百四十五話 ちょっと不気味
新しい冒険者ギルドのマスターと話していると、前ギルドマスターとエルティナさんのお詫びを聞く事になった。どんな話し合いになるのか、俺も読めないのでドキドキする。罠を仕掛けられていた方が、対策を考えるだけでいいから楽だな。
あっ、前ギルマスとエルティナさんがきた。……うーん、二人とも苦労した感が凄まじいな。特殊メイクとかじゃ無いよね?
毛根にダメージを! とか確かに思ったけど前ギルマスの髪が明らかに薄くなっている。ストレスからの抜け毛が原因か? 俺に呪いの才能が有る可能性もあるよね。
目の下に濃いクマがあり表情にも生気が無い。俺がギルドマスターだ感も無くなり一回り小さくなったように見える。
エルティナさんは髪がボサボサで、明らかに憔悴している。初めて見た時のような肉食獣めいた雰囲気も、途中から被っていた無表情の仮面も無い。
エルティナさんクラスの美女なら、冒険者ギルドを解雇されたとしても、どうにでもなりそうなのにどうしてあんなに憔悴しているんだろう? 俺が思っている以上に冒険者ギルドを解雇されるってヤバい事なのか?
これが前ギルマスとエルティナさんの演技だとしたら怖いな。今日の為に寝ないで食べないで体調を悪く見えるようにしてたとか……。
おうふ、想像したらちょっとゾッとした。絶対に無いと言い切れない所が怖い。俺が一人で妄想していると、二人が俺の前に立ち深々と頭を下げた。
「まことに申し訳ありませんでした」
「失礼な態度を取ってしまい本当に申し訳ありません」
これから俺はどうしたらいいんだ? 前回で結構スッキリしたから別にもういいし、罰も受けるんだよな? ここから更に追い込んだらやり過ぎだろう。簡単に許しちゃうと舐められるとか、あるのかな?
……周りに俺の事を知らない冒険者達が沢山いるんだから、今回は好感度を狙うか?
前ギルマスと新ギルマスが頭を下げている所を見ているんだし、ファイアードラゴンを倒したのも知られているんだ。精霊術師だからって舐められる事も無いだろう。
じゃあ、初顔合わせの冒険者達の好感度を上げる方が得だな。元々精霊術師だから限界はありそうだけど、俺の好感度が少しでも上がればサラ達も迷宮都市で滞在しやすくなる。
「分かりました。謝罪を受け入れますので頭を上げてください」
……前ギルマスとエルティナさんが驚いた顔で頭を上げた。新ギルマスなんかも驚いている。あれ? なんか選択を間違えた? あぁ、もしかして簡単に謝罪を受け入れた事に驚いたのかも。俺がゴネにゴネると思ってたんだな。
冒険者ギルドって俺にどんなイメージを持ってるの? まあ、いいイメージが無いのは確定しているけど、俺からケンカを売った事は無いはずだ。煽ったうえで高値でケンカを買ってた気もするけど。それはそれだ。
「謝罪を受け入れて下さってありがとうございます。この二人もホッとしている事でしょう」
予想外の事に固まっているのか、動かない二人に変わって新ギルマスがフォローの言葉を入れてきた。
「いえ、いなくなる人を気に掛けるほど暇ではないだけなので、気にしないでください」
ちょっと冷たく言ってみる。
「そ、そうですか。あー、裕太さん、この二人は特に冒険者ギルドに損害を与えています。懲罰部隊の被害等を考えると、裕太さんにお許し頂いた事で処刑は免れましたが、死の大地に接した村での強制労働を申し付けます。前ギルドマスターは二十年、エルティナは十年と考えていますが問題はありませんか?」
俺が許さなかったら処刑されてたのか……さすが異世界、組織で処刑のパターンもあるんだな。いや、懲罰部隊がその役目を担ってるのか。その懲罰部隊がドリーにポキポキされてたけど。
俺の命を狙った事自体は不問なのか? まあ、ギルマスが自分の権限で俺に懲罰を与えようとした、っと考えると別に法治国家って訳でもないし罪は無いって事?
うーん、王侯貴族にギルドのファンタジー世界……組織の力も強いんだしそんなもんかな。差別はされているけど、精霊術師が魔女狩りみたいに狩られていないぶんマシなのかも。
死の大地での強制労働って聞いて、前ギルマスとエルティナさんの顔が更に暗くなっている。アンデッドの相手をしながら二十年と十年か、前ギルマスはともかく、若い時間をアンデッドの相手で消費するエルティナさんはちょっと可哀想……かな?
でも、罰になる村の更に奥に俺は住んでるんだよね。ちょっと虚しい。こうなったら二人が居る村に遊びにでも行ってみるか? 趣味が悪いとは思うけどどんな顔をするのか見てみたい。
「俺は許したんですから、処分に文句を付けたりしませんよ。冒険者ギルドで好きにしてください。ただ、この国は死の大地と接していませんが大丈夫なんですか?」
脱走して復讐とかされたら面倒だ。
「ああ、冒険者ギルドで確保している村なので、監視もしっかりされていますので安心してください」
冒険者ギルドで確保? 冒険者ギルドも沢山あるから、懲罰用の村を持ってるのか。殺すまで行かない人達が送られているんだろうな。場所を聞いたら不味いのかな?
「分かりました」
「そうですか、ありがとうございます。いやー、何分難しい場所に派遣されて不安だったのですが、関係が修復できて良かったです。これまでの事は水に流して、お互いに良いお付き合いをお願いしたいですな。さしあたり冒険者ギルドとしては裕太殿に五十層を突破するお手伝いを頂きたいのですが」
続けて新ギルマスがおかしな事を、ニコニコ笑顔で言い出した。って言うかこのギルマスは大丈夫なのか? 自分で不安とか言い出したぞ。なんでこの人が迷宮都市に派遣されて来たんだ?
「何を言ってるんですか? 謝罪を受け入れましたけど、別に関係修復はしていませんよ。謝罪を受け入れたのは、これ以上この問題でこちらから何かを言う事は無いという事です。命に係わる嫌がらせをした冒険者ギルドをお手伝いする義理は無いですよ」
「えっ、しかし裕太殿も冒険者なんですし、冒険者ギルドに協力してくれてもいいのでは?」
新ギルマスが物凄く驚いた顔をした後、泣きそうな顔をして聞いてきた。物凄く憐れを誘う表情なんだが、泣き落としの達人とか言い出さないでくれよ。大事な迷宮都市のギルマスをそんな理由で選ぶ訳ないと信じたい。
「冒険者ギルドに入っているのは身分証の為ですし、それは別に他のギルドでも構いません。だいたい今日来たのは謝罪がしたいからと伝えられたからです。なんで俺が冒険者ギルドの役に立つ話になっているんですか?」
ここに来る前に、いくつか冒険者ギルドとの落としどころを考えてきたけど、このパターンは想定してなかった。
「確かにそうですが……この二人に対する罰が足りないと言う事ですか? もっと重い罰を下せばいいんでしょうか?」
何でそうなる。前ギルマスもエルティナさんも周りの冒険者も引いてるぞ。
「この二人は謝罪を受け入れたんですから、関係ありませんよ。先程も言った通り別に冒険者ギルドにそこまでする義理はないって事です」
身分証明以外は本気で恩恵が無かったからな。身分証は他のギルドでも作れるし、いざとなったら……もう移籍した方がいい気がしてきた。
「そこを何とかお願いします」
テーブルに額をこすり付けてお願いする新ギルマス。だんだんこの人の事が怖くなってきた。
「いや、お願いされたからってファイアードラゴンを倒しに行ったりしませんよ。ありえないでしょ」
周りの冒険者達も頷いている。シルフィとディーネは呆れ顔だ。
「では、どうすればいいんですか?」
表情が泣きそうな顔を通り越して悲痛な顔になっている。普通はお金とかランクとかメリットを提示するだろうに……全部断るけど。あれ? その事が分かっているからこんな頼み方をしているのか? ……まさか……ね。
でも、希少な素材を独占している相手を、単なる金銭では動かせない。しかもファイアードラゴンの討伐もセットだ。いくらぐらいが相場なのか見当もつかない。新ギルマスの方法はある意味正しいのかも。
まあ、どうすればいいのか聞いてくれて助かった。最初は焦らして最後におもむろに条件を提示するつもりだったけど、この新ギルマス、なんか怖いからさっさと話を終わらせよう。これも新ギルマスの作戦かもしれないけどこの際構わない。
「条件を呑んでくれるのであれば二つのパーティー、人数を水増しされたら面倒なので二つのパーティーで十人までならファイアードラゴンの層を突破させますよ」
二つのパーティーぐらいなら、俺の素材の独占もいい感じに緩和されるだろう。その十人に実力者を集めても、山岳地帯は集団戦でなかなか進めないだろうし、その次のステージは本で読んでいても厄介そうだった。大精霊の力が借りれる俺の優位が動く事は無いだろう。
実は落としどころの条件を考えるのが一番大変だった。冒険者ギルドから貰いたいものなんて思いつかない。無理して冒険者ギルドと関係を修復する必要も無いかと思ったが、このままだと何処に行ってもチョッカイを掛けられそうなので、利用する事にした。
他にも精霊術師の差別を止めて貰うとか考えたが、その影響で各地で精霊術師が暴走したら意味が無い。精霊術師の才能がある人を集めて貰って学校を作るのも、ギルドのヒモ付きになりそうだからダメだ。絶対変なチョッカイがあるよね。
それに冒険者ギルドが完全に信頼できる訳でも無いので、一緒に行くパーティーに圧倒的な力を、まあ、シルフィの力だけど、見せて敵にまわしたら怖いって知らしめる作戦だ。
この作戦が出た時、俺は怖がられるだけなんじゃっと思ったが、ファイアードラゴンをザコ扱いする様子を見せれば、怖くて卑劣なチョッカイは出せなくなるそうだ。確かにそうだろうな。
「本当ですか? 条件とは何ですか?」
さっきまで悲痛な表情だったのが今ではニコニコだ。変わり身が早すぎるだろう。さて、できない事は無いと思うんだが、条件を呑んでくれるかな?
「簡単に言うと、俺に関わってくる交渉事を全て冒険者ギルドでシャットアウトしてください。王侯貴族、各種ギルド、商人全てです。俺や俺の周辺に迷惑が掛かったら俺は本気で怒ります。それと冒険者ギルドから俺にいっさい依頼を出さない事です」
俺の場合は偉そうな貴族とかきたら、冒険者ギルドとの揉め事と同じような事になりそうだ。大精霊達の力を知れたから、我慢が効かなくて直ぐに揉めそうだもん。
国が相手? 上等だよ! とか言い出しそうで怖い。あんまり調子に乗ると見捨てられちゃう可能性もあるから、揉め事になりそうな案件は先に潰しておくべきだ。
冒険者ギルドからの依頼の拒否は、開拓とかもしないとダメなのに、そんな時間は無い。
「そ、それは……直接、裕太殿に交渉に出向かれたら、冒険者ギルドとしては対処できませんし、それに国から依頼された場合は無下にするのも難しいのですが……」
ニコニコ顔から再び悲痛な顔に戻る。この人の表情筋って相当働いてそうだ。
「そうだ! 裕太さんのパーティーに冒険者ギルドからの職員を受け入れて下さるのであれば、その者に交渉事を一任して貰って構いません!」
名案を思い付きました的な表情で、俺のところに人員を送り込もうとする新ギルマス。嫌だよそんなの。俺の内情が冒険者ギルドに筒抜けじゃん。
「それは嫌です。冒険者ギルドに無断で俺に交渉を持ちかけたら、ペナルティーがある事を周知させれば、一般的な商人とかは控えるんじゃ無いですか? 二つのパーティーが先に進めるようになるんですから、そちらに話を振ってください。国からの依頼も冒険者ギルドは、大組織なんですから何とかなるでしょ?」
「ですが……」
表情でそれは大変なんですよ、難しいんですよ、俺死んじゃいますよっと、まあ、正解しているか分からないけど様々な気持ちを訴えかけてくる。相手がポーカーフェイス過ぎるのも困るけど、ここまで明け透けに表情を変えられるのもウザい。
だいたいそんなに表情が表に出る人が、迷宮都市の冒険者ギルドのマスターになるのも意味不明だし、何かありそうで油断できない。うーん、こうやって悩ませるのも作戦だったりして。良く分からなくなって来たからもう考えるのは止めよう。
「この条件を譲るつもりはありませんから、後はそちらで考えてください。でも、考えている間にいい条件で引き抜きがきたら、そっちに行っちゃうかもしれませんから、急いだ方がいいかもしれません」
言うだけ言って席を立つ。なんかあの人怖いからできるだけ会わないようにしよう。
「ま、待ってください。急ぎます、急ぎますから五十層以降に連れて行くパーティーを、もう二組増やしてくれませんか? 三十人までは集団で移動できますから大丈夫なはずです。お願いします」
「嫌です。条件は変えませんから、それで納得できなかったら話は無かった事にしてください」
「では、五十層以降の素材を冒険者ギルドに……」
「それも、条件が呑まれたら、二つのパーティーに依頼してください」
歩みを止めず言って、そのまま出口に向かう。なんか疲れたから後はのんびりしよう。シルフィには申し訳ないけど、新ギルマスの様子を見て貰おう。あの人ってなんだか不気味だ。シルフィに小声で頼むと、そのまま新ギルマスの側に残ってくれた。
もう直ぐ出口と言う所で、国に雇われているらしい精霊術師が笑顔で話しかけてきた。そうだった、この人もいたんだよね。もうお家に帰りたいのにまだ時間が掛かりそうだ。
読んでくださってありがとうございます。




