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百十二話 謝罪?

 サラ達の訓練とメルの魔力を上げる為に迷宮に入り、順調に魔力を上げて出て来たら、なんかしっちゃかめっちゃかの状況になった。取り敢えず一つ一つ片付けて行こう。


 まず一番目立つのは、ユニス。これはメルに抱き着いて騒いでいるだけだから、今は放置で良いだろう。メルはアウアウ言っているが、自分の幼馴染だから自分で何とかして欲しい。


「裕太。さっそく契約するぞ!」


 次にメラルか。契約が目前にせまって、テンションが暴走気味でグイグイ来るが、取り合えずコッソリ説得しよう。


(メラル。迷宮から出たばかりでメルも疲れている。せっかくの契約なんだ。ゆっくり休んだ後に落ち着いて契約した方がいいぞ)


 興奮して俺の周りをグルグルと飛び回っていたメラルがピタッっと止まる。


「そうだった。メルが疲れているな。うんそうだ、そうだった。裕太、ありがとな」


 騒ぐだけ騒いで、メルの側に飛んで行った。簡単で助かる。問題はいつの間にか二人で牽制けんせいしあっている、マリーさんとエルティナさんだ。どうしてこうなった。


「あらあら。裕太さんに多大な迷惑をかけている冒険者ギルドが、何の用でわざわざ迷宮まで? また裕太さんに迷惑をかけるおつもり?」


 おうふ。マリーさんが仕掛けた。迷宮前の広場。人が沢山。異様な雰囲気の美女が二人。しかも片方はギルドの受付嬢。結果、周りに野次馬が集まる。


「何故ここに居るのかですか? それは今までご迷惑をお掛けしたことを、誠心誠意、裕太さんにおびする為です。申し訳ありませんが、私に先にお話しさせて頂いても?」


 野次馬達がザワつく。なんで冒険者ギルドの受付嬢があの詐欺師に謝るんだ? 的な会話がそこかしこで展開されている。迷宮の前だから、俺の事を知っている冒険者も沢山いるからな。


 しかし、お詫びときたか。やっぱり俺の事を冒険者ギルドがつかんだんだんだな。しかしそれでもいきなりお詫びってのは予想外だ。なんやかんや因縁いんねんをつけて、俺を利用しようとすると思ったんだがな。素直に謝られた場合、俺はどう行動するべきだ?


 無性にいやしが欲しい気分だが、俺の癒し達は迷宮前の広場にある屋台の偵察に忙しい。召喚しちゃうか?


「悪いけどダメね。私は裕太さんに、知らせて欲しいと頼まれていた事を伝えに来たの。あなたが後にして貰える?」


「……分かりました。私はお詫びする立場です。裕太さんのお邪魔をする訳にはいきませんね。どうぞお話しください」


 エルティナさんが引いた。ふいー。なんか俺まで緊張してしまった。女性二人の緊迫感がある雰囲気は、何故か踏み込んではいけない恐ろしさを感じる。


「あら、ありがとう」


 エルティナさんが引いたからか、マリーさんも覇気のようなものを抑え、こちらに歩いて来る。あれ? 何で止まらないの?


 マリーさんはそのまま近づき、俺の耳元に口を寄せ(お耳を拝借はいしゃくします)っとつぶやいた。吐息といきが耳にかかりゾクッと背筋が震える。


 なんだこの状態?


(裕太さん申し訳ありません。実は父の所に商業ギルドのマスターと薬師ギルドのマスターが押し掛け、あらがいきれずに、裕太さんの情報を話してしまいました。父ももう少しねばる予定でしたので、事前にお知らせ出来ませんでした。それとあの受付嬢以外にも、宿に張り付いて裕太さんを待ち構えている者達も居ます)


「そ、そうなんですか。分かりました。知らせてくれてありがとうございます」


(いえ。お気になさらず。宿ですが、裕太さんがお泊りになられている宿の主に、裏口から入る事が出来るように手を回してあります。新しい宿もご用意出来ますが、どうなさいますか?)


「自分の宿で大丈夫です。わざわざありがとうございました」


 お礼を言うとマリーさんが笑顔で離れた。宿に手を回してくれたのは助かるな。しかし商業ギルドのマスターと薬師ギルドのマスターか……素材の価値から言ったら動くのは順当なのか? まあ、騒がしくなりそうだし、タイミングをみて死の大地に戻るか。


 考えていると目の前に申し訳なさそうな表情をしたエルティナさんが来た。こんな表情のエルティナさんを初めて見るな。もっとも最初の時以外はほとんど無表情だったけど。


「裕太さん。いままでの態度、誠に申し訳ありませんでした」


 いきなり深々と頭を下げられた。ザワッっと野次馬が騒ぐ。これって俺が態度を間違えると一気に悪役になりそうな気が……それも計算の内なのか?


 しかし完璧に態度を変えて来たな。普通ならもっと躊躇ためらいやくやしさなんかも、見え隠れしそうなものなんだが。ある意味とても清々(すがすが)しい。


「とりあえず頭を上げて貰えませんか? いきなり頭を下げられても話が見えません。説明してもらえますか?」


 俺の言葉に頭を上げたエルティナさんが少し大きめの声で、理由を説明しだした。


「実は、私共冒険者ギルドの裕太さんに対する態度は、極めて不誠実であったと反省し、その事に対するおびに参りました。改めまして、誠に申し訳ありません」


 再び深々と頭を下げるエルティナさん。五十層突破の事には触れないんだな。もしかして、そんなこと知らないですよ。私達が悪いと思ったのでおびに来ましたって事にしたいのか? 無理があると思うんだけど。


「ふーん。みんなの前で自発的に謝った事にしたいみたいね。裕太。どうするの?」


 シルフィも同意見か。さてどうしたものか。この状況を作り上げている時点で計算ずくな気がするし、俺が五十層を突破した事を知って、どうにか冒険者ギルドに有利な状況に持って行きたいって感じかなんだろう。


(とりあえずなんにも思いつかないから、様子見かな)


「理由は分かりました。話を聞きますので頭を上げてください」


「ありがとうございます。私だけでなくギルドマスターも、裕太さんにお詫びの機会を頂きたいとの事です。申し訳ありませんがお時間を頂けませんか?」 


 たたみかけて来るねー。野次馬も驚きで騒がしくなっちゃってるよ。あのギルマスが謝るって言ってるの? 罠? 毒殺とかされない? この流れで素直に従うのは掌で踊らされているようで、嫌だなー。


「ギルマスが謝るですか……ギルマスや冒険者ギルドとは色々ありましたので、密室でお会いする事は避けたいんですよね。例えば冒険者ギルドのカウンター前で、周りに人目がある所での話し合いでしたらお受けできますがどうでしょう?」


「……かしこまりました。ギルドマスターは今回の事を大変後悔しています。裕太さんの要望には出来るだけお応えするように、との事ですから問題無いと思われます」


「は、はぁ」


 かしこまっちゃうの? 公開で謝ってねって言ってるようなものなんだよ。もしかして、俺がこんな要望を出すのも織り込み済みって事? あー、そう言えば前回、同じような事を言ったな。予想されちゃってる感じか。


「ありがとうございます。何時頃、お時間を頂けますか?」


 了承なんてしてないよ。もしかしてさっきの「は、はぁ」を了承に返事って受け取ったの。ズルくない? 完全に相手のペースだな。行かないって言うか? うーん、それはそれで色々たくらまれそうだな。明日の夕方って言って少し時間を稼いで、シルフィに調べてもらってから考えるか。


「では……明日の夕方お伺いします」


「ありがとうございます。これまでの態度、本当に申し訳ありませんでした。明日の夕方、ギルドでお待ちしております」


 もう一度深々と頭を下げてエルティナさんは去っていった。


(シルフィ、エルティナさんの動向と、ギルマスの動向を調べてくれる?)


「ええ。いいわよ。なかなか面白い事になって来たわね。近くで見たいから、ちょっと私も行ってくるわ。ドリーも居るから大丈夫よね!」


 素敵な笑顔を残してエルティナさんについていくシルフィ。……シルフィさんとっても楽しそう。絶対にワクワクしているな。風の精霊の好奇心がうずいちゃったか?


 自由だな風の精霊。いや、ベル達も屋台のチェックに余念が無いし元々精霊自体が自由なんだろう。


 ドリーをチラッと見るとニコッっと頷いてくれたから、護衛は大丈夫っぽい。


 さて、この場の収集を如何しよう。こっちを見ている野次馬は放っておいていいけど、メルを質問攻めにしているユニスと、こっちを見ているマリーさんは放置できないよね。サラ達もいきなりの展開に、所在なさげだしさっさと場を納めて移動しよう。


「マリーさん。知らせて下さってありがとうございます。ちょっとバタバタしていますので、また後日、お店の方にお伺いさせて頂きますね」


「いえいえ、お気になさらず。ですが一つだけお聞きしても?」


「なんですか?」


「これから裕太さんには様々な誘いがあると思います。ポルリウス商会との関係は続けて頂けますか?」


 ああ、そう言う事か。マリーさんにはお世話になってるし、男色疑惑がひどくならないかぎり商売は続けていくつもりだ。実の兄を差し出して来たら、切り捨てるのは確定だけどね。


「ええ、希少な迷宮の素材が手に入ったら、マリーさんの所に持ちこみますのでご安心ください」


「ありがとうございます。そう言って頂けて安心できました。では、失礼しますね」


 ホッとしたように笑ってマリーさんは帰って行った。次はメル達か。


「メル。お疲れ様。明日の朝、工房に行くから、今日はここで解散しようか」


 俺がメルを呼び捨てにした事で、ユニスが驚愕にまる。なんか言いたい事があるけど、上手く言葉が出て来ないのか、口がパクパクしている。


「あっ、はい。お師匠様、どうもありがとうございました」


 メルがペコリと頭を下げる。ユニスの瞳が飛び出しそうなぐらい大きく見開かれる。おお、予想外の反応だな。なんで呼び捨てなのよ! とか、お師匠様って何よ! みたいなリアクションだと思ってたけど、驚き過ぎて声が出ないってパターンだったか。


 なんか満足出来たような、物足りないような微妙な反応だな。頭を下げたメルをユニスが引っ張って帰っていく。ユニスの気持ちの整理がついたら、どうなるかに期待しよう。


「裕太。明日の朝、契約か?」


(うん。そのつもり。メルもベル達と精霊とのコミュニケーションを練習していたから、メラルも試してみると良いよ)


「おお、そうか! うん。裕太、助かったぞ。また明日な。ありがとう」


 ビューンっとメラルが飛んで行った。これで問題無いな。俺達も宿に戻るか……そういえば宿は裏口から入らないとダメなんだよな。騒ぎになると予想はしてたけど、実際に騒ぎになると面倒だ。

読んでくださってありがとうございます。

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