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百二十二話 お散歩

 泉の家に帰って来て早々、みんなでお出かけする事になった。


「みんないっしょーー」「キューー」「たのしい」「クーー」「「ホーー」」「プギャーー」


 シルフィに風のまゆで包んで貰い空を飛んでいるが、ベル達のテンションが高い。普段と違う移動だからなんか楽しいんだろうな。ベル達とフクちゃん達はじゃれ合いながら、俺達の周りを飛び回っている。


 普段は速度優先でシルフィと俺とサラ達だけの移動だけど、今回はディーネ、ドリー、ベル、レイン、トゥル、タマモ、フクちゃん、ウリ、マメちゃんも加わっての大移動だ。興奮するのも分る。


 その分シルフィがベル達やフクちゃん達のサポートでちょっと大変そうだけどね。いつも以上の速度で飛べる事もベル達やフクちゃんたちの興奮に一役買ってそうだな。


 目的の場所は、シルフィのブーストのおかげで、一番飛ぶのが遅い浮遊精霊のウリに合わせても三時間ちょっとらしいから、偶にはこんな移動も良いかもしれない。


 召喚と送還で効率を追求する事も出来るけど、効率ばかりを優先しても楽しめないからな。俺もゲームだと効率を優先するタイプなんだけど、お出かけイベントなら行き帰りも楽しまないと。


「お師匠様、前にも思いましたが、死の大地って広いですよね」


「そうだね、広いよね。昔は死の大地全体が、自然にあふれてたらしいけど、そんなの想像できないぐらい広いね」


 環境破壊し過ぎだ、歩いて百日以上かかる距離が不毛の大地……笑えないよ。


「自然があふれていたんですか、素晴らしい場所だったんですね。ああ、それで、お師匠様が開拓して、死の大地を昔に戻すんですね。何故死の大地に住んでいるのか疑問だったんですが、凄いですお師匠様! 私も頑張ってお師匠様のお役に立てるようになりますね!」


「そうなのか! 師匠って凄いんだな。おれもがんばるぞ!」


「キッカも!」


 ………………あれ? 違うよ。そんな大それた事は考えて無いよ。俺は自分が良ければいいタイプの人間なんだ。だからそんなにキラキラした目で見ないでください。師匠の威厳いげんそこねずに何とか言い訳をしないと。


「えーっと、死の大地はとっても広いから、俺がやる事は切っ掛けにしかならないよ。長い時間が掛かる事だからゆっくりとね。頑張り過ぎたら疲れちゃうよ」


「そうなんですか?」


「う、うん、自然を回復させるのは大変なんだ。急いでもろくな事にならないよ。だから何世代も重ねないと無理だね」


 大精霊の力を借りれば何とかなる気もするが、俺は周辺をのんびりコツコツと開拓するだけで満足だ。後は他の人にお任せしたい。


「お師匠様は、死の大地復活のいしずえになるんですね!」


 サラ、俺は礎なんかにならないよ。何処でそんなに難しい言葉を覚えたの? なんだかすごく嬉しそうだしテンションも高い。俺、戸惑とまどっちゃうんですけど。


 やんわりと落ち着くようにうながしながら話を聞くと、自分のお師匠様が素晴らしい事をしているのが嬉しかったらしい。弟子になる事が出来て幸せですって言われちゃったよ。


 予想外のところで尊敬を勝ち取ってしまった。そんなつもりは無いんだけど、少しは頑張らないといけなくなった気がする。まあ、元々開拓は進めるつもりなんだ。のんびりやっていれば、誤魔化せるだろう。たぶん。


 サラ達と話したり、ベル達とたわむれたり、ディーネのちょっかいを回避したりしていると、あっという間に目的地に到着した。


 鬱蒼うっそうとした大きな森に向かってゆっくりと降下すると、キラキラと反射する光が見える。


「シルフィ、あのキラキラしている所が池なのか?」


「ええ、池って言うより泉だけど、拠点の池と似た環境だから此処にしたの。何か問題でもあった?」


「いや、何の問題も無いよ。ただ聞いてみただけ」


 流石風の大精霊、色んな場所を知ってる。ゆっくりと降下すると泉がハッキリと確認できるようになる。結構な大きさだな。


「凄く綺麗です」「うん、きれいだな」「きれい」


 サラ達の感想通り、凄まじく綺麗な泉だ。光の反射が無ければ水があるのかすら分からなかったかも。水底には緑糸の水草がたなびき神秘的な光景を演出している。


「おみずー」「キュー」


 あっ、ベルとレインが突っ込んで行った。泳ぎ心地? を試すつもりなのか? 


「ふぅお!」「キュッ!」 


 突然ベルとレインが風にまかれシルフィの腕にスッポリと収まった。


「ベル、レイン、今日はお魚を捕まえに来たんだから騒いじゃダメよ」


 シルフィが優しくベルとレインに注意する。


「わかったー」「キュー」 


 ベルとレインは元気に手を挙げてお返事している。二人ともいい子だね。でも風にまかれて飛ばされたのが面白かったのか、もう一度やってとシルフィにお願いしだした。泳ぎ心地を確かめるより、楽しい事を見つけただけかもしれない。


「しょうがないわね。一回だけよ」


 シルフィがそういうと、ベルとレインが風にまかれ、天高く打ち上げられた。一回だけってさっきと違って勢いが強すぎるよ。


「きゃふーーーー」「キューーーー」


 一瞬大丈夫なのかとも思うが、精霊だし楽しそうな声だったから大丈夫なんだろう。あっ、トゥルとタマモ、フクちゃん、ウリ、マメちゃんもシルフィの所に集まっている。


「ふう、しょうがないわね」


 シルフィがそういうと、トゥル達も楽しそうな声と共に天高く打ち上げられていった。やっぱりそうなったか。


「あの、お師匠様。フクちゃん達が……」


 サラ、マルコ、キッカが不安そうにこっちを見ている。あー、そうだよね。いきなり自分の契約精霊の気配が天高く打ち上げられたら不安になるよね。


「ああ、大丈夫だよ。ちょっとシルフィにおねだりをして、飛ばして貰っただけだから直ぐに戻って来るよ」


「そ、そうなんですか」


「うん、だから大丈夫」


 話していると、第一陣で飛んで行ったベルとレインが戻って来た。あふれんばかりの笑顔が楽しかった事の証明だろうな。打ち上げられたフクちゃん達も戻って来て、ようやくサラ達も安心する。


「さて、なんか色々あって話がズレたけど、ここが今日の目的地だよ。想像以上に綺麗だね」


 話を元に戻して、今日の目的を達成しないとな。楽しかったと興奮して報告してくるベル達を撫で繰り回して落ち着かせる。


「ディーネ、ドリー、この泉の植物や生物は死の大地の池でも大丈夫かな?」


 俺が聞くと、ディーネとドリーが泉の確認をして結論を出した。


「大丈夫よー。湧水で水が循環しているから栄養が豊富って訳でも無いし、池に移動させても問題無い生物ばかりよー」


「そうですね。植物も特にデリケートなのは生えていませんから、移動しても問題無いと思います」


 流石シルフィって事なんだろうな。水や植物は専門外なのに似た雰囲気の場所ってだけで良い場所に連れて来てくれるんだから。


「問題無いのならこの泉で採取しよう。何か注意点とかある?」


「特に無いわー。でも、採取は帰る前の方が良いわね。帰りも時間が掛かるんだから、植物や生き物も辛い状況は出来るだけ短くしてあげたほうがいいわよね」


 なるほど、それもそうか。帰りも皆でワイワイ飛んで帰るつもりだったけど、捕まえた生き物の事を考えると、皆を送還して、出来るだけ早く帰るのが良さそうだな。


「了解、それなら周囲を散歩して、お昼ご飯を食べてから採取をしようか」


 いきなり採取をして、ご飯も食べずに急いで帰るとか味気ない。今回は大精霊達が危険を排除してくれるから安全だし、のんびり森林浴としゃれこもう。


「お師匠様、本当に何もしなくて良いんですか? ただのんびり過ごすと言うのが想像がつきません」


 マルコもコクコクとうなずいている。仕事中毒なサラリーマンみたいな事を言ってるな。子供の時からこれはダメだろう。


 とはいえ、ただ遊べと言っても何をしたらいいのか分からないんだよね。うーん、宝探し感覚で薬草探しをするか。これも仕事と言えば仕事だけど、楽しめる感じにすればマシだろう。


 一番になったらご褒美を出すか? ……なんのご褒美を出せば良いのか分からん。ドラゴンステーキでも良いかもしれんが、ベル達も食い付いて来そうだし、食べられない子がキッカだったら俺……。ぐふっ、教育者って凄いな。俺には無理だ。


「じゃあ、森を散歩しながら薬草を探そうか」


 無難に目的を与えるだけで良いか。


「よし! いっぱい見つけるぞ」


 マルコが気合を入れている。ちょっと俺の目的と違うんだけど、楽しいならいいだろう。


「程々(ほどほど)にね。じゃあ、出発しようか」


 とりあえず泉の周辺を散歩して……サラ達が森に向かって歩き出す。そうだよね、薬草は日のあたる場所よりも森の中の方が見つかりやすいもんね。


 精力的に薬草を探し回るサラ達と、縦横無尽に森の中を飛び回るベル達を見守りながら森の中を歩く。偶に動物型の精霊がプカプカ浮いている。あの子達は森の精霊なのかな?


「ねえ、シルフィ、人型の精霊ってあんまり見ないんだけど珍しいの?」


「うーん、別に珍しいって訳でも無いんだけど多くも無いわね。そもそも自然と共にあるのが精霊の在り方だから、動物型の方が圧倒的に多いのは確かよ」


 そうなのか、俺にとっては動物型が多いのは助かるな。森を歩いていてふわふわと人間型の精霊が飛んでいたら、正直ビビる。


「なるほど、じゃあ、エルフみたいな精霊や魔族みたいな精霊、ドラゴンみたいな精霊なんかもいたりする?」


 ノモスが居るからドワーフみたいな精霊が居るのは間違いないよね。


「いるわよ、大体の生き物は網羅もうらしているもの」


 精霊としたら一括ひとくくりに出来るけど、外見は多種多様なんだな。色んなタイプの精霊と契約すれば凄い動物園が……見えるのは俺だけだから無理か。ドラゴンが居る動物園とか大人気間違い無しなんだけどな。


「師匠、薬草!」


「ん? ああ、ありがとう」


 マルコがさっそく薬草を見つけて持って来た。俺が預かると直ぐに次の薬草を探しに走り去る。元気いっぱいですな。


 タップリ動き回ればお昼も美味しいだろし、元気なのはいい事だ。サラもキッカもベル達も楽しそうだし、森の散歩は成功だと思おう。

読んでくださってありがとうございます。

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