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第七章 詩の中の英雄 (3)


 秋も深まり、林のなかを走る小道は無数の落ち葉で絨毯のように覆われている。


 大槻キュウタは隣を歩くバスフロワ・ヴィスロの横顔をちらりと眺めた。相手の唇はきゅっと結ばれている。おそらくは三十歳を少し越えたあたりだろう。足取り自体は若々しく思えた。

 バスフロワは何かに心を取られているのか、鳶色とびいろの瞳はぼんやりと前を向いている。


 キュウタがそっと後ろを振り返る。数メートルの間合いを保ったサザレがほぼ同じ速度で付いてきていた。青い瞳が時折さり気なく左右に向けられている。なにげない歩き姿でさえ、洗練された舞踏のような美しさを持っていた。

 それは彼女が悠久の時の積み重ねで身につけた、達人という言葉ではまるで足りない領域に達したわざの片鱗でもあるのだろう。


 三人がディノン・カーヌの生まれた村から出立して、十日近くが経っている。日を重ねるにつれ、通り過ぎる村は町へと移り変わり、この道行きが確かにガレルの『首都』へ向かっていることを教えてくれる。すれ違う人々や荷車も少しずつ数が増えている。


 その気になれば荷を積んだ適当な馬車や牛車に相乗りさせてもらうこともできた。だが、あくまでも徒歩での移動を続けるというバスフロワの意思によって、彼らはこのようなのんびりとした旅を選んだのだった。


 木立の隙間から差し込む午後の陽光がまだらな模様を地面に描く。キュウタはその様子を眺めながらぽつりとつぶやいた。


「大した情報は得られませんでしたね。ディノンが生まれた村なら色々詳しいことが分かるかと思ったんですが」


 バスフロワが前を見たまま肩をすくめる。それに合わせて、リュートのネックが顔を出している道具袋も小さく揺れた。


「ああ。ディノンの親族がずいぶん前に村を離れたってのも、当てが外れた感じだな」

「直接、話を聞ければ良かったんですけどね」


 林を通る一本道は物静かな空気に包まれ、バスフロワの独り言に近い言葉でもはっきりと聞きとることができる。


「なんつうか、英雄の家族ってのも息が詰まるもんだろうな」


 キュウタはうなずき、ベルトに下げた小袋の上から、中の小冊子の形を無意識に指で確認する。それは村の教会から受け取った、ディノン・カーヌについての逸話をまとめた記録である。ざっと目を通しただけだが、ディノンとその家族がこの村においてどのような立ち位置にいたのか、おおよそのあらましは掴めていた。


「かもしれませんね。ブリテアとの和平直後には、ディノンの家族を訪ねてあちこちから人が押し寄せたみたいですし」


 バスフロワが唇の端をもちあげて、おどけるような声で返す。


「ああいう『死にかた』をした英雄の『名前』ってのは、使いかたしだいでカネになるからな。ロクでもない連中が、あの手この手の話を持ちかけてきた様子が目に浮かぶぜ。そのうち村にも居づらくなったんだろ」


 キュウタが目をぱちくりさせてバスフロワを意外そうな顔で見る。あの村の教会から受け取った記録から見るかぎり、まさしくバスフロワの言う通りの光景が村で繰り広げられたのだ。


 だがバスフロワは村に滞在しているあいだも、教会に残る記録を読んだりすることもなく、かといって住人にディノン・カーヌの逸話を聞きまわっていた様子も無かった。村の内外を日がな一日ぶらぶらしてから、仮の宿である教会の部屋へと戻る。そんなことを数日繰り返しただけのはずだった。

 ずいぶん勘の鋭い人物だという評価を、キュウタは心のなかで付け加える。


 少年の表情に気付いたのか、バスフロワが眉間にしわを寄せる。


「なんだ、その顔は。じろじろ見やがって」

「あ、いえ。それより、今日は野宿になりそうですね」


 ごまかすように笑顔であたりを見回すキュウタ。

 徒歩の速さでは、最も近い宿場町でも到着は真夜中すぎになるはずだ。

 木々を透かして見た先には少々傾斜のきつい丘陵の姿がある。岩棚の陰でも探して、そこを今夜の寝床にすべきだろう。

 いかにも旅慣れた風のバスフロワがさらりと言う。


「夜露がしのげりゃおんさ」


 バスフロワはキュウタの考えを読み取ったように、道を外れて丘陵の方へと進んでいく。めったに人が立ち入らないような場所で、落ち葉を踏む乾いた音が響く。


 キュウタが木の幹に手をかけてバランスを取りながら、先行するバスフロワの背中に声をかける。


「詩を書く時は、いつもこんなふうに題材を調べて歩くんですか?」

「いいや。今回は、わりと特別だ」


 シャツの肩に引っかかった枝を払いながらバスフロワが言う。


 特別、という言葉に興味をそそられたキュウタがさらに問いを重ねようとした。だがその時、サザレが滑るような足運びでキュウタの隣についてささやきかける。


「囲まれています。十五人前後。風上から『火薬』の匂い」


 妙な違和感がキュウタの胸に走る。

 野盗のたぐいは別に珍しいものではない。だが自分たちがいま通っている道は、地元の人間でさえ時々行き来するだけの寂れたものだ。そんなところに大人数で網を張って獲物を待ち構えるのは、あまり効率の良いやり方ではないように思える。


 単なる物盗り以上の何かがある、という直感がした。わずかに上体を傾けてサザレに耳打ちをする。


「妙な雲行きだな。二手ふたてに別れよう。とりあえずこの場は僕が何とかする。サザレはその連中の『尾行』を頼む」

「分かりました」


 サザレが手際よく髪をまとめながら、外套マントの襟からフードを引っ張りだして顔を覆い隠す。

 少女の透き通るような青い瞳。そこに浮かんだ鋭い光を見ながらキュウタが付け加える。


「できれば相手の身元と目的を知りたい。首都の教会支部で落ち合おう。あと、分かってると思うけど、殺しちゃダメだよ」


 念を押すように少女の刀を指すキュウタ。心外な、といった顔で小さく頷いたサザレが音もなく駆け出し、幻のように林の奥へと消える。


 二人のやり取りが終わった時、バスフロワはすでに林の途切れるあたりに辿り着き、丘陵のあちらこちらを眺めまわしていた。


「お、あそこでいいんじゃねえか?」


 バスフロワが、ごつごつとした岩場がひさしのように張り出しているのを見つけ、キュウタに振り返る。

 無言でバスフロワの隣に立った少年が、相手の手首をそっと掴む。


「あ? なんだよ?」


 うっとうしそうに顔をしかめるバスフロワを、キュウタが片手で制する。

 そして、バスフロワはようやく周囲の異常に気づいた。


 いつの間にか林のそこかしこに人影が現れていた。

 彼らは互いに一定の距離を置いて、丘陵を背にしたバスフロワとキュウタを半円形に取り囲んでいる。男たちはそれぞれ剣や弓を腰や背に携えてはいるが、あくまで身軽さを重視した軽装で、そのまま街なかを歩いていてもまったく違和感はないだろう。

 キュウタが一瞥したかぎりでは、彼らが今すぐ襲い掛かってくる気配は無さそうだった。


 ちらりと背後を見上げるキュウタ。

 痩せた木々がまばらに生える丘の上からも、数人の男たちがじっとこちらへ視線を投じている。少々距離があるために断言はできないが、かすかに立ち上る細い煙から見ると、こちらの連中が『銃』を持っているようだ。


 キュウタはバスフロワの様子をうかがう。取り乱してうかつな行動をされでもしたら、そちらの方が面倒だと思ったのだ。


 だが、意外にもバスフロワは実に落ち着いていた。彼の鳶色の瞳がじっと一人の男に向けられている。恐らくその人物が集団を統率しているのだろうとキュウタは推測した。

 するとその男が前に進み出てきた。片手には少々かさばる麻袋をぶら下げている。


 いかめしい顔の中心を、眉間から口元にかけて縦に通る大きな『刀傷』が印象的な、がっしりとした体格の壮年男性。服装はやはりごく普通の庶民だが、その物腰にどこか浮世離れしたものをキュウタは感じていた。

 低い声がバスフロワに向けられる。


「探したぞ、バスフロワ・ヴィスロ」


 バスフロワが唇から細くため息を吹きこぼす。片手で頭をがりがりとかきながら面倒くさそうに相手を見た。


「またお前か。よほどの暇人なんだな」


 それに答えず、男が手に下げていた麻袋を無言で放り投げる。

 どさりと重い音をさせた袋が柔らかい土にめり込んだ。ゆるんだ袋の口から数枚の『金貨』がこぼれ落ちる。

 その中に詰めこまれた額は控えめに見積もっても、庶民なら数年分の稼ぎに匹敵するものだろう。

 刀傷の男が据わった目でバスフロワをめつける。


「最後の警告だ。受け取れ」


 暴力を行使することに寸毫の躊躇いのない人物であることを感じさせる声音こわねだ。

 バスフロワが金貨袋をふてぶてしい視線で斜めに見下ろす。


「へえ。代価は何だい?」


 刀傷の男は今にも噛み付きそうな声で応じる。


「何度も言わせるな。今後一切、『詩を書くな』。それだけのことだ。何が不満なんだ?」


 キュウタは彼らの会話を黙って分析している。ここまでのやり取りから得られる乏しい材料では、まだ何の仮説も立てられない。

 かろうじて分かるのは、バスフロワと刀傷の男は初対面ではない、ということくらいだ。


「あ? 『何が不満だ』、だと? 何から何までさ。てめえの態度、取り巻きどものアホづら、その端金はしたがね。 気に食わねえ事この上ねえなあ」


 威勢の良いセリフが小気味良く林の中に響く。

 刀傷の男が鼻から小さく息を吸い込み、まぶたをぴくりと引きつらせた。


「我らの忍耐にも限度があるぞ、バスフロワ・ヴィスロ。これ以上手間を掛けさせるなら……」

「掛けさせるなら?」


 はっきりと殺気立つ相手にさえ、まるで気後れする様子のないバスフロワが皮肉たっぷりの薄笑いで首をかしげる。


「『残念』なことになる。そこの小僧も一緒にな」


 獲物を吟味する爬虫類のような目がキュウタに向けられる。

 バスフロワの唇がわずかに引き締められた。そして一瞬の逡巡のあと、相手の言葉に違和感を覚えて視線を左右に振る。そして彼はようやくサザレの姿が煙のように掻き消えていたことに気付く。ニ、三度目をしばたかせてから、バスフロワがキュウタをまじまじと見る。


 キュウタが片方の眉をひょいと上げてみせる。何となくだが、バスフロワの勘の良さなら、これだけで察してくれるのではないかと期待していた。

 わずかにむっつりと唇を結んだバスフロワが小さくため息をつく。キュウタの意図は汲み取られたようだった。バスフロワが言う。


「そいつは、たまたま同じ方向に歩いてた、赤の他人だぜ」


 刀傷の男はその言葉にも意思を曲げるつもりは無さそうだ。表情を動かすこと無くバスフロワに応じた。


「我々と貴様の話を聞かれた以上、すでに無関係とは言えない」


 大げさに片目を剥き開いたバスフロワが嘲笑ぎみに口の端を吊り上げる。


「アホか。お前が勝手にペラペラ喋ったんだろうが」

「貴様が首を縦に振れば、誰も困らない」


 刀傷の男がゆっくりと右手を上げる。周囲の男たちがじわりと間合いを詰め、キュウタとバスフロワを囲む輪がわずかに縮む。

 口先だけの脅しなどではないことは一目瞭然だった。

 念を押すように、刀傷の男がバスフロワへ言葉を突きつける。


「詩を書くな。ただそれだけだ。詩ごときに、命を賭ける価値も無いだろう」


 バスフロワの表情がぴくりと引きつる。

 刀傷の男の左右に控えていた者らが、さりげなく手を腰の剣へと伸ばし、重心をわずかに前へ傾けるのをキュウタは見て取った。背後の丘から見下ろしている連中も射撃体勢に入ったはずだ。


 ここ百年ほど西方諸国において、携帯用の火器は珍しいものでは無くなりつつある。弓や剣と比べた場合におけるいくつかの有利性も手伝って、いわゆる『銃』の普及と進歩の速度は目をみはるものがあった。


 それでも、力で阻止することは難しくないと、キュウタは理解している。自分の原初魔法『硬化』の防御能力を突破できる兵器は、まだ世界のどこにも存在していないはずだ。


 だが状況がちぐはぐで見えてこない。キュウタはそこがどうしても気になっていた。


 刀傷の男は片手を上げたまま、バスフロワの答を待っていた。

 もしバスフロワが拒否したならば、その瞬間、矢と弾丸が降り注ぎ、とどめを刺すべく剣を抜いた男たちが襲い掛かってくるのだろう。


 キュウタがちらりと見たバスフロワの横顔は最前の落ち着きからはがらりと色を変え、いきどおりに彩られている。鼻の穴が大きく開き、荒い呼吸がキュウタにも聞こえる。どうやら『詩ごとき』というフレーズがお気に召さなかったようだ。状況の鍵を握るバスフロワが頭に血を昇らせていては、荒事待ったなしだろう。


 仕方がないと、キュウタは一歩踏み出した。


「えーと、ちょっといいですかね」


 張り詰めた空気をまったく意に介していない能天気な声で、キュウタがバスフロワと刀傷の男のあいだに進んだ。バスフロワの「おい」という言葉をキュウタは無視する。


 キュウタとバスフロワを包囲していた者たちの一人が、舌打ちをして少年の行く手を塞ぐ。キュウタよりも頭二つ分は上背のある大男だ。彼は口を開くのも面倒といった様子で、キュウタの顔に目がけてこぶしを振り上げた。


「邪魔だ。ガキはすっこんでろ」


 がん、という重い音が林に響く。この体格差である。少年は何の抵抗もできず無様に尻もちをつくだろうと、その場の誰もが思った。


 だが、全員の予想は裏切られる。

 大男の前で何食わぬ顔のキュウタが静かにたたずんでいた。殴りつけた当の本人ですら、自分の手を唖然とした顔で見つめている。まるで頑丈な石壁を殴ったような感触だった。信じられなかったが、もう一度試す気にはなれなかった。


 自分を見上げるキュウタの無言の微笑みがそれを勧めていないように思えたのだ。まるで『二度目は無い』とでも告げる笑みだった。人智を超える何かに気圧けおされた大男が、無意識にじりっと体を引く。


 肩をすくめたキュウタが刀傷の男の前に立つ。男の両脇に立っていた二人が訓練された動きで剣を抜く。ぎらりと光る切っ先がキュウタの鼻先につきつけられた。

 鋭い刃にもまるで反応を示さないキュウタが言う。


「ま、そう邪険にしないで下さいよ」


 キュウタの人畜無害な笑顔を、刀傷の男がじっと見つめている。


「お前は何者だ」

「フィロマ教会の認定魔術士で、キュウタといいます」


 キュウタの「魔術士」という言葉に、周囲の男たちが目に見えて警戒を強める。こういう時、キュウタはほんの少しの嬉しさを感じる。世の中において、魔法が「力」として認識されつつある。それこそがキュウタがずっと求め続けるものでもあるのだ。


 刀傷の男が少年の全身を上から下までくまなく探るように見た。


「魔術士がこんな田舎で何をしている?」

「仕事です。フィロマ教会から正式なめいを受け、ガレルに来ました」

「なら仕事に戻れ。お前が口を挟む筋合(すじあ)いは無い」

「そうは行きません。僕の仕事にはバスフロワさんの『協力』が必要なんです。彼の身の安全は守らせていただきます」


 刀傷の男が腕組みをし、再びキュウタの体を見まわす。これといった武装も無ければ、歴戦の戦士というほど鍛えられた体格でもない。

 だが、先ほど大男の拳に微動だにしなかった少年の得体のしれない雰囲気は、その場の誰もが感じ取っていた。


 ゆっくりと剣のつかに手を伸ばした刀傷の男。


「お前が一人で我ら全員を相手にするつもりか?」

「とんでもない。暴力ざたは苦手なんです」


 大げさに驚いてみせるキュウタを、刀傷の男は黙って見ている。ちょっとわざとらしすぎたかなとキュウタは内心で苦笑いした。

 両手を広げて敵意のないことを強調する。


「僕らはこれから『首都』に向かいます。しばらくは教会支部に滞在することになるでしょう」


 刀傷の男が小さく首を傾げる。


「何が言いたい?」

「後日、改めて場を設け、落ち着いて話し合いをしてみてはどうでしょうか。失礼ですが、貴方も出来れば穏便に済ませたい、と思っているんでしょう?」


 そう言ってキュウタは地面に落ちたままの金貨袋を見やる。

 この男たちは問答無用でバスフロワ・ヴィスロの命を奪いに来ることもできただろう。だが彼らはまず交渉することを選んだ。その事実こそ、この状況をキュウタが掴みきれない最大の理由だった。


 不愉快そうにキュウタの言葉を聞いていた刀傷の男が一歩前に出る。だがそれでもキュウタとは絶妙な間合いを維持していた。人数や装備では圧倒的に有利なはずだが、刀傷の男は決してその視線から警戒心を消そうとしない。その用心深さにキュウタは少しばかり感心する。

 男がゆっくりと口を開く。


「バスフロワ・ヴィスロの身を我らの自由にさせる気はないのだな」

「いきさつは存じませんが、僕と行動を共にしている今のバスフロワさんは、ある意味フィロマ教会の関係者とも言えます。彼に手をかけることは、フィロマ教会への敵対行為と看做みなすこともできますよ」


 挑発的ともとれる言葉。周囲の男たちから、ざわつくような殺気が立ち上る。

 最悪の展開を念頭に、キュウタは『硬化』の発動を注意深く準備する。サザレにはああ言ったものの、肝心の自分がうっかり相手を殺してしまっては合わせる顔がない。

 男はキュウタの顔をじっと見つめていた。その手は剣の柄からは離れている。


「ここには他に誰もいない。我らがこの場で密かにお前たちを始末できないと思うか?」


 刀傷の男には既にそのつもりがないことをキュウタは気付いていた。だが少年はあくまでも『正直』に応じることを選んだ。


「その時は、『残念』ですが諦めます」


 どちら側にとって『残念』とキュウタが言っているのか、刀傷の男はおぼろげながら理解したようだ。

 そしてキュウタの言葉の裏にある自信が単なるハッタリなのか、この場で結論を出すほど刀傷の男は軽率ではなかった。


 刀傷の男が金貨袋を地面から拾い上げる。そして彼はきびすを返し、キュウタたちに背を向けた。それに合わせて周囲の男たちが発していた剣呑とした気配が薄れていく。刀傷の男が肩越しにキュウタを見た。


「見逃すわけではない。お前たちの監視は続けるぞ」

「もちろん、ご自由にどうぞ」


 にこやかにうなずくキュウタに、男はつまらなそうに鼻から息を短く吐いて歩き出した。

 潮が引くように他の男たちの姿も林の向こうへと遠ざかる。


 静けさの戻った空気のなか、キュウタが頭をかきながら小さくため息をつく。

 自分を見つめるバスフロワの表情は不満と懐疑心の塊であった。


 キュウタは唇に指を添えて今の出来事を頭の中で整理しようと試みた。だが、一体なにがどうなっているのか見当もつかない。


 分かることと言えば、どうやらややこしい場所に足を突っ込んだらしい、ということだけだった。



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