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百四十七話 館でのお話

 新ギルマス、国に仕える精霊術師と話をして、ようやくマリーさんの別宅に帰り着いた。門番に話しかけて中に入れて貰い、広い庭を通って館に到着するとセバスさんが出迎えてくれる。


「お帰りなさいませ。裕太様」


 洗練された仕草で一礼するセバスさん。


「ただいま戻りました。うちの子達はご迷惑をお掛けしませんでしたか?」


「お部屋に近づかぬようにと言う事でしたから、お子様たちの様子は分かりませんが、大きな物音が立つと言うような事は御座いませんでした」


 そう言えばベル達やフクちゃん達が昼食を食べるから、部屋に近づかないようにお願いしたんだったな。すっかり忘れてた。


「そうでしたね。すみませんでした」


「いえ、問題ありません。それと私共に敬語は不要でございますので、気を使わずにお過ごしください」


 そう言われても、精霊達やメルやジーナみたいな雰囲気だった場合は、簡単に切り替えられる。でもピシッとした執事さんとか、俺の中で別世界過ぎてそう簡単に切り替えられないよな。


「ええ、少し慣れたらもう少し言葉も緩くなると思いますので、それまで時間を頂けたら有難いです」


「畏まりました」


 ふいー、慣れる事が出来るのかな? 気軽にセバスさんに話しかけている自分がどうも想像できない。できるだけ早く騒ぎに決着を付けて、トルクさんの宿屋に移動しよう。セバスさんと別れて、宛がわれている部屋に戻る。


「ゆーたー、おかえりー」「キューー」「おかえり」「ククーー」


 扉を開けるて中に入るとベル達が出迎えてくれた。飛び付いて来たベル達を撫で繰り回しソファーに座る。


「お師匠様、お帰りなさい」「お帰りなさい」「おかえりなさい」


 続いてサラ達もお帰りと言ってくれる。最近は完全に慣れたのか、ベル達との戯れが終わったタイミングで声を掛けてくれる。気の使えるいい子達なんだけど、幼い子供がこうも気を使うのはどうなんだ?


 まあ、気を使えない人間より気を使える人間の方が、社会に出た時は生きて行きやすいはずだから、気を使うのを止めなさいとも言い辛いし、難しいな。


「ただいま。サラ達は何か変わった事や困った事は無かった?」


「何もありませんでした。ベルさん達にも協力してもらいながら、じっくり訓練ができたので良かったです」


 マルコとキッカも、護衛を頼んでいたドリーも頷いているので、問題は無く充実した時間を過ごしていたみたいだ。部屋も豪華なんだけど、子供達は既に落ち着いている。順応性が高いな。


 ベル達を撫で繰り回しながら、疲れた精神を癒しサラ達の話を聞く。流石に人の家で魔法を使う訳にはいかないので、新しい魔法を考えたり、一撃で倒す事のできない敵に対するコンビネーションを磨いたそうだ。


「それで、お師匠様。冒険者ギルドとの話し合いはどうなったんですか?」


「ん? 謝って貰ったあとに俺が条件を出したから、その結果を待つって感じだね。上手く行けば勧誘なんかも大分減るんじゃないかな?」


 まあ、バロッタさんが言うにはまだチョッカイを出して来る可能性もあるらしいし、完全な平穏にはまだ遠そうだけどね。


「そうなんですか。では待っている間はどうするんでしょう?」


 急ぐ事も無いしのんびりしててもいいけど、館に居るのも落ち着かないよね。今の状況でメルの所やトルクさんの宿屋に行ったら迷惑を掛けるだろうし、何をするか。


 迷宮に籠るか。先に進んで神力草を手に入れて、マリーさんの所に卸せば冒険者ギルドにプレッシャーを掛けられるかな?


 ……騒ぎが大きくなるだけな気がするから、冒険者ギルドの決断が遅かったらにするか。二つのパーティーを案内した後に先に進めば、期待は二つのパーティーに向くだろうから楽だ。どうせ後で行くなら今回はサラ達の訓練だな。


「迷宮に籠ってサラ達の訓練をするよ。トロルは倒せるようになったから、今回は先に進んで湿原に行こうか」


 あそこにはでっかいカエルや、俺の鎧の素材になったマーシュランドリザードなんかも居る。良い経験になるだろう。


 やる気を漲らせるサラ達に二十六層から出て来る魔物の説明をして、対策を考えるように促す。頭を寄せ合って相談するサラ達とフクちゃん達、なかなかいい光景だ。


 サラ達を見守りながら、再びベル達と戯れているとシルフィが戻ってきた。結構時間が掛かったな。


「シルフィ、お帰り。結構時間が掛かったけど、何かあった?」


「ただいま。それが、何も無かったのよね。私もあの姿は演技だと思っていたんだけど、ずっとあのままだったわ。裕太の条件をどうするか会議したり、本部に使いを出したりと忙しく働いていたけど、何にも変わらないの」


 シルフィに突撃したベル達を上手にあしらいながら説明してくれる。……変わらなかったのか。あれが本性って事?


「ねえ、シルフィ。あのギルマスが何かを怪しんで、ずっと演技を続けていたって可能性は無いかな?」


「んー、どうかしら? そこまで徹底されると見破るのは無理ね。ずっと張り付いていれば何かが分かるかもしれないけど、退屈だから私は嫌よ」


 物凄く嫌そうに言われた。前ギルマスの会話を聞きに行った時と比べると反応がまったく違う。新ギルマスの監視はよっぽど退屈だったらしい。


 嫌がるシルフィに無理矢理監視してもらうのも悪いし、後は冒険者ギルドに何か動きがあるまで放置するか。本当にあのままの人だったらどうしよう?


 どう考えるべきか話をしていると部屋がノックされ、出て見るとセバスさんだった。なんかメイドさんと全然話して無いな。


「マリーお嬢様からの伝言でございます。夕食をご一緒させて頂ければとの事ですが、問題は御座いませんか?」


 ……厄介になってるんだし、俺もマリーさんに聞きたい事があるから構わないか。


「ええ、大丈夫です。ただ、俺も冒険者ギルドの事で聞きたい事があるので、子供達の食事はこちらに用意して頂けると助かるのですが、構いませんか?」


「畏まりました、そのように手配をさせて頂きます。サラ様達にメイドをお付けしますか?」


 昼間、人を近づけないように頼んだから聞いてくれてるんだな。ベル達にも豪華な夕食を食べて欲しいし、メイドは無しにしておこう。


「いえ、料理を運んで頂ければ十分です。お手数ですがよろしくお願いします」


「畏まりました」


 セバスさんが一礼して去っていった。今晩はマリーさんと夕食か、色々と話を聞いてみよう。


 ***


 マリーさんとの食事。……マリーさん凄くオシャレしてるな。俺は雑貨屋で買った普通の上下だし……いや、マリーさんの雑貨屋で買った服なんだから問題は無いはずだ。そう言う事にしておこう。


 普通ならここでマリーさんを褒めるべきなんだろうが、褒めたら褒めたで面倒な事になりそうなので、これもそんな常識知りませんって感じで行こう。


 この国のおもてなしは豪華な料理がテーブルに沢山並ぶ形式らしく、見た目はとても華やかだ。魔物の素材自体が美味しいので、料理のバリエーションが少ないが飾り立てる技術は発展しているようで結構凄い。


 この館の料理人に料理の基礎をサラに教えてもらうのはどうだろう? ……うーん、ずっと滞在する訳でもないし、サラもトルクさんにご飯を分けて貰ったりして関係が深いから、トルクさんに頼んだ方がいいか。


「このお肉、とても美味しいですね。素材は何なんですか?」


 強い弾力と各種ハーブに負けない肉自体の濃厚な味、癖になりそうだ。


「ああ、それは迷宮の湿原に出るジャイアントディアーのお肉です。湿原に極稀に現れる巨大な鹿の魔物で、討伐と素材を持ち帰るのが大変ですが、味は素晴らしいと評判なんです。迷宮都市の人気の食材の一つですね」


 ……巨大な鹿か、初めて食べたけど凄く美味しい。日本の鹿肉は脂身がないって聞いた事があったけど、全然別物なんだな。前に湿原でお米を探しまくった時には会わなかったから、発見できるか分からないけど、魔物を無視していたし、ベル達に探して貰えばレアな魔物でも見つかるだろう。


「そうなんですか、サラ達を連れて湿原に行くつもりなので、見つけたら討伐してきます。お手数ですがマリーさんの方で、解体して頂けませんか?」


 上品に微笑んでいたマリーさんの表情が欲望に塗れる。……こっちのマリーさんの方が落ち着くから不思議だ。


「ええ、大丈夫です。湿原は距離があるので、希少さも含めて手に入り辛いんです。ポルリウス商会にも卸して頂けますか?」


 お世話になってるんだし、少しは恩返しをしておかないとな。リクエストも聞いておくか。


「構いませんよ。他に何か必要ですか? 何日か泊まる予定なので湿原の素材で必要な物があれば探してみますよ」


 スクッっと立ち上がったマリーさんがテーブルを迂回してこちらにやって来た。どうしたんだ? ガシッっと両手で俺の右手を掴むマリーさん。


「ありがとうございます、裕太さん。では………………」


 マリーさんは興奮しながら、欲しい素材と量をズラズラと並べだした。なんか俺の言葉が欲望のスイッチを連打してしまったらしい。セバスさんが引きはがしてくれなかったらどうなっていたか……。シルフィも隣で引いてるよ。


「失礼しました」


 マリーさんが恥ずかしそうに頭を下げる。


「ま、まあ、できるだけ探してみます。それで聞きたい事があるんですが、冒険者ギルドの新しいギルドマスターってどんな人か分かります? 俺には判断がつかなくて」 


「噂程度の情報ですが構いませんか?」


「はい、お願いします」


「私共も調べはしたのですが悪評は出て来ませんでした。冒険者ギルドの職員からの叩き上げで、情けない部分はありますが真面目で一生懸命働く人物だそうです。ギルドでの評判もいいようで、部下達にも慕われているとの事でした」


 ……俺が勝手に不気味に思っただけで、単なるいい人って事? 冒険者ギルドが揉め事を起こさないように野心のない人を配置しただけの可能性もあるのか? 前ギルマスやエルティナさんに更に重い罰をとか言ってたんだけど……。


 チラッとシルフィを見るが、分からないと首を左右に振られた。うーん、裏があるのなら対策を考えればなんとかなるんだけど、単なるいい人だった場合はどう対応すればいいんだろう? 俺も善意で向き合うってのは、俺と冒険者ギルドとの関係ではありえない気がする。


「悪い噂が無い人なんですね。……参考にさせて貰います」


 情報が少なくてマリーさんも困っているみたいだ。迷宮都市に来た、新しい冒険者ギルドのギルマスなんだから、商人なら真面目に調べるはずだし、どう考えたものか。


「ああ、それと裕太さん。商業ギルド、薬師ギルド、鍛冶ギルド、傭兵ギルド、商会等から面会の取次をお願いされているのですが、全て断っても大丈夫ですか?」


 結構来てるな。冒険者ギルドとの交渉も終わって無いのに、他のギルドに会うのも面倒だ。良い条件を提示されてもヒモ付きになるのは面倒だから、交渉が成功すれば干渉が無くなる冒険者ギルドの方がいい。


「はい、冒険者ギルドと交渉中ですし、冒険者ギルドが条件を呑む場合は、移る予定が無いとお伝えください。素材に関しても今のところポルリウス商会以外に卸す予定は無いですから、そこら辺はマリーさんの方で調整してください」


「はい! 裕太さん、ありがとうございます」


 眩しい程の笑顔だ。ああ、でも一応釘を刺しておこう。


「マリーさん、独占しているからと言って、あくどい商売はしないでくださいね。冒険者ギルドが条件を呑めば、二つのパーティーが五十層以降に進出しますし、独占は崩れますよ」


「分かっています。ボったくったりはしません。適正価格にほんのちょっと利益を上乗せして、恩を売りつけるだけに止めておきます。安心してください」


 ……安心できるような内容に聞こえなかったんだけど……本当に大丈夫なのかな? まあ、商売の素人があんまり口を出してもいい事は無いか。マリーさんのお父さんを信じよう。

読んでくださってありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいて精霊たちが物を「持つこと」を ちょくちょく表現されているようですがー。 ペンも持てるのなら文字を覚えさせて 精霊たちと筆談ができるのでは? と、思うのは私だけでしょうか。
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