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百二十三話 泉の中

 池に放す水生植物と小魚を確保しに、シルフィの案内で生きている大地の森に飛んで来た。森を散歩がてら薬草を採取し、お昼ご飯を食べる。


 普通なら特別感があって美味しさアップなはずなんだが、迷宮の森で普通に同じ事をしていたので、ほとんど新鮮味も無く昼食が終わった。次からは思いつきではなく、しっかり準備をしてバーベキューでもしよう。


「裕太ちゃん、いよいよお姉ちゃんの出番よね!」


 食後に少しまったりしていると、ディーネが楽しそうに言ってきた。ちょっと楽しそうなのは泉の側だからかな?


「うん、泉での採取のサポートを頼むよ。方法はディーネに任せるけど危険が無いようにお願いね」


「ふふー。任せて! ねえ、裕太ちゃんどんなのがいい? 水がけるようにするとか、水中で息が出来るようにするとか」


 どっちも凄いな。うーん、水が避けてくれれば採取は楽そうだけど、暑い中に泉に来て水に触れないのは残念だ。でも、水中で息が出来るようになる理屈も分からん。何がどうなれば息が出来るんだ?


「ディーネ、どうやって水の中で息が出来るようにするの?」


 俺が聞くと、コテンと首を傾げながらこう言った。


「魔法をかけるのよ」


 ですよねー。なんでそんな事を聞くのって表情も納得です。理屈じゃ無いんだ、だって魔法なんだから。


「じゃあ、水中呼吸の方で頼むよ。サラ達には俺から説明するから、くわしく効果を教えてくれ」


「魔法が掛かっている間は水の中で息が出来るの。魔法の継続時間は今日一日ぐらいにしておくわね」


 説明はとってもシンプルだった。


「分かった、ありがとうディーネ。サラ、マルコ、キッカちょっと来て」


 俺の声に寄って来たサラ達に、俺もシンプルに水中呼吸の説明する。サラは冷静に話を受け入れ、マルコはワクワクで尻尾がブンブン、キッカは戸惑とまどって耳がヘニョってなっている。三者三様だな。


 とりあえずディーネに魔法を掛けてもらうが、何がどう変わったのかも分からずちょっと不安だ。鞄から大きな鍋を取り出し水を入れる。


 ゆっくり深呼吸をした後、鍋の水に顔を付ける。……えーっと、この状況で息をするのは滅茶苦茶怖いんですけど。魔法って言ったって、ここで呼吸をしたら水が肺に入るんだよね? 大丈夫なのか? 覚悟が決まらずそのまま顔を上げる。 


「師匠、どうだった? いきできた? おれもやっていい?」


 マルコが待ちきれないのか、尻尾をブンブン振りながら聞いてくる。この状況で怖かったから息が出来なかったとは、師匠の威厳的に言えない。


「あー、もう一度試してみるからちょっと待ってね」


 一瞬、マルコを実験台にすればと、悪魔がささやいたが気力で誘惑をねじ伏せる。子供を実験台にするのは師匠の立場以前に、人間としてダメだよな。


 もう一度鍋に顔をつけ、覚悟を決めて息を吸う。ぬるっと液体が肺に入って来るが、ムセもせず多少の違和感はあるが普通に呼吸が出来る。何度か水の中で深呼吸をすると、最初に感じていた違和感すら薄れ、水の感触を感じる以外は、普通に空気を吸っているような感覚になる。


 水を吸ったまま顔を上げ、肺の中の水がどうなるか確かめてみると、確かに肺を満たしていた水が息を吐きだすと同時に空気に変わっていく。凄いな魔法。


「師匠。どうだった? ねえ、おれもためしていい?」


 マルコが再び聞いてくる。最近のマルコは警戒心むき出しの頃と比べると、ずいぶんと普通の少年っぽくなったな。


「普通に息が出来るよ。試すのは構わないけどちょっと待ってね、水を入れ替えるから」


 流石に狭い鍋の中で俺の肺を循環した水を、マルコに吸わせるのは忍びない。サクッと水を捨てて洗浄し新しい水で満たすと、マルコは躊躇ためらいもせずに鍋に顔を突っ込んだ。


 今更だけどマルコのケモミミに水は入らないんだろうか? しばらく観察しているとマルコが顔を上げキラキラした目でこっちを見た。


「師匠。すごい! くるしくない! 水の中なのにぜんぜん苦しくないよ」


「そ、そうか。違和感がないなら良かった。これで泉の中でも大丈夫だな。サラとキッカも試すか?」


 俺が聞くと二人とも試すそうなので、水を取り替えながら順番に挑戦する。サラはすんなり呼吸をしたが、キッカは恐怖が勝ったのか一度目は呼吸をせずに顔を上げた。マルコとサラが大丈夫な事を説明してもう一度挑戦。今度は問題無く呼吸に成功した。


「これで泉の中での採取は問題無いね。まずは水草を採取するから根が千切れないように慎重に掘り出して、この鍋に入れてくれ。シルフィ達は護衛を頼むね」   


「分かったわ」


「べるはー?」


 ふよふよと飛んで来て自分の役割を聞いて来るベル。


「ベル達は後で小魚や水の生き物を捕まえて貰うから、それまでは俺のお手伝いをしてね」


「いえっさー」「キュキュッキュー」「イエッサー」「ククックー」


 ベル達は水場に来るとその返事を思い出すな。かるく達観しながら泉に入る準備を始める。俺とマルコはパンイチ。サラとキッカは一応レディなので綿の上下だ。別に子供だから気にしなくても問題無いと思うけど、ダメらしい。


 水中呼吸が出来るんだから必要無いかとも思ったが、一応全員で体を解す。


「おっ、結構冷たい」


 泉に手を触れると思った以上に冷たく、周りの気温と水との温度差にちょっと驚く。湧水が豊富だから冷たいのかも。一気に水に入るのは危険そうなので、ゆっくり体を慣らしながら泉に浸かる。俺一人ならたいして気にしないんだけど、子供達が心臓麻痺とか洒落にならんからな。


「今更だけど、サラ達は泳げるの?」


 肝心な事を聞いてなかった。そもそもこの世界で子供達に泳ぐ機会とかあるんだろうか?


「私は泳いだ事はありません」「おれとキッカもはじめて」


 やっぱり泳いだことが無かったか。


「……まあ、呼吸が出来るんだから大丈夫だよね。簡単な泳ぎ方を教えるから、俺の真似をしてみて」


 泉に潜り平泳ぎを披露ひろうする。別にフォームとか完全じゃなくても移動出来ればいいんだし、何とでもなるだろう。


 呼吸が出来てレベルアップで体力も十分。想像通り十分もしない内に、スイスイと泉の中を泳ぎ回るようになった。泳ぎを教えている間にもう一つ分かった事がある。普通に声が出せて普通に話せる。凄いな魔法。


「そろそろ採取を始めるよー」


 泉の中が想像以上に綺麗で、結構な時間遊んでしまった。サラ達も森では仕事が無いと落ち着かないと言っていたが、泉の中では楽しすぎて働く事が思い浮かばないのかはしゃぎ回っている。


 この泉は透明度が高いから、皮膚に水の感触を感じなければ空を飛んでいるような気分になる。しかもシルフィに飛ばしてもらう飛行ではなく、自分の意志で自由に動けるから楽しいんだろうな。


 俺もベル達とたわむれながら、レインが起こしてくれた水の流れに乗って泉の中を見て回る。なかなか楽しいけど、泉の中ではしゃぎ過ぎちゃったな。最初にシルフィがベル達を止めてくれたけど、意味が無かったかも。


 サラ達を呼び集め採取を始める。サラ達には水生植物を根ごと採取して鍋に入れて貰う。魚とかデリケートっぽいから植物も鍋に入れておいた方が良いよね。


 俺はとりあえず泉の底の泥と草を収納しよう。草は入るんだから虫も入れば便利なのに、いまだに判断の根拠が分からないよな。


 魔法のシャベルで泉の底をすくい収納しようとして思い止まる。水の中で収納するのはなんか怖い。体に触れているものを収納できるんだけど、周りは水だらけ……なんか怖いことが起こらないかな?


 シャベルの上だけ上手く収納できるのか? 陸上では空気に触れているけど、空気はどうなってるんだろう? 安全を考えるのなら陸上に上がってから収納なんだけど、それはそれで面倒だ。


 やっちゃうか、触れているもので意識して収納なんだから、シャベルの上の泥だけ収納すれば大丈夫のはずだ。水まで吸い込みだしたら拒否すれば良いだろう。


 ちょっとドキドキしながら収納すると、シャベルの泥と水草は消えて水生動物だけが残った。水生動物は帰り際に一気にベル達に確保してもらおう。何度か泥と水草をすくい量を十分に確保すると、ベル達と共に色々な種類の水生植物を集める事にする。


 ベル達が泉の中をくまなく探索し、珍しい水草が生えていると俺を呼びに来る。そうするとレインが水を操作して目的の場所に送り届けてくれる。


 そして俺がおもむろにベル達が指さす植物を採取する……なんか接待採取と言えば良いのか、上げ膳据え膳と言えば良いのか、微妙な感覚だ。まあ、ベル達が喜んでいるんだから良いんだろう。


 みんなで泉から出て鍋を確認すると、大きな鍋四つに十分な水草が集まっていた。効率を考えるなら俺がシャベルですくった植物を入れれば簡単なんだけど、それじゃあ味気ないよね。後はここに泉の小魚やカワエビ、サワガニ、カエル等の水生動物を捕まえて入れれば完了だな。


 でも、その前に水に濡れた体をどうにかしないと、泉の家でプールを使っていた時は、自然乾燥に任せていたけど、子供達も居るしそれは不味いだろう。


「ディーネ、レイン、俺達の服や体の表面の水をどうにか出来るか?」


 とりあえず聞いてみると、ディーネが「かんたんよー」っと一瞬で水分を取り去ってくれた。パンツは完全に乾き、お肌には適度なうるおいが残っている。芸が細かいな。ディーネにお礼を言って、次の作業に移行する。


「レインが中心になって、この泉の小さな生き物を捕まえて、この鍋の中に入れてくれる?」


「キューーー」

  

 俺が頼むと、レインが大きく鳴いて泉に飛んで行った。その後ろをベル達が追いかける。おっ、水面からポコンと水の玉が浮かび上がった。その球をベルがふよふよと飛びながらこちらに運んで来る。


「ゆーたー、これー」


 ベルが両手で包むように運んで来た小さな水の玉には、一匹の小魚が入っていた。なるほど、レインが捕まえた水生動物を、ベル達が運んで来るのか。


「凄いね。じゃあ、お鍋の中に入れてあげて」


「はーい」


 ベルが鍋の中に水の玉を落とすと中に入っていた小魚が自由に泳ぎ出した。ベルの後にトゥル、タマモも水の玉をもってこちらに飛んで来る。


 トゥルはある程度安定しているが、子狐のタマモが水の玉を前足で慎重に運んで来る姿は、ちょっとハラハラした。レインがドンドン捕まえる生物を、ベル達がドンドン鍋に投入する。 


「トゥル、もう十分だから皆を呼んで来て」


「わかった」


 四つの鍋の中には沢山の生き物が泳いでいる。最初だしこれだけいれば十分だろう。戻って来たレインをたっぷりと撫で褒めまくる。


「よし! 後は急いで帰るだけだね。サラ達もフクちゃん達を送還してね」


 外からサポートしてくれた、ディーネとドリーにお礼を言い泉の家に送還する。続いて、鍋の中をのぞいているベル達も送還。


「じゃあシルフィ、鍋もあって大変だろうけど、出来るだけ早くお願いね」


「ええ、じゃあ行くわよ」


 シルフィの言葉と同時に俺とサラ達と鍋が浮き上がり、泉の家に向かって出発する。偶にエアポンプ代わりに空気を鍋に送り込んで貰うつもりだけど、大丈夫かな?

読んでくださってありがとうございます。

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