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Need of Your Heart's Blood 2  作者: 彩世 幻夜
第十二章 together with members
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彼らの理想

 昼間は、あんなに暑かったのに。

 砂漠の夜が、こんなにも冷えるものだなんて、咲月は知らなかった。

 既に肉体は人間ではなくなり、外気の寒暖差が直接害となる事は無くなっているのだが、そこはまだ人間だった頃の感覚が強く、つい暖を求めたくなってしまう。

 だから、招かれた晩餐の席が、パチパチと勢いよく爆ぜる暖炉の火で程よく暖められていたことに咲月はホッとした。


 ここでは、女性が露骨に肌を晒すことはあまり歓迎されないらしい。

 ――郷に入っては郷に従え、という故国の諺に従い、咲月も手首まで隠れる長い袖と、地面に裾がつくほど長いロングスカートを備えたドレスを身につけていた。

 あまり派手な色も好まれないようなので、色もあえて黒を選び、極力装飾品も控えている。

 

 「このような席にお招きいただき、有難うございます」

 王族の正装を身にまとった朔海と共に、既に上座についているこの城の主たちに頭を下げる。

 「いや、このような地で、大したもてなしも出来ずに申し訳ないが、まずは有意義な議論が交わされることを願い、まずは乾杯を」

 

 アルフレートが空のグラスを持ち上げると、すかさず給仕のために控えていたリーが手にしたピッチャーから各人のグラスに琥珀色の液体を注いだ。

 注がれたグラスの底から細かい気泡が立ち上るが、ビールの様にその泡が溜まる事はない。

 見ていて、とても綺麗な色の飲み物だ。

 

 「――では。乾杯」

 言いながら、静かにグラスを持ち上げる。……ここでは、乾杯で日本のようにグラスを触れ合わすような事はしないらしい。

 一度持ち上げたあと、そのままグラスに口をつける。


 南国系のフルーツミックスジュースに炭酸水を混ぜた、フルーツソーダ。酒精は感じない。

 甘くて、すっきりとしたジュースだ。


 「申し訳ないが、ここでは酒類は厳禁なのでな。飲用だけでなく、料理にもまず使わない。だが、代わりにここの最高級茶を用意した。乾杯の後は、そちらを楽しんでいただきたい」

 リーに、ティーカップに熱い茶を注がせ、アルフレートはそれを勧めた。

 「有難うございます」

 ほわほわと立ち上る湯気からは、ジャスミンの香りが漂う。


 「……それでは、早速ですが本題に入らせていただいてもよろしいですか?」

 サラダに手をつけようとしていた女王が、ふわりと微笑み、ちらりとアルフレートの顔色をうかがった。

 彼は、あまり表情の動かないタチのようで、初対面の咲月たちでは中々読みづらいのだが、どうやら長い付き合いである彼女にとっては難しいことではないらしい。

 「ええ、どうぞ。それに、私からもいくつか質問させていただきたいですし……。そうですね、まずは私たちが目指すもの、それをご理解いただきたいのです」

 サラダのひよこ豆を匙で掬いながら、彼女は言った。

 「リーから聞きました。それを知りたいと思ってくださったこと。こちらの意思を尊重して下さる心づもりがあるものとお見受けしました。ならばこちらも、誠心誠意お答えするのが道理」

 言いながら、アルフレートに目配せする。

 

 「……我らの願い、我らが目指す理想。端的に言えば、それは真正直に生きる者が理不尽を被ることのない世。救いを求める者には皆等しくそれが与えられる世界だ」

 一見ナンのような、丸く平たい独特な形をしたパンをちぎりながら、彼はそれに応えて言った。


 「俺は、かつてソロモン王に仕え、その時から神に忠誠を誓った。……その神から賜りし聖典には、生前に善き行いをした者は天の楽園へ迎えられ、悪しき行いをした者は地獄へ堕とされるとある」

 ――ソロモン王とは、主に旧約聖書に登場する、ユダヤ教徒の王だ。

 「……しかし同時に、神はこの地上における全ての事象に干渉する事はない。どんなに神に忠実に生きようと、理不尽に奪われるばかりの力無き民は少なくない。逆に、神を冒涜するような悪政を行いながらも平然とこの世の贅を極める輩もまた、少なくない。それでも、それを神が正すのは、あくまで死後の世界にて。――だが、人が生きるのは、今のこの世だ」

 彼は、静かな憤りを声音に秘めながら言った。

 「当然、理不尽に奪われた者たちが求める救いは『今』でなくば意味はない。また、理不尽に奪っていく者への制裁も、かの者が生きているうちにせねば、少なくともこの世界にとっての意義は無い」

 一口サイズに切り分けた仔羊肉を口へ放り込み、咀嚼し、飲み込んで、彼は言葉を継いだ。

 「だからこそ我らは、この世界で真正直に生きる者全てが必要な時に救いを得られる世界を作るべく、まずはこの街を築いた。この街では、ここのルールに従う限り、どんな者でも等しく受け入れ、守護を与える」


 「この街には、戦乱や貧困、その他様々な理由で逃げて来られた方が大勢います。……それは人間だけでなく、魔界や天界にいらした方もまた、救いを求めてこの街を訪れる――」

 「一人の手で救えるものなど、所詮僅かなものだ。だが、同士を得てその手が増えれば、当然救えるものも増えていく。……この街は、まだ足がかりだが。いずれはもっと、広げて行きたい。これが、我らの願いであり、我らが目指す理想だ」


 「……成る程。それでは、魔界の道理など、貴方にとって忌避すべき最たるものですね。――ならばこそ、私にその力、お貸しいただきたい。私は、力のみがモノを言う、そんな魔界の常識を変えていきたいと願い、目指そうとしている。……けれど、私の考えに賛同してくれるものは、多くない。けれどせめて、まつりごとを共に支えてくれる側近たちには、それを理解してもらいたい」


 「つまり、側近候補の紹介して欲しいということでよろしいか? ……こちらも、人手が余っている訳ではないのでな。そう多くは差し出せないが、まあ2,3、心当たりがある。明日にでも引き合わせてやろう。それと、そういう事なら、もう一つ別に心当たりがある。紹介状を書いてやるから、一度顔を出してみるといい」 

 

 デザートの焼き菓子を口にしながら、彼は微かに微笑んだ。


 「お前が、俺より後に生まれて来たことに俺は感謝すべきかもしれないな。もしも、俺があのお方と出会った時、お前が共にいたならば、かの王は俺ではなく、お前を側近に取り立てていただろう」

 彼は匙を置き、立ち上がった。


 「お前を手助けする事は、俺たちの理想を魔界にまで広げる、その足がかりとなるだろう。お前は、俺たちに通じる考えの持ち主だ。それを認め、我らは可能な限り貴殿に助力しよう」


 そして、朔海に手を差し出した。

 「有難うございます」

 朔海もまた彼に手を差し出し、握り合った。

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