表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/754

百二十七話 のんびりまったり

 みんなで精霊樹の周りを芝生でおおった。強い日差しにきらめく精霊樹と緑の絨毯じゅうたん、その間を流れる水路……なかなか素晴らしい場所なんじゃなかろうか。


 特に精霊樹の木陰になっている場所の居心地がとても良さそうだ。ハワイにある、気になる感じの木の場所もこんな感じなのかな?


 ……俺、ハワイに行った事無いんだけど、日本人としてはハワイは行っとくべきだった気がする。実際のところハワイって、日本人だとどのぐらいの割合で行った事があるんだろう?


 芸能人は良くハワイに行ってるイメージだし、海外旅行の定番……いや、それは昔の話なのか? でもハワイで結婚式とかよく聞くしな。


 ハワイって空港から出ると、フラガールの綺麗なお姉さんが出迎えてくれて、レイだっけ? 花の輪っかを首にかけてホッペにチューしてくれるイメージなんだけど、実際のところどうなんだろう?


 今になって無性に気になってきた。俺、こんなくだらない難問を一生抱えて異世界で生きて行くのかな? ……忘れよう。無理やりにでも忘れよう。こんな悩みを一生抱えるのは嫌だ。  


 さーって、次は森を作る予定なんだけど、こんな光景を見たら少しはのんびりしたいよね。ベル達と戯れて気分爽快になろう。


「みんな少し休憩にするよ。軽食と飲み物を出すから、少しのんびりしよう」


 テーブルを出して、気軽に食べられるサンドイッチと紅茶とジュースを並べる。


「裕太ちゃん、お酒はないの?」


「無いよ」


 ここでお酒を出したら、少しの休憩が夜までの宴会になる事は目に見えてるからな。ちょっと残念そうなディーネには気付かないフリをして、皆を呼び集め簡単なお茶会のようなものを始める。


 俺はサンドイッチを摘まみながら、ベルに串焼きを食べさせたり、レインに極厚なサンドイッチを食べさせたり、トゥルに飲み物を注いであげたり、タマモをモフモフしたりと大忙しだ。


「お師匠様、お手伝いしましょうか?」


「ん? いや、大丈夫だよ。俺の事は気にしないで、サラ達はフクちゃん達としっかりとコミュニケーションを取る事。色々と経験を共有して、契約精霊とのきずなを深める事が一番大事な事なんだからね」


「分かりました。私ももっと仲良くなれるように頑張ります」「おれもがんばる!」「キッカも!」


 ふー、危なかった。ただ気分転換したかったから、ベル達に構いまくってたんだけど、師匠としてそんな事を言う訳にはいかないからな。


 サラ達が甲斐甲斐かいがいしくフクちゃん達の世話を焼く様子を見ながら、ホッと胸を撫でおろす。本当にコミュニケーションは大事なんだから、ウソを言った訳じゃ無い。だから、何の問題も無いはずだ。


 賑やかなお茶会を終えて、精霊樹の木陰に入り生えたばかりの芝生に寝っ転がる。芝生に寝っ転がるなんて大学生の頃以来だ。こっちに来てから強制的に厳しい自然を満喫させられていたけど、俺はこの場所みたいに少し人の手が入っている方が好きだな。


 サンドイッチを食べ、満足した子供達が芝生の上で思い思いに遊ぶ姿を見て、ホッコリする。完全に父親の気分だ。サラ達もだいぶ子供っぽい所が出て来たし、沢山ご飯を食べているから肉付きも良くなって来た。これからグングン成長していくんだろうな。


 異世界に来たのにろくな出会いも無いし、もうあの子達にお父さんと呼ばせて、のんびり子育てしながら余生を過ごそうかな。無理に人里に出て揉め事を起こすよりも、死の大地に引き籠ってゆったりスローライフの方が俺も他の人も幸せな気がする。


 ………………いや、待て。流石にそれはダメだろう。もうハーレムとか贅沢は言わないから、せめて奥さんが欲しい。とっても美人な奥さんを捕まえて、死の大地でのんびりイチャラブなスローライフ。


 理由も分からずいきなり過酷な大地に放り出されたんだ。少しはいい目をみないと死んでも死にきれない。死の大地に理想の生活環境を作り上げ、笑って人生を過ごすんだ。


「裕太、なんか表情が沈んだり喜んだりと忙しいけど、どうかしたの?」


 ボーっと幸せな未来について考え込んでいたら、いつの間にかシルフィに顔を覗き込まれていた。ちょっと恥ずかしい。


「ここに来てからの事を思い出してたんだ。芝生に寝っ転がる事が出来るなんて想像してなかったよ。俺、結構頑張ったよね」


 自画自賛だけど、自分で自分を褒めてもいいと思う。草も生えない死の大地での精霊樹の木陰の芝生の上でお昼寝。お嫁さんが居ればもはや勝ち組レベルだ。


「ふふ、確かにそうね。裕太は結構頑張ったと思うわ」


 褒められた。実際には昔を思い出すほど時間は経っていないんだけど、結構濃密な生活だったから褒められると素直に嬉しい。


 芝生に転がって遊ぶサラ達や、楽しそうに緑の中を飛び回るベル達を見守りながら、のんびりした時間を過ごす。泉の家が快適になればなるほど、こうやって楽しい時間が過ごせると思うとやる気が湧き上がってきた。そろそろ森を作るか。


「ドリー、森をもう一ブロック増やすけど、何処が良いかな?」


「そうですね、精霊樹に近ければ近いほど森に良い影響がありますから、隣接する場所が良いと思います」


 時間が経って精霊樹がもっと土に馴染めば、拠点の何処に森を作っても誤差みたいなものらしいが、今だと隣接した場所が良いらしい。


「じゃあ、精霊樹の奥に森を作ろうか。種をお願いね、いずれ森に小動物を放つつもりだから、エサになる実が生る木が良いな」


「分かりました。ではご用意しますね」


 ニコリと微笑むドリーにお礼を言って、みんな精霊樹の奥のブロックに移動する。


「じゃあ、このドリーが用意してくれた種をタマモに聞きながら植えてね。サラ達は初めてだけど、植えたい種をタマモの前に持って行けば案内してくれるからね」


 俺の説明が終わると、大精霊以外の全員がタマモの前に並ぶ。今日はタマモ大活躍だな。タマモも嬉しいのか空を飛んでいるのに、尻尾どころがお尻までフリフリしながら空中を歩いている。


 実は全部をドリーに頼めば地中に種を生み出し、そのまま成長させる事も可能らしい。一瞬それも楽で良いかなって考えたけど、みんなが森作りに関わった方が愛着あいちゃくが湧くから、手間を掛ける方を選択した。子供達も楽しそうだし間違っていないはずだ。さて、俺も種を植えるか。


 俺も参加してタマモに種を植える場所を教えて貰いながら、一つ一つ種を植える。結構腰に来るのが不思議だ。ドラゴンを倒せるほどの男になっても、腰にはダメージが通るのは理不尽だよね。


 それともこういう作業をしたら、腰が痛くなるって思い込みのせいかもしれない。次に農作業をする時には、腰が痛くなるなんてあり得ないって思いこみながら作業をしてみよう。


「これで種を全部植えたな。ドリー頼むね。みんなは俺の後ろに下がってくれ」


 俺の頼みにコクリとうなずいたドリーが、一歩前に出てふいっと手を振ると、ピョコピョコピョコピョコっと俺達が植えた種から芽が出る。


 本来は手を振るアクションすら要らないらしいが、俺に分かりやすいように手を振ってくれているらしい。前に大精霊で相談して決めたって、飲んでる時にシルフィが教えてくれた。お気遣いが大変有難いです。


 前回木を育てて貰った時はある程度大きくなってからだったから、この光景は始めて見る。タマモは部分部分に分けて成長させていたけど、ドリーは一回で一ブロック丸ごとでも簡単に成長させられるから凄い。サラ達も驚きの声をあげ、目の前の光景に見入っている。


 そうしてもう一度手を振ると、出ていた芽が急激に成長し立派な森になる。前回も思ったけど、この能力があれば材木商にもなれるよね。冒険者の方が儲かるからやらないけど。


「終わりました。あとは前と同じように、ノモスにお願いしてください」


「ありがとう、ドリー。確か栄養のある土だったね。ノモス、今から出すからやってくれる?」


 急激に成長したぶん、土の力を奪っているので栄養がある森の土をしてやる必要があるらしい。


「そうじゃの早い方が良いだろうし今済ませてしまうか。そこに森の土を出すがええ」


 ノモスに言われた通りに魔法の鞄からドバドバと新しい土を出すと、モコモコとその土が動き栄養が奪われた土と混じり合っていく。力を失った土は別のブロックに運ばれノモスが時間をかけて回復してくれる。拠点周りにドンドン元気な土が増えるから、いずれは大森林も夢じゃないな。


 でも、開拓をしたブロックをほとんど使用していないんだよな。これからも元気な土はどんどん増えるだろうし、空いているブロックの利用法をも考えないとな。


 土を混ぜ終わると、ノモスにお礼を言って少し遅い昼食にする。軽食にサンドイッチを食べたから、丁度いいと言えば丁度いいな。


 昼食が終わったらどうしようかな。サラ達は昨日巣の攻略に行かせたから、今日はここで訓練にして、俺は……微妙にやる事が無い。


 小動物を確保に行くにも森はもう少し経たないと実をつけるには木に負担が掛かるらしいし、他のブロックを如何するかもまだ決まっていない。とりあえず何か思いつくまで木材を使いやすいように加工しておくか。


 家は無理だとしても、倉庫とか家具の簡単な物ぐらいなら……お金はあるんだし買った方が早くて良い物が手に入るな。そもそも倉庫とか魔法の鞄があるから必要無いし、マジで何をしよう。


 うん、あれだな……明確にやることが見つからないから、これからの予定をしっかり考えよう。実際に泉の家には足りないものが沢山なんだ。少し考えればやらなきゃいけない事なんて山ほど見つかるはずだ。


 ん? ………………そういえばドリーって種が作れるんだよね? なんか俺にとって、とっても大事な事が……出来る気がする。感覚を研ぎ澄ませ。上手く行けば幸せがやってくる予感が……米?

読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ