百四十八話 湿原での戦闘
昨日はマリーさんと夕食を共にし、湿原に出る美味しい魔物の情報も教えて貰った。サラ達の訓練の励みになるな。
「じゃあ、数日戻らないと思いますが、行ってきます」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
セバスさんに声を掛けてから迷宮に出発する。朝日が昇ったばかりなのに、一分の隙も無い恰好で見送りに来てくれたセバスさん……なんか申し訳ない。
久しぶりの迷宮にベル達がちょっと興奮気味だ。サラ達の訓練なんだけど、ベル達にも活躍する機会を作った方が良さそうだな。
そう言えば昨日、食事を終えて部屋に戻ると、初めて食べる料理や素材にベル達も興奮してた。これ好きーっとご馳走を掲げるベル達、ジャイアントディアーは俺も美味しいと思ったけど、ベル達の口にも合ったようだ。
……なかなか落ち着きそうにないな。キャハハハっと笑いながら飛び回るベル達。可愛いけど今日は大変な気がする。マリーさんが素材を欲しがってたから、素材集めの時に頑張って貰うか。お気に入りのジャイアントディアーを討伐するのなら、探索にも気合が入るだろう。
ディーネとドリーは泉の家の管理に戻って貰ったけど、ベル達が落ち着くまで手伝って貰った方が良かったかもしれないな。
迷宮の入り口で兵士にギルドカードを見せて中に入る。どうやら俺の事を知っているらしく興味深そうに見られた。話しかけられると面倒なので、一礼して素早く中に入る。
「お師匠様、私達が先頭でいいですか?」
ん? うーん、どうしよう。この子達も低階層の魔物は相手にならないし、二十六層までは一気に移動した方が効率がいいな。二十層のボスはサラ達に戦って貰って、今回はレベル上げ優先で行こう。
「いや、二十六層まで急ぐからサラ達は付いて来て」
「分かりました」「分かった」「がんばる」
キッカもメルよりも体力があるし大丈夫だとは思うが、一番体力が無いのは確かなんだから注意して見ておこう。
「うん、それじゃあベル達が罠を潰しながら最短距離で案内してくれ。他の冒険者が居た場合は魔物は俺が倒すけど、居なかったら倒しちゃっていいからね。後はシルフィ、危ない時はよろしく」
ファイアードラゴンを倒したのはバレているんだから、ある程度は目立ってもいい気がするんだけど、オートでベル達が魔法を放ちまくるのを見られるのは不味い気がするんだよね。
「がんばるー」「キュキューー」「あんないする」「ククーー」
右手を高々と掲げて宣言するベル達。うん、みんな元気だ。この移動で少しは落ち着いたらいいな。シルフィも軽く頷いているので問題無いだろう。
「じゃあ、出発!」
「ぎゅーん」っと声をあげて先行するベルとレイン。トゥルは近場を担当してくれるようだ。タマモは洞窟ではまだ戦えないからお休みだな。トゥルに続いて速足で洞窟内を進む。二十六層までならレベルも上がったし、最短距離を進めば夕方までには到着しそうだな。
***
意外と早く湿原に到着した。レベルアップって凄いよね。
「うーん、まだ時間があるし休憩したあと軽く魔物と戦ってみようか? 移動で疲れたなら今日は休みにしてもいいけどどっちがいい?」
移動拠点を出して休憩しながらサラ達に聞いてみる。ベル達は元気いっぱいで飛び回っているから大丈夫だよね。魔物を蹴散らして突き進んできたので、少しは落ち着いたかなって思ったけど、まだまだハイテンション維持している。
新築の家を出そうかとも思ったが、湿原で新しい家を出すのはなんか嫌だ。新築の家を出すのは死の大地に戻ってからにしよう。
「私は問題無いですが、キッカは大丈夫?」
「おれも大丈夫、キッカはどうだ?」
サラとマルコもキッカを心配している。本来はサラとマルコも心配される年齢なんだけどね。
「やすめばへいき! マメちゃんがいるもん!」
飲んでいたジュースをグイっと飲み干し、力強く言うキッカ。直ぐにマルコの後ろに隠れていたキッカが、こんなに自分の意見をハッキリ言えるようになるなんて、ちょっと感動しちゃったよ。
「そうか平気か。じゃあしっかり休んで魔物達と戦ってみよう」
「はい!」「うん!」「がんばる!」
三人が気合の入った返事をする。問題は無さそうだ。
しっかりと休憩したあと移動拠点を収納し湿原の中を移動する。
「まずはマーシュランドリザードを狙おうか。ここからは自分達で探索して自分達で倒すんだよ。あとマーシュランドリザードの特徴は分かるよね?」
「はい、お師匠様の鎧と同じ緑灰色の大きなトカゲです。ラフバードぐらいの大きさで、湿原の沼に身を潜めて突然襲い掛かってくる魔物です」
「正解! あとは鎧に使われている事からも分かる通り、とっても固い皮膚をしているから注意する事。ランクとしてはトロルよりも低いけど油断しないようにね」
サラ達がしっかりと頷き、フクちゃん達に指示を出し始めた。普段から色々と作戦を考えているから、スムーズだな。
「ゆーた、べるたちはー?」
元気いっぱいのベル達がウズウズしながら聞いてくる。でも、ちょっと我慢してもらわないとね。
「皆はサラ達の周りで待機、危なそうだったら助けてあげてね。サラ達の訓練が終わったら、今度はマリーさんに頼まれた素材を集めるから、その時はお願いね」
「わかったー」「キュキュー」「がんばる」「ククー」
待機のところで一瞬残念そうな顔をしたが、その後に出番があると分かると元気いっぱいにお返事してくれた。テンションが上がっているだけだよね? 戦闘狂になったりしてないよね?
ベル達がサラ達の周りに護衛するように待機したので、サラ達に行動開始を告げる。
「フクちゃん、お願いね」「マメちゃん、おおきなとかげをみつけてね」
サラとキッカがフクちゃんとマメちゃんに索敵を頼む。ウリは周辺で皆の護衛だな。いつも通りのパターンだ。
獲物を発見したフクちゃんが戻って来る。キッカがマメちゃんを召喚して呼び戻し、フクちゃんの案内で湿原を進む。
……サラ達って天才なのかもしれない。歩きにくい湿原をウリに頼んで歩きやすいように舗装して進んでいる。俺が湿原でお米を探し回った時は……うん、レベルアップすげーっとか頭の悪い事を呟きながら、体力に物をいわせて動き回ってた。創意工夫……大切な言葉だよね。
ちょっと凹んでいるとサラ達の動きが変わった。フクちゃんが上空で旋回している場所にマーシュランドリザードが居るらしい。サラ達には精霊の気配しか分からないから、フクちゃんは動きを大きくして知らせているんだな。
これからどうするのか観察していると、マルコの合図でウリが沼地に身を潜めていたマーシュランドリザードを、土で覆い固めてしまった。その後フクちゃんとマメちゃんが魔法を撃ち込んでいる。
倒した後に確認してみると、首元以外の全てを覆うように指示していたみたいだ。身動きできない間に首に集中攻撃か、固い皮も何度も風の刃を受ければ耐えられなかったようだ。
トロルはあの程度の拘束は力でぶち破ってたけど、マーシュランドリザードは無理っぽいし、この魔物はもう単なる獲物でしかないな。
上手く行った! と騒ぐサラ達を見て思う。戦い方がエグくね? 安全第一は間違ってないし、たぶん俺の教育方針の結果、こういう戦法を好むようになったと思うんだけど……このままでいいんだろうか? うーん、間違ってると言えない所が難しい。
「お師匠、討伐できました」
嬉しそうに報告してくるサラ達。この子達にお前達の戦い方ってエグいよとはとても言えない。
「うん、皆よく考えたね。しっかりと安全も確保してたし、完璧だったよ」
俺が褒めると手を取り合い、嬉しそうに喜ぶサラ達。とても素直でいい子達だ。マーシュランドリザードを収納して、次の獲物のポイズントードに向かう。
この魔物は猛毒を持つ大型犬程の大きさのカエルだが、遠距離で魔法を撃ち込めるサラ達には関係なく、奇襲で終わってしまった。
うーん、マーシュランドリザードの時もそうだったけど、魔物がどう動くのかどんな攻撃方法があるのかも見せておいた方がいいはずだ。今のまま相手に何もさせないで倒すのも間違って無いけど、不測の事態が起こった時に魔物がどんな動きをするのかを知らないと、致命傷になりかねない。明日からはそう言う面も含めて訓練するか。
「次はジャイアントトードだよ。この魔物は大きいから注意してね」
まあ、移動している時に見かけたから分かってるよね。ジャイアントトード、二階建ての一軒家ぐらいの大きさで見た目がとってもグロイカエルだ。
無機質な大きな目、ヌルテカな質感、ちょっと苦手だ。小さいアマガエルは意外と可愛いと思うんだけど、デカイと不気味さが増す。
「はい、大きいですが、防御力はそれ程高くないんですよね?」
「うん、体の表面がヌメヌメしているから斬撃は通りにくいらしいけど、防御力自体はそれ程強くないよ。でも巨体を支えるだけの筋力はあるんだから油断しないように」
俺の話を元にもう一度作戦の最終確認をおこなうサラ達。どんな倒し方をするのか楽しみだな。巨体なので直ぐに発見できるジャイアントトード。攻撃を仕掛けるサラ達をドキドキしながら見守る。
ん? フクちゃん、ウリ、マメちゃんがジャイアントトードの顔の前で待機して動かない。サラ達もじっとその様子を見守っている。
しばらく様子を見ていると、ジャイアントトードが口を開けた瞬間、一気に魔法を口の中に叩き込んだ。ジャイアントトードが地響きを立てながら崩れ落ちる。作戦通りと喜びフクちゃん達を褒めるサラ達。間違って無いし効率的だけどやる事がエグい。トロルの時に目や口を狙うのもいいよって教えたのを覚えていたのかな?
「湿原で出て来るメインの魔物達は問題無いみたいだね。明日からは今日戦った魔物を重点的に狩るから、そのつもりで」
「はい」「わかった」「うん」
手応えを感じたのか、サラ達も明るく返事をする。問題は無さそうだな。あとは……ベル達の出番ー? っとウズウズしている精霊達と狩りの時間だ。
楽しそうにフィールドを飛び回り魔物を狙うベル達。美味しいと気に入っていた、ジャイアントディアーを発見した時は大喜びだった。レアな魔物なはずなんだけど、食欲が物欲センサーを撃破したのかもしれない。
ジャイアントと名がつくだけあって巨大で大きな角を持つ鹿の魔物。逃がさないとばかりにトゥルが両足を土で固定し、ベルが首を落とす。
サックリと倒したからどんな攻撃をするのか分からなかったな。次に発見できたら俺に戦わせて貰おう。できるだけ色んなタイプの魔物と戦っておきたい。
読んでくださってありがとうございます。