十四時間いつでも大丈夫だ。
結局そのままベル達と戯れているとシルフィが戻ってきた。つまらなそうなシルフィの表情にちょっとホッとする。揉め事の種があれば絶対にニコニコしてそうだからな。
俺もシルフィの表情をだいぶ読み取れるようになったな。無表情系クールビューティーって感じだけど、慣れると意外に表情の変化が分かるようになった。
「シルフィ、お帰り。どうだった?」
「うーん、大変そうだったけど特に悪巧みはしてなかったわね。普通に条件を呑むようね。どちらかと言うと二つのパーティーを選ぶのに四苦八苦しているみたい。あのワルキューレってパーティーも名乗りを上げているわよ。私が見ている前で直談判してたもの」
普通に条件を呑んでくれるのは俺にとってとっても助かる事なんだから、そんなにつまらなそうな表情で言わないで欲しい。
「……えーっと、あの人達って前ギルマスの関係者だよね。問題になって無いの?」
少なくとも俺を罠にハメるお手伝いをしてたんだし、新ギルマスも避けるはずだろ。
「世間の人気と知名度、実力、冒険者ギルドの顔として貴重な素材を持ち帰って来るのに、私達以上に相応しい人材は居ないって言ってたわ。前ギルマスに頼まれて裕太を仲間に迎え入れる話は、完全に善意からの行動で、誤解があったとしても話せば分かってくれるそうよ」
怖っ、話しても分からないよ。ワルキューレってメンタル強過ぎ。関わり合いになりたくないタイプだ。
「それで、新ギルマスは何て言ってたの?」
結果次第ではバックレるよ。
「色々と言われて困り顔だったけど、最終的には断っていたわ」
ふいー、ちょっとドキドキしたけどまともな判断で良かった。ホッとしているとシルフィの言葉が続けられた。
「でも、諦めてないみたいね。弁明する機会と交渉する機会を貰えるように、ギルマスにお願いしていたわ。ギルマスは裕太の機嫌を損ねるのを恐れて、裕太に接近する事を禁止していたけど、あの様子だと偶然を装って接近してくるわね」
迷宮都市や迷宮で偶然出会うって感じか? でも、一つ疑問なのがなんでシルフィは少し楽しそうなんだろう。ああいう、野心家が好きなのかな? ……好きっぽいな。少なくとも見ていて退屈はし無さそうだもん。
会わないように逃げ回る事も可能だろうけど、ギルマスに直談判するぐらいなんだからそう簡単に諦めないよね。会ったらキッパリと断ればいいか。断っても諦めそうに無いけど……あれ? ストーカー?
なんか怖いな。美女に追いかけられるとか嬉しい事なはずなんだけど、目的が富と名声で踏み台にする気満々なのが切ない。
「シルフィ、心の準備が必要だから、ワルキューレが近づいて来たら教えてね」
「分かったわ。避けなくていいの?」
「うん、避けてもずっと追いかけられそうだから、早めに断るよ」
「了解、注意しておくわ」
なんか新ギルマスの話がどうでも良くなったけど、そう言う訳にもいかない。とりあえず話の流れを確認して打ち合わせをする。こっちは問題無いな。
***
「じゃあ、皆、行ってくるね」
「いってらっしゃいー」「キュキュー」「いってらっしゃい」「クククー」
「お師匠様、いってらっしゃい」「いってらっしゃい」「がんばって」
お昼までシルフィの話を整理しながらまったりして、時間になったので出発する。ブンブンと手を振るベル達とサラ達に見送って貰い、セバスさんにも挨拶をして館を出る。人数が多いと単なるお見送りでも、何処かに旅立つようで大袈裟な感じがするな。
子供達の護衛を頼んだドリーは静かに見送ってくれたけど、ここにディーネとノモスが居たら更に騒がしくなるんだろう。勢揃いした時の事を考えながら話し合いの為に冒険者ギルドに向かう。特に難しい話し合いも無さそうだし気楽な気分だ。
油断しまくってテレテレと歩いていると「ワルキューレがこっちに来てるわね」っとシルフィから告げられた。いきなり来るんだ。あわよくば話し合いの前に、自分も参加する権利を勝ち取ろうって事なんだろう。
周りからの視線を集めながら美女の集団が歩いて来た。一般人にまで人気があるのは本当なんだな。美人の集団でAランクの冒険者、内面を知らなければ憧れる気持ちも分る。
「あら、裕太さん、お久しぶりです」
今気づきましたよ的な雰囲気で話しかけてくるワルキューレのリーダー。名前はなんだったっけ? まあ、いいか。仲良くなるつもりも無いんだしこのまま行こう。
「お久しぶりです」
とりあえず挨拶をするが、俺とワルキューレの間には何だか微妙な空気が流れている。どうしたものかと思っていると、ワルキューレのリーダーが微笑みながら話しかけて来た。
「先日お会いした時は大変だったのですね。私達はあの後冒険者ギルドを出ていましたので知らなかったのですが、恐ろしい陰謀が張り巡らされていたと聞き驚きました。知らぬ事とはいえ、裕太さんを罠にかけるような事に加担してしまい、申し訳ありません」
とっても悲しげな表情で話し、頭を下げるリーダーさん。おうふ、凄いなこの人。完全なウソって分かっているのに、あなたのせいじゃ無いですよっとか言いそうになった。
自分がどうすればどう見られるのか、完全に理解しているんじゃなかろうか? さてどうしよう……それってウソだよねって言えないから面倒だ。
「そうでしたか。前ギルマスも相応の処罰を受けるようなので、俺はもう何とも思っていないので大丈夫ですよ」
「そう言って頂けると助かります。ですが裕太さんを罠にハメる片棒を担いだのも事実です。裕太さんがファイアードラゴンを倒すほどの実力者であるとは聞きましたが、小さなお弟子さんもいらっしゃるようですし、お詫びとして私共にお手伝いさせて頂けませんか? 人手はあった方がいいと思うのですが」
……お手伝い……お詫びして、ファイアードラゴンの討伐に参加を希望するのかと思ったんだけど、どうやらもっと食い込むつもりらしい。仲良くなって行動を共にしていれば、五十層以降に行くチャンスはいくらでもあるって感じか?
冒険者ギルドでの二つのパーティーに選ばれれば、ある程度はギルドの干渉があるだろうけど、俺を利用すればそんな面倒が無い、ぐらいの事は考えていそうだな。怖いっす。
「お気持ちはありがたいのですが、今のところ十分に人手は足りていますので、お気持ちだけで十分です」
皆、いい子過ぎるぐらいにいい子だから人手は必要無い。大精霊達も助けてくれるし……どちらかというと大精霊達の方が困る事が多い気が……。
「そうですか、何かお手伝いできれば良かったのですが。でも、何かありましたら私共にいつでも頼ってくださいね。ちゃんとした償いの機会を頂けると嬉しいですから」
「あっ、はい。何かありましたらお願いします」
お互いに頭を下げて別れる。あれ? なんか思ってたのと違う。色仕掛けとかもっとガンガン来ると思ってたのにあっさりと去って行った。どう言う事だ? 逆に怖い。うーんと、これで諦めたって事は無いよね?
(シルフィ、悪いけどなんか不気味だからワルキューレの様子を見ておいて)
「ええ、分かったわ」
ワルキューレの話は後で聞くとして、今は冒険者ギルドに行くか。なんか出鼻を挫かれた気分だけど、大切な話し合いではあるんだから、あんまり気を抜き過ぎるのもダメだ。
微妙に気分がスッキリしないまま冒険者ギルド到着して中に入る。……何も言って無いのに、受付前のホールに話し合い用のスペースが設置されている。
たぶん俺から何かを言わない限り、話し合いの時はここになりそうだな。冒険者ギルドと密室での話し合いは嫌だけど、何も言っていないのに用意されていると、物凄くワガママを言っていた気分になるから不思議だ。
前回と同じく新ギルマスの秘書っぽい女性が近づいてくる。挨拶をしてホールの真ん中の席に案内される。
冒険者達が周りにいたから気が付かなかったけど、ギルマスだけじゃなくて、なんかおじさんなのかお爺さんなのか判断に迷うような人も座っている。だれだ? シルフィの話には出なかったよね? チラッとシルフィを見る。
「周りの話を聞いた限りでは、この国の冒険者ギルドを取りまとめるグランドマスターらしいわよ。昼前に到着したそうよ。大物が来ちゃったわね」
気楽な感じでシルフィが言う。来ちゃったわねって、そんなにあっさりと言われても飲み込めないよ? 要するにこの国の冒険者のトップって事だよね。勘弁して欲しい。
「この度の不祥事、冒険者ギルドグランドマスターとしてお詫びする」
グランドマスターが頭を下げる。前ギルマス、新ギルマス、グランドマスター、全員が一発目に深々と頭を下げる。やっぱり謝り方のテンプレートとかありそうだよね、冒険者ギルド。
普通は立場が上の人は迂闊に謝っちゃダメなはずなんだけど、どんなテンプレートがあるのか気になる。
「頭を上げてください。前回の話し合いで、お詫びは受け取ったつもりです。あとは条件を呑んでくだされば俺は問題ありません」
「おっ、そうか分かった。じゃあその事も俺から伝えよう。いやー、話が通じる奴で良かったぜ」
ニカッとグランドマスターが笑い、話しかけてくる。軽っ! いきなり態度が軽くなった。それでいいのか? 確かに条件を呑んでくれれば問題無いと言ったけど……。
驚いている俺にギルマスがペコペコと困ったように頭を下げている。グランドマスターも変わったタイプの人間らしい。組織のトップってそんなんでいいの?
「ああ、すまん。どうも堅苦しいのは苦手でな」
「はあ、いえ、俺も気楽ですからそのままで構いません。話を続けてください」
真面目な話し合いの席で軽い会話もどうかと思うがサクッと話が進みそうだし、偉い人に気を使いながら話すよりかは楽だ。助かるっと言ってグランドマスターが話し始めた。これからが本番だな。
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