出撃命令
「――メルディン、だと?」
「はっ、例の光に心当たりのある者の証言をまとめ、分析したところ、ほぼ間違いないかと」
紅狼の前で頭を垂れた男は、少しばかりホッとした様子でそう報告した。
「メルディンとは、人間の、魔狩りの一族でございます。ただし、奴らには神々に連なる精霊の加護が与えられ、あの光はそれに由来するものと思われます」
「狩人の血故の破魔の力、か……。だが、面白いな。我らの血は、フェンリルの血。フェンリルもまた、本来神とされるべき存在だ。これに破魔の力が加われば……、我が血に勝る血などなくなるだろう……、が――」
一瞬、満足げに微笑んだ紅狼は、しかし直ぐに厳しい眼差しを跪く己の臣下へ向けた。
「先日の報告では、あれはモーガン一族の娘だとあったが、どういうことだ?」
モーガン一族が、魔物や精霊を手懐け、その力を上手く借りて術を為している、というのはそれなりに知られた事実。――実際の術に関する情報は完全に秘されてまず表には出て来ないものの、彼女らが人外のものと親しく付き合う一族であることは有名だ。
――故に、見境なく魔物を狩るような狩人らとはあまり相性が良くないこともまた、ある程度知られている。
「はい、このメルディンの一族は、出身がモーガン一族と同郷でして。それ故、特に水と油のような関係だそうです。……ですが、メルディン一族の方に、興味深い噂がございまして」
「……噂?」
「ここしばらく、弱体化が囁かれていたそうなのですが、ある時から少しずつ盛り返しつつある。そういう噂があるのです。そしてそれがちょうど、あの噂が流れた時期とちょうど一致するのですよ」
「それは、あれか。モーガン一族の娘が一人、何者かに攫われたらしいというあの噂か?」
「ええ、まさにそれです。……もしも、その黒幕がメルディン一族ならば?」
「有力な一族の血を混ぜ、自らの血を高める。確かにそれは一番簡単で、最も有効な手段だな。……つまり、その結果があの娘だと?」
「ほぼ、間違いないかと思われます。……それがどうして人間界へ捨てられていたのか、何故王子らが保護する事になったのかは、分かりかねますが」
彼は、主の顔色を伺いながら、恐る恐る言った。
「ですが、先日の魔王陛下訪問の件以来、紅龍王の近辺が慌ただしいという、そちらの件については新たな情報を得ました」
その後で、その失態を押しやるように、わざとらしい程声を大きく張り上げ、言った。
「王の側近、その従者を捕まえ、吐かせたところ、どうやら王は近々譲位を発表するらしいことが判明いたしました」
「譲位……、だと……? 今、この時に……という事はまさか……」
「――おそらく、ほぼ間違いなく、そういうことでございましょう」
「――」
報告を受けた紅狼は、しばし黙考した後、顔を上げた。
「奴を呼べ。先日の失態の挽回のチャンスを、もう一度だけやる、と伝えろ」
そして、命じる。
「誰でも、何人でもいい。必要だと思うだけ、連れて行け。だが、確実に落としてこい、とな」
「落とす――とは、紅龍王を、ですか? いよいよ仕掛けるのですか……?」
「いや、まだだ。……このタイミングでの譲位、奴自身の意思とは思えぬ。次期王として皇太子を選ぶ、というならまだしも譲位はまだ早すぎる。と、なれば魔王陛下のご意志が少なからず関わっているのだろう」
この先、王位に就くなら魔王の機嫌を損ねることは絶対に避けなければならない。
「もどかしいがな。本人を叩けぬなら、まずは馬から。――基本中の基本であろう?」
狡猾な笑みを浮かべ、紅狼は命じた。
「たかが人間、狩人と言えども我らの力には及ぶまい。モーガン一族のような面倒くさいしがらみもない。――行け。狩人共の城を落とすのだ」




