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百話 いらっしゃい

読んでくださっている皆様のおかげで100話まで続けることが出来ました。これからも更新していきますのでお付き合い頂ければ幸いです。

 私達をさらおうとした人達と、味方に付いてくれたカールさん達二人もろとも、シルフィさんが吹き飛ばした。


「ガハッ、ゲホッ。な、なんだ。何があった?」


 生きていますね。味方になったように見えたのですが、何故シルフィさんは攻撃したのでしょう?


「ギャッ」「グハッ」「なんだ動けねえ、ガハッ」「やめろ。なんだこれは」「ウグッ」


 いきなり聞こえて来た不穏な声の方を向くと、私達を攫おうとした人達が空中にはりつけになっている。ボコっと鈍い音が立つ度に誘拐犯の苦痛の声が聞こえる。


 おそらくシルフィさんがお仕置きしているんでしょう。フクちゃんの風弾とよく似ている気がします。とは言え、この光景は私とマルコはともかくキッカには刺激が強そうです。見ないように注意しようと振り向くと、すでにマルコがキッカの目をふさいでいました。


 私と目が合ったマルコがコクリとうなずいたので同じ気持ちだったのでしょう。キッカは出来るだけ外に出さないようにしていましたから、スラムでもあまり危ない場面を見ていませんからね。


「お、おい。どうなってるんだ?」


 お仕置きをされている誘拐犯達を見ながら、恐る恐るカールさんが声を掛けて来ました。何が起こっているのかは大体分かるんですが、私が説明しても良いんでしょうか?


 迂闊うかつな事を言って、お師匠様にご迷惑をお掛けしてはこまりますし……どうしましょう? 聞こえて来る誘拐犯達の悲鳴が邪魔で上手く考えがまとまりません。


 ………………私が悩んでいると、私の右手に風が吹きつけられた。これは普通にハイって合図なんだけどどう言う意味なのかしら? ハイ……その通り? 了承? いいよって事なのかしら?


(私が話しても良いって事ですか?)


 小声で確認すると、右手に風が吹く。


(さわりだけの方が良いですか? 詳しく説明しますか? さわりだけなら右手に風をお願いします)


「何をブツブツ言っているんだ? それよりこの状況はなんなんだよ」


 右手に風が吹いた。さわりだけ説明しておけば良いって事ですね。しかしシルフィさんはこちらにも気を配っているのに、お仕置きの手がゆるまないのが凄いです。フクちゃんも頑張れば出来るんでしょうか? 後で色々試してみましょう。


「なあ、どうなってるんだ?」


 いけません。カールさんの事を忘れていました。シルフィさんが話しても良いって事は、磔にもされていませんし、この人は安全だと判断されたって事で良いんですよね?


「この状況は恐らくですが、お師匠様が私達を守る為に付けてくださった、精霊様が助けて下さったのだと思います」


「精霊の護衛だと! あいつは本当に精霊術師なのか?」


 そこに驚くんですか? お師匠様は精霊術師でギルドに登録していますし、パーティー名も精霊術師最強なんですが。


 このパーティー名は流石に違和感があるのでお師匠様に聞いたところ、脳筋にも分かりやすくしないと精霊術師が見直されないとの事でした。納得できるような納得できないような、不思議な気持ちになりましたね。


「当然です」


「じゃあ、あの状況はお前の師匠の精霊がやってるんだな。なんで俺まで吹き飛ばすんだ一応味方だったよな? 誤爆ごばくか?」


「お師匠様の精霊様が誤爆など有り得ません。あなたがお師匠様に迷惑を掛けているので、お仕置きをふくんでいたのだと思います。あのまま私達を誘拐しようとしていれば、あなたもあそこでああなっていたでしょう。悪い事に加担しないで良かったですね」


 私の右手に風が吹いたので正解だったようです。カールさんは危ない場面でギリギリ踏みとどまったって事なんでしょうね。


「そ、そうなのか。あいつ本当に精霊術師だったんだな。しかも相当腕がたつ……。精霊を遠隔操作できるなんて聞いた事が無いぞ……」


 カールさんがブルッっと体を震わし、誘拐犯達を見ながら顔を引きらせています。空中ではりつけ状態の誘拐犯達に風弾が絶え間なく叩き込まれていますが、威力は弱めているらしく大怪我を負っている様子はないですね。殺すつもりは無いようで、少しホッとしました。


 どうやらカールさんは本当に、お師匠様が精霊術師だと思っていなかったようですね。そう言えば決闘した時には風壁しか使っていないって言ってたので、気が付かなかったのかもしれません。


「なあ、お前達の師匠は俺の事を怒っていたか?」


「私は決闘騒ぎがあったとしか聞いた事がありませんので、分からないです」


「そ、そうなのか」


「はい」


 物凄く複雑な表情ですね。……お師匠様が本当に精霊術師だったので、想像と違ってこまっているのかもしれません。うめき声が聞こえる微妙な空気が流れる中、バッっと誘拐犯達の髪が空を舞った。


 凄いです。キレイに髪だけ切り取られてツルツルになっています。あんな事も出来るんですね。でも顔がれあがっていて歪で怖いです。


「ひ、ひでぇ」


 カールさんが怯えたような声をあげる。


「そうですか? 人を誘拐して売り払おうと襲い掛かって来た相手ですので、随分寛大な対応だと思いますよ。殺されても文句が言えない状況ですよね?」


「まあ、そうなんだが。お嬢ちゃん、子供なのに随分達観ずいぶんたっかんしてるんだな」


「弱ければ奪われる。身に染みて理解していますから」


「そ、そうか」


 ドサドサっと音を立てて誘拐犯達が地面に落ちた。誘拐犯達を見るとピクピクと痙攣けいれんしている。生きていれば問題は無いのでしょう。


「終わったのか?」


(シルフィさん終わったのですか?)


 右手に風が吹く。終わったんですね。


「終わったみたいです。カールさん、あの人達を拘束してもらえますか?」


「ああ、分かった」  


 カールさんともう一人の男性が誘拐犯の荷物をあさるとロープと大きな袋が出て来た。あれで私達を誘拐する予定だったのでしょう。手際よく全員を縛り付けカールさんが話しかけて来た。


「とりあえずこいつらは冒険者ギルドに連れて行こうと思う。一緒に来てくれ」


「冒険者ギルドですか? 迷宮都市の警備隊ではなく?」


「ああ、冒険者が冒険者を捕まえたんだ。まずはギルドに連れて行くのが筋なんだよ。そこで冒険者ギルドが罰を与えたうえで警備隊に引き渡されるか判断される。冒険者はガラの悪い奴が多いからな。警備隊に負担をかけ過ぎる訳にもいかないんだよ」


「そうなんですか」


(シルフィさん。私達もギルドに行くべきですか?)


 左手に風が吹く。行かない方が良いようですね。


「じゃあ、行こうか」


「いえ。私達がギルドに行ってもろくな事にはなりませんから、カールさんの方でお願いします」


「……いいのか? この三人は俺の仲間だぞ。逃がすとは思わないのか?」


 命を狙って来たとは言え元の仲間を逃がす。ありえない話ではありませんが、シルフィさんも行くなと言っていますし問題無いのでしょう。


「どうでしょう? 私はお師匠様に今回の出来事を報告するだけです。カールさんがお師匠様と敵対なさりたいのであればご自由になさって良いと思います。ただ、これは私見ですが、子供をさらおうとする者に情を見せても良い事は無いと思いますよ。では、カールさん私達はお先に失礼しますが、味方になってくれた事は本当に感謝しております。ありがとうございました」


「お、おう。っておい。ちょっと……」


 マルコとキッカと共に頭を下げて歩き出す。カールさんには申し訳ないですが、子供の私達だけで冒険者ギルドに行くのは危険ですよね。


 マルコとキッカとシルフィさんと話し合った結果、襲われたので宿に戻ってお師匠様に報告する事にした。ジーナお姉さんの所に行けなかったのは残念ですが、またお休みがあるはずなので次の機会の楽しみにする事にしましょう。


 そうだ、お師匠様に戻る事を伝えないと。問題があった時はフクちゃんに、お師匠様の所に行って貰う事になっているからお願いしないと。


 散歩に行くと言っていましたから、居場所をシルフィさんからフクちゃんに教えてもらって、お使いを頼む。



 ***



 うーん、行っちゃった。大丈夫かな? 揉め事もあるし子供達だけで外に出すのは心配なんだけど、師匠の立場の俺が側に居ると息がつまるだろうし……子育てって難しいよね。


 シルフィについて行ってもらったから安全面では問題は無いと思うんだけど、なんでこうも心配なんだろう? あれ? 俺、サラ達にまで依存してる? いやいや、流石にそれは無いな。純粋に師匠としてサラ達が心配なんだろう。取り合えず部屋に戻るか。


「ゆーた。あそぶ?」


 部屋に戻ってベッドに寝っ転がると、ポスンとベルがお腹の上に乗って疑問形で聞いてきた。お休みって言ったから気を使ってくれているのか? 何気にレインとトゥルとタマモも俺に注目しているな。ベルを抱きかかえながら体を起こす。


「遊ぶって言うかせっかくだからディーネとドリーを呼んで、お外にお散歩に行こうと思っているんだけど、どう?」


「でぃーねとどりーがくる? おさんぽ?」


「うん。そうだよ」


「ふぉぉ。べるおさんぽする!」「キューーー」「おさんぽ。たのしい」「クゥクゥクー」


 おお、みんなのテンションが急上昇だ。部屋の中をビュンビュンと飛び回っている。これだけ喜ばれると俺も気合が入るな。


 よし、さっそく召喚するか。……あれ? よく考えたら大精霊を召喚するのは初めてだな。ベル達は召喚するとポンっと言うかなんて言うか、あっさりと出て来るけど大精霊はどうなんだろう?


 立ち上がってディーネに意識を集中しながら召喚すると……ポンって感じでディーネが現れた。なんか残念なようなホッとしたような。


「うふふー。お姉ちゃん登場! 裕太ちゃん寂しかった?」


 巨大な魔法陣が現れるとかディーネだったら水の大精霊なんだから、水柱が上がったりしてその中から出て来るみたいな、カッコいい演出があっても良いような気がするんだけど。


 いや。そんな大げさな演出があったら、召喚する度に周りを気にしたり時間が掛かったりと面倒だよな。某有名ゲームみたいに、一度召喚ムービーを見たらスキップ出来る機能があれば問題無いんだけど……。さすがにそんなに都合よくは行かないか。そうなるとこうやってアッサリ出て来てくれた方が助かるな。


「あれ? 裕太ちゃん。お姉ちゃんが来ましたよー。きゃ、ちょっと待ってお姉ちゃんはまだ裕太ちゃんと挨拶してないんだから」「でぃーねきたー。おさんぽー」「キュキュー」「ひさしぶり」「ククー」


「ん? ああ、ごめんディーネ。来てくれてありがとう」


 思わず召喚の演出を考える事に気を取られてしまった。顔をあげるとベル達に取り付かれてハグハグされているディーネがいた。


「裕太ちゃん、ひどいわー。せっかくお姉ちゃんが来たのに考え事なんて」


 ベル達に抱き着かれながら頬をふくらましている。


「ごめんごめん。本当に来てくれてありがとう。今日は迷宮都市を散歩するつもりなんだ。酒屋にも寄るから勘弁してくれ」


「うーん、しょうがないわね。でも裕太ちゃん、お酒に釣られたわけじゃ無いんだからね。お姉ちゃんはそんなに安くないんだから、これからはもっとお姉ちゃんに対して敬意を持って接するのよ」


 腰に手をあて人差し指を軽く振りながら、子供をしかるように話すディーネ。マリーさんと言いディーネと言い、微妙にジェスチャーが昭和なんだよな。これがこの世界の流行なんだろうか?   


「了解。ちゃんとした挨拶はドリーを召喚した後にするからちょっと待っていてくれ」


「もう。しょうがない子ねー」

 

 許可を得たので今度はドリーに意識を集中しながら召喚する。ポンって感じでドリーが現れた。


「ドリー。来てくれてありがとう」


「ふふ、お招きありがとうございます」


 ドリーが優雅に一礼する。相変わらず上品で本当に深窓の令嬢って感じだよな。ベル達もディーネには一斉に抱き着いたのに、ドリーには順番に並んで可愛くご挨拶をしている。


 まあ、ディーネもドリーもベル達に好かれている事は間違いないんだけど、扱いの違いは子供特有の鋭い勘で何かを察知しているのかもしれないな。


「二人とも来てくれてありがとう。今日は迷宮都市を散歩するつもりなんだけど、問題無い?」


 二人ともニコニコとうなずいてくれたので、さっそく散歩に行くか。まだこちらに来て数日だから変わりはないと思うけど、泉の家の事も聞いておこう。

前書きにも書きましたが、100話まで更新する事が出来ました。読んでくださって本当にありがとうございます。

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