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百四十三話 ジーナ

 マイホームと家具を受け取り、午後からの約束である冒険者ギルドとの話まで、まだ時間があるので酒屋に行く事になった。


「えーっと、これで全部ですね。お会計をお願いします」


「いや、大量に買ってくれるのは嬉しいがこれは多過ぎだろう。商売に使うんであれば商業ギルドのカードを提示すれば、少しは安くできるぞ?」


 酒屋のおじさんが驚いたのか、自分から値引きができる事を明かした。商売人としてそれでいいんだろうか?


 確かに沢山買ったから驚くのも無理は無い。蒸留に使うエールと白ワインを十五樽ずつと赤ワインとロゼワインを五樽ずつ。合わせて四十樽だから、確かに買い過ぎと言えそうだ。


「俺は商人ではありませんし、商売に使う予定では無いので大丈夫です」


 それならこんなに買って何に使うんだよって目をしている。大半を蒸留して残りは精霊が飲むんですって言ったらどうなるんだろう? 色々と大丈夫か心配されるだけだな。


「そうか? ……分かった。まあ、大量に買ったから少しは値引きしてやるよ。六百三十万でいい」


 いくら値引きしてくれたんだ? ちょっと気になるが、元々そのまま買うつもりだったんだ。得した事だけ覚えておこう。


「ありがとうございます」


 お礼を言ってお金を支払い、酒屋のおじさんにも感心されながら酒樽を収納して店を出る。


「うふふー、これだけ買ったら沢山飲めるわねー」


 ディーネが浮かれてクルクルと回りながら言う。


(ディーネ、沢山買ったけどほとんどは蒸留するから飲めないぞ)


「大丈夫よー、うふふー、蒸留する時にお手伝いするんだもの。蒸留したお酒を飲ませてくれるわよね」


 そう言えばディーネって蒸留したてのお酒も結構気に入ってたな。御駄賃代わりにお酒を飲むつもりなのか。手伝って貰う手前、断り辛い。お酒の事についてだけかもしれないけど、意外とディーネって抜け目が無い。とりあえず浮かれたディーネは放っておこう。


「さて、昼食だけどサラ達は何か食べたい物がある?」


 サラが珍しくおずおずと、自分の意見を言おうとしている。なんか気まずい事でもあるのかな?


「あの、お師匠様。以前、私達がお世話になっていた食堂のお姉さんが、お師匠様にお会いしたいと言ってたんですが、そこではダメですか?」


 そう言えば前にそんな事を言ってたな。その人が連れて来いって言ったのは、俺が大丈夫なのか見定めたいって事だし、サラが言い辛そうにするのも分る。


 まあ、サラ達に食事を分けてくれていたみたいだし……サラ達にとっても大事な人なんだろう。俺も挨拶しておくべきだな。そうしないと、お休みの時にサラ達が遊びに行き辛くなってしまう。


「分かった。じゃあ、その店に行こうか。案内してくれる?」


「はい! あっ、でも、スラムの近くのお店ですので、見た目が古いです。大丈夫ですか?」


 笑顔で返事をした後に、店がボロいのを思い出したんだな。綺麗な方が嬉しいのは確かだけど、不潔でなければボロくても大丈夫だ。それに挨拶をするだけだから不潔でも今回だけ耐えればいいだけだ。まあ、この世界は洗浄の魔法があるから、不潔な場所をあんまり見た事が無いけどね。


「師匠! ジーナ姉ちゃんのお店はおいしいからだいじょうぶだ!」


「だいじょうぶ!」


 マルコとキッカからフォローが入る。その店とジーナお姉ちゃんが大好きなんだな。


「大丈夫だよ。案内をお願いね」


 嬉しそうに頷くサラ達に案内されて食堂に向かう。さて、俺が見定められるんだろうけど、この格好で良かったんだろうか? バリバリの冒険者スタイル……保護者としてはもう少しまともな格好をした方が良かった気もする。……うーん、まあ、冒険者なんだからこれが正装って事で納得してもらおう。


 大通りから外れ少し細い道をしばらく歩くと、石造りではあるが所々石が欠けて妙に古く感じる食堂が見えた。サラ達も真っ直ぐ向かって行くしあそこが目的地か。


「師匠! ここ! ここ!」「ここー」


 マルコとキッカがビックリするほどはしゃいでいる。死の大地や湖なんかでは結構はしゃぐようになっていたけど、迷宮都市でこんなにはしゃぐのは初めて見たな。サラもマルコもキッカもニコニコだし、よっぽどここが好きなんだろう。手を振るマルコとキッカに手を振り返すと店から人が出て来た。


「おや、サラ、マルコ、キッカ。また来てくれたのかい。元気そうで何よりだ」


「ジーナお姉さん、お久しぶりです」「ジーナ姉ちゃんまたきた。こんどは師匠もいっしょだ」「またきたの!」


 サラ達が嬉しそうに言葉を交わしている。あの人がジーナさんか。思っていたより若いな二十歳前後か? 軽くウエーブがかった金髪を無造作に後ろで束ねて、何より素晴らしいのがエプロンの上からでも分かる膨らみだ。


 シルフィが俺の顔をジッと見ている気がするので、残念だが頑張って視線を逸らす。ここで突っ立っていてもしょうがないから挨拶するか。


「こんにちは、ジーナさんですね。サラ達の師匠をしている裕太と言います。サラ達がお世話になったそうで、ありがとうございます」


 ちゃんと頭を下げておく。サラ達が大好きな人と俺が揉めたらサラ達が困るからな。ユニスと揉めたのはメルが弟子になる前だからノーカウントだ。


 しかし、あれだな。近くで見るとこのジーナって子は面白い。身なりに気を使わないのか服が買えないのか分からないが、だぼだぼで化粧っ気がまったく無いのに、素で美人だと思う。


 こんな子がオシャレをしたら、眼鏡を外すと実は……みたいなビフォアーとアフターがあるんだろうな。


「ああ、わざわざ来て貰って悪いな。この子達が心配だったからよ。いい服着て太ってるしどっかに売られちまうのかと思ったんだ」


 サラ達の頭をグリグリと撫でながらジーナさんが言う。……いや、心配とかはいいんだけど、その言葉遣いはなんで? ほぼ男口調じゃん。絶対に間違ってる、天真爛漫なボクッ子が男口調はありだ。でも、金髪碧眼のダイナマイトボディが男言葉ってどうなの? 俺の心が狭いだけ?


「裕太、その子って精霊術師の才能があるわよ」


 マジで? いや、だからどうすれば? いろんな情報が突っ込まれてちょっと混乱してきた。一つずつ終わらして行こう。シルフィには目線で分かったと伝え、ジーナさんに向き合う。


「い、いや、心配するのはもっともな事だから問題無いよ。俺も挨拶をしておきたいと思ったしね。俺は子供達を売ったりしないけど、挨拶だけで安心してもらえるかな?」


 いかん、敬語が吹っ飛んだ。落ち着け。


「実はあんたに会う前から安心してたんだ。でも会う事が出来て更に安心できたよ。ありがとね」


「会う前から安心? 何でですか?」


「敬語はいいよ。本当はあたしが敬語を使わなきゃダメなんだけど、どうにも敬語が身に付かなくてね。悪気はないんだけど、勘弁してくれるとありがたい」


 ペコリと頭を下げるジーナさん。この美人には是非とも上品な言葉遣いを覚えて欲しいんだが、今は話を続けよう。


「分かった。じゃあ、俺も気楽に話させてもらうね。それで、なんで安心してたの?」


「ああ、家も夜は酒も出してるから色んな噂が集まるのさ。スラムのガキがドラゴンスレイヤーの弟子になったって、噂をしてたから話を聞いたらサラ達の事だったのさ。まさか簡単に金を稼げるドラゴンスレイヤーが子供を売ったりしないだろ。問題はあんたが変態だった場合だけど、警戒心の強いこの子達がこんなに明るく懐いてるんだ。心配は無くなったよ」


 そう言えば冒険者ギルドが布告を出したって言ってたな。あれだけ騒ぎを大きくしたんだし、噂になるか。


「そうなんだ、まあ、安心できたのなら良かったよ。サラ達もこのお店が好きみたいだから、面倒みてあげてね」


「あはは、余った食事を食わしただけで、今は大切なお客様だからね。世話になるのはこっちさ」


 ケラケラと笑いながら言うジーナさん。まあ、優しい人みたいだし問題は無いだろう。問題は……この人も精霊術師の才能が有るって事だよな。


 ちゃんと定職に付いている人に、評判が悪い精霊術師を勧めるのはどうなんだろう? でもいい人だし美人だし、一応、スカウトしてみるか。出会いは大切にしないと。何よりこの人が仲間になってくれたら、男色ロリショタ疑惑は払拭できる。


「それで、ジーナさん。ちょっと話があるんだけど、時間は大丈夫?」


「あはは、あたしにさんなんて付けなくていいよ。言われ慣れてないからこそばゆい。時間はもう少ししたら忙しくなるけど、それまでなら大丈夫だよ」


「それじゃあ、ジーナ。ここでは話し辛いからちょっとこっちにきて」


 店の前から人の居ない場所に移動する。


「なんか大袈裟だね。大事な話なのかい?」


「大事って言うよりジーナにとって外聞が悪い話かもしれないから、念の為にって感じかな」


「外聞? 何だか怖いね」


 ちょっと嫌そうな顔のジーナ。怖いかもしれないけど、自分の職業の事を話すのに外聞が悪いって言わないといけない俺も結構悲しいんだよ。


「まあ、怖い事は無いよ。ただ隠しているかもしれないから念の為ってだけ。話はジーナって精霊の存在が分かるよねって事なんだ」


「ジーナ姉ちゃんも、精霊術師になれるのか?」


 横で話を聞いていたマルコが食い付いた。サラとキッカも驚いた顔をしている。やっぱり周りには話してなかったんだろうな。因みにベル達は話し合いが退屈なのか、周辺をふわふわ飛び回って怪しい人が居ないかと護衛ゴッコをしている。


「ああ、そう言う事かい。あんたはそう言う事が分かるんだね。さすがドラゴンスレイヤー」


 分かるのはシルフィなんだけどね。あとドラゴンスレイヤーって厨二な心がくすぐられるから、止めて欲しい。


「はは、ドラゴンスレイヤーは止めてね。それで、隠しているのなら望み薄かと思ったけど、一応スカウトしようかと思ってね。世間で嫌われているような精霊術師ではなく、ちゃんとした精霊術師になってみない? 結構凄いよ」


 俺の言葉にジーナが考え込んだ。悩むって事は脈があるのかな?

読んでくださってありがとうございます。

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