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百四十六話 精霊術師

 新ギルドマスターとの話し合いも終わり、冒険者ギルドを出ようとすると、国に雇われているらしき精霊術師に話しかけられた。まだまだ帰れないらしい。


「初めまして。私はクリソプレーズ王国に仕える精霊術師、フロリード バロッタと申します。少しお時間を頂いてもいいですか?」


 やせ形で真面目そうな中年紳士に見えるんだけど、なんか苦手なタイプだ。高校生の頃に理詰めでコンコンとお説教をされた先生と、同じ雰囲気だからかな? 感謝はしているんだけど、あの怒られ方って怒鳴られるよりも辛いんだよね。


 この場合は国と関係がある人なんだから、帰りたいからまた今度ねって言うのは不味いんだろうな。それぐらいは分かる。


 シルフィに新ギルマスの観察を頼んだのは失敗だったかも。いま、側に居るのはディーネだけ……実力は疑いようが無いが、なんか天然な所があるから、こういう時に少し不安を覚える。ノモスを召喚しようかともも思ったが、相手も精霊術師だし、精霊を召喚したら警戒されるよね。


「えーっと、裕太と言います。少しなら大丈夫です」


 バロッタさんの隣にはドレスを着た、小学生ぐらいのおしゃまな感じの女の子が浮いている。ディーネに興味深々のようで俺の方はまったく見ていないな。


「ありがとうございます。ここでは落ち着いて話せませんので、場所を移動しましょう。安心してください、密室がお嫌いのようですから、落ち着いた雰囲気の場所がありますからご案内します」


 ……ついて行っていいのか? でも、よく考えたら俺って宿屋とジーナの食堂以外は、屋台ぐらいしか知らないんだよな。こっちからお店をリクエストできないしついて行くしか無いか。


 案内されている間も礼儀正しく質問をされる。出身、年齢などを聞かれたが異世界出身とか言えないので、秘密で押し通した。適当なウソも国だと調べる伝手がありそうだ。


 それと、後ろから軍服のような、明らかに堅気では無い人達がついて来るのを気にしていたら、バロッタさんの護衛の人達だと教えてくれた。さすがエリートだな。軍人っぽい人が護衛に着くんだ。


「ここです」


 バロッタさんに案内されて入った店は、落ち着いた雰囲気のカフェって感じだ。もしかしてコーヒーがあるかも! ちょっとテンションが上がる。


「この店は紅茶が美味しいので、お勧めです」


 この人、迷宮都市に詳しいのかな? しかし、紅茶がお勧めか。コーヒーの香りもしないし、道具も無さそうだ。……コーヒーは望み薄だな。上がったテンションが一瞬で下がる。


「そうですか、では、お勧めをお願いします」


 バロッタさんが紅茶を二杯頼み、少し待つと紅茶が運ばれてきた。紅茶に口をつける……上品な渋みと甘味、そして何よりも香りが全然違う。これが本格的に淹れた紅茶の味なのか……ちょっと感動するな。


「話をして構いませんか?」


「えっ? ええ、構いません。話とはなんでしょう?」


 ちょっと紅茶にウットリしてしまった。茶葉や紅茶を淹れる道具を手に入れたいな。


「冒険者ギルドでの話を聞いていましたから、望みが薄いのは理解しているのですが、裕太殿は国に仕える気はありませんか? 裕太殿の力であればかなりの好待遇でお迎えできるんですが」


 やっぱりそう言う話か。お金もあるし、わざわざ国で働く必要も無いよね。


「お分かりのようですが、国で働く気はありません」


 中途半端に遠慮しながら断ったってこの世界の人達には通用しないだろう。キリリとした表情でハッキリと断る。……ヤバい隣でディーネとバロッタさんの契約精霊が意気投合している。


「あらー、そうなの。とっても真面目なのね。でもうちの裕太ちゃんも凄いのよ。一生懸命で頑張り屋さん。お姉ちゃん自慢の契約者よ」


「へー、そうなんだ。私の契約者は真面目一本で全部を抱え込んじゃうから、心配なのよね」


「へー、そうなのー。でも土の精霊のあなたにとって好ましいんじゃない? 土の精霊って真面目な人が結構好きよね」


「キャハハ、やだー、でも嫌いじゃ無いのは確かよ」


「いやーん、熱々ねー」


 ……そうか、土の精霊なのか。土の精霊の人型ってみんなドワーフみたいなのかと思ってたけど、普通の人も居るんだな。でも、あの二人の会話を聞いていると頭が痛くなってくる。特にディーネがどこかオネェぽくなっているのはなんでだ?


「やはりそうですか、残念です。ですが国もファイアードラゴンを倒せるような人物を、簡単に諦めたりはしません。対策はおありですか?」


 おっとこっちに集中しないと。なんか本気で残念がってるな。俺だったら自分よりも実力が上の可能性がある相手が、職場に来たら焦るんだけどこの人は違うらしい。真面目な人って言うのは間違いなさそうだ。


「対策と言っても、俺にできる事は拒否する事と逃げる事ぐらいです。あとは冒険者ギルドに期待ですね」


「そうですか……こう言う事はあまり言いたく無いのですが、正直に言いますと私は裕太殿が怖いのです」


 いきなり真剣な顔で怖いとか言われちゃったよ。


「特に怖がられるような事をした覚えは無いんですが?」


 バロッタさんが首を左右に振って話し始めた。


「裕太殿と私の契約精霊の存在感がまったく違います。それは力が圧倒的に違うという事です。私の契約精霊は凄まじい力を持っていますが、裕太殿の契約精霊二体に比べたら比較にならないほど弱いでしょう。その力がこの国に向く事が私は恐ろしいのです」


 存在感の違いか。俺は普通に見えるから存在感ってよく分からないんだよね。それと契約精霊が二体って思っているのか……他にも同クラスの大精霊と契約してるって言ったら、どう感じるんだろう? 危険過ぎるって思われそうだな……いや、もうすでに思われてるのか。


「俺としては、自分から国にケンカを売ろうとは思っていません。面倒なので逃げると思います。ただ、権力や悪辣な手法で俺の周りに迷惑を掛けた場合は……俺は何をするか分からないので、そのように報告しておいて貰えますか?」


 完全に脅しになっちゃったけど、国が相手ならこれぐらい言っておいた方が良いだろう。どんなにいい国でも内部には暗い部分もあるだろうから、油断はできないよね。危険人物感が増すけど、周りに手を出されるよりかはマシだ。


「……分かりました。報告はしておきますが、詠唱に時間が掛かる精霊術師では暗部には対抗できませんよ。挑発的な行動は慎むべきです。本来ならこのような忠告をせずにおいた方がいいのでしょうが、裕太殿の場合は中途半端に失敗した時が恐ろしいので、忠告しておきます。くれぐれも注意を怠らず、暴走するような事が無いようにして下さい」


 この人も精霊は詠唱で動くと思っているんだな。心配してくれているみたいだし俺もアドバイスをしたいが、国に仕えている人には危険だ。


 しかし、中級精霊なら意思を持って色々できるだろうから、コミュニケーションが取れる事に気が付いてもいい気がする。国に仕えているような人は名門で歴史もあるみたいだし、メルの所みたいに代々のやり方に囚われているのかな?


「守りはしっかりしているので大丈夫だと思いますが、更に注意しておきます。ご忠告ありがとうございました」


 油断してもいい事なんて無いんだし、迷宮都市に居る間は常に大精霊が一人は側に居て貰うようにしよう。


「いえ、裕太殿の力がこの国に向かない為には必要な事ですから」


 物凄く恐れられているな。たぶん中級精霊の力を良く分かっているからこそ、それよりも格上の精霊の力が怖いんだろう。


「はは、注意します。では他に話が無いようでしたらそろそろ、帰りたいんですが、構いませんか?」


 できればこのままスルっと別れたい。今のままなら揉め事も無く安全に終われる。


「そうですか……裕太殿の話を聞いてみたかったのですが、時間がありませんか?」


 時間はあるけど、ペロっと余計な事を話してしまいそうだから、さっさと帰ろう。ディーネと中級精霊の子が盛り上がっているのも気になる。


「申し訳ありませんが、予定も有りますので、これで失礼します」


「そうですか、分かりました。くれぐれも短気を起こさぬようにお願い致します」


 最後にもう一度念を押されたな。そんなに信用が無いんだろうか? ……そう言えばギルドを植物で埋め尽くしたりしちゃったもんな。それを知っていれば不安にもなるか。


 紅茶のお金を払おうとしたら、バロッタさんがサックリと先に俺の分まで支払ってくれた。話に誘ったのだから払うのは当然だそうだ。


 バロッタさんと別れ、歩いてマリーさんの別邸に戻りながら、ディーネに話を聞く。


(土の精霊の女の子と仲良くなったみたいだけど、どんな子だったの? そう言えば挨拶もしてないし、名前も知らないな)


「んふー、可愛い子だったわ。それと、あの子は名前を持っていないわね、命名による契約じゃなくて、儀式で契約したそうよ。命名による契約の方が簡単なんだけど、見栄えが良いから、いつの間にか儀式による契約が主流になったのよね」


 ……うーん、メラルは名前を持ってるよな。先々代の頃に中級精霊に進化したって言ってたし、主流じゃ無い方法で契約したのか? でも、名前が無いって不便じゃ無いのか?


(名前が欲しいとか、コミュニケーションのお手伝いとか頼まれなかったの?)


「頼まれなかったわー」


 新しく精霊と友達になったからご機嫌なのか、明るく答えるディーネ。


(そうなのか。契約者の事を気に入ってるみたいだから、もっと仲良くなりたいと思ったんだけど)


 俺が疑問で首を傾げていると、ディーネが説明してくれた。


「ベルちゃん達みたいに小さい子は好奇心が強いから、契約者との深い関係を喜ぶけど、ある程度時を重ねた精霊だと気に入った相手でもそこまで入れ込まないわ。まあ、偶にメラルちゃんみたいに過保護な子も居るけど……」


(メラルの方が変わってたのか。ちょっと納得した)


「それに、今の距離感が丁度良いって言ってたわ。あんまり近いと別れが悲しいもの」


 んー、精霊にも色々あるんだな。それに当然だけど人間の方が早く死ぬから、残された方はやっぱり悲しいか。メラルも先代の事を話す時は悲しそうだったもん。


(そう考えると皆が俺と契約してくれたのは、ありがたい事なんだな)


「ふふ、裕太ちゃんの場合は完全に見えて話せて触れるからちょっと違うけど、大精霊が人と契約する事はありえないと言っていいわ。だから裕太ちゃんはとっても凄いの。死の大地にもっと大きな泉や池を作っても大丈夫だと、お姉ちゃんは思うわ」


 ……話の流れが唐突に変わった気がする。今のはもっと水場が欲しいって言ってるのか? ディーネの中で色々水場に関する計画があるようで、今がチャンスだと思ったのか様々な計画をぶち込まれた。


 途中までは精霊術師と精霊の時間の流れについての、何となく悲しい感じの話だったんだけど……気を使って話を変えたのか? ディーネの場合、素で天然の可能性もあるから難しい。ただ分かるのは、今、話している計画は冗談ではなく、本気で実現したがっているな。


 お世話になってるから、できるだけ要求を叶えたいとは思うけど、俺は家の中に滝は要らない。なんとかディーネの計画から話を逸らしながら、マリーさんの別宅に帰り着いた。


 新ギルマスとか国に仕える精霊術師とかと話すよりも、ディーネの計画を聞く方が大変だったのは予想外だ。

読んでくださってありがとうございます。

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