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百三十話 田植えからの稲刈り

 ドリーがお米を作れる事が判明して、急遽きゅうきょ水田を作り苗を用意してもらった。今日はめでたい田植えの日だ。天気も快晴で天も田植えを喜んでいるんだろう。


 あっ、死の大地には雨が降らないんだった。思わず最後にカッコ笑いって付けたくなるような事を考えてしまった。死の大地ジョークってやつだな。面白いかどうか保証は出来ない。


「ゆーたー。おてつだいわー?」「キューー」「がんばるよ?」「ククーー」


 俺がくだらない事を考えている間に、ベル達が待ちくたびれてしまったようだ。


「待たせてごめんね、今から始めるよ。ベル達にも沢山頑張って貰うからね」


 俺が言うとベル達がんばるーっと集まってきたので、たっぷりと撫でまわしてから田植えの説明を始める。と言っても簡単な説明しか出来ない。ドリーに用意してもらった苗を、四本から五本掴んで線が交わった場所に植えるだけだ。


 簡単に説明が終わったので田植えを開始する。ベル達は「きゃふー」っと苗を掴んで飛び立ち、線の交わった場所に体ごと突っ込んで植えている。なんか急降下爆撃みたいな感じだ。いや、地面に突っ込んでるから単なる特攻かな?


 魔法を使えばもっと簡単に苗を植える方法はあると思うんだけど、あの植え方がベル達のツボにハマったのか、物凄く楽しそうに田植えをしている。


 レインとタマモは短いヒレと、短い前足でちょっとプルプルしながら苗を持っているから、ハラハラ感と可愛さを兼ね備えながら、地面に突っ込む良く分からない光景になっている。まあ、ベル達は楽しそうだから問題無いか。


 サラ達は……「あはは、足がしずむー」「おにいちゃん、あしがぬるぬるするー」「マルコ、キッカ、はしゃぐと転びますよ。気を付けて」……うん、こっちもなんか楽しそうだしいいか。フクちゃんやウリ、マメちゃんも協力してくれているし、安心だな。


 俺も小学生以来の田植えに挑戦だ。パン一になり、田んぼに足を踏み入れる。ヌポッと足が泥の中に沈み込む。おおうふ、そうだったこんな感触だった。裸足はだしだから足の指と指の間をニョロニョロと泥が通り抜ける。意外と嫌いじゃ無いなこの感触。


 微妙にゾワッとくる感覚を楽しみながら、線の交わる場所に苗を植えていく。この一つ一つがお米になり俺の胃袋を満たしてくれるんだな。超絶楽しみです。


 しかし、俺も結構頑張って苗を植えてはいるんだが、ベル達のペースにはまったく届いてない。田植えで空を飛べるのがあれほど有利だとは思わなかったな。


 まあ、考えたら足を取られる泥の中を進まなくていいんだから、有利なのも当然なんだけど、田植えと空を飛ぶ行為が頭の中で結びつかなかった。だいぶファンタジー世界にも慣れたと思っていたが、まだまだファンタジーも奥が深いらしい。


 マルコが顔から泥に突っ込む等の定番のアクシデントもこなしながら、全ての苗を植え終える。「あ゛ーー」っと言いながら水田を出て体を浄化しながら腰を揉み解す。


 今度農作業をする時は、腰が痛くなるはずないと思い込む予定だったが、お米に目がくらんで完全に忘れてた。そして当然のごとく腰が痛い。次こそはしっかりと思い込まないとな。


「たのしかったー」「キュキュキュー」「どろもすき」「クククー」


 ベル、レイン、トゥル、タマモが興奮しながら飛び付いて来た。田植えがお気に召したらしい。そう言えば苗を植えている間、ずっと笑ってたもんな。


 グリグリと俺にしがみついて楽しかった事を語ってくれるベル達、とてつもなく可愛い。お手伝いのお礼を言いながらいつものように撫でまわす。本日二回目、ハイペースだな。


「サラ、マルコ、キッカ、田植えはどうだった? きつくないか?」


「いえ、全然疲れて無いです。とっても楽しかったです、お師匠様」


 おっ、なんかサラの雰囲気がいつもと違うな。表情が子供っぽいと言うか、まあ、子供は子供なんだけど、何時もより数段子供っぽい。もしかして泥んこ遊びがサラの童心を呼び起こしたのかも。田植えを定期的なイベントにするのもありかもな。


「楽しかったのなら良かったよ、マルコとキッカはどうだった?」


 何となくサラの頭を撫でながらマルコとキッカにも話を聞く。


「楽しかった!」「おもしろかった」


 うむ、子供達全員に好まれているのなら、イベントにしても問題無いな。食べきれなくなるだろうが、魔法の鞄なら収納も問題無い。米が大量になったらこの大陸に米を流行はやらすのも有りだ。


 楽しかった疲れていないとは言っても、ずっと作業をしていたんだ。疲労も溜まっているだろう。ドリーにお米を急成長してもらう前に少し休憩するか。


 テーブルを出し飲み物とサンドイッチを取り出す。ベル達とサラ達にも休憩を取らせて、のんびりと田植えが終わった水田を眺める。


 日本に居た頃に周りに田んぼがあった訳では無いんだけど、何処か郷愁きょうしゅうを感じる光景だ。日本人のDNAにそう感じる情報がきざまれていそうだ。……なんかDNAとか難し気な言葉を使うと頭が良さそうでいいな。


「ドリー、そろそろ頼むね」


 バカな事を考えてないで今はお米に集中しよう。


「分かりました」


 ドリーが手を一振りすると、水田の苗がドンドン成長していく。ヒョロッと頼りなかったくきや葉が太くなり、分蘖ぶんけつしながら茎を増やし水田が緑に染まる。あれ? 止まった。


「どうしたの?」


 一気に黄金の稲穂まで進むと思ってたんだけど、止まっちゃった。あっ、なんか稲があり得ない動きをしだした。


「花が咲いたので受粉させるんです。普通は風が受粉させるのですが、今回は直接操作しています」


 ……なるほど、いちおう手順は踏むんだ。米自体を作れるんだからすっ飛ばしてもいい気がするんだけど。早送りをしている感じなのかな?


 そして何より何処に花が咲いているのか分からない。近くに行って観察してみると、緑の稲穂に小さくて白っぽい花? が咲いていた。稲の花ってとてつもなく地味なんだな。ベル達もサラ達もリアクションが取り辛いようだ。


「じゃあ続けますね」


「うん、お願い」


 再び成長が始まり稲穂が重くなって来たのか、ピンと伸びていた稲がこうべを垂れるように、稲穂を下げ色づいていく。


「裕太さん、ディーネに水を抜いて土を乾かすように頼んで下さい」


「水を抜くの?」


「はい」


 ……よく分からんがドリーの言う通りにしよう。


「ディーネ、ちょっといいか?」


「なーに、裕太ちゃん。お姉ちゃんに用事?」


 ベル達と遊んでいたディーネを呼ぶ。


「ああ、水田の水を抜いて欲しいんだ。地面もかわかしてくれると助かる」


「うふふー。お姉ちゃんの出番なのねー。わかったわ任せてー」


 上機嫌になったディーネが、水田に手を振ると水が噴水のように打ち上がり、最終地点の泉に流れ込んでいく。


 よく考えたら水田を作ると豊かな生態系が作れるようになる! みたいな考えだったけど、田植えから収穫まで一日で済ませたら、豊かな生態系なんて作る暇がないな。


 打ち上げられていた水がおさまると、水田の泥から霧のように水分が浮き上がりだした。それを見ていたベル達が好奇心に負けたのか、稲穂の上を飛び回る。


 なかなかファンタジーな光景だな。稲穂に霧が立ち込め、幼女と少年とイルカとキツネとウリ坊とフクロウが飛びまわる。和とファンタジーの融合。見事だ。


「裕太、どうしてうなずいてるの?」


 シルフィに不思議そうに聞かれた。なんとなく芸術家っぽい雰囲気を出して自己満足に浸っていたとは言い辛い。


「念願のお米が目の前だからね。なんか感動して頷いてたんだよ」


 苦しいか?


「そうなの? まあ、いいわ」


 ……よくわからないけどそうなのかしら? って感じで納得してくれた。


 水が抜けると、再びドリーが稲の成長を早める。みるみるうちに水田が黄金色に染まり、お米の収穫時期を迎えた。


 小学生の頃に授業で見た、稲の成長動画の方がもっと分かりやすかった気がする。実物の成長過程を生で見ているのに不思議な気分だ。


「裕太さん、終わりましたよ」


「あ、うん。ありがとう、ドリー。もう収穫していい?」


「はい、大丈夫です」


 ついに収穫か……お米が手に入るのは嬉しいけど、田植えからあっという間だったからついにって感じでも無いか。えーっと次は……稲刈りをしてはざ掛けって作業をするはずなんだけど、たしか二週間以上干すんだよな。


 目の前に米があるのに二週間の我慢は切ない。ディーネに水分を抜いてもらうか、シルフィに熱風で乾燥させて貰うか、大人しく我慢をして二週間以上待つか、とてつもない難問だ。


 どうしようかとシルフィに相談すると「全部試せばいいじゃない」って言われた。確かにそうだよね。じゃあ準備をしてしまおう。


 まずは前に森で採取してディーネに水分を抜いてもらった木材を取り出し、サラ達にも手伝って貰いながら、稲を干せるように組み立ててロープで縛り付ける。


 とりあえず、どの位の稲がどのぐらいの量になるのかも分からないので、出来るだけ沢山組み立てから、農業の醍醐味だいごみ、収穫だな。ほとんど苦労をしていないので、最初にオイルリーフが取れた時ほどの感動はないが、米ってだけでテンションが上がるので問題は無い。


「よし! 皆、収穫するよ。まずはお手本を見せるからよく見ていてね」


 稲に近づき根元を掴み、魔法のノコギリで切り離す。それをワラで縛り……縛り……難しい。急遽きゅうきょドリーに頼み蔓の植物を育てて貰いロープ代わりにする。それで、えーっと、縛りはざに掛ける。


「これが一連の流れだからね。みんな分かった?」


「お師匠様。ナイフでは切り辛そうなんですが、どうしたらいいですか?」


 サラはまだまだ甘いな。甘々だ。応用が足りん。まあ、目の前でノコギリで切っちゃったからしょうがないけどね。


「サラ、サラは精霊術師だよね。自分で切れないのならどうしたらいいと思う?」


「……フクちゃんの力を借りる、ですか?」


「正解! サラもマルコもキッカも、フクちゃん達の力を借りて、怪我をしないように頑張ってね」


「「「はい!」」」


 稲に走り寄りさっそく収穫を始めたサラ達の様子を見る。サラは……稲を掴んでフクちゃんがスパッと切る。蔓のロープで稲を縛りはざ掛けに。うん、問題無いな。


 マルコは……最初に稲を縛り、ウリが土を動かし根っこごと取り出している。頭が良いな。でもはざ掛けって根っこがついていてもいいのかな? ……まあ、切っても抜いてもそう違いは無いはずだから大丈夫だろう。


 キッカは……ちょっと苦戦中みたいだな。マメちゃんに頼んで稲を切るのは問題無いけど、縛るのが苦手みたいだ。作業は遅いが、ちゃんと最後まで出来ているし問題は無いだろう。


 子供達は大丈夫だし俺も収穫を再開しよう。しゃがんで稲の束を掴むと何故か横にベル達が並んでいる。


「さいしょはべるがきるー」


 俺が掴んでいる稲をスパっと風で切り離してくれた。なるほど、サラ達の様子を見て切るのは自分達の仕事だと思ってるんだな。……魔法のノコギリの出番は消えるが、ベル達の笑顔を曇らす訳にはいかない。


「ありがとうベル」


 お礼を言って稲を縛ると、ベルが両手を出してきた。どうやら稲を干すのもやってくれるらしい。ベルが稲をもってはざに飛んで行くと「キュキュー」っと楽しそうにレインがアピールしてきた。後ろでトゥルもタマモも自分の番を待っている。


 うむ、順番に手伝ってくれるんだな。これはこれで楽しく収穫出来そうだ。可愛い精霊達を愛でながら、楽しくお米を収穫する。いい感じだ。

読んでくださってありがとうございます。


お米の水抜きのタイミングがおかしいとのご指摘を頂いたので修正しました。

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