Ⅲ
二人目の少年が先程の少年、マルコにならい水晶に手をかざしていた。
水晶の色が徐々にマリンブルーのような青へと変わっていった。
どうやら《青魔法》のようだ。少年は少し、満足げ、というかうれしそうな表情を浮かべていた。
そして、十字架の前に佇み儀式を行う。
うーん…………
誰もわからなかっただろうが、前の少年が相当なものだった為に余程の精霊を喚ばない限り俺の印象には残らないだろう。
まぁ俺が何を思おうが関係のない事だが。
服装から推測するに少しいい生活をしている一般家庭。みたいな。
「 我が内に宿りし力を形容する霊よ、我が前にその姿を表したまえ…… 」
さて、何がでてくるんだろうか?と期待したところでどうせ見えない。
また話を盗み聞きするか。
勝手に盛り上がり、盗み聞きの算段を立てているといつの間にか辺りに霧が立ち込めていた。
「 ……ん……? 」
霧?……んーなぜ?………姿をもった精霊もしくは神……?……それにしてもこの規模は………!
『 私を喚ぶなんて驚きです、人の子よ 』
透き通るような蒼の体に尖った耳、鮮やかな青の長髪。
『 名乗りましょう……我が名は水の精霊ウンディーネ 』
まさか四大精霊の片割れが現れるとは思わなんだ。
「おぉ…」「すごい」「初めて見た……」
周りからは驚愕の声があがる。
それもそうだ、世界で一番とも言える程に有名な精霊が目の前にいるのだから。
神の次は四大精霊?
偶然………ですむだろうか?。キセキじゃなくて奇跡の世代と呼ばれそうだ。それとも不吉な事の前兆だろうか?
そんな現実逃避もとい不吉な勘潜りをしている間に契約は終わってしまっていた。
次の子は───────
♯♯♯♯♯♯
なんだかんだでもう自分の番が来てしまった………
すごく行きたくないんだけどなー……最初の二人のせいで自信喪失だー………嗚呼もし地味なのだったらどうしよう…………嗚呼、憂鬱…………
「 ほらほらペー君!はやく行かなくちゃ! 」
「 あぁ、うん…… 」
ぐずぐずしていたら急かされてしまった………
流石フィー姉しっかりしてるかわいい。
えぇーやだなぁー行きたくないなぁー。
と、思いつつも行かない訳にはいかないのでだらだらと進む。
「 んー? 」
視界の隅に赤を基本としたカラフルで大きな物体が通り過ぎた。
………鳥?……何故?
これは……オウム?こんなところに?
んー……おかしいよなー
飼われていたのが逃げたんだろうか……?
んー………………
別段気にしなくてもいいはずなのに何故か気になる。第六感が『気を付けろ』と警告している。
人の直感はあまりバカにはできない。前例もあるし。
それに俺しか気づいてないようだ。あんなにカラフルなのに。
………さっきまで気づけなかった俺が言うことじゃないけどねー。
その時、オウムが鳴いた。
「 にゃー 」
…………違くない?何て言うか違くない?オウムの鳴き声ってそうじゃないだろう。
ざわざわ…
どうやら皆やっとこさオウムに気づいたようだ。
…………それにしても気になる。探求心じゃなく警戒心が働いているあたり良い予感はしない。
何よりあの眼が嫌だ。
あのオウムの眼からは生気がまったくと言っていい程感じられない。
これまた俺が言う事じゃないが。
刹那、
突然オウムが空中で『止まった』。
ホバリングでもなく、どこかに掴まった訳でもなく、ただ『止まった』
羽ばたきもせず、落ちる訳でもなく、ただその場で時間が停止したかのようにただ『止まった』
その不可解な出来事に俺やフィー姉を含めたこの場の皆が注目するの視線が集まる。
すると、オウムが突然閃光を発しながら爆ぜた。
注目をしていたものから閃光が発せられればその強烈な光が網膜に焼きつき、視覚が無力化される。
つまりはオウムに注目していた者――ここにいる全員――の視覚が無力化されたという事になる。
なまじオウムが奇声を発していただけに効果は絶大だ。
人間の五感の中でも最も人間が活用するといえる視界が奪われたのなら、ここに大人子供含め二十数名がいたとしても
『 全員床に手をつけ!
抵抗しようなどと考えるなよ! 』
十数人のテロリストに制圧されるのを防ぐ事は不可能だっただろう。
『 今からこの王宮は我々が占拠する! 』
これが不幸で不遇で無用で不用な少年の波乱万丈な英雄譚の第一頁
♯♯♯♯♯♯♯♯
「ぐあっ!」「あ゛あっ!」「ぐっ!」
人間とは突然の出来事には理解するより速く自然と体が動く生き物だ。
脊髄反射だったり考えるより先に手が出たり、所謂『本能』で動く事が多い。実質、獣と紙一重な生き物だ。
よって、突如発せられた強烈な閃光に視覚が機能しないことといきなり眼に走る痛みにパニックを起こし、悶えるのは当然だろう。
眼に走る激痛は、パニックを起こさせ考える余裕を奪うにはとても効果的で、
もし、この場に軍人がいようがいなかろうが無力化され、人質になるので、どのみち結果は変わらなかっただろう。
─────が、
少年、ペインは痛みに悶える事なく状況の打開策を模索していた。
視界を失った少年がとった行動は二つ
『壊れかけた』脳をフル回転させ、先程までの景色と物陰までの大雑把な距離感覚を組み合わせ、ミニマップを作りあげること。
そしてそのミニマップに従い、身体の損傷を考えない跳躍。
さて、どうするかねー……?
まだ自分の魔法の系統すらわかっていないので撃退はほぼ不可能。
アキレス腱とその他諸々が断裂しているので逃亡も不可能。
まずフィー姉を置いてく時点で論外。
うーんこまった
八方塞がりだ、お手上げ参ったどうしよう。
……いや魔法系統調べればいいんだけどね。
水晶どっかに転がってったし状況的に無理かなーって。
……ん、視力回復してきたー
向こうはどうなってるかなー?
ちょうど、様子を覗きに頭だけ出したとき、
「 ぺー君!?ぺー君どこ!?ぺー君!? 」
姉さんが姿の見えない俺を捜していた。
………わたわたするフィー姉かわいい。
じゃない、これは不味い。
一人居ないのがバレちゃうから今は勘弁。こういうのをありがた迷惑と言うのだろうか?
いや迷惑な訳は無いな、ありがたいな。
なんにせよ今ので隠れてるのバレてなきゃいいけどさ、
「 なぁ~に喚いてんだ、この女ァ!! 」
周囲の人間の視線が姉さんに集まる。
ん!ナイスフィー姉!
流石俺のフィー姉、素敵!
フィー姉愛してる!
取り敢えずフィー姉に暴言吐いたあの男は他の奴等より苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて苦しめてから殺す。
いまのうちに精霊を降ろしてしまおう。
神官のお爺さんが落とした水晶こっち転がってきたことだし。
んーと、水晶に手をかざしてー………
……………
…………
………
……
…
ん!色が変わったー。
「 ……………… 」
黒ですかそうですか。
異端ですかそうですか。
まぁいいや、はやく精霊を降ろそう。
んーと…………
「 ────、────、────────! 」
小声で早口かつ正確に言葉を紡ぐ。
あとは待つだけだ。
♯♯♯♯♯♯♯
突然だが、創造と破壊の話をしようか。
創造とは、無から有を生むこと。
破壊とは、有から無にすること。
この二つは多かれ少なかれかなりのエネルギーを要する。
また話は変わるが『ウロボロス』というものを知っているだろうか?
創造と破壊を体現した蛇でシンボルとも言える。
コイツは自分の尾を喰らい『破壊』する。
が、喰らった尾が破壊されたエネルギーで再生もとい『創造』する。
破壊するから創造する。
創造するから破壊する。
なら、尾を喰わなかったらどうなるのか?
尾が延び続ける?
違う、創造するには破壊のエネルギーが必要だ。
エネルギーが発生しなくなり朽ちる?
違う、破壊するには創造のエネルギーが必要だ。
つまり、創造できなくなくなり、破壊もできなくなる。
結果、喰らうのを止めるとただの蛇になる。
ウロボロスは世界の心理とも言わていれる。
消えるから生まれる。
減るから増える。
なくなるから現れる。
そんな表裏一体を体現した蛇。
なぜ、今そんな話をしたかと言うと──────