百六話 なんとか頑張る
朝、メラルが迎えに来たあと、なんやかんやとあったがメルに会う為に宿屋を出発した。
歩いている途中。とても気になるのがディーネの話に影響されたのか、ベルがディーネにお話をねだっている事だ。精霊でも幼女でも女って事なのか? ディーネも恋愛話に食い付いて来るのが嬉しいのか積極的に話をしている。
「な、なあ。なんであんなに楽しそうなんだ? 放っておいて良いのか? いや。それはどうでも良いから俺に関わらないようにしてくれないか?」
メラルが切羽詰まった様子で、俺に頼んで来る。俺よりも年上のはずのメラルだが、年下の俺が真理を教えてあげよう。
「メラル。こんな時は逃げても無駄なんだ。ただ心を閉ざして笑顔で話を聞くのが出来る男なんだぞ。頑張れよ」
あれ? メラルが何言ってるんだこいつって顔で俺を見て来る。ダメだなメラル。年上でも見た目が子供なら、精神も子供に引っ張られるんだろう。
メラルがよっぽどディーネとの恋愛話が嫌なのか、何とか関わり合いにならない方法は無いかと尋ねて来る。諦めきれないようだ。
うん。メルの事に悩んでいる時の表情より、今の焦っている表情の方がマシだな。元気が出たのはディーネのおかげかもな。優しい目でメラルを見守っていると、気持ち悪い目で見るなと言われた。ショックだ。
***
「ここが、俺が祭られている工房だ。中にメルも居るから入ってくれ」
到着したのは職人が集まる場所なのか、いたるところから物を作る音が聞こえて来る。その中の一つ。少し古いが結構大きくて立派な工房だ。そう言えば代々鍛冶師の家系だったな。
中に入るとカウンターに小さな女の子が居て、その子に向かって冒険者っぽい若い女性が話しかけている。嫌な予感が……出直してくるべき「いらっしゃいませ」……いやん。声を掛けられちゃった。
女の子の声に冒険者の女性が振り向いて、とても嫌そうな顔をした。やっぱり俺の事を知ってるよね。誘拐犯を倒したから、精霊術師って事はある程度認められているみたいだけど、嫌われているのは変わらないんだよね。
「ご注文ですか?」
「ちょっとメル。こっちに来なさい」
「な、なに。ユニスちゃんお客さんが来てるんだよ。ちょっと、ねえ、引きずらないでよ」
ユニスと言う女性冒険者がメルを引きずって奥に入って行った。何を吹き込まれるかは大体分かるな。っていうかあの小さな女の子がメルなの? 鍛冶師とか無理だろ。ん? ちっこい鍛冶師=ドワーフ。うん、謎は全て解けた。
ドワーフなら納得だ。でも男のドワーフが鍛冶だと思ってたけど、この世界は女性のドワーフも鍛冶をするのか。
「ねえ、メラル。あのユニスって言う、メルを引きずって行った女の人はなんなの?」
「うん? ああ、あいつはメルの幼馴染だ。しかし何があったんだ? ユニスは裕太を見て、物凄い顔をしていたぞ」
「まあ、俺って冒険者ギルドで評判が最悪に悪いんだよ。あのユニスって子は冒険者だよね。たぶん俺の悪い噂をメルに伝えてるんだと思うよ」
「おまえ、評判最悪なのか?」
「うん。驚くほどにね」
「ど、どうするんだ? メルは頑固だがビビりだぞ。裕太と話す事すら怖がるかもしれん」
頑固でビビり。両立すると言えばするのか?
「諦めて良い?」
「ダメだ。いやちょっと待て。お前って悪人なのか? 悪人ならメルに近づくのもダメだぞ」
無茶な事を言い出した。自分で何を言ってるのか分かってるのか?
「俺は評判が悪いけど悪人じゃ無いよ。疑うのならディーネ達に聞いてみれば良い」
本当に聞きに行った。こういう時は、俺は裕太の事を信じるとか言うもんじゃ無いのか?
「んー、そうねー。裕太ちゃんはちょっと意地悪だけど、基本的にはいい子だとお姉ちゃんは思うの。でも思春期だから、大好きなお姉ちゃんに意地悪したくなっちゃうのは、しょうがない事なのよ。お姉ちゃん困っちゃうわー」
「ししゅんき?」「キュー?」「せいしゅん」「クーー?」
久しぶりにイラッっとしたな。思春期はだいぶ前に終わっている。俺はちょっと夢見がちなだけの大人の男だ。あとベル達が段々とディーネに毒されていくようで不安だ。
しかし簡単なお仕事なはずだったんだけど、なんか面倒なお仕事になったような気がする。
「よく分かんないけど、取り合えず裕太の事は信じるから変な事はするなよ」
メラル。それって絶対に信じて無いよね。
「変な事ってなんだよ」
ぶすくれていると、メルとユニスが戻って来た。
「あ、あの。お待たせしてすみません。どのような御用でしょうか」
「い「ヒッ」え……いえたいして待っていませんから構いませんよ。俺は裕太って言います。要件は人に聞かれたく無いので、内密に話せる場所はありませんか?」
返事をしただけで怯えられるとは、どれだけ悪評を教え込まれたんだろうな。
「えっ、でも……」
ユニスとやらの幼馴染なんだから、ちゃんとした大人なんだろうが、見た目が小さな女の子だから怯えられると罪悪感がハンパない。
「ちょっとあんた。人に聞かせられない話ってメルに何するつもりよ。変な事をしたら許さないからね」
ユニスがメルを抱きしめながら俺を威嚇するように言う。なんの獣人か分からないけど、威嚇する姿は猛獣を思わせるな。エルティナさんと同じタイプの肉食系美女だな。しかしちんまい女の子と褐色系グラマラス美女。とても幼馴染とか信じられない。
「別に悪い事をする訳じゃありませんよ。ただ俺にとってとても重要な事を話さないといけないので、話を聞くのは少ない方が良いんですよ」
やっぱり面倒な事になったな。声を掛けられる前に素早く出直して来れば良かった。今からでも帰って出直してくるか? ……ダメだな。ここで帰ったら怪し過ぎる。
「そんなの認められないわ」
まあ、大人とはいえ、小さな女の子と俺みたいな評判最悪な人間を二人っきりにはし辛いわな。
「そう言われても大事な話なんだけど。……メルさんメラルの話です。あなたの悩みが解決出来るかもしれません。聞くか聞かないかはあなた次第です。ただ、このままだと何も変わりませんよ」
……なんか霊感商法的な事をしているようで、自分でも胡散臭い。
「どういうことですか?」
「ちょっと。メラルってそこの炉に祭られている精霊だよね。何の話をしているのさ」
気持ちは分かるが、ユニスが鬱陶しい。ユニスが指さした工房の奥には炉があり小さな火が燃えている。メラル曰くよっぽどの時以外は常に火が灯されているらしい。
「メルさんなら俺の後ろに何が居るのか分かりますよね? 俺が話すのはここまでです。後はメルさんが決めてください」
「おい。裕太。メルにはもっと優しくしてくれ」
メラルは過保護なんだな。俺は結構優しくしているつもりなんだけど。ちゃんと敬語だし。
「無視するんじゃ無いよ」
「これは精霊術師としての話で、聞く聞かないもメルさんが決める話です。あなたは少し黙っていてください」
なんで美女との会話は険悪な状態が多いのかな? 八割がた俺のせいな気もするけど、キャッハウフフな展開もお願いしたい。
「私はメルの親友なんだよ。その私にも聞かせられないって言うのかい!」
「ええ。その通りです。話す内容は精霊術師の秘伝ですから、あなたには聞かせられません。だから静かにしていてくださいね。メルさんどうしますか?」
秘伝って秘密にしたい事なんだから間違って無いよね。確かにあんたが精霊術師で誘拐犯を倒したって噂は聞いたけど……ってブツブツ言っている。サラ達をシルフィが守ったことはユニスも知っているらしい。
「あ。あの。……私の悩みは改善するんでしょうか?」
「ええ」
「分かりました。お話を聞かせてください」
「メル!」
「ユニスちゃん。このままだと駄目なの。ちゃんとお店を継ぐにはメラル様に認めて貰わないと」
「でも。あいつは詐欺師って言われて、子供を良いようにこき使っている外道なんだよ。あんな奴が出入りしていたら、代々続いたこの工房の信頼に傷がついちゃうよ」
酷い事を言われた。俺が傷つかないとでも思っているのか? しかし子供をこき使う外道は初耳だ。一度どんな噂がたっているのか確認する必要があるかもしれない。
「そうなんですか?」
俺に聞いてどうするんだ。はい悪人です! 子供をこき使っている外道です! って言う奴が居るとでも思ってるのか? ユニスが心配するのも理解はできる気がしてきた。
「犯罪を犯した事は無いね」
「分かりました。信じます。あなたの後ろの沢山の存在が、あなたが悪い人ではないと言っている気がしますから」
メルって精霊術師の才能が凄いのかも。確かにユニスが俺を悪く言うとベル達が「そんなことないー」って援護してくれたからな。その気持ちを感じ取ったのかもしれない。
「メル。本当に大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だよ」
「ふー。分かったわ。ただし条件があるわ。話は聞かないけど私の目の届く場所で会話する事」
面倒だけど条件を受け入れて話す場所の選定をする。結果、廊下の端でメルと話をして、反対側の廊下の端でユニスが監視する事になった。
獣人でケモミミなので用心の為に、ベルに空気の壁を作って貰い音を遮断してもらったので大丈夫だろう。ようやく話が始められる。簡単で直ぐに終わる話なのに、話すまでにこんなに時間が掛かるとは。
「じゃあ、メルさん。これから話す事は絶対に秘密にしてください。あそこにいるユニスさんにもです。約束を破った場合はメラルは二度と貴方に近寄る事はありません。良いですね?」
ヤバい。めっちゃキョドってる。ここで拒否するのは止めてね。
「それは。契約に関する事ですか?」
「うん。精霊術師の秘伝みたいなものだからね。だから絶対に秘密は守らないといけない。秘密を話すとメラルが居なくなるのは間違いないからね」
「わ、分かりました。決して他言は致しません」
「じゃあ、話すね。俺がここに来たのはメラルに頼まれたから。内容は君の悩みの解決と精霊術師としての手解きだ」
「メラル様が? 私嫌われているんじゃ」
大きく目を見開くメル。相当驚いたらしい。
「嫌われて無いよ。ただ、メラルが中級精霊に進化して、今までの魔力量では契約出来なかっただけ。レベルを上げて魔力が増えれば契約出来るよ」
「本当ですか?」
「うん、本当。今から簡単にコミュニケーションが取れる方法を教えるから、試しに聞いてみると良いよ」
サラ達がフクちゃん達と使う通信方法をメルに伝授する。シンプルだから直ぐに終わる。
「じゃあ、試しにメラルとコミュニケーションをとってみるといい」
「わかりました。メラル様。……私の魔力が上がれば契約して頂けますか? 頂けるのなら、右手の方に移動してください」
メルの言葉にメラルが嬉しそうに右手に移動する。メラルが右手に移動したのを確認したメルは、今までの不安が解消され安心したのか、大声で泣き出してしまった。
「きさまーー。メルに何を言ったーー」
だよねー。声は聞こえなくても泣いているのは見たら分かるもんねー。鬼の形相で迫って来るユニスを見て、げんなりする。落ち着かせるまで時間が掛かりそうだ。
読んでくださってありがとうございます。




