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百三十八話 敬礼

 大精霊達と聖域について話し合った。明確な合格ラインが設定されている訳でも無く、あやふやだが、自然を増やしながら住み良い環境を作る事になった。普通の森や椿の森、果樹園も増やしたし、まあ、少しは進展したと思う事にしよう。


 ノモスリクエストの醸造所や酒倉はとりあえず後回しだ。普通の家でさえ建てかたが分からないのに、醸造所とか……あれ? でも蒸留するだけなら普通に大きめの部屋と蒸留器があれば出来るんじゃ……。


 酒樽はシルフィ達が飲み干した酒樽がかなりあるし。問題無い気がしてきた。大きな岩を確保してくり抜けば部屋は出来るんだし、蒸留器はノモスが作ってくれる。


 後は温度管理か……火の精霊と契約すれば一定の温度で熱してくれそうだし、迷宮都市に行ったらお酒を買い占めよう。それと火の精霊が泉の家に滞在できるような施設も作らないとな。醸造所で火を灯し続ければいいだけな気もするけど、せっかく精霊に来て貰うんだから、なんかカッコいいのが良い。


 メルみたいにを作っても俺は鍛冶をする気は無いし、何か常に火を使っていてカッコいい施設……まったく思いつかんな。


 松明たいまつやキャンプファイアーとか維持が難しそうだしなー。俺的に暗い夜を照らす松明の光とか、広場の中心で燃え上がる炎とか、心がくすぐられるんだけど現実的ではないよな。


 もしかしなくても、ディーネに頼めばわざわざ蒸留しなくても水だけ抜いて、アルコールを取り出してもらえそうな気がするけど……うーん、それだと風味とか成分とか無くなりそうな気もする。アルコール百パーセントに加水すれば、結果は変わらないんだろうか? お米と違って待ちきれない気分って訳じゃ無いしどうしよう? 


「ゆーたー、ごはんー」


 ベルが眉を八の字にして、俺の周りをふわふわと飛び回りながら言う。いかん、ベルが朝ごはんを待ちきれなくなったみたいだ。ちょっと考え込み過ぎたな。


「ああ、ごめんね。今すぐ用意するよ」


 魔法の鞄から料理を取り出しテーブルに並べる。およ? そろそろご飯のストックが無くなりそうだ。結構な大所帯で、皆よく食べるから食料の減りが早いな。迷宮都市に行く前にご飯を炊いておかないと。天日干しにした稲も乾いているし、今日はサラにも手伝って貰ってご飯を作っておくか。


「みんな、待たせてごめんね。じゃあ食べようか」


 俺が言うと、子供達が一斉にご飯に取り掛かる。サラ達はともかく、ベル達は空腹を覚えないはずなんだが、毎日三食しっかり食べているから体が覚えちゃったか? 食べている姿はホッコリするから好きなんだが精霊としては微妙な気がするな。


 前にも同じこと考えたような……そうだった問題を解決しないで先送りにしたんだよな。今更ベル達にご飯を食べさせないなんて無理だし、精霊にご飯をおそなえする習慣を広めるぐらいしか思いつかなかったんだ。今回もまた先送りだな。いい考えが浮かぶまでそっと心の片隅においておこう。


「お師匠様、今日は何をすればいいですか?」


 朝食が終わり少しまったりとしていると、サラ達が今日の予定を確認してきた。


「そうだね、今日は食事を沢山作っておきたいから、手伝ってくれる? マルコとキッカはウリとマメちゃんと訓練をしていて」


「はい! 分かりました」「わかった」「うん」


 サラは料理になると声が一回り大きくなるな。それだけ好きなんだろうし、迷宮都市に行ったらトルクさんに料理を教えて貰えるように頼んでみるか。


 俺が五十層を突破したってバレたから、マグマフィッシュの事も頼みやすいしいい機会かもしれない。ドラゴン系統のお肉を少し渡して、豪華な食事も良いかもな。ワイバーンとファイアードラゴンはまだ食べて無いんだし、本職に調理して貰えばどれだけ美味しいのか……いかん、ヨダレが……。


 順番としてはマグマフィッシュ、ワイバーン、ファイアードラゴンかな。いやいや、アサルトドラゴンの料理も本職の技術で作ってもらおう。夢が広がる。いっぺんに食べてしまうともったいないから、時間をおいて料理してもらおう。


 まあ、冒険者ギルドでちょっとヤンチャしちゃったから、騒ぎが落ち着けばだけどね。あれだけやったんだから、どっちにしろ結果は出るだろう。


 怒りに燃えて襲い掛かって来るか、周りから追い詰められてブチ切れるのかどっちかな。家の完成も楽しみだけど、ギルドの出方も楽しみだ。


「じゃあ、そう言う事でお願いね。ベルとレインは火熾しとお米を洗うのを手伝って」


「いえっさー」「キュキュッキュー」


 いいようだ。もう、イエッサーに関してはあきらめたから問題無い。どうせなら敬礼も教えておこう。やるのなら徹底的に、中途半端が一番恥ずかしいからな。


「こう?」「キュー?」「こう」「クー?」「「ホー?」」「ブギャ?」


 ベルとレインとトゥルとタマモだけではなく、フクちゃん達も合流して来たので皆に教え込む。


「うん、そうだよ。イエッサーって言う時は必ずそのポーズをするんだよ。分かった?」


「いえっさー」「キュッキュッキュー」「イエッサー」「ククックー」「「ホホッホー」」「プップギャー」


 ベル達とフクちゃん達がピシッと敬礼のポーズを決める。うん、とっても可愛い。思わず皆の頭をグリグリと撫でまわしてしまう。


 ただ気になるのが、ウリの泣き声が、世紀末に一子相伝の暗殺拳法にられた人みたいに聞こえる。まあウリは某漫画を知らないんだし、単なる偶然だよね。


 みんな可愛いけど、イルカ型のレインとフクロウ型のフクちゃん、マメちゃんが意外と上手く敬礼のポーズを決めているな。


 反面、タマモとウリは体型的に厳しいのか、プルプルしながら敬礼のポーズをしている。でも頑張っている姿がとてもホッコリだ。皆も気に入ったのか、お互いにポーズを見せあい喜んでいる。なんか良い事した気分だな。


「お師匠様……」


 一人でうなずいていると、サラ達が微妙な表情で俺を見ている。うん、言いたい事は何となく分かる。


「じゃあ、そろそろ始めようか。ベルとレインとサラはお手伝い。マルコ達は訓練。トゥルとタマモは畑と森の管理をお願いね。はい、かいさーん」


 全てを無かった事にして、皆に指示を出し料理を開始する。といってもお米を炊くだけなんだけどね。


 お手伝いしてもらながら飯盒はんごうでご飯を炊く。合間にシルフィに天日干しをしたお米を脱穀だっこく、精米をして貰う。完全に天日干しをしたお米……今度こそ味の違いが分かると良いな。


「そう言えばサラ。迷宮都市に行って状況が落ち着いていたら、トルクさんに料理を習ってみない? お願いすれば引き受けてくれると思うんだよね。大忙しだったら無理かもしれないけど」


 サラの料理の腕が上達したら、毎日の食卓が賑やかになるし俺も楽が出来る。問題は揚げ物の人気がどうなっているかだな。


「ぜひお願いします!」


 おうふ、サラの瞳が輝きまくってる。


「まあ、絶対に引き受けてくれると決まった訳じゃ無いから、あんまり期待し過ぎてもあれだけど、頼んでみるね。でも、ダメな可能性もあるから、あんまり期待しないようにね」


 そこまで期待されると、ダメだった時のショックが心配だよ。先にトルクさんに話を通してからサラに聞くべきだったかも。


 でも、サラの意志を確認しておかないと、トルクさんにお願いしたのにサラが嫌がる可能性もあったんだし……分からん。なるようになれだ。


「はい、あまり期待し過ぎないようにします」


 俺の忠告にうなずいたものの、喜びの表情だ。……あれだな……ダメだったら他に料理の先生を探そう。ちょっと心配事が増えたけど、しっかりとストック分の食料も作り上げる。あとは、迷宮都市でいろいろと食料を買い出しすれば、当分は大丈夫だろう。


 夕食で食べた完全天日干しをしたご飯は、なんとなく今までのよりも美味しく感じた……気がする。


 ***


 翌朝、サラ達をアンデッド退治の修行に送り出し、ノモスを呼び出した。


「それで、話とは何じゃ?」


「ああ、お酒を造るって言うか今までのお酒を改良して、前に飲ませた俺の居た世界のお酒を再現しようかと思ってね。本格的にやるのは次に迷宮都市から帰って来てからだけど、試作品に挑戦してみようかと思うんだけど、どう?」


「やるに決まっておろうが。何をすればいい?」「お姉ちゃんも手伝うわ」「私もお手伝いしますね」


「いや、呼んだのはノモスだけなんだけど……」


 いつの間にかディーネとドリーがノモスの後ろでやる気をみなぎらせている。さっきまで居なかったよね?


 シルフィは流石にいないな。サラ達の護衛でアンデッドの巣に行って貰っているから、戻って来てたら洒落にならない。


「道具を作ってもらうだけだから、ディーネとドリーに手伝って貰う事は無いんだよね」


「そうなの?」


「うん」


 残念そうなディーネとドリーには待機してもらい、蒸留器の仕組みと形をノモスに説明する。


「ふむ、つまり水とアルコールの蒸発する温度の違いを利用して、アルコールをくしていくんじゃな。形もよく考えておる。じゃがなんでガラスで作るんじゃ? 鉄だとダメなのか? もろいぞ?」


「さあ? 詳しくは分からないけど……金属だと匂いが付いたり味が変わったりするんじゃないかな?」


 たぶんだけど。


「なるほど、酒が金物臭かなものくさくなるのはいただけんな」


「うん、そう言う訳だから、海の砂を出しておくから小さい試作品をガラスで作ってくれ」


「うむ、任せろ」


「ねえ、裕太ちゃん。お話を聞いてたんだけど、お姉ちゃんならお水とアルコールを分離できるわよ?」


 ディーネからの鋭いツッコミが入る。水に関する事ならやっぱり分かるんだな。


「それは俺も考えたんだけど、完全にアルコールだけを取り出すのも味に影響しそうだし、普通に蒸留した方が良いと思うんだ」


 どんな成分がアルコールに残っているのかとか分からないし、熱が加わる事で何かが変わる可能性もあるよね。


「そうなのー。分かったわー」


 ディーネがちょっと残念そうにうなずく。


「まあ、最初は基本通りに作ってみて、聖域に指定されたらディーネもノモスと一緒に色々試してみると楽しいかもね。ディーネの協力があれば強いお酒が造れるのは間違いないんだから」


「うふふー、それも楽しそうね。ノモスちゃん、一緒に頑張りましょう」


 ノモスがマジで? って顔で俺を見ている。ディーネが役に立つのは間違いないんだから頑張ってくれ。


「じゃあ、俺は蒸留する為の部屋を作ってくるから、ノモスは蒸留器を作ってね。じゃあ、頑張って」


 視線をらして足早にこの場を立ち去る。なんか呼び止められた気もするけど気にしない。


 よし! さっそく作るか。俺は大きく切り出した岩山を魔法の鞄から取り出した。まずは入り口を作って、中をくり抜かないとな。


 入口は……ジルさんのところで買ったドアと同じ大きさにしておこう。買った二つはもう使っちゃったから、家を受け取りに行った時に追加で何枚か買っておこう。


 岩をくり抜くのは手慣れたもので、魔法のノコギリ、魔法のシャベル、魔法のカンナ等を使い簡単に完成させる。火を使うので換気かんきが大切だから、強度が心配だけど少し窓を増やした。久しぶりに大活躍だな、開拓ツール。地味だけど。

迷宮都市に行くのは百四十話からになります。


読んでくださってありがとうございます。

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