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百三十一話 精米

 ベル達に手伝って貰いながら、楽しく稲刈りした。もう直ぐピカピカの新米が食べられます。


「師匠、このお米ってどうやって食べるの? おいしい?」


 マルコが興味津々で聞いてくる。さて、どうなんだろう? 地球でも外国の人はお米の匂いを嫌がる人もいるって聞いた事があるんだけど、異世界の獣人はどうなんだ? とりあえず……ハードルを上げるのは危険なのは分かる。


「んー、特別に美味しいって訳でも無いんだよね。マルコにとってのパンみたいなものだから、俺にとっては無いと悲しい食べ物だね。いくつか料理を知ってるから、多分マルコ達も気に入ると思うよ」


 料理と聞いてサラがジッと俺を見つめるのでうなずいておく。作る時にお手伝いしたいって事だよね。


「そっかー、よく分かんないけど楽しみ!」


 俺の説明では良く分かんなかったらしい。まあ、期待を裏切らないように頑張ろう。俺は白米で良いとして、子供達には何を食べさせるかな、最初が大事だから味がついていて食べやすい物を作るのが良いだろう。


 だがそんな事を考える前にお米を食べられる状態にしないと話にならない。最後の詰めを頑張ろう。都合よく稲は三つのはざに掛かっている。これなら分けやすいな。


 一つはそのままにして、天日で乾燥させる。もう一つはシルフィに熱風をかけて貰って短期間で乾かす。最後の一つはディーネにそのまま水分を抜いてもらう。ただ、問題はそうやって乾燥させたお米の違いを俺の舌が見分ける事ができるかだな。ちょっと無理な気がしてきた。


 まあ、やるだけやってみよう。分からなかったらその時は一番楽な方法で良いって事だからな。シルフィとディーネを呼んでお願いする。


 ディーネに頼んだお米の水分を抜く方法は問題無かったが、シルフィの「熱風ってどの位の熱さ?」っと言う質問には頭を悩ませた。あんまり熱いとそれはそれで危険な気がするので、体感でちょっと熱いかなって温度の風にして貰い少し時間を掛けて乾燥してもらう事にした。こんなに適当で大丈夫なのか不安です。


 後は白米にする為にもみを取り除いて精米をしないとダメなんだけど、これはシルフィに頼もう。説明すれば風の力で何とかなるはずだ。


 ……お腹空いたな。できればでき立ての白米でお昼にしたかったんだけど、まだまだ時間が掛かりそうだし、お昼は普通に食べて、白米は夜だな。


 お昼の準備をして子供達に食べさせる。サラ達は田植えと稲刈りで随分とお腹が空いていたのか、いつも以上に沢山食べていた。間に軽食にサンドイッチも出してたんだけど、それでは足りなかったらしい。


 沢山食べて沢山運動しているからか、肉付きも良くなってるし、今からドンドン大きくなるのかもしれないな。


 昼食が終わり手伝って貰う事も無いので、ベル達は遊びに行かせサラ達は訓練に行かせた。俺は頑張って、夜にはしっかり白米を食べられるようにしないとな。


 お米を乾かして貰っている間にやっておく事は……そうだ! 米はかないと食べられないんだ。炊飯ジャーとか無いし、自分で炊かないとダメなんだよな。


 鍋でお米を炊いた事なんて無いぞ。はじめちょろちょろってやつは御釜でご飯を炊く方法だよな。同じ方法で良いのか? 鍋を取り出してみるがふたも心許ないし、上手に炊ける気がしない。結構なピンチだ。


「ノモス、作って貰いたい物があるんだがいいか?」


「ん? ああ、構わんぞ。何を作るんじゃ?」


 口では説明し辛いので、図に描いて説明する。御釜で炊くのは難しそうなので、飯盒はんごうを作って貰おう。飯盒ならバーベキューやキャンプで何度かやった事があるからな。おそらくなんとかなるはずだ。


 できるだけ細かく知っている事を伝え、蓋と内蓋が食器になる所まで忠実に再現した飯盒を三つ作ってもらった。地味に食べる人数が多いから一つじゃ足りないよね。飯盒の材料は買い溜めした料理を入れておいた鍋を提供した。次に迷宮都市に行ったら料理とお鍋をまた買い揃えておかないとな。


「裕太ちゃん、お米が乾いたわー」


 待望の声が聞こえた。いよいよ最終段階、お米まであと少しだ。いそいそとディーネにお礼を言って稲の状態を確認する。まあ、稲についた状態のお米とか初めて見たから分からなかったけど。問題無いという事にしよう。次の工程は稲から実を取り外す作業だな。


「えーっとシルフィ、風の力で脱穀できたりする? その後にもみを外して精米して欲しいんだけど」


 ダメだったらノモスに千歯こきから作ってもらう必要があるから少し面倒だ。


「んー、もみを外すまでは問題無いけど、精米ってどうすれば良いの?」


 千歯こきは必要なさそうだな。精米は……できるのか? とりあえず説明してみよう。


「たぶん風の渦を作って実と実を擦り合わせて研げば、精米できると思うんだけどできそうかな?」


「ああ、それならできるわね。じゃあやっちゃうわ」


 できるんだ。


「お願いします」


 要望は伝えたので後はシルフィ任せだ。どうなるんだろうとちょっとワクワクして見ていると、無数の小さな竜巻が生まれ、稲穂に近づいて行く。


 おおう、なんかダ〇ソンの掃除機みたいだ。竜巻が稲穂に当たると激しい風が実を吸い出している。吸い込まれた実は竜巻の中で激しく回転してもみも同時に吹き飛ばしている。


 ん? 重さの違いかくき等の細かいゴミ、もみ、玄米と三層構造になってるぞ。ここで分別まで済ませているのか。俺のあやふやな説明でここまでできるなんて凄いっす。


「後はこの実を擦り合わせて磨けば良いのよね?」


 全ての実を吸い出したシルフィがこちらを見る。既に吸い出された実は、玄米の状態になって大きな球体状の風の中で泳いでいる。


「う、うん」


「分かったわ。磨き具合が良く分からないから、偶にお米を裕太に飛ばすからそれで判断してね」


「分かった」


 俺が返事をすると玄米を内包している風の球体がドンドンちぢんでいき、玄米と玄米が風の中で擦り合わさりみがかれていく。


 少し待つと風が一粒のお米を俺の前に運んできた。シルフィがこっちを見ているので確認すれば良いんだろう。お米を見てみると少し茶色っぽい。ぬかがまだ取れていないな。まだ精米を続けてくれるように頼む。


 何度か確認を繰り返すと、俺の知っている米袋に入っているお米になった。その白い粒を見るといきなり涙が出てきた。涙を拭きながら精米はもう十分だと伝えると、シルフィが泣いている俺を見て驚いたのか慌てて飛んで来た。ちょっと恥ずかしい。


「裕太、どうしたの? 大丈夫?」


「大丈夫。お米を見たら嬉しいと言うかホッとして涙が出ただけ。ずっとお米が食べたいって思ってたけど、これから我慢する必要が無くなったからホッとしたんだと思う」


 この世界に来て食事の時は毎回お米が食べたいって気持ちになるから、我慢するのが大変だったもん。オーク肉とか、絶対豚丼にするべきだって毎回毎回思ってた。これからはもうそんな気持ちにならなくて済むと思えば、涙の一つや二つ出てくるよね。


「そ、そうなの?」


 どうやらシルフィはよく分かっていないようで、首を傾げている。まあ、物を食べる必要がないから分からないのも当然だな。


「なんて言うか、シルフィがお酒が無い世界に行っちゃって、もうお酒を一生飲めないんだなーって思っていたら、ひょんな事からお酒を発見、これからは好きなだけお酒が飲めますよって気持ちかな?」


「……なるほど、それは嬉しいわね」


 うんうんと頷くシルフィ。分かってくれたようだ。大精霊相手に物事を説明する時はお酒が重要なファクターになるな。そもそもお酒以外で食い付かせる物質が無いんだけどね。


 地球のお酒を頑張って開発すれば大精霊も思うがままに……今でも十分協力してくれているし、これ以上力を振るわれたら俺が怖いな。協力してくれるお礼として、飲んで貰えるように開発するぐらいで良いか。


「それで、裕太、お米はともかく、磨いた粉は捨てても良いの?」


 粉ってぬかの事か。ぬか漬けが作れるはずなんだけど作った事が無いんだよな。塩や辛子を使うのは聞いた事があるんだけど、まあ、取っておいて気が向いたら挑戦してみるか。他にも魚のエサにもなるはずだし持っていても無駄にはならないだろう。


「いや、粉も使うからこっちの袋に入れて。お米はこっちの袋にお願い」


 布の袋を取り出して、お米と糠を別々に入れて貰う。お米だけで大きな布袋三つ分。これと同じ量の米が二つ分はざ掛けしてあるから、当分は大丈夫だな。くふっ、さっそく晩御飯の準備をしないとね。夕食までだいぶ時間があるけど、魔法の鞄に収納しておけば問題無い。まずは家に移動だな。


「おーい、サラー。料理するからおいでー」


 約束通りサラも呼んで料理を始める。おっと、ベルとレインにも手伝って貰わないとな。火熾しと水洗いはベルとレインに任せれば完璧だもんね。


 サラ、ベル、レインと一緒に待望の料理を始める。俺はお米ができたら干物に白飯って決めてあるから問題無いけど、ベル達やサラ達には何を食べさせよう。最初に白米はハードルが高そうだから、お米料理で……思いつくのはチャーハンかオムライス。


 卵が手に入っていないから、オムライスは無理で作るとしたらチャーハンかチキンライスか。第一印象が真っ赤なご飯って言うのも変な印象を植え付けそうだから、チャーハンにするか。


 チャーハンにも卵は入れたいところだけど、今回は我慢って事で。次に迷宮都市に行ったら卵をしっかりと探そう。


「ベルは焼き台の炭と横に置いてある薪の火熾しをお願い。レインは今回収穫したお米とお野菜を綺麗に洗ってくれ」


「ひおこしー」「キューー」    


 お手伝いだーっとワクワクしていたベルとレインが、右手と右ヒレを高々と上げたあと、お手伝いを開始した。


「サラはレインが野菜を洗い終わったら、玉ねぎをみじん切りに、ネギは輪切りにしてくれ。玉ねぎを切ると涙が出て来るから、フクちゃんに頼んで顔の前に風のまくを張って貰うと切りやすいよ」


「分かりました。フクちゃんお願いね」


 異世界でも玉ねぎを切ると涙が出る。電子レンジで少し温めたり、水に浸けながら切るなどの涙が出にくくなる方法もあるが、ファンタジー世界にはファンタジー世界ならではの確実な対策がある。


 魔法があれば玉葱から出る硫化アリルなど恐るるに足らず。魔法の力でスパスパ玉ねぎをみじん切りだ。……フクちゃんやベルにそのまま玉ねぎを粉みじんにして貰えば早いような。……サラのお料理修行だから今回はこれで良いんだ。そう言う事にしておこう。


「キュキュー」


「おっ、洗い終わったんだね。新米もお野菜もピカピカだね。ありがとうレイン」


 レインの頭とホッペをスリスリと撫でまわしお礼を言う。後のお手伝いは無いから遊んでおいでっと言うと、俺とベルにスリスリしたあと「キュキュキュー」っと飛んで行った。相変わらずとても可愛い。


 さて、目の前にあるのはピカピカの新米。いよいよ飯盒炊爨はんごうすいさんのお時間だ。くふっ、上手におこげも作っちゃうよ。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] チャーハンに玉ねぎを入れると水分が出過ぎてベチャベチャになりやすい。というかチャーハンに玉ねぎは入れないと思う。
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