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百三十三話 森

 お米を手に入れてから数日。今まであんまり料理をしなかった俺だが、今はご飯系の食事を充実させる為に毎日頑張って料理をしている。でも調味料や食材の関係で作れない料理が多いのが切ない。せめて醤油と卵が好きなだけ使えたら……。


 それでもサラに手伝って貰いながら毎日大量にお米を炊き、オニギリ、チャーハン、チキンライス、オークバラ肉ドン等のご飯ものや、焼き魚、干物、浅漬けなんかの白米に合うおかずの量産も頑張っている。


 卵が手に入ればカツ丼に親子丼なんかも作れるんだけどな。あとカレーも無性に食べたくなる。醤油は難しいにしても卵は何とかなるはずだから、次は必ず手に入れよう。生姜焼きもハンバーグも食べたいな。食事が豊かになればなるほど俺の生活は快適になるんだ頑張ろう。


 死の大地に来てしまった頃は飢えと渇きにおびえていたけど、贅沢にも食べ物で悩めるようになったんだから凄い進歩だよね。


 ただ、食べ物で悩む自分が、シルフィに風で乾かして貰ったお米も白米にして食べてみたが、ディーネに頼んで水分を抜いてもらった物との違いが分からなかった。


 数日でも天日に当たっていたから何かしら違いを感じても良さそうなんだけど、俺の舌はそこまで高性能では無いらしい。完全に天日で乾かす予定のお米との違いが分かるのかが少し不安だな。


 でも、ポジティブシンキングだ。味覚が鋭いとわずかな違和感で、食事に満足でき無さそうだけど、俺ならある程度似た物を作る事が出来ればおおむね満足できると言う事だ。今みたいな環境ならとっても便利な能力だよね。


「裕太さん、ちょっといいですか?」


 料理を作り終えてボーっとしているとドリーが話しかけてきた。その横にはトゥルとタマモがふわふわと浮いている。なんだかご機嫌みたいだな。


「いいよ、どうしたの?」


「最初に作った森の方は、トゥルとタマモが一生懸命お世話をしてくれましたから、そろそろ木の実や果実を実らせても大丈夫ですよ」


「おお、もう大丈夫なの? もっと時間が掛かるかと思ってたよ」


 ドリーの話では数年から十数年かかる木の成長を一気に進めたから、実をつけるには土を良くして少し時間を置いた方がいいって言ってたから、数ヶ月は休ませると思ってたんだけどな。


「ククーー」


 ブンブンと尻尾を振りながら、少し誇らしげにタマモが鳴く。頑張った! って言ってるんだろうな。


「そっかー、トゥルとタマモが頑張ってくれたんだね、ありがとう」


 お礼を言って、右手でトゥルの頭をワシワシと撫でながら、左手でタマモをモフりまくる。タマモは「クククーーー」っとご機嫌だが、トゥルはくすぐったそうにしながらも、目線がタマモの尻尾に向かっている。褒められて嬉しいけど、自分もタマモをモフりたい! っとか思ってそうだな。


「ドリー、最初の森には実のなる植物はどのぐらい生えてるの? 小動物を放しても大丈夫そう?」


 命の精霊と契約できるぐらい生物が住みつける環境になれば有難いんだけど。


「そうですね……沢山と言う訳にはいきませんが、ある程度の数なら大丈夫です。初めは草食の小動物を三十匹ぐらいで様子を見て、本格的に増やしたいのであれば二つ目の森が実をつける事が出来るようになってからがいいですね」


 三十匹か。どんな小動物を連れてくれば良いんだろう? ネズミは爆発的に増えそうだし、リスみたいな可愛い奴か? あれ? リスってネズミ? 難しいな。自然のバランス的には肉食系の小動物も必要なんだろうけど、どのタイミングで投入すればいいのかも分からないな。


 とりあえず二つの森に草食系の小動物を放して、命の精霊と契約してからアドバイスを聞きながら生態系を作っていこう。できれば作物に害を与える虫とか動物はシャットアウトしたいな。ノミとかダニは小動物達を連れて来る前に洗浄の魔法をかければ大丈夫か?


 ほとんど天敵がいない場所だから、何も考えずに動物や虫を連れて来たら、いつの間にか繁殖しまくってそうで怖い。


「分かった。今日はもう遅いし、明日になったらお願いするよ。それからシルフィに案内してもらって小動物を捕まえに行こう」


「ピクニック?」


「ん? ああ、そうだね。ピクニックみたいなものだね。この前は小魚を捕まえに行ったけど、今回は小さな動物を捕まえに行くよ」


「どうぶつ……モフモフ」


 トゥルが嬉しそうにうなずいている。幸せそうだしそっとしておこう。ピクニックと断言しなかったのは、どちらかと言うと狩猟っぽい気がしたからだ。なんか動物達の悲鳴がそこら中に響き渡りそうだからピクニックとは言い辛い。


 お米ができてからゆったりのんびりとした時間を過ごしてたけど、明日は久々のイベントで忙しくなりそうだ。


 ***


 朝食を済ませさっそくみんなで森にやってきた。どんな実が生るのかちょっとワクワクするな。


「じゃあ、ドリー、頼むね」


「分かりました」


 ニコリと微笑んだドリーが、ふわりと手を振ると……えーっと……あっ、あそこに実が生ってるな。なんか今回は地味だ。しっかりと注目するとポコポコと実が生っているが、森に成長した時のような迫力は無い。当たり前と言えば当たり前なんだけど、ちょこっとだけ拍子抜けだな。


「終わりましたよ」


「ありがとう、ドリー。じゃあ、ちょっと見て回ろうか。ベル達とサラ達は森の中を探索して木の実や果実がなっていたら一つか二つ持ってきてくれ」


 実が生ったと聞いてウズウズしている子供達は、先に探索に行かせて俺はのんびり散策しよう。俺のお願いに子供達は一斉に森の中に飛び込んで行った。……実際にベル達は飛び込んで行ったんだから間違って無いんだけど、言葉としては違和感があるな。


 飛んで行くような勢いを表現した言葉のはずなんだが、実際に飛んで行かれると言葉として矛盾がある気がする。くだらない事を考えながら森の中を歩く。


「ゆーたー、べる、みつけたー」「キュキューー」


 さっそくベルとレインのコンビが果物らしきものを収穫して大はしゃぎで戻って来た。俺の目の前でちっちゃな両手と両ヒレを差し出すと、そこには木苺らしきものとドングリが……季節感がガン無視されているのが気になるところだが、精霊には季節も気候も関係ないらしい。


「おー、ありがとう。沢山あった?」


「きにいっぱいー」「キュキュー」


 沢山あった事を表現したいのか両手を広げての猛アピールだ。とっても可愛いけど木苺やドングリが零れ落ちているよ。


「そっかー、沢山あったんだね。見つけて来てくれてありがとう」


 お礼を言ってナデナデすると「もっとみつけるー」と言って、ベルとレインは飛び立っていった。元気いっぱいだね。


「ドリー、ドングリはともかく、この木苺っぽい実は食べられるの?」


「ええ、美味しいですよ」


 食べられるらしい。とりあえず浄化を掛けて一粒だけ口に入れてみる。……酸味が強く甘味は弱いが、ベリー系統の香りが鼻に抜け、なかなかさわやかな味わいだ。田舎の婆ちゃんちを思い出す。


 何となく郷愁らしき物を感じた後、再び森の散策を開始する。のんびり歩いていると、トゥルとタマモが胡桃くるみと栗をサラ達がビワのような実を見つけて持って来てくれた。他にも人は食べる事が出来ないが、動物達が好む実が生る植物も生えているらしい。


 俺もなんか見た事がある花を見つけ、よく見てみると椿つばきの花と実が生っていた。椿の実って食べられるんだっけ? 椿油は鉄の腕の番組で見た事があるけど、実を食べているのは見た事が無いような……でも椿油はかなり欲しい。


 確か椿油は高級品で健康にも良いってテレビで言ってた。後で一ブロックを椿で埋め尽くすのも良いかもしれない。


 椿油があって小麦粉もある。海では魚介も豊富に取れるとなると、卵が見つかれば天ぷらを作るしかないだろう。いや、自分で作る自信は無いから、これもトルクさんに丸投げだな。


 揚げ物のレシピも渡してあるし卵は手に入れているだろう。冒険者ギルドには全部バラしたんだからマグマフィッシュも渡して、色んな料理を作ってもらおう。夢が広がります。


「ドリー、あの椿を隣のブロックにでも植えたいんだけど大丈夫? 椿の種が大量に欲しいんだ」


 精霊樹の横のブロックに植えるのも考えたけど、あの周りは好立地なんだからもっと植生豊な感じで利用した方が良いよね。どうせなら色々な果物が生る木を植えたい。リンゴになし、ブドウにミカンとか、美味しい果実が実りそうだ。


 あっ、でも小動物を放したら食い荒らされそうな……ドリーに実を育てて貰えば良いんだから気にする事無いか。育てて貰った瞬間に収穫すれば食べきれないほどの果物が手に入るだろう。


「大丈夫ですよ。直ぐに生やしますか?」


「……うーん、子供達が種を植えたりするのが好きみたいだから、そこまでは自分達でやるね。成長と種の用意をお願い」


 ドリーがニコニコとうなずいてくれたのでちょっとホッとする。冒険者ギルドで意外と容赦のない所を見たからな。外見に惑わされないように誠実に関わらないと、ちょっと怖い。


 子供達の報告を聞きながら森の中心の池に到着する。水生生物の調子はどんな感じだろう。池を覗き込んでみると、綺麗な水の底に植物や水苔が定着し小魚が数匹泳いでいるのが見えた。植物も変色していないし、いい感じに見えるんだけどどうなんだろう?


 隣でベル達やサラ達も池を覗き込んでいる。自分達が取って来た魚や植物が順調そうなのが嬉しいのか、キャイキャイと楽しそうだ。


「ディーネ、池の動植物は順調に見えるけど、実際のところ上手く行ってるの?」


「んー、そうね。お魚は環境の変化に耐えられなかったのか、何匹か死んじゃったけど概ね順調だと思うわー。植物の方はお姉ちゃん分からないから、ドリーちゃんに聞いてねー」


 ドリーに目線を向けると「問題ありません」っとの事だ。水の大精霊と森の大精霊が大丈夫だって言ってるんだから、順調なんだろう。この調子で増やして行けば釣り堀も夢ではなさそうだな。


 池も順調だし森の食料も大丈夫そうだ。これだけ食料が豊富なら三十匹どころかもっと数がいても問題無さそうだけど、繁殖とかを考えるとやっぱり最初は少ない方が良いんだろう、天敵がいないからあっという間に増えそうだしね。


 あとは木だけではなく地面に草も必要だな。これもドリーに頼まないと。のんびりしていたけど忙しくなって来たな。さっそくシルフィに連れて行ってもらうか。

百三十二話の実食で、お米を炊く前にお米を洗わないのかっと言うご指摘を幾つか頂いています。前話の百三十一話でお米をレインに洗って貰っていますが、日をまたいでしまった事で分かり辛くなってしまいました。申し訳ありません。もう少し文章の構成を考えられるように頑張ります。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
この主人公鉄の腕の番組見る時間本当にあったのか…?(笑) 自分も見てたやつだと思うけれど最近見ないなぁ…
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