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百四十二話 マイホーム

 のんびり散歩しながら迷宮都市を歩き、建築会社に到着した。マイホームって考えると少しドキドキするな。


 中に入り受付のお姉さんに声をかける。ジルさんに移動できる家を注文していた事を伝えると、直ぐにジルさんを呼んで来てくれた。


「おう、来たか。こっちじゃ」


 挨拶もすっ飛ばしてジルさんが奥に歩いて行く。えーっと、家に案内してくれるのかな? とりあえず、戸惑っている訳にもいかないのでジルさんの後に続く。


 裏口から建物を出て奥に行くと、二階建ての石造りの建物が見えた。あれが頼んでいた家かな? 横幅も広いし思った以上に迫力がある。


「これじゃ、後は窓をハメ込めば完成じゃな。言われた通りに木枠を作っておいたが、ガラスは用意できたのか?」


 もう少しマイホームの余韻よいんに浸らせて欲しかったのに、ジルさんせっかちだ。ノモスに作ってもらったガラス板を取り出し、ジルさんに見せる。


 最初は日差しが強いので窓は小さめにするつもりだったが、精霊樹の木陰もあるし森も増えてきたので、景色を楽しむ為に窓は大きくして、全ての部屋に作る事にした。特にリビングの窓はかなり大きい。


 強度も考えノモスには極厚の窓ガラスをお願いした。窓の開け閉めが少し大変になるが、家の中は基本的にシルフィ達に温度管理をして貰うつもりだから、換気の時ぐらいにしか窓を開けないから大丈夫だ。


「ほう、これは凄いのう。厚みも均一でガラスに曇りも色もない。これは何処で手に入れたんじゃ? かなりの施設が無いとできんはずじゃぞ」


 ジルさんが物凄く食い付いてきた。でも、土の大精霊が作りましたなんて言えないよね。


「申し訳ありませんが、出どころは明かせないんです」


「むう、なんぞ技術的な秘密でもあるのか? それならこのガラスを手に入れる事はできるか?」


 秘密の技術と言うより、作り手の方が秘密なんだよね。よっぽどこのガラス板が気に入ったのか、しきりにガラス板を確認している。なんか面白い建築物でも思いついたのかな?


 でも、ノモスに商売用のガラスを何度も作ってもらうのも違う気がする。大精霊を安易に商売に利用するのも怖いし、無理って事にしておこう。


「商売用を手に入れるのは無理なんです。俺が家を建てるって事で、特別に用意してくれただけですから」


「……残念じゃな」


 なんかごめんなさい。ジルさんみたいな職人さんにウソをつくのは心が痛む。少し落ち込んだジルさんが職人を呼び集め、目の前で作っておいた木枠にガラスをハメこみ家に取り付けてくれた。素晴らしい手際であっという間だ。二十日で家を建てる実力の一端を見たな。サラ達だけではなく精霊達も感心している。


「職人ね」「ねー」「すごい」


 特にシルフィとベルとトゥルは深く感心している。トゥルはなんとなく分かるけど、風の精霊も工作系が好きなのかな?


「よし! 完成じゃ。とりあえず中を案内するから中に入ってこい」


 ジルさんが手招きしたので、いよいよマイホームに足を踏み入れる。


「じゃあ、ここで靴を脱いでこのスリッパに履き替えてね」


 昨日、サラ達に選んで貰ったスリッパを取り出し全員で履き替える。この大陸は洗浄の魔法が有るし、靴を履いたままのスタイルらしいんだけど、床もフローリングにして貰ったし室内で靴を履いているのは違和感があるので完全土禁にした。


 今までの岩をくり抜いた家だと靴を脱ぐ気にもなれなかったけど、ちゃんとした家ならスリッパの方が俺は快適だ。


 ここからはジルさんの案内で家の中を見て回る。一階にはキッチンと大きなお風呂とトイレ。そして一番の目玉の大きなリビングを見て回る。


 キッチンには魔道具のコンロと水が出る蛇口のような物も有り、家の外のパイプを水場に設置すると普通に水が出るそうだ。魔法の鞄に入れてある水ばっかり使ってたから知らなかったけど、意外とハイテクな道具もあるんだよな。


 お風呂も同じように水が汲めて沸かす事ができる魔道具が設置してあり。大人が五人はゆったり入れそうな湯船が設置されている。最初は木製のお風呂がお金持ちっぽいと思いリクエストしたが、手入れが面倒だと教えられたので素直に岩風呂にした。


 お風呂をお願いした時はちょっとジルさんに呆れられてしまったが、このクオリティなら呆れられても頼んで良かった。お風呂は浄化が使えるこの世界では、単純に金持ちの道楽扱いらしい。疲れも取れるし安らぐんだけどな。


 そしてこの家の目玉のリビングは、ひたすら広い空間になっている。俺はみんなが集まれれば十分だと考えていたが、シルフィ達が精霊も増えるだろうし、皆で宴会をする為には大きなリビングにするべきだと主張した。


 確かにこれからも精霊と契約する機会はあるだろうし、宴会はともかくとして、皆が集まれる部屋はあった方が良いと思い許可を出した。でも、実際に見るとかなり広いな。家具を置いたら丁度良くなるんだろうか?


 二階は階段の前に共有スペースがあり、他は大きな部屋が五部屋作ってある。俺が使う予定の部屋だけ大きな部屋に仕切りを作ってもらい、二つに分け奥を寝室にする予定だ。


 皆でワイワイと楽しく内部を見学したが、一つ分かった事がある。自分で家を作ろうとするのは無謀だな。魔道具の設置とかもあるけど、一つ一つ丁寧に作り上げられており、自分で作るとなったらこんな丁寧な作業はできない。


 豪邸かー、やっぱり作るとしたら本職の力は必要だよな。死の大地に連れて行くのもどうかと思うし、難しいよね。魔法の袋もこの家を入れる事ができるってだけで驚かれたから、何か方法を考えておかないと、豪邸を作る機会があったとしても方法に困りそうだ。


「どうじゃ?」


 ジルさんが短く聞いてきた。家の感想を聞いてるんだよな。全員を見渡すが特に不満は無さそうだ。俺も満足だし問題無いな。


「素晴らしいです。ジルさん、良い家をありがとうございます」


 俺がペコリと頭を下げると、サラ達とベル達も頭を下げた。サラ達はともかくベル達は見えてないよね。でも気持ちは通じるかもしれないし、可愛いから問題無い。


「そうか、気に入ったのならいい。幸い移動できる家なんだから、何かあったら持ってこい。金は取るが直してやる」


 ……なるほど。壊れたら持っていけば直して貰えるんだな。家を持ち運びできるとか何気なにげに便利だ。


「その時はお願いします。この家はもう収納してもいいですか?」


「うむ、構わん」


 手を家に触れて収納と念じると、目の前にあった家が一瞬で消える。ドラゴンを収納した時も思ったけど、これだけ大きな物が一瞬で消えると違和感が凄い。もう一度ジルさんに此処で働かないかと誘われたが断った。


 本当に魔法の鞄があれば働き口には困らないよな。まあ、魔法の鞄を売れば働かなくても済みそうだけどね。


 ジルさんに設置されている魔道具の使用法、ついでに蒸留所等につけるドアを余分に購入して建築会社を出る。


「ゆーたー。おうちうれしい?」


 家具屋に向かって歩いているとベルが胸にポスンと飛び込み聞いてきた。


(うん、とっても嬉しいよ)


 外なのでバレないように、ベルの頭を撫でながら答える。実際に嬉しいのは間違い無いんだけど、まだ住んだ事が無いから実感が湧いてないんだよね。


「べるのおへや、ない?」


 コテンと首を傾げるベル。一応、精霊達の部屋は聖域が決定したら、大きな家を建てるって言ったのを覚えてるんだろうな。


 でも、ちょっとお部屋に興味があるから聞いてみたって感じか……俺の部屋はあるし、サラ達に一人一部屋与えたとしても、一部屋は余るな。家具は全部屋分注文してあるし……。


(ベル、ベルはお部屋が欲しい?)


「ほしいー」


 俺の質問に満面の笑みで応えるベル。そうか欲しいのか。聖域じゃないと実体化出来ないから意味は無さそうなんだけど、ベルが欲しいと言うのならしかたがない。


(じゃあ、ベル個人のお部屋は、大きなお家を建てるまで無理だけど、ベル達のお部屋を一つ作ろうか。それでどうかな?)


 子供部屋を一部屋作ればいいだろう。そこに玩具とかを沢山置いておけば、利用しない事も無さそうだ。魔物素材のボールやぬいぐるみは、マリーさんの雑貨屋にもあったし、沢山買い揃えてキッズルームを作ろう。


「うれしー」


 ベルが喜んで俺の胸に頭をグリグリとした後、レイン達の元に報告に飛んで行った。飛ぶ姿からもワクワクしているのが分かる。あれだけ喜んでくれると俺も嬉しい。


 ベルの報告を聞いて、レイン達も「キュキューー」「おへや、うれしい」「ククー」っと喜びを伝えに来てくれた。外なので大っぴらに撫でられないのが寂しいが、しっかりと全員の頭を撫でておく。


「裕太、いいの?」


 シルフィが大丈夫なのかと聞いてきた。俺の方にニコニコと飛んでくるディーネを見ながらだから、言いたい事は分かる。


「裕太ちゃん、お姉ちゃんのお部屋も欲しいわー」


 だよね。


(ディーネの部屋は、聖域が決まって大きな家を建ててからな。お姉ちゃんなんだから我慢してくれ。大人部屋とか聞いた事無いし、宴会の時はリビングを占領するんだから問題無いよね?)


「むー……そうよね。お姉ちゃんは小さい子の為に我慢するわよね。裕太ちゃん、分かったわ」


 ……小さい子供が、更に小さい弟妹の為に我慢するのは可哀想だが、この場合は問題無いよな? あっさり引き下がってくれてちょっとホッとした。


 話しながら歩いていると家具屋に到着して、元気なおばちゃんに話しかける。


「おや、あんたかい。良く来たね。注文の品は全部できているよ。大量注文だったから周りの工房にも力を借りたけど大儲けさ。あはははは」


 相変わらず元気がいい。聞いてない事まで話してくれなくても別にいいんだけどね。


「受け取りに来たんだろ。ここには置けないから倉庫に置いてあるんだ、案内するからちょっと待っておくれ。あんたー、ちょっと出て来るから店番お願いねー。よし、じゃあ、こっちだよ」


 完全におばちゃんのペースで事が運び、倉庫まで連れて行かれて注文していた家具を全部収納した。そのまま世間話が始まりそうになったので、用事があると断りを入れて足早に倉庫を立ち去った。


 危なかったな。あのおばちゃんのペースに巻き込まれると、抜け出せなくなる。


「ふー、冒険者ギルドに行くまではまだ時間があるし、どうしようか?」


 俺が呟くと、シルフィが即座に答えをくれた。


「裕太、お酒を買い占めておきましょう。話し合い次第で迷宮都市を出るかもしれないわ」


 ……その言葉に当然のごとくディーネとドリーも食い付く。まあ、蒸留も始めたしノモスにもお酒を買い占めるって約束したから、買いに行っておくか。それから昼食を食べてサラ達をマリーさんの別宅に送ろう。マリーさんの別宅に戻れば豪華な昼食が出そうだが、今は屋台の料理が食べたい気分だから、食べて戻ろう。


 それから俺とシルフィとディーネで冒険者ギルドに向かえば問題無いな。ベル達とドリーは、サラ達の護衛についてもらえば安全だよね。

読んでくださってありがとうございます。

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