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九十八話 サラ達の休日

「休日ですか?」


 初めて迷宮に潜ってから三日。何時もの通りに宿に戻り食事を終えてのんびりしていると、突然お師匠様が明日は休日にすると言い出した。


「うん、毎日頑張ってるからね。でもちょっと頑張り過ぎちゃったから明日は休みにしよう。無理させてごめんね」


 お師匠様に少しバツが悪そうに謝られた。お休み……毎日お腹いっぱいに食べる事が出来るし、レベルも上がって疲れてはいないのだけど、お休みが必要なんでしょうか?


 私だけではなくマルコとキッカにもお師匠様が謝っている。確かにキッカはまだ小さいですし、お休みがあった方が良いかもしれないですね。


「明日はサラ達は好きに過ごすと良いよ。ただ俺の弟子だって事は、冒険者達は知っているから面倒に巻き込まれるかもしれない。出かけるのならシルフィについて行ってもらうから言ってね」


 シルフィさんはお師匠様と契約している風の大精霊だ。フクちゃんでさえ魔物を簡単に倒すのに、浮遊精霊と言う一番力が弱い精霊らしい。大精霊のシルフィさんの力は想像する事もできない。


 死骸を見ただけで足が震えてしまったファイアードラゴンも、シルフィさんが簡単に討伐してしまったらしい。お師匠様は意外と過保護な気がする。


「あの。出かけるって私達が自由に迷宮都市を出歩いて良いんですか?」


「うん。せっかくのお休みだし体を休めるのも大事だけど、外に出て気分転換もした方が良いよ。前にサラがスラムの人に嫌な目で見られたって言ってたけど、シルフィがいるんだから心配ない。のんびりと楽しんでおいで」


 私達が迷宮都市の中を楽しんで歩く……スラムの子供は評判が悪いから、出来るだけ人に見つからないように隠れていたけど、そんな必要はないって事なのかしら?


 この宿のマーサさんやトルクさんみたいに、食べ物を分けてくれる優しい人達もいたから生きて来られたけど、ほとんどの人達はスラムの子供と分かると警戒される。自由に出歩けるなんて夢のような話ね……夢なのかしら?


「サラ?」


「申し訳ありませんお師匠様。考え事をしていました」


「そう。まあ、そう言う事だから明日は色々楽しむと良いよ。これはお小遣いね」


 そう言ったお師匠様は私達一人一人に三万エルトを渡した。多すぎると言うと、足りないよりもあった方が良いでしょ、余ったらまた預かっておくから持っていきなさいと言われた。


 多すぎると思うけど余ったら返せば良いと思えば気が楽ね。お師匠様が軽く私達の頭を撫でて部屋から出て行った。


「サラ姉ちゃん。あした休みだって。休みってなにをすればいいんだ?」


「お休みだからな何をしても良いのよ。マルコとキッカは何かしたい事はある?」


「うーん。めいきゅうはダメなんだよな?」


「迷宮をお休みするんだからダメだと思うわ」


「そうだよな。それなら何をしたらいいのか分かんないよ。キッカは何かしたいことがあるか?」


「わかんない」


「そうか。キッカも分かんないか。なんもんだな」


 マルコがうなりながら考え込む。そう言えば私も平和だったころは習い事ばかりしていたから、お休みって無かった気がするわ。何をしたらいいのかしら?


「フクちゃん私は何をしたらいいのかしら?」


 悩み続けて思わずフクちゃんに問い掛けてしまう。はいといいえで答えられる質問では無いし、フクちゃんもこまったのか私の頭の周りをグルグルと飛んでいる。


 お師匠様いわくフクちゃんは小さな可愛いフクロウだそうだ。この目で見てみたいが、私では見る事が出来ないのがとても残念だ。


「ごめんねフクちゃん。ちょっとなやんで難しい事を聞いちゃった。明日はお休みだから、何をしたらいいのか分からなくなっちゃったの」


 私が謝ると、フクちゃんは頬にそっと近づいてフヨフヨと上下に動いた。お師匠様が言うには、ホッペをスリスリとしてくれているらしい。


「ありがとうフクちゃん」


 お師匠様が言う、精霊とのコミュニケーションが、上手く取れているのかは分からないけど、フクちゃんと一緒に居られるのは何となく嬉しい。


 暫くフクちゃんとコミュニケーションを取りながら色々考えるが……何も思い浮かばない。考えていると服を引かれた。キッカが私を見ている。何か思いついたのかしら?


「キッカ、何か思いついたの?」


「うん。あのね、サラお姉ちゃん。キッカ、おじちゃんにあいたい」


「おじちゃん?」


「うん。おにくのおじちゃん」


 お肉のおじちゃんって、スラムに近い場所で屋台をしているおじさんの事よね。売れ残った串焼きを偶に分けてくれる優しいおじさんで、それは私達にとって凄い御馳走だった。


「お肉のおっちゃんか。おれも会いたいな。大きくなったら買いにいくってやくそくしたし、サラ姉ちゃん。お肉のおっちゃんのところに買いに行こうよ」


「いいわね。お肉のおじさん以外にもお世話になった人達の所に行ってみましょうか。お礼を言いに行きましょう」


「たくさん買おう」「うん。たくさん」


 マルコとキッカが楽しそうに騒いでいる。初めてお師匠様に出会った時はこんな事になると思わなかった。怪しい人について行くマルコとキッカが心配で私も一緒に行く事にしたけど、その選択は正しかったんだと思う。


 私を助けてくれたおじさんが迷宮から戻って来れなくて、預かっていたお金も無くなった。スラムに何とか居場所を見つけてからも生きるので精一杯だったけど、これからは頑張ればみんなで幸せになれるかもしれない。


「ふふ。マルコ。キッカ。明日が楽しみね!」


「うん!」「たのしみ!」


 お腹いっぱいで温かいベッドで眠れる幸せに感謝しながら目を閉じる。明日が楽しい一日になりますように。



 ***



「お師匠様。では行ってきます」「師匠。いってきます」「いってきます」


「行ってらっしゃい。気を付けてね。あっ、ちゃんとシルフィと決めた合図は覚えてる? 普通の時はシルフィの事は気にしなくて良いけど、合図があったら必ずシルフィにしたがうこと。いいね」


「はい。ちゃんと合図は覚えていますので大丈夫です」


「そうか。なら楽しんでおいで」


「はい」


 わざわざ宿の外まで出て来て見送ってくれたお師匠様に一礼して、少し緊張しながら迷宮都市を歩く。いつもお師匠様について通る道なのに、私達だけで大通りを普通に歩く事に少し緊張する。


「サラ姉ちゃん。お肉のおっちゃんいるかな?」


「いると思うわよ。朝に迷宮に向かう冒険者に朝食を売っているはずだもの」


「そっか。ねえ、サラ姉ちゃん。たくさん買おうよ。おっちゃんのラフバードのくしやき、おいしいからな。キッカも大好きだもんな」


「うん。おにくのおじちゃんのくしやき、キッカだいすき」


「ふふ。でもお昼はジーナお姉ちゃんのお店でご飯を食べるんだから、一人三本にしておきましょう。お師匠様がこれからも定期的にお休みを作るって仰ってたから、おじさんの屋台にも何度も買いに行く事が出来るわ」


「そうだった。ジーナ姉ちゃんのところのスープもおいしいからたのしみだね。きょうは裏でのこりものを分けて貰うんじゃなくて、ふつうにお店で食べるんだよね」


「そうよ。パンとスープにお肉もついてくるわ」


「うわー。サラ姉ちゃんはやく行こう」「いこー」


 興奮して走り出したマルコとキッカを追いかける。最近はお師匠様にお腹いっぱいに食べさせて貰っているから、そんなにあわてる事も無いはずなんだけど、お金を払ってご飯を食べられる事が何だか嬉しい。



 ***



「おっちゃん。くしやきをぜんぶで九本ちょうだい」


「どうしたんだ坊主。そんなに急いで、お使いか……うん? もしかしてお前、マルコか? キッカにサラもいるな。ちゃんとした服を着てるから分からなかったぞ。暫く来てなかったがどうしたんだ?」


「へへーん。おっちゃん。おれたち冒険者になったんだ。師匠がひろってくれてきょうはおやすみなんだ」


 マルコが興奮してちょっとおかしな事を言っている。


「ん? 良く分からんが冒険者になって、稼いだから串焼きを買いに来たって事でいいのか?」


「そうなんだ。おっちゃんとやくそくしたからな」


「大きくなったら買いに来いって約束か。想像以上に早かったが、稼げるようになったのなら文句はねえ。九本だな。ちょっと待ってろよ」


 おじさんと今までの事を簡単に話しながら、串焼きが焼けるのを待つ。精霊とのコミュニケーションについては秘密だから、くわしくは話せなかったけど、おじさんは楽しそうに私達の話を聞いてくれた。


 精霊術師の弟子になった事を話したら、おじさんにとても心配された。お師匠様の言う通り精霊術師って評判が悪いのね。


「おじさん、大丈夫よ。お師匠様は凄い人なの。それに毎日お腹いっぱいご飯を食べさせてくれるから、とっても幸せよ」


「そうか? うーん。着るもんもちゃんとしてるし顔色も良い。少しふっくらして来たみたいだから嘘ではないと思うが、太らせて売り払うつもりかもしれねえ。注意するんだぞ」


 そんな事が有り得るのかしら? お師匠様にとって私達を売ったお金って、たぶんたいした金額じゃ無いわ。そんな手間を掛けるより、お師匠様が一人で迷宮に潜った方がお金になるわよね。


「大丈夫だと思います」「そうだぞ、おっちゃん。師匠はすごいからだいじょうぶだ」「いいひと?」


「そうなのか? まあ、警戒心が強いお前達がなついているなら、悪い奴じゃあ無いんだろうが……一応心の隅にもしかしてって気持ちも置いておけ。ほら、焼き上がったぞ」


「はい。九百エルトです。ありがとうございました」


「おう。また来いよ」


 おじさんにお金を払い手を振りながら屋台を離れる。


「サラ姉ちゃん、歩きながら食べる?」


「いえ。危ないから広場で食べましょう。あそこなら座る所もあるし飲み物も買えるわ」


「分かった。じゃあ、冷めちゃうから急ごう」「キッカもはやくたべたい」


 急いで広場に向かい、飲み物を買って串焼きを食べる。


「おいしいわね」「うまい」「おいしい」


 マルコもキッカも笑顔になる。たぶん、お師匠様に食べさせてもらっている料理の方が美味しいのだけど、お肉のおじさんの串焼きは、辛い生活の中でのご馳走だったから特別な気がしてとても美味しい。


 スラムに居た時ほどえてはいないはずなんだけど、しゃべる事も無く三本とも一気に食べ終わってしまう。


「ふー。うまかった。サラ姉ちゃん、またおっちゃんの屋台に行こうね」


「そうね。次のお休みにもまたおじさんの屋台に買いに行きましょう」


「「うん」」


「さて、これからどうしましょうか?」


 第一目標のおじさんの屋台には顔をだした。ジーナさんの食堂はお昼に行くから、まだ結構時間がある。


「いろんな店を見て回ろうよ。いまならおいはらわれる事も無いよ」


 マルコの案を採用して迷宮都市の今まで近寄れなかった場所を見て回る事にする。歩けばお腹も空くから丁度良いわよね。

読んでくださってありがとうございます。

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