百十七話 対決 後編
ギルマスの策を全部潰した後、「ギルドマスターの指名依頼を内容も聞かずに拒否する気か。ギルドを敵にまわすぞ」っとギルマスがとち狂った事を言い出した。
元々色々な事が重なっていて焦ってるのが分かるな。俺に対する罠が失敗して明らかに表情に余裕が無くなっている。
うーん、このまま畳み掛けるか泳がせるか悩みどころだ。……ギルマスの目が逝っちゃってるし、畳み掛けるか。今のままでもいずれ自滅しそうだけど、俺の手で止めを早めるのは悪くない気分だ。ちょっと挑発を混ぜて色々暴露してやろう。
「お好きにどうぞ。ただ俺を敵にまわしてあなた方に何ができるんですか? ファイアードラゴンごときを倒せずにオロオロしているあなた方が、俺に何かできると本気で思っているんですか?」
俺の言葉に周りの冒険者から怒声があがった。まあ、確かに俺の言葉は周りの冒険者達もディスってるよね。
「き、きさま……」
ギルマスの顔が真っ赤に染まり、まるで赤鬼のようだ。脳の血管がヤバそうなぐらい頭に血が上っている。ギルマスの怒りに当てられたのか、周りの冒険者達が徐々に静かになっていく。でもまだまだいくよー。
「そもそも今回の茶番も、俺がファイアードラゴンを倒して素材を卸している事を知ったからですよね。卸している店の店長が情報が拡散した事を伝えて来ました。その事を知ったギルマスは知らないフリをして関係を修復し、俺を利用する事を目論んだ、違いますか?」
推理物の主人公みたいな気分だ。俺の場合はカンニングだから威張れないんだけど、とっても気持ちがいい。アニメの名探偵が推理の時に得意げになる気持ちが分かった。ドヤってしたくなる。一人で愉快な気分に浸っていると、俺の話を聞いて今度は周りの冒険者から戸惑いの声があがった。
冒険者達もファイアードラゴンの素材が流れている事は知ってるからな。でも俺がファイアードラゴンを倒したなんて信じられない、だからこそ困惑しているんだろう。
「そ、そんな事は無い」
驚いた顔で絞り出すように言葉を発するギルマス。討伐した事を隠していた俺自ら、ファイアードラゴンの事を話すとは思ってなかったんだね。冒険者ギルドへの嫌がらせが目的だから、もう話しても良いんだよ。
「こんなおかしな契約書を用意して、今更隠そうとしても無駄ですよ。頑張って俺をハメる為に作戦を考えたんですよね。ランクを上げての強制依頼。ワルキューレに入れて俺をコントロールする。契約書で俺の自由を奪う。場の流れを自分に持って来るために冒険者の中に味方まで用意して、頑張って準備したんですね。大変だったでしょう、おいたわしいかぎりです」
俺は優しく問い掛ける。
「………………」
ギルマス、黙っちゃったよ。ふはっ、楽しいなー!
「だいたい、俺がこのギルドに役立つ事をすると本気で思っているんですか? …………あれ? ギルマス、答えてくれないんですか? では他の人にどう思うか聞いてみましょうか。初心者講習で嫌がらせしてくれたセイルさん、どう思います?」
「い、いや、俺は頼まれただけだから……」
青ざめた顔で首を振るセイルさん。どうやら俺がファイアードラゴンを倒した事は聞かされてなかったらしい。都合よく使われているだけなのかな?
「嫌そうにポーションを売ってくれた、売店のお姉さんはどう思いますか?」
無言でブンブンと首を横に振るお姉さん。
「ではそこの俺に聞こえるように悪口を言っていた冒険者さん達はどうです?」
みんなが一斉に顔を逸らす。心当たりがある奴が多過ぎるだろ。って言うかユニスも驚いた顔で口をパクパクしている。流石にメルの幼馴染には聞いたりしないから安心して欲しい。
「ふふ、よく見ればほとんどの人に嫌な思いをさせられた覚えがありますね。皆殺しにしたら流石に怒られますし、全員に決闘を申し込めば問題無いのでしょうか? 俺が嫌がらせを受けているのを、一番間近で見ていたエルティナさんはどう思いますか? 俺は決闘を申し込むのも我慢して、嫌がらせをして罠にハメようとした冒険者ギルドの為に働くべきなんですか?」
たぶん俺、物凄く楽しそうに笑っているんだろうな。実際に物凄く楽しいけど、ベル達やサラ達には見せられない光景だ。でもちょっと煽り過ぎかもしれない、調子に乗り過ぎて着地点を見失っちゃった。今更止まれないし行けるとこまで行くしかないのか?
「………………」
「エルティナさんもダンマリですか。どっちでも良いのなら、今まで溜まった鬱憤を晴らすために、決闘を申し込むのもいいですね。まさかあれだけ罵っていたくせに、決闘を断る恥知らずな冒険者が迷宮都市にいるわけないですもんね」
実際にそんな事をするつもりはないがあれだな、俺が言ってる事ってヤの付く危ない職業の方と似ている気がする。まんまお店に対する営業妨害を宣言してるよね。
「い、いえ、ファイアードラゴンを倒せる方が、そのような事をしては名声が下がってしまいます。ギルドのご無礼はお詫びしますので、何卒穏便にお願い致します」
「あはは、いやいや名声ってエルティナさんも不思議な事を言いますね。俺に下がる名声なんてある訳ないじゃ無いですか。冒険者ギルドがあることないこと吹聴してくれたので、俺の名声は地に落ちていますよ」
ニコニコと笑顔で伝えるとエルティナさんが押し黙ってしまった。変わってギルマスが地から轟くような声で話し出した。
「たとえ貴様がファイアードラゴンより強くても、人が組織に対抗できると思っているのか? ギルドの為に働くのなら、今までの無礼も不問にしてやる。大人しく言う事を聞け」
もう外聞とか気にしなくなったようだ。冒険者のみなさんも驚いてるよ。いいの?
「嫌です」
ニコリと最高の笑顔と共に告げてみた。たぶんだけど俺の笑顔は最高に輝いていると思う。
「本気でギルドと敵対する気なんだな?」
「勘違いしてほしくないのですが、敵対してきたのはそちらです。犯罪を犯した訳でも無い俺を、どう言う理由で組織の敵にする気か分かりませんが、来るのならお好きにどうぞ。本当の精霊術師の力を教えてあげますよ」
俺、カッコいい事言った! 事を大きくしたのは俺な気もするが、そこは考えないようにしよう。これで全面対決って事になるのかな?
「………………その発言。後悔する事になるぞ」
怒りが通りこしたのか血の気が引き無表情になったギルマスが、左手で軽くテーブルを叩いた。その瞬間俺の周りを風が取り巻き、飛んできた何かを弾き飛ばした。続いて冒険者の集団の中から男達が飛び掛かってくる……が、石の床をぶち破って生えてきた植物に絡み取られる。
落ちているナイフや、魔法の残滓らしきものを確認する。もしかしなくても攻撃されたんだよな。公衆の面前でいきなり襲い掛かって来るのはちょっと予想外だ。ぐるっと周りを見渡すと、六人の冒険者風の男達が空中で植物に絡み取られもがいている。
この人達が対人特化の懲罰部隊ってやつなんだろうな。用心の為に配置するって聞いてたけど、使っちゃったんだ。
シルフィとドリーに目でお礼をする。本当は大声でお礼を言いたい場面だけど、今はカッコつける時間だ。
「ギルマス。これが俺が後悔する事になる原因ですか? この程度の雑魚で俺が殺れると思っているとは、舐められたものですね」
余裕たっぷりで嘲笑うような表情を作り、ギルマスに問い掛ける。実際は心臓がバクバクしているんだけどね。シルフィ、ドリー、本当にありがとう。
「何のことか分からんな。お前の態度があまりにも無礼だったので、冒険者達が自発的に制裁を加えようとしたのではないか?」
いや、そんなに悔しそうな顔をしてたらバレますって。
「自発的に全方位からタイミングを合わせて武器を投げ、同時に飛び掛かって来るんですか。はは、都合がいい話ですね。命を狙われたのは俺なので、こちらで処分してしまっても構いませんよね?」
俺がギルマスに聞くとドリーが気を利かせてくれたのか、襲ってきた男達が植物に締め上げられる。鈍い音が聞こえるんだけど、骨が折れてない?
「まて! お前にそのような権利はない。こちらに引き渡して貰おう」
「あはは、敵対する相手に権限とか言い出すんですか。まあ、いいでしょう。こんな雑魚でも、ギルマスにとっては大切な手駒でしょうからお返ししますよ」
ドサドサと襲ってきた男達が投げ出される。うん、ドリーって結構過激だな。手足が曲がるはずのない方向に曲がっている。ギルマスが指示を出し俺を襲った男達が運ばれて行き、それと同時に妙な雰囲気の男達がギルマスの周りを囲んだ。今更護衛をつけたの?
「先程、何をした?」
「俺は精霊術師なんですから、精霊術を使ったに決まってますよね」
「詠唱もせずに精霊を動かしたとでも言うつもりか?」
あれ? 信じて無いの? 精霊が精霊術師を守るって普通にあるだろうに、んー、どう言う事だ? 精霊術師の名門ってそこまで内容を秘匿しているのか? 世間の認識と精霊術師の認識がかなりズレている気がする。
「どうでしょう? まあ、頑張って考えてください。では、話し合いも決裂しましたしそろそろ失礼しますね」
ギルマスを囲んでいる男達は襲って来るつもりは無いみたいだな。途中でどうなる事かと自分でも焦ったけど、そこまで大事にならずに落ち着いて良かったな。おっと最後に冒険者達にも言っておかないと。
「冒険者の皆さん、俺は執念深いですから、冒険者ギルドと敵対した以上は遠慮するつもりはありません。迷宮で俺と会ったら注意してくださいね」
ぐるりと冒険者達を見渡しながら言う。何もする気は無いけど、心当たりがある冒険者達は困るだろう。実際、俺と必死に目を合わせないようにしているし。
さて、帰るか……うーん、でも……命まで狙われたのにこれですんなり帰るのはどうなんだろう? もう少し迷惑を掛けたいよな。シルフィに頼むと冒険者ギルドが粉みじんになりそうだしドリーに頼むか。
(ドリー。冒険者ギルドを人が死なないように植物で埋め尽くす事って出来る?)
「出来ますよ。普通の植物とトゲ付きの植物、どちらが良いですか?」
ニコっと笑って怖い事を言うドリー。なんか今日は新しいドリーの一面を知った気がする。
(……トゲ付きでお願い。あっ、ギルマスとエルティナさんは個別で念入りにお願いね)
「分かりました」
ドリーが手を振ると冒険者ギルドの中のいたるところから植物が生えてきた。悲鳴と怒声を背中で聞きながら冒険者ギルドを出る。ギルマスとエルティナさんの声も聞こえるな。どうやらトゲに刺されたようだ。
あっ………………ユニスも冒険者ギルドの中に居たんだった。不味いかな? まあ、今更だな。ユニスには頑張って貰おう。
しかし……プフ、あれだけの冒険者が見ていたんだ。今日の噂は直ぐに広まるだろう。このまま迷宮都市に居座っても良いけど、姿を隠した方が面白い事になりそうだな。
俺が消えた原因と冒険者ギルドの企み。五十層以降の素材を欲した者達の怒り。冒険者ギルドは大混乱するかも。いや、もう既に大混乱しているか。これだけの騒ぎだ、ギルマスもただでは済まないだろう。切れてギルマスが本気で暗殺者とか送って来たら見つけられなくて困るんだろうな。
とはいえ、冒険者を辞めたんだから新しい身分証明書が必要だな。ん? 俺って犯罪者になったのかな? うーん、冒険者ギルドと敵対したら犯罪者になるのか微妙なところな気がする。
最後の植物以外は犯罪者になるいわれは無いけど、冒険者ギルドを植物で埋め尽くしたのは余計だったかな? 気分が良かったからちょっと調子に乗り過ぎたかも。
……せめてトゲが無い方を選ぶべきだった。全国指名手配とかは勘弁して欲しいな。最悪身分証明書が無くても空を飛べば街には入れるし、迷宮に入れないのが面倒な位だから何とかなるんだけど、気分は落ち着かないよね。一応、皆を迎えに行く前にマリーさんに相談に行ってみよう。
(シルフィ、ドリー。今日はありがとう。俺は楽しかったけどちょっとやり過ぎたかな?)
「うーん、私も楽しかったと言えば楽しかったけど、裕太のほうが悪役に見えるのはどうにかならないの?」
確かに今日の話し合いは俺の方が悪役な感じだったよね。正義の味方に憧れはあるが、どうも冒険者ギルド相手だと性格が悪くなっちゃうんだよね。反省だけはしておこう。治るかどうかは分からないけど。
「なかなか見ごたえのある喜劇でしたね。相手が攻撃して来たんですしあれぐらい構わないでしょう」
ドリーってやっぱり辛辣だな。
「はは、まあ、こういう結果になっちゃったから、ちょっと帰る前にマリーさんに話を聞きに行きたいんだ。大丈夫かな?」
笑ってごまかして他の話にすり替える。
「いいわよ。私達は人のルールには詳しく無いし必要な事よね」
シルフィとドリーが頷いてくれたので、目的地を変更してマリーさんに会いに行く。なんかいいアイデアが貰えると良いな。しかし、調子に乗るのってダメだな。畳み掛けないでギルマスの策を潰した時点で引き揚げていれば、冒険者の身分を失う事も無かっただろうし……やっぱりちょっとやり過ぎた気がする。
申し訳ありませんが、ギルマスに止めがさされるのは百二十話になります。
下にちょっとだけネタバレがあります。
ネタバレになりますがギルドは辞めない感じです。
読んでくださってありがとうございます。




