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百四十九話 素材の納品

 みっちり五日間、迷宮の二十六層に籠って訓練をした。おかげで鞄の中は湿原の魔物が大量に収められている。たぶんマリーさんの所でも一度に流通させるのは無理だろうな。小分けにして卸すか。


「ふぅ、やっぱり外は落ち着くね。じゃあ、館に戻るよ」


 五日ぶりに迷宮から出て、館に戻りながら話をする。


「皆、よく頑張ったから明日は休みにするけど、ちょっと周りの様子が分からないから、外出はせずに体を休めてね」


 シルフィについて行ってもらえば身の安全は問題無いけど、新ギルマスも来たし冒険者ギルドの方針が決まるまでは波風を立てない方がいいだろう。外出して商人とかに話しかけられても疲れるだけだしね。サラ達も状況は理解しているので、嫌がらずに頷いてくれた。


「裕太様ですよね? 突然失礼します。私は……」


 知らないおじさんにいきなり話しかけられた。見た目は完全に商人だし、素材が欲しいんだろう。


「ちょっと待ってください、言葉を遮ってすみませんが、俺は今のところ商談を受けるつもりは無いんです。もし、それ以外に大事な用事があった場合も、お手数ですがポルリウス商会を通して貰えますか? 一つ商談を受けてしまいますと、収拾がつかなくなってしまいますので申し訳ありません」


 言葉を遮り言うだけ言ってペコリと頭を下げ、相手が戸惑っている隙に足早に立ち去る。商人に話掛けられたら面倒だっとか思ったとたんに話しかけられたよ。これもフラグを立てたって事なのか? フラグの回収が早すぎるだろう。


 また声を掛けられても面倒なので速足のままで館に戻る。屋台で買い物ができなくて、ベル達がちょっと残念そうだ。落ち着いたらベル達と屋台巡りをしよう。


「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」


「ただいま戻りました」


 俺がセバスさんに挨拶をすると、子供達もちゃんとセバスさんにただいまの挨拶をする。ベル達も「ただいまー」って言ってるけど聞こえて無いからね。まあ、分かっていて言ってるんだろうけど。


 セバスさんも子供達からの挨拶にニコニコと微笑みながら応えている。俺の自慢の弟子達の魅力に、セバスさんもメロメロだな!


「そうだ、セバスさん。マリーさんに連絡を取って貰っていいですか? 湿原の素材が大量に手に入ったとお伝えください」


「畏まりました。おそらくその内容ですと、直ぐに倉庫に移動して頂く事になると思いますが、構いませんか?」


「ええ、子供達は休ませて、俺だけで行きますから問題ありませんよ」


 セバスさんがサラ達を気にしているようだったので先回りして答える。頷いたセバスさんが使用人らしき人に話しかけると直ぐに走ってい行った。俺が移動するのも早そうだな。


 部屋に戻り淹れて貰った紅茶を飲んでまったりしていると、セバスさんが呼びに来た。予想以上に早かったな。ドリーを召喚して一応子供達の護衛についてもらう。館の中だしある程度は安全だと思うけど、狙いやすいのはやっぱり子供達だから、用心はしておかないとな。


 あとベル達もお留守番だ。退屈な商売の話よりもサラ達と遊んでいた方がいい。毎回つき合わせるシルフィには申し訳ないが、お酒を沢山用意するので勘弁してもらおう。


「じゃあ行ってくるからちゃんと休んでおくんだよ。五日間も頑張ったんだから体は平気でも精神は疲れていたりするからね」


 簡単な注意だけしてセバスさんの案内で館を出る。玄関前に馬車が待機していて、中からマリーさんが手を振っていた。マリーさんも行動が早いな。俺も馬車に乗り込み出発する。


「お帰りになって直ぐに移動で申し訳ありません」


「はは、大丈夫ですよ。普通の冒険者は迷宮から出たら冒険者ギルドで手続きをするんです。馬車で迎えに来て貰えるのなら、贅沢なくらいですよ」 


 ジャイアントディアーは魔力草や万能草ほどで珍しい訳では無いが、魔法の鞄を持っている冒険者自体が少なく、状態の良いジャイアントディアーは手に入り辛いと、夕飯の時に言ってたからな。気合が入っているんだろう。


「それで裕太さん、大量にとお伺いしていますがどのぐらいの量なのでしょう?」


 えーっと、宝箱から手に入れた魔法の鞄に移したのは……。


「全部丸のままですが、ジャイアントディアーが二体とジャイアントトードが二体、ポイズントードが沢山、マーシュランドリザードが十体持って帰って来ました」


 ポイズントードって結構需要があるらしい。毒を使って戦争の道具にでもするかと思ったが、薬師がちゃんと処理をすると活力剤になるらしい。カエルの毒から生まれる活力……なんかヤバそうだ。


「全部、丸ごと持ち帰られたのですか?」


「ええまあ、解体はやった事が無いので首なんかは斬り落としていますが、ほぼ丸のままですね。ダメでしたか?」


「いえいえ、普段は手に入らない部位等も手に入るので大歓迎です」


「それなら良かったです」


 そう言った後、マリーさんが真剣な表情で考え事を始めた。ブツブツと聞こえる内容を整理してみると、お父様に連絡を入れて……とかもう直ぐ日が暮れるから薬師ギルドにも使いを……とか、大変そうだ。


 薬師って事はポイズントードが原因っぽいな。毒を薬に変える工程が必要だろうし、沢山のポイズントードって事で薬師ギルドを巻き込むつもりらしい。


 ***


「では、ジャイアントディアーからお願いします」


 前回ファイアードラゴンを卸した時と同じように、倉庫内は既に人払いがされているようだ。冒険者ギルドで暴露したから、そこまでして隠す意味は無いんだが、情報が出回るよりも制限されている方が便利だから、何も言わないでおこう。


「分かりました」


 だだっ広い倉庫にドスンドスンとニ体のジャイアントディアーを並べる。二階建ての一軒家ぐらいあるジャイアントディアーが、二体並んでもまだ余裕があるんだから、改めて倉庫の大きさに驚く。何の為にこれだけ広い倉庫が必要なんだろう?


 ちょっと疑問に思ったが、マリーさんはジャイアントディアーの周辺を走り回り、様々な角度から素材の状態を確かめている。忙しそうだし、質問するのはまたの機会にしておこう。


「裕太さん、大変良い状態ですね」


 ファイアードラゴンの時と違って、喜んでは居るけど冷静な感じだな。ジャイアントディアーが丸ごと入荷されるのは珍しいそうだが、素材としては希少であってもある程度は流通している。だから理性が飛んで無いんだな。


 ファイアードラゴンの時は最後の方は目が逝っちゃってたから、これぐらいのマリーさんの方が安心できる。


「喜んでもらえて良かったです。次はどうしますか?」


「そうでした。ではこちらにジャイアントトード、ポイズントードを、その隣にマーシュランドリザードをお願いします」


 言われた通りに魔法の鞄から魔物を取り出す。ポイズントードを全部出すと小山のようになってしまった。ちょっと多すぎたかもしれない。


「これで全部ですね。量が多いですが大丈夫ですか?」


「大丈夫です。解体は大変ですが儲けは約束されていますから、フル稼働で頑張ります」


 さらりとブラック臭を漂わせたな。


「あんまり無理をしないでくださいね。職員の方にもご迷惑をお掛けした事をお詫びしておいてください」


 俺が謝るいわれは無いが、どうしても俺が原因でフル稼働させられる職員さん達には申し訳なく感じる。


「ふふ、職員達も喜びますから問題ありません。緊急の場合は特別手当がつくので感謝されますよ」


 それなら気が楽だな。しかし特別手当か……俺が思っていた異世界の商会は、職員を馬車馬のように働かせるって思ってたんだけど、意外としっかりしているらしい。


 マリーさんはここに残って指示を出すそうなので、俺は乗ってきた馬車で館に戻る。


 ***


 マリーさんに素材を卸し帰ってきた翌日、休日を部屋に引き籠って、ベル達と戯れながらまったりと楽しんでいると、セバスさんがやってきた。


「裕太様、冒険者ギルドより使いの者が参りました。結論が出ましたのでもう一度お会いしたいそうです。いかがなさいますか?」


 もう? 前回の話し合いから七日しか経ってないのに随分早い。王都にも使いを出したってシルフィが言ってから、もう少し時間が掛かるかと思ったが随分と急いだらしい。他から誘いがあったら移るかもって言ったのが利いたのかもしれない。まあ、早いに越した事は無いしいい事だ。


「分かりました。では明日の昼過ぎにお伺いするとお伝え願えますか? あっ、こういう場合は俺が直接会うのが礼儀でしょうか?」


 日本だとどうなんだ? 礼儀としては本人が出るのが一番無難なんだけど、俺の方が立場が強いからな。こういう時って軽々しく会うとダメってパターンもある。日本で強い立場に立った覚えが無いから分からないが、お役所とか立場の強い人には中々会えなかった記憶がある。


「いえ、今回の場合ですと私共からお伝えすれば十分でございます。簡単に裕太様に会えるとなれば人が押し掛けて参りますので」


 なるほど面倒だから面会を断って貰っているのに、俺が出て行ったら意味が無いか。


「分かりました。ではお手数ですがよろしくお願いします」


「畏まりました」


 セバスさんが一礼して出て行った。


「シルフィ、王都ってここから近いの?」


 考えてみたらこの国の事ってほとんど知らないな。


「そうね、歩いて七日ってとこかしら。馬なら急げば二日で着くわ」


 ん? ……なんか微妙な距離だな。インフラが整っていない事を考えると近い方なのかもしれない。


「そっか、シルフィ、悪いけど冒険者ギルドの様子を探ってくれる? たぶん無いとは思うんだけど、王都から暗殺命令とか出てたら準備したいから」


 まあ、俺を殺すとしたら二つのパーティーを連れて、ファイアードラゴンを倒した後だろうから大丈夫だとは思うけど、用心は大切だ。


「そうね、分かったわ。じゃあ行ってくるわね。面白い事が起こればいいんだけど」


 最後に物騒な言葉をおいてシルフィが飛んで行った。ここからでも分かるのに、わざわざ冒険者ギルドに行くって事は完全に揉め事を期待しているな。フラグが立ちそうな事は言わないでほしい。

読んでくださってありがとうございます。

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