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夜遊びは誰のための

作者: 堆烏
掲載日:2016/04/16

紫陽花公園には、東西南北の4つの入り口がある。


公園のベンチで眠る浮浪者を守る、子どもたちのお話。

少し古びた住宅地。静かな夜。聞こえるのは夏の虫の音。自身の小さな息づかい。それだけ。

中心部、密集した住宅地にまるで守られているかのような位置にある小さな公園。

2つの影が少しずつ、その公園に近づいていく。


「で、今回俺らは誰を殺せばいいんだ?こんな時間に公園にいる奴なんて、浮浪者ぐらいじゃねえのか。」

「元殺し屋だそうだ。俺らと同じ。凄腕だったらしいから気を抜いたら死ぬってよ。」

「公園のおっさんに落ちぶれた野郎なんかに殺されるかっての。」


右の影の手には二丁の拳銃。左の影の手には数本のナイフ。

月に照らされたその目は、血に飢えた獣のごとく、赤く染まっていた。


殺し屋。日常ではお目にかかれない、裏の人種。変死体や自殺という形で被害者が報道されることはあれど、大抵は死体どころか痕跡すら残さない。


あと、数メートル。二人が視界に公園を捉えた、そのときだった。


「あの〜。」


気配などなかった。背後をとられたことなどなかった。一瞬反応が遅れ、それでも間髪おかず振り返った二人に


「お勤めご苦労様ですっ。これ、差し入れですので夜食として食べてください。」


殺し屋二人の口に、同時にねじ込まれたおにぎり。用意したと思われるのは

まだ小さい小学生のような少女だった。

麦わら帽子を深くかぶり、腕にランチバスケットをぶらさげ、夏によく似合う白いフリルのスカートを着こなした女の子。

しかし、常人離れした速さで、おにぎりを二人の口に『差し入れた』、女の子。


「んぐく??」

「おい、誰だお前。」


男が手にしたナイフを少女の首にあて、おどそうとする


その腕の先は、なかった。


「・・・・がぁぁぁぁっっっ!!」

「あら、痛そう。」


(いつのまに、一体なにが起きたんだ!?)


あたりを見渡すと、拳銃使いの仲間は自分の首をおさえてうずくまっていた。

否、痙攣し、意識がなかった。


「ナイフ使いさんは『当たり』のおにぎりだったのですね♪私、2つおにぎり作るといつも片方失敗しちゃうのですよ。」


そんな『ハズレ』のおにぎりがあってたまるか!!

倒れているパートナーは、どう考えても味がまずいだけで失神するほどヤワではないはずだ。

そして、


「そして、ナイフ使いさんの腕を斬ったのは」

「おっさんよりも腕のたつ本物のナイフ使いってことっス。」


住宅地の十字路の影から現れた少年。彼も小学生のごとき風貌であった。


「おっさんも、ナイフ使うぐらいならちゃんと使ってあげなきゃナイフが泣くぜ?」

「黙れ小僧がぁぁぁ。」


右手は使い物にならない。しかし両効きであった男は左手で手持ちのナイフを数本、投擲した。

距離として数メートル。頭、胸、両足の太ももを鋭く捉えたその投擲は


「おせぇし、甘いし、威力もないじゃん。」


全て、少年のナイフにはじかれた。


「おかしいだろ?ありえないだろ・・・・。俺らは殺し屋だぞ・・・・。こんなガキに」

「だまれーおっさんがー」


男の肢体にナイフが次々と刺さっていく。両手、両腕、両足。両耳。


「こんなところだろ。もう帰っていいかな?」

「いいんじゃないでしょうか。私たちまだ子どもですし。夜更かしは本当はしたら怒られちゃいますしね。」

「てめえら・・・・何もんだ・・・・。」


男が意識を失う瞬間、二人の子どもの笑みが見えた。


「ただのガキだよ。」

「ただのこどもですよ。」






「でも、大したことないのですね。公園の浮浪者さんは、毎日私の失敗作をわざと選んで美味しそうに食べてくれるのに。本当にお友達なのでしょうか?」

「それなー。あのおっさん、一回もナイフ刺さんねーし、いつも返り討ちにあってたから、あの人の友達にしては正直拍子抜けじゃん。」

「まぁ、ちゃんとおもてなしはしたので、帰りましょうか。」

「だな。」


紫陽花免公園、東口付近住宅地十字路。負傷者二名。









「東口の連中からの応答がない。」

「なんだ、やっぱりスか。あの伝説の殺し屋をヤルからには他にも殺し屋が配置されていたんスね。」

「ああ、俺たちを入れて10人。今回の任務に就いている。」

「・・・・。意外と多いんですね。そして、東口担当は誰です?」

「『鍵爪のヘザン』と『ダブルトリガー』。有名な殺し屋だ。」

「へへへへ。そいつら、先走って公園入って返り討ちにあったんじゃないっスかぁぁ〜?」

「うるさいぞ。」

「いや、ありえるかもしれない。慎重に行くぞ。」


リーダー格の長身の男。猫背でヘラヘラしている男。サラリーマンのような青年。寡黙を貫く大男。

公園の西口を担当している殺し屋集団『グルス』。彼らはまだ、住宅地から少し離れたファミレスで待機していた。


「作戦開始は深夜12時。今はまだ11時半だ。何も起きなければよいのだがな。」

「何も起きないっていうか、客が急に帰っていくのはなんでなんでしょうねぇ。」


猫背の男にいわれて振り返ると、確かに。さっきまでだらだらしていた客たちが、真っ青な顔で急いで帰っていく。店員も厳しい表情だ。

店員の一人が近づいてくる。


「お客様。お客様たちも帰られた方が・・・・。」

「???どういうことだ。」

「それが・・。」


「あーあーあーあー。なんだよなんだよ。また誰もいないじゃん?つまらないじゃん?貸し切りですか?そうなんですか?いやっほう〜。」

「黙れ。脳天かちわったろか?」

「ふぁ、ファミレスは・・・、し、静かにしとかないとダメなんだよ・・?」

「貸し切りならいいんじゃねーの?」

「よく見なよ。客。まだ残ってる人いるみたい。よその人たちかな。」

「確かにみねぇ顔だ。」

「先輩たち、顔怖いっす。」

「だって、誰もこねぇんだもんよ。今日ワクワクしてたのにつまんねーもんよ。」



入り口から、ぞろぞろと。9人くらいの野球少年が入ってきた。


「騒がしいから、俺らが場所を移れと。そう言いたいのか?」

「いえ、そういう理由では・・・・。」


店員に対して睨みつけながらそういうと、おびえてすっこんでしまった。


「あいつら、態度わるくないっスかぁ〜?殺しちゃっていいスかぁ〜?」

「できれば、任務が終わるまで、もめ事は避けたい。」


「任務って、なんすか。」

「!!??」


突如、目の前に、野球帽の少年がたっていた。帽子で目は見えないが、こちらに興味深々といった様子だった。


(このガキ、いつの間に距離をつめた・・・・!?)


「あぁぁ〜?俺っちたち、今から人殺しにいくんスよ〜」

「おい。勝手にしゃべるな。」

「・・・・。」


少しびびらせてしまったか、勝手にしゃべった猫背の男には後でうかつなことを漏らさぬように言っておかなければ。

そう思ったときだった。


「狙いは、公園で寝てる人だったりします?」


帽子の奥の、目が光った、ような気がした。

(こいつは、何かを知っている?)


「そうだと言ったら?」


野球帽の少年は、その言葉には何も返さず、仲間の元へと行ってしまった。


「お前ら、さっきの場所戻るぞ。ゲームのやりなおしだ。今日の部活は終わってねぇぞ。」

「マジですか大将。でもここのパフェ食ってからでいいですかね。」

「おいてく。他の奴ら早く来い。」

「ままま、待ってくださいって。行きますって。もう〜。」


店員たちは、ほっとした顔で、帰っていく少年たちを見送った。

しかし、厳しい顔で彼らを見つめる者もいた。


「奴らを追うぞ。情報が漏れている可能性がある。任務の前に先にあいつらを殺る。」

「あいつらむかつくっスからね〜。気持ちは俺っちも分かるっス。了解っス。」

「大将って言われていた少年。彼は危険なにおいがしました。用心して取りかかりましょう。」

「・・・・・。」

「よし、異論はないな。行くぞ。」


その選択は間違っていたとは知らずに。




少年集団が立ち止まった。公園入り口の手前だった。

やはり偶然ではないのか。彼らは何かを知っている・・・・?


少年たちが、振り返ったとき、リーダー格の男は確信した。


「こいつら、俺らと殺るつもりだ。」


目つきが違った。雰囲気が違った。道具は野球のものだとしても

少年たちが握っているものは、凶器にしか見えなかった。そう思えるほどの殺気があった。


「部活〜夜練開始〜。対戦相手は〜・・・・えっと知らねーや。まずは投球練習から〜。」

「大将、手加減してくださいね。じゃないと」


投球の構えを取る野球帽の少年。

それに対して、だるそうな声で話しかける少年。さっきパフェを食べたがっていた少年だった。


瞬間、猫背の男が吹き飛んだ。


「『野球帽の悪魔』。大将は人殺しのピッチャーなんすから。」


やばい。


「鉄、亀田。二人とも全力でしとめないと、やばいぞ。」


呆然としている二人に呼びかける。


野球帽の悪魔、と確かに聞こえた。その異名は聞いたことがある。

2年前、甲子園の一回戦で、相手チームを全員負傷、一人を死亡させた最悪の投手。

それは無理矢理紛れて参加した中学生だという。

しかも、それは表世界の情報。もちろん、それだけでもやばいガキである。

ヤクザやマフィアの数人が、この悪魔に殺されたという噂があるほどの殺人鬼。

その裏世界の情報は、知らぬものはここにはいなかった。


(こんな小さな町に、まさかいるとは・・・・。)


最初に動いたのは寡黙を保っていた大男、鉄だった。

マシンガンを少年らに向かってぶっぱなした。騒ぎにはしたくなかったが、しかたがなしの判断だった。

白煙が煙る中、鉄は厳しい表情を崩さなかった。


リーダーと亀田はその鉄の顔を見て悟った。

誰も死んでいない、と。


「危ないじゃないですかー。まったくパフェ食ってた方がよかったかも。」

「投球練習のあとは捕球練習〜。」

「大将、今終わったっすよ。」


パラパラパラ、と。全ての弾丸を指先でつまんだ少年が、だるそうに手を払っている。


(なんなんだこいつら・・・・!!)


「はい次〜。盗塁練習〜。」

「えっと、・・あの、」

「ん?」

「ひぃぃぃぃっ。・・・それも、えと、終わりました、、、です・・・。」

「ん、お疲れ。」


怯えた少年の手には大量の拳銃と、ボウガン、ナイフ、スタンガン。そして鉄のマシンガン。


複数の拳銃を一度に操る『多段撃ち』。

ボウガン、ナイフ、スタンガンで、どの距離からも多彩な攻撃をする『五月雨』。

リーダーと亀田の異名の象徴である武器が今、少年たちの手にあった。

大将と呼ばれた野球帽の少年は、仲間に武器を手渡していく。

そして、


「おっさんたち。お疲れさまっす。」

「くそぉぉぉぉぉぉぉ。」


銃声が鳴り響いた。


紫陽花免公園、西口手前。負傷者四名。









「ん、やぁ読書少年。そっちは終わったのかい?」

「こんばんは。とりあえず北口に来た人たちは追い払ったよ。」

「そうかそうか、私もちょうどさっき、3人くらい斬ってやったところだよ。」


言うや否や、竹刀を青年の頭に振り下ろす少女。ギリギリで寸止め。軽快に彼女は笑う。

互いに高校生くらいだろうか。剣道の防具を身につけた彼女はさながら部活生のようで、

本を片手に呆れた顔の青年は帰宅部生のようだった。


地面に突っ伏している強面の大人3人を除けば、青春の1ページに写っていたであろうに。


「わざわざ南口に来てくれたってのはあれかー。女の子一人は心配だった的なものか?紳士だねー読書少年。」

「自分のところが終わったからね。全部見回った方がいいかと思ってね。あなたは心配しなくても大丈夫でだと思ってたよ。」

「お前きっとモテないヨ。」

「はいはい。」



歩き始める青年に向かって、彼女はふと、不思議に思った。


(本しか読んでないようなひょろひょろのこいつは、どうやって殺し屋を追っ払ったのかしら。)


その思考が伝わったのか、振り返って彼は笑った。

少し、寂しそうな笑顔だった。


「読書してたらさ。勝手に逃げて行っちゃったんだよね。殺し屋さん。」
















紫陽花公園から北へ2kmほど


「はっ・・はぁぁっ。はあ。」


全力で一目散に走る影があった。


「やばいやばいやばいやばい。」


公園とは逆方向。誰の目にもとまらぬ速さで駆けぬける。

その速さで敵を翻弄し、相手が気づかぬ間に殺す『サイレントキラー』という異名を彼は持っていたが、昔は『逃げ足のイラス』という通り名で有名であった。


「ちっ。昔を思い出すぜ。逃げることしか能がなかったからな。だが、今回ばかりは特別だ。」


あれはやばい。バケモノでしかない。


北口の入り口で、通せん坊のごとく立っていた青年。視線は手元の小説に向かっていたが、隙はなかった。

だから、仕方なく、正面から1000回、切り刻んでやった。

眼球もえぐった。両腕両足を切断したりもした。心臓なんて何十回もえぐりとったはず。

なのに。それなのに。



「なんで、だよ。なんでなんだよあのガキ・・・・。」

「むしろなんで、こんなところにいるのかな、あなたは。」


!!!?


「あんた・・・は・・。」

「はい。今回の任務の責任者の疫病神さんですよ。」


誰の目にも止まらないはずの速さ。しかし、隣で追走してくる黒い影は、今会ってはいけない人物だった。


「任務放棄は罰則、ですよねぇ。」

「待ってくれ、違うん」


言葉はそこで途切れた。言い訳は聞く気はなかった。


「さて、10人とも連絡がとれないとは、一体何が起きてるのでしょうかねぇ。」


スピードを緩め、止まり、今度は逆方向へ速度を上げて駆け抜ける。


徐々に、徐々に、速度が上がっていく。

公園には、あと1分もせずに着くだろう。


「ったく、なんで俺が直に出向かなくちゃいけねぇんだよ・・・・。くそがっ。」



いらいらが募る。

疫病神と名乗る彼は、自分の口調が業務用から戻ってしまっていることにも、もう気づかない。



午前0時15分。本来なら、忌まわしき死神、雨隠鍍は10人の殺し屋の手にかかっているはずだった。

しかし、公園に到着した彼が見たのは、ベンチで気持ちよさそうに熟睡している浮浪者の姿だった。


「昨日、俺が脅しておいたってのに、この余裕かよ。」


昨日、疫病神は直に告げた。

10人ほどの殺し屋を連れて、お前を殺しに行く、と。

なのに呑気に寝てやがる。

憎々しげに吐き捨て、彼に近づく。気配を完全に消せるのは、公園の主に気づかれることなく近づけるのは、おそらく彼だけだろう。


「・・・・・・。」


それでも、近づけなかった。


否、近づかない方が良いことにギリギリで気づいた、と言うべきか。


公園内に無数のワイヤーが張り巡らされていた。夜目が利く彼でなければ触れてしまっていたであろう、極細の網が。


「雨隠鍍のスタイルじゃねえな。どこのどいつだ・・・・。」


あたりを見渡し、公園内の様子をつかむ。どうやら、罠が仕掛けられた雰囲気が、まだ残っている。


「誰も今まで入った形跡はないな。10人とも外で妨害を受けたってことか・・・・。そして、入れたとしてもこの無数の罠・・・・。この公園は一体・・・・。」


「この公園はね。子ども達が遊ぶための場所なんだ。」


どこからか、声がする。


「その浮浪者さんはね、その公園の守り神みたいなものでさ。大人だけど特別にこの公園に入ってもいいよねって、みんなで相談したんだ。でもさ。」


その声は子どもの声。しかし、温度は冷たく、伝わる殺気は尋常ではない。


「あんたらはさ。ここに入る許可すら下りないんだよね。帰りなよ。そしてさ。」


声の主がほほ笑んだ、ような気がした。


「あんたらに、この人は渡せないな。」

「へぇ、面白いじゃんかよ。」


疫病神という名を背負っている以上、ここでおめおめ帰るわけにはいかない。

ガキに追い払われたとなれば、一生の笑いものでは済まない。

大人を、舐めるものでは、ない。


「悪いな。仕事なんでね。この男は殺させてもらうよ。いくらでも妨害するといい。俺はそこらのクズとは違う。」


全神経を集中させる。確実にこのターゲットに近づき、殺す方法。

彼が起きる前に、全ての罠を突破し、近づき、殺す。


「俺には、それができる。」

「あっそ。頑張ってね。僕もあなたならできると信じているよ。」

「あ?」

「予言しようか。全ての罠を突破するには、朝の5時23分までかかるよ。じゃあね。」

「・・・・・。」


気配が消え、声も聞こえなくなるや否や、一番近くにあるワイヤーに取り掛かる。

今の時刻は1時半。目標までほんの数メートル。それが、遠い。


「俺が、そんな時間かかるわけねぇだろうがぁ。」





予言は外れた。



事実、午前4時10分で全ての罠が除去された。



「ふん・・・・・。」


誇らしげに解体し終わった罠を見渡す。時限爆弾から、有刺鉄線、飛びナイフ、こんにゃく、タランチュラ、その他もろもろエトセトラ。

よくもまぁ、多種多様な妨害物を用意したものだ、とあきれつつも感心する。

同時に、てこずらされた疲弊感と苛立ちも募ってくる。


「もういい。こいつを殺してすべて終わりだ。」


ベンチに横になっている、かつての仕事仲間を見下ろす。

正直、自分で手を下したくはなかった。だから10人の手練れを用意した。

仕事である以上、殺すことに変わりはないが、仲間であったことも変わりはなかった。

しかし、こうなったら仕方がない。


「全く、他の奴らは何をやっているんだか。」

「みんな寝てるぜ。」

「!!」


公園の外から届いた殺気。狂気を押し殺したかのごとき声。


「誰だ。」

「人に尋ねるときはまず自分からって、習わなかったのかよ大人は。」

「ふっ。そのとおりだな・・・・。俺は疫病神だ。」

「へっ・・。そうかよ。俺はじゃあ悪魔だ。」


野球帽の奥は邪悪な目と口が笑っていた。


「俺はこの公園に入るなって言われてるんでね。そのベンチのおっさんよりも俺と遊ぼうぜ。」

「分からないな。疫病神と遊ぶと不吉どころではすまねぇぞ。そして、公園の入り口に突っ立っているだけじゃあ、俺も遊ぶ気にならねぇ。」

「そうか?悪魔の投球見てみろよ。」


投球モーション。その一瞬一瞬の動きが滞りなく、なめらかで、そして

放たれた、閃光の一撃を


「おそい!」


それよりも素早い動きで回避する。


一連の出来事は1秒もたっていない。

だが、たったその一秒で力の差が判明してしまった。


「いくらお前が悪魔であろうとなかろうと、そのレベルでは傷ひとつ私につけることなどできんよ。」

「んー。まー、それはどうでもいいんだけどなー。」


ポケットから小石を数個、また取り出す。そして同じ投球フォーム。

何回投げようと、何個投げようと、疫病神にはあたらない。

それは分かっていた。だから。


「狙いはアンタじゃねーよ。」

「・・・・!まさか。」


ごつっ


放たれた小石は、あろうことか死神『雨隠鍍』の眉間にぶちあたっていた。


「お前、何を考えてい」

「ほーら、第二弾行くぞ~。日頃のストレス発散や。」


ごつっ、ごつ。


常人なら死んでいる。速度、当たり所すべてヤバイのだから。

それでも、寝返りを打って少し不機嫌そうに唸るだけというのだから、雨隠鍍はただものではない。


ゴッ。


しかし、最後の一球、岩石を投げつけられた雨隠鍍は、流石に目を醒ました。


「んんん・・・。」

「いてーな。なにすんだよ。」


しまった。疫病神は舌打ちをする。自分がこの最強の死神を抹殺するには寝込みを襲うぐらいしか方法がなかったの言うのに・・・・。


その一瞬の隙を


ピシッ


「うぐぅ・・・。つっっっ!!」

「油断してるからだぜ?おっさん。」


悪魔のこどもに狙い打たれた。急所はギリギリで避けたが、額からは血が流れ出る。


(もう公園のおっちゃんも起きたし、帰るか~)


ポケットに余った小石を適当に雨隠鍍にぶつけると、悪魔は少し満足した顔で公園の入り口から去っていった。


悪魔は去ったが、死神は目覚めてしまった。

これでは殺せない。しかたがない。

そうだ、しかたがない。俺が殺害を放棄するに至ったのは俺の意思ではない。

別に、そもそも殺したくはなかった、という感情とは無関係だ。


疫病神は、一度現れると厄災を、二度現れると破滅をもたらす。

それが、神自身の愛する者であっても。


そんな風に語られるのは慣れていた。幼い頃から身近にいた人はみんな何らかの理由でバタバタと死んでいき、

一人で生活していた頃は誰も死なず、


殺し屋として生計をたてる頃には、チームを組むことすら不可とされるほどだった。

そんななか、唯一。

何度会っても元気に生きている雨隠鍍だけが親友だった。

雨隠鍍だけを、心の支えとしていた。


(俺程度の疫病では、こいつは殺せない。それでいい。)

なんだか、笑えてきた。しかし、立場上顔は平静をなんとか保つ。


「意外とあっけないものだな。世界に三人の死神とよばれた『雨隠鍍』。殺し手10人を返り討ちにしたというのに、所詮は近所のでくの坊だったか。中坊相手にあのざまか。」

「・・・・。」


おそらく、ここらの少年少女は、この死神の加護でも受けているのだろう。おそらく彼らの潜在能力や素質が、この死神によって感化され、育っていったと考えられる。

この事実を報告することは、いささか面倒。体面も崩れる。

くだらない真実より、輝かしい偽りを広めていくことにしよう。


雨隠鍍は、やはり動揺しているようだった。身に覚えがないのだろう。当然だ。


「いや、ちょっと待ってくれ。僕は何も」

「冗談だ。上にはそう報告しておく、ということだ。こんなことになるとは俺も思ってもみなかったが。」


渋面で吐き捨てるように話す。ここでの物語の主人公は俺じゃない。雨隠鍍だ。

たとえ彼ら彼女らが主人公だとしても、そんな事実はいらない。


「すまん。僕には何が起きたか分からないんだ。今までずっと睡眠状態を継続してたから。説明してくれよ。」

「ああ、情けない話だが、昨日、殺し屋10人がそろいもそろって任務放棄宣言だと。俺の仕事がお前の抹殺から、10人の後始末に変わったんだよ。面倒くさい話だ。」


実質、これは嘘にはならないだろう。死んでいないのならば、後始末は自分がしなければならない。

雨隠鍍に比べたら、赤子10人程度問題ではない。

あ、もう一人始末してたっけ。


「・・・・く、クククククッははははははっはは!」

「!!?」


会話中、少し考え込んでいたようだった雨隠鍍が急に笑い始めた。

狂ったかと思ったが、その顔は


清々しいほどの無垢な笑顔だった。


「ど、どうした。殺し屋の本性でも思い出したか?」


「いや、逆だよ。もう僕は殺し屋には戻れないみたいだ。守りたいものができてね。奪われないように必死にはなれるけど、奪うことに必死には、もうなれない。」


やれやれ、といったところか。

大体の予想はつく。ガキたちの事だろう。

守りたいものがあれば人は強くも弱くもなる。

それは、互いが互いを思っているかどうかだ。


「そうか。守りたいものか。」


俺にも、そんなものがあれば少しは変われるのかもしれない。

守り、守られる。死神も俺も、そんなことは今まで知らなかった。


(いや、雨隠鍍はまだ気づいていないかもしれんな)


「だがな、守られているのは本当はむしろ」


お前だったんだぞ?今回は


と、続けようとした瞬間、殺気を感じた。

東口、西口、南口、そして北口。

4方向から同時に、襲い来る殺気は、まるでそれ以上言うな、と釘を刺してくるようだった。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」


不意に東口の方から聞こえた叫び声。一瞬注意が東に向く。

もちろん、他の3方向の殺気にも気を抜かず意識し続ける。


故に、いつの間にか公園内に入っていた少年の、茂みからの投擲に気づくのが遅れてしまう。


「っっっ!!・・・・チッ。」


全力で反応し致命傷を避ける。左腕から鋭い痛み。気にしてられない。

そして、一番殺気の少ない北口へ。常人に見えない速度で移動する。


その入口には

快活な青年が手をヒラヒラさせてこちらを見ていた。


(俊足の俺の動きがみえてやがる・・・!?)


そして、横を通り過ぎる瞬間、


「お疲れ様、疫病神さん。」

「!?」


ただのガキじゃねぇ。忌み名を知られている。そして、あの死を一切寄せ付けない雰囲気。

北口担当の『サイレントキラー』の『1000本刺し』に無傷・・・・。


「まさかのフェニックスか・・・・?嘘だろ」


青年はニコッと嗤ったまま、公園内へ入っていった。


全速で公園から遠ざかる。まずは額と左腕の止血が最優先。そして、出来損ないの始末。


「まぁ、不死鳥と名高いヤツと、野球帽の悪魔、無名のナイフ使い。これらの手練れと当たったんだから見逃してもいいレベルなんだが」


これ以上、雨隠鍍の平穏は崩したくはない。


平穏とは、孤独の中で、独り瞑想する時間のこと。

そんなことを言っていた死神。


雨隠鍍の平穏のために、暗闇の中で迷走していたガキども。


やはり、笑えてくるじゃないか。

落ちる涙など風に託す。今は祝福の時。



「何が独りの世界だよ。お前にはこんなに仲間がいるじゃねえかよ。雨隠鍍。」


独りになるのは、俺一人で十分だ。























そういえばさぁ。さっきの幸薄そうなおっさんって誰?


公園に集まった子どもたちの誰かが、公園の守り神、雨隠鍍に尋ねた。





ん? ああ、俺の一番の親友かな。


嬉しそうな顔で、死神はこたえた。


ナイフと、硬式野球ボール、竹刀の三連根撃をよけながら。


「って何でだよ!?」


「ちぇー。また避けられたよ。良い質問で気を逸らせたと思ったのに。」

ナイフ少年は、まだナイフを両手でもてあそんでいる。


「石当てられただけじゃまだ寝ぼけてるだろ?ちゃんと目覚めさせてやんよ。」

野球帽の悪魔の笑みは深い。


「昨日竹刀買い換えたので。試し切りを。」

剣道部の女の子は今日も血の気が多い。


「さて、」


空を見上げる。うん。今日も天気は快晴。

子どもたちは元気元気。良いことだ。

やっぱり僕には殺しは似合わなかったんだ。


「みんな、久々に遊ぼうか。」


そう。公園の浮浪者はこんな感じで・・・・大人らしく


頭上から、ハトの糞が。顔面にダイレクトアタック。





公園内の温度は急激に冷え、雨隠鍍の笑顔は凍り付く。平静さを保って言えたことは


「全員でかかっておいで。殺してあげるから。」


「「「「っっつしゃおらぁぁあぁ」」」」



これが、僕の変わらない日常。平凡な日々。

これが僕のいつもの日常なんだ。まぁ、少しは変わったところはあったかもしれないけれど、そこは目を瞑ってほしい。








俺は、断じてこの物語の主人公ではない。

主役は、彼ら。少年少女らだ。

あくまでも語り部として君たちにありのままを話した。

もう少し聞きたかった?そうか。ではまた今度話すことにしよう。

日常に隠された、彼らの非凡な世界を。





























ご拝読ありがとうございます。


前作、『守りたい人:守られる人』の裏話となっております。

もしよければそちらもご覧ください。

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