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百十三話 情報収集

 迷宮から出ると、ようやく俺が迷宮の五十層を突破した事がバレた。予想通り周辺が騒がしくなってきたので、ここからが本番だな。


「お師匠様。どうしたんですか?」


 俺が宿から少し離れた場所で、立ち止まったので、サラが声を掛けて来た。


「えーっと、ちょっと俺に会いたい人達が宿で待ち構えているらしいんだ。マリーさんが裏口から入れるように手を回してくれたんだけど、よく考えたら裏口の場所を知らなくてね」


 迂闊うかつに近づくとバレそうだし、どうしたものか。ベルに偵察を頼むのがいいかな?


「お師匠様。裏口の場所なら分かります。ご案内しますか?」


「ホント? 助かるよ。でも何で裏口を知ってるの?」


「私達が食事を分けて貰う時は裏口に行ってましたから。こっちです」


 そう言えばマーサさん達と顔見知りだったな。意外な所で意外な経験が役に立つのが面白い。サラ達の案内で裏口に向かい、ドアをノックするとトルクさんが出て来てくれた。


「おう、裕太、話は聞いてるぞ。凄い奴だったんだな」


「ちょ、ちょっとトルクさん。声が大きいです。隠れてるんですから」


 とりあえずシルフィから情報を貰うまでは、迂闊に人に会いたくない。方針が決まるまではコッソリだ。


「ああ、そうだったな。俺も話は聞きたいが今度にするか。鍵はマーサに持って来させる。夕食も部屋に運ぶか?」


「ありがとうございます。お手数ですがお願いします」


 マーサさんから鍵を預かり、カルク君が先行偵察に出て、俺を誰にも見つからずに部屋に案内してくれた。カルク君とっても楽しそうだったな。


 マーサさんが運んで来てくれた食事をゆっくりと取る。この雰囲気はやっぱり落ち着くな。お肉を頬張り飛びあがって喜ぶベル達。いや、元々飛んでるな。


 少しは落ち着いて食べられるようになったマルコとキッカ。料理に興味があるサラの、真剣に何かを吟味ぎんみしながら食べる姿。なかなか楽しい食卓だよね。食事の音で誰かが訪ねて来ないかちょっと心配だけど、どの部屋にいるのかまではバレて無いのかな?


「ドリー。お酒はどう?」


「んー、そうですね。止めておきます。シルフィの代わりに裕太さんの護衛もしないとダメですし、戻った時にディーネとノモスにからまれてしまいますから」


 少し悩んだ後にドリーがお酒を断った。俺の護衛はお酒を飲んでも出来そうだし、ディーネとノモスに絡まれるのが嫌なのかな?


 ディーネとノモスを呼ぶ事は可能だけど、そうしたら宴会に突入してしまうからな。そこに帰ってきたシルフィが混ざったら話し合いにならない。止めておこう。


 食事が終わりまったりとサラ達と精霊達が、コミュニケーションを取っている姿を眺める。質問も段々とこなれて来て、色々な質問が飛び交っているのが面白い。


 今日の夕食で一番美味しかったメニューを、真剣に選んでいる姿はなかなか秀逸しゅういつだ。魔法の鞄からも料理を追加しているので、何種類もメニューはあるが、最近は二択にこだわらず、ここはこのメニューと、幾つもの場所を用意して移動しながら結果を集計している。


 一つ疑問に思うのがトゥルだな。トゥルはいつもモフモフの後ろに並んで、撫でている。あの子はメニューじゃなくて、モフりたい子の後ろに並んでいるだけだな。タマモとウリがお気に入りみたいだ。


 ドンドン独自にコミュニケーションのしかたを考えるし、トロルを倒す実力もある。なんかもう一人立ちしますって言われたら引き止められないな。ヤバいサラ達が独り立ちとか考えたらちょっと涙腺るいせん崩壊ほうかいしそうだ。一人で感傷にひたっていると、キッカの首がカクンカクンしだした。


「キッカももう眠たいみたいだし、今日はもう休もうか。サラとマルコも迷宮から出たばかりなんだから、しっかり休むようにね」


「はい。お師匠様、お休みなさい」


「師匠。おやすみ」


「うん、おやすみ」


 サラ達の部屋から自分の部屋に戻り、ドリーと話しながらのんびりとベル達とたわむれる。魔物をどんな風に倒したか、どの屋台が美味しいか、皆とどんな遊びがしたいのか、ベル達は沢山話してくれる。俺よりも迷宮都市を楽しんでるよね。


「シルフィ、遅いね」


 たっぷりとベル達と戯れ、かなり遅い時間になったのに、まだ戻って来ない。


「それだけ面白い話を聞いてるんだと思いますよ。たぶんギルド側も明日の準備や打ち合わせをしているんでしょう」


 それもそうか。聞く価値がない話ならシルフィも直ぐに戻ってくるよね。これだけ時間が掛かるって事は、冒険者ギルドも色々悪巧みしているんだろう。


 俺も迷宮の疲れが出たのでダラダラまったりと時間を過ごし、いつの間にかうつらうつらしていると、ゆさゆさと体をすられた。


「ん? ああ、シルフィ、おかえり」


 目を開けると楽しそうな顔のシルフィが居た。なかなか上機嫌なようでどんな話だったのか気になるな。上機嫌って事は、何か面白い事が起こりそうでワクワクしているって事だ。


「ただいま。ふふ。裕太、冒険者ギルドは色々考えてたわよ。さあ、対策をりましょう」


 ババーンっと背後に大きな文字が浮かびそうな勢いでシルフィが言う。素直にごめんなさいするとは思ってなかったけど、やっぱり裏があったか。そしてシルフィ、冒険者ギルドが色々とたくらんでいるのが面白かったんだね。


「分かった。まずは冒険者ギルドがどんな事を考えているのか教えてくれ」


「ええ。まずは………………」


 シルフィの話を聞いてみると、どうやら冒険者ギルドは五つの作戦を考えているようだ。気合が入っているよね。五つの作戦の中で、一番と二番はどうでも良いが四番の美人冒険者パーティーとかかれるんですけど。個人的に一番気になる。


「四番目の美人冒険者パーティーってどんな人たちなの?」


「ギルマスの教え子ね。ギルドにはギルマスが個人的に鍛えたパーティーがいくつかあって、その中の一つだそうよ。目的は裕太のコントロールとスパイ。しかもファイアードラゴンを討伐して、ギルドにある程度五十層の突破者が増えたら、追い出しても良いって言ってたわ」


 ハニートラップなのか? なんて恐ろしい事を考えるんだ。それに働かせるだけ働かせて追い出すとか、外道だな。でも、冒険者ギルドで美人パーティーなんて見た事が無いんだけど、俺が見逃すとは考え辛いし、タイミングが合わなかったのか?


 俺を利用するって事は五十層以降の探索も考えているんだろうし、高ランクで四十九層の拠点作りであんまり冒険者ギルドに来てなかったのかも。


「うーん。そのパーティーを受け入れて何かに利用するとかどう?」


 こう、目の前で圧倒的な実力を示して、俺Tueeeeeからのハーレム展開とか無理なんだろうか? 異世界なんだしそう言うギャルゲー的な要素があっても良いと思うんだけど。


「できるの?」


 シルフィ目が無理すんなよって言っている気がする。


「無理だね。素直に断ろう」


 残念だけど、普通の女の子達でも利用するとか難しいのに、高ランクのギルマスのヒモ付き美女集団とか、ファイアードラゴン以上に勝てる気がしない。


 後は俺を利用する作戦以外にも用心の為に、冒険者ギルドの懲罰部隊的なモノも冒険者達の中に配置されるらしい。冒険者が重大な犯罪を犯した場合などに活躍する部隊だそうだ。対人特化の戦闘力で魔物との戦いが基本の冒険者にとっては恐ろしい相手らしい。


 冒険者ギルドの作戦はランクで縛って、女で縛って、契約で縛るって感じなのか。清々しい程に俺を利用する事しか考えて無いな。いや、捕縛もしくは殺害まで考えてるんだった。


「話には聞いていましたが、冒険者ギルドと裕太さんの関係は本当に険悪なんですね」


 ドリーのあきれた顔とかレアだよな。あまりの仲の悪さに驚いて、普段見せない表情が出てしまったらしい。


「うん、酷い関係だよ。明日のギルマスの謝罪は全部俺を罠にハメる為なんだから、しっかり対策を練らないとね」


 俺がやる気をみなぎらせていると、シルフィも乗っかってきた。


「ふふ、そうね。冒険者ギルドもしっかりと準備しているんだもの。裕太もしっかりと準備しないといけないわね」


 シルフィ、とっても楽しそうだ。意外とこういう事が好きだよね。ドリーも一緒に夜遅くまでしっかりと明日の夕方の対策を話し合い、満足したところで眠りについた。



 ***



 朝食も部屋に運んでもらい、コッソリと裏口から宿を脱出した。冒険者ギルドとの話し合いの後にどうなるのか分からないので、もしかしたら戻って来ない可能性をマーサさんにげて、前から温めていた新メニューのレシピを渡した。


 オーク肉の脂身からの揚げ油の作り方と、トンカツ、チキンカツの作り方だ。油の取り方が有名グルメ漫画の受け売りなのでちょっと心配だが、成功すれば新たな名物になるだろう。


 迷宮で沢山のオークが討伐出来るからこその料理だな。問題は卵と火加減だ。あと火事も。分かる限りを細かく書いたが上手く行くかどうかはトルクさん次第だな。


 裏口から出て行く時にトルクさんにレシピをマーサさんに渡した事を告げると、見送りに出て来てくれたはずなのに、マーサさんの所に走って行ってしまった。まあ、予想通りだな。是非とも美味しいトンカツ……いやオークカツとラフバードカツを作って欲しい。


 宿を出ると流石に誰が商談狙いで話しかけてくるか分からないので、出来るだけ速足でメルの工房に向かう。俺はともかく、サラ達が結構なスピードで歩く姿は逆に目立ってしまった。三人ともレベルが高くなったから、身体能力も凄いんだよね。

読んでくださってありがとうございます。

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