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百四十四話 新しいギルマスとの話し合い

 サラ達がスラムに居た頃にお世話になっていた、食堂のお姉さんに会いに行く。美人で優しい人のようなので、精霊術師になってみない? っとスカウトしてみた。美人って所に魅かれたのは否定しないが、孤児のサラ達にも優しくしてくれた人だし、精霊達もきっと懐くはずだ。


「うーん、ちょっと聞きたいんだけど、あたしでもドラゴンを倒せるようになるのかい?」


 まず第一に聞くのがドラゴンが倒せるかどうかなのか。この人もちょっと世間とズレたタイプなのか? しかしドラゴンか。ベル達がアサルトドラゴンならボコってたし、いずれは倒せるようになりそうではある。


「直ぐには無理だろうけど、アサルトドラゴンぐらいなら、いずれは倒せるようになるかもって感じかな。まだサラ達もトロルを倒している段階だし、時間は掛かると思うよ」


 俺が言うと、ジーナは驚いた顔をサラ達に向けた。


「あんた達、トロルを倒せるのかい? うちに来る客はトロルから逃げ出した話を良くしてるよ。強いんだろ、トロルって」


「へへ、ジーナ姉ちゃん、おれたち三人でトロルならなんどもたおしたぞ。師匠におしえてもらうと、すごいんだ!」


 マルコ、ナイス後押し。


「そうなのかい。そんなに強くなれるのなら興味はあるね。でも、うちの親に小さい時から、精霊の事を人に話すなって言われてるんだよね。うちには貧乏冒険者が良く来るから、嫌われる可能性を考えてだと思うんだけど……店の手伝いもあるし、ちょっと考えさせてくれないかい? サラ達を見ればいい話だと思うから前向きに考えてみるよ」


 脈が無いわけでも無いみたいだな。できればもうひと押ししておきたい。お店も気にしているみたいだし、メリットを提示しておこう。


「うん、考えてみて。精霊術師だから嫌われるって可能性も否定できないけど、ラフバードやオークぐらいなら直ぐにでも倒せるようになるから、食材の調達が楽になるのは確かだよ」


「そうか、あたしが倒した素材を店で出せば……」


 いい感じで考え込んでる。実際のところサラ達とパーティーを組めば、恐らく場末の食堂に比べて圧倒的に儲かると思うけど、こう言う人達は儲けるためだけに食堂をやってるんじゃ無い! ってパターンもあるから、言うのは止めておこう。


 弟子になるのが確定した訳じゃ無いので詳しくは話せなかったが、俺達の生活についてや訓練についても簡単に話した。


「裕太、ここで話し込んでると、ご飯を食べる時間が無くなっちゃうわよ。一度戻ってから冒険者ギルドに行くんでしょ?」


 そうだった、あんまりのんびりする時間は無かったな。


「ジーナ、午後から用事があるから、食事にしてもいいかな? 返事は時間をおいてまた聞きに来るから良く考えておいて」


「ん? 悪いね、話し込んじゃったよ。じゃあ店に入って適当に座ってて、今日はラフバードかオークの香草焼きだけど、どっちがいい?」


 俺とサラはラフバード、マルコとキッカはオークと伝え店に入る。内装やテーブルは古いが、ちゃんと清潔でちょっと安心した。


 空いている席に座り出て来る料理を待つ。店で食事をする時の欠点はベル達やフクちゃん達に食事を食べさせにくいって所だよな。


 ベル達も事情は分かっているから、気にしてないようだけど、できれば一緒に食べられると嬉しい。いっその事開き直って堂々と皆で食事をする事も考えたが、周りが驚きそうだし、微妙に踏み切れないんだよね。


 運ばれて来た料理は……ラフバードの香草焼きとスープとパン。香草やスープに手間が掛かっているようだけど、味としては普通だな。サラ達はこのお店でご飯が食べられるのが嬉しいのか、とってもニコニコだ。


 ジーナにまた来ると告げて店を出る。味は普通だったけどメチャクチャ安かった。三百エルトの定食って破格だな。


 それにジーナにも拠点が死の大地にあるって事を話さずにすんで良かった。だまし討ちみたいになるけど、死の大地に住んでますって言ったら来てくれないからな。


 マリーさんの館に戻り、サラ達とベル達と用心の為に護衛のドリーを置いて、俺とシルフィとディーネで冒険者ギルドに向かう。


 ベル達やフクちゃん達にはたっぷりご飯を出しておいたけど、大丈夫かな? 一応、セバスさんには、部屋に近づかないようにお願いしておいたけど、匂いとか洩れそうだよね。


 さて、冒険者ギルドの新しいギルマス。昨晩、シルフィに確認してきてもらったけど、普通におじさんだったらしい。エルフとかの美人ギルドマスターで無かった事に、残念な気持ちと同時にちょっとホッとしている。


 それと、精霊術師と中級精霊が一人居たそうだ。服装から国に仕えている精霊術師らしい。精霊術師の俺の確認の為に、国が派遣したんだろうな。大きな話になってる。


 後はまあ、ギルマスとエルティナさんが、今回こそ本当に詫びると、冒険者ギルドに待機しているらしい。俺的にはもう過去の人物なんだが。


 ***


 冒険者ギルドの中に入ると、既に周知されているのか前回と同じように冒険者が集まっていて、真ん中にテーブルが設置されている。


 前回、俺が部屋で話すのを嫌がったので、ここに準備してくれたのか? まあ、密室で話し合うって言われたら断ってたけど、何も言って無いのに準備されていると、それはそれで怖い。


 集まっている中にユニスが居る。ユニスは迷宮都市を離れてなかったんだな。前回、ここでトゲ付き植物に巻き込まれたのに、また来るとは凄い根性だ。メルの事があるから俺がどうするのか直接確認したいのかな?


 立ち止まって周りを確認していると、受付嬢の制服を着た女性が近づいてきた。初めて見るし新しく来た人っぽいな。


「精霊術師の裕太さんですか?」


 俺の顔を知ってるっぽい。確認しているって事は特徴を聞いている感じなんだろう。


「はい、そうです」


「お待ちしておりました。密室を嫌がられると聞いていましたので、こちらに席をご用意しましたが、問題ありませんか?」


「あー、はい。密室よりはこちらの方が助かります」


俺が答えると前回と同じように、集まっている冒険者達の中心に用意されている席に案内された。見た事がない冒険者達の横を通る時に「あいつがギルドに喧嘩を売った精霊術師か」っとか「見た目平凡だな」っとか「ドラゴンスレイヤー」っとかボソボソと話しているのが聞こえた。平凡な見た目って悪口なのか少し悩む。


 案内された席で待っているが微妙に落ち着かない。前回は周りがほぼ敵だと認識してたので平気だったが、別に揉めた訳でもないまったく知らない冒険者達に観察されると、どうしたら良いのか分からない。なんか珍獣として、展示されている気分だ。


 ん? 冒険者達の後ろの方に居るのはふわふわ浮いてるし精霊だよな。なんかドレスっぽい服を着た、おしゃまな感じの女の子だ。っとなると隣に居るのが国から派遣された精霊術師か。なんかやせ型で真面目な中年紳士って感じだ。どちらかと言うと苦手なタイプっぽい。できれば関わり合いになりたく無いな。完全に俺に注目してるから無理そうだけど。


 考え事をしていると奥から人が良さそうな太ったおじさんが、受付嬢を連れて歩いてきた。あの人が新しいギルマスなんだろう。一応礼儀として俺も立ち上がりギルマスを出迎える。


「やあ、初めまして。私は新しく迷宮都市のギルドマスターになった、アントンと言います。今回は冒険者ギルドが色々とご迷惑を掛けたようで、申し訳ありませんでした」


 ギルマスが頭を下げる。前のギルマスも頭を下げたが、打算があって頭を下げただけだからどうでも良かった。でも今回は違うから難しい。下手に出るのも違うし、このまま頭を下げさせ続けるのも外聞が悪い。


 しかし、俺って冒険者ギルドを植物で埋め尽くしたりしたんだけど、それは無かった事でいいのかな?


「俺としては話を聞かないと、どう答えて良いのか分からないので、とりあえず頭を上げてください」


「そうでしたな。では、ご説明しますので、どうぞお座りください」


 席に座りながら考える。なんか良く分からない人だな。真剣に謝っているようで顔は笑顔だし、下手に出ているのに自然体だ。冒険者達の前でギルマスの威厳を損なうような対応をしていいのか?


「では、今回の出来事を冒険者ギルド本部で精査した結果をお伝えします。現在、確定しているのは、前冒険者ギルドのマスターの引退と私財没収。裕太殿に嫌がらせをしていた者達は、その度合いによって処罰致します。後は全職員が迷宮都市より配置転換されました」


 おおう、これはどうなんだ? 厳罰なのか? 配置転換されてたら確認のしようがない。あと一つ気になる事がある。


「冒険者ギルド全体が、精霊術師を軽んじる風潮があったせいで今回の事が起こったのですが、その責任はどう取られるのですか?」


「ああ、それは申し訳ないですが、冒険者ギルドとしては責任は無いと考えております。言ってみれば裕太殿はイレギュラーな存在なのです。現実に精霊術師を護衛に雇う者も、パーティーを組みたがる者もおりません。迷宮都市の冒険者ギルドに対する罰も、実力ある精霊術師に嫌がらせをし、ギルドを混乱させたことに対する罰です」


 なるほど……結局俺一人が俺Tueeeeeしても、精霊術師の評価はあんまり変わらないのか。やっぱり使える精霊術師を育てて、その人達が活躍しないと現状は打破されないんだな。


 精霊術師の評価が低いと精霊達の成長に影響が出るし、精霊達にお世話になっている俺としては、何とかしたい。まあ、精霊達はのんびりしているから、別にいいって言われる可能性もあるけどね。まずはサラ達に活躍して貰うのが大事だな。


「そうですか、分かりました」


「冒険者ギルドとしましては、その事と同時に裕太殿にご迷惑をお掛けした賠償も考えています。金銭での賠償とランクアップで対応させて頂きたいのですが、如何でしょう?」


 ……うーん、またランクアップの話が出た。いくらなんでも罠じゃ無いよね? でもまあ、断るんだけど。


「金銭はともかくランクアップはご遠慮します。前回の交渉の時、執拗にランクアップを勧められたので気になって調べたのですが、強制依頼と言う上位ランクになると逆らえない依頼があるそうですね。お詫びをして頂いても、そこまで冒険者ギルドを信じる事はできません。俺としては冒険者ギルドに拘る理由はありませんし、ランクアップに関してはお断りします」


 まあ、他のギルドに移ったら移ったで面倒な事を言われそうだし、強気に出れる冒険者ギルドに居た方が楽そうだよね。でも、強制依頼ってウザい。Sランクになって、ギルドカードを見せたら驚かれるみたいなイベントをやってみたかったのに。


「強制依頼が問題ですか……ですが実力者を低いランクに置いておく事も問題になります。本部と話し合いをしますので、少々時間を頂けますか?」


 何を話し合うんだ? 特別に強制依頼無しの高ランクにでもしてくれるとか? それはそれでどうなんだとも思うが、イベントは消化できるな。ただ俺が満足するだけのイベントだから、必要無いと言えば必要無い。


「はあ、分かりました」


「それと是非とも裕太殿にお詫びをしたいと、裕太殿に嫌がらせをした前ギルドマスターと受付嬢のエルティナが待機しています。話を聞いてやって頂けますか?」


 断ったらどうなるんだろう? 顔も見るのも嫌だから絶対に会わない! とか言って切れるか? ……うーん、それはそれで面白い気もするが、会って完全に決着をつけるか。付きまとわれたりしたら面倒だ。


「分かりました、お会いしてみます」


 さて、どんな事を言われるんだろう?

読んでくださってありがとうございます。

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