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Need of Your Heart's Blood 2  作者: 彩世 幻夜
第九章 Preparations for the ceremony
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朔海の相談事

 「――まずは、改めて紹介するよ」

 朔海はソファーに腰掛け、ベッドに腰を下ろした葉月に右腕を差し出し、その手首にはめた腕輪を見せる。

 「咲月と僕の守護精霊、潮。彼は、咲月の父方の一族に由来する、大精霊によって生み出された種より芽吹いた精霊なんだ」

 朔海の紹介を受け、潮がしゅるしゅると、半分透けた――けれど、バスケットボール二つ分大まで大きくなった姿で、きちんと自分の足で空気を踏みしめてふよふよ浮かび上がる。

 「……咲月の、父方の一族は、いわゆる祓魔師エクソシスト――破魔を生業とする……けれど近年その力に陰りの見え始めた、そういう一族で……」

 朔海は、咲月の母から聞いた事情を葉月に話して聞かせる。


 「――この話は、まだ咲月にはしていない。……とてもじゃないけど、話せるような内容じゃない。――あの時はそう判断したから」

 

 朔海の話を聞き終えた葉月は、まず一言、朔海に問いかけた。

 「朔海様、あなたは私に相談したい事があると言ってここへ来た。ただその話を私に聞かせるために来た訳じゃなく、そしてその時のあなたの結論が変わらないなら、私に相談する必要などない。――と、いう事は今の話を咲月様になさるおつもりなのですか?」


 「――彼女は、あそこから逃げれば彼らは確実に追って来るから、と。既に死んだと思われている咲月むすめを巻き込み、その呪われた運命から逃れた彼女の未来を壊したくないと言って、一度救いを断った」

 相手は、魔物退治の専門家だ。いくら弱体化が進んでいるとはいえ、多対一で咲月を守りきれるかどうか確信が持てなかった。

 「彼女を救う手立ても無いまま、『王族認証の儀』の前の大事な時に、こんな酷い話を咲月にして動揺させたくなかったから、僕は話さないと決めた」

 けれど、王族認証の儀はもう済んだ。

 「……僕が王となるなら、咲月も彼女も城で保護して守る事が出来る」

 あの時と、状況が変わった。

 

 「……式に参加するのは、皆、僕の知り合い、だろ? 今では咲月の知り合いでもあるかもしれない。でも、きっと衣装の事とかそういう事を相談するならやっぱり母親――だろ?」

 そういう役回りを、朔海はファティマーと紅姫に求めたけれど。彼女たちはまだ出会って間もない。咲月にとって遠慮なしに相談出来る相手ではなかったらしい。

 「もちろん、いきなり引き合わせて、突然母子おやこにはなれないだろうけど……」

 「結婚式は、母子の触れ合いとしては絶好の機会だと――?」


 「……そこをさ、相談したいんだよ。葉月の意見を聞きたい。いずれ必ず彼女に事情は話す。そのタイミングとして、今が適しているのか否か。咲月と彼女の母親と引き合わせるべきかどうかについても――」

 「成る程、話は分かりました。では、私の意見を申し上げましょう」

 一つ頷き、葉月は簡潔な答えを口にする。


 「私の答えは――そのどちらについても今は否、です」


 葉月は、きっぱりとその答えを朔海に突きつけた。


 「貴方は先程ご自身で仰っていましたね、『王となるなら、彼女たちを城で保護して守る事が出来る』――と。しかし、今現在貴方はまだ王でない。貴方が『話さない』と決めた理由、その懸念は今もまだある。だから、今はまだ話すべきではありません」

 そう、まだ、今は――。

 「話すなら、貴方が実際に王として立った時。母親の事についてはその時に、咲月様に選んでもらうべきでしょう」


 「……ごめんなさい」

 葉月の隣、ベッドの上にちょこんとお座りした白猫――紅姫が、小声で謝罪の言葉を口にした。

 「こういう事について、男の人が疎いのは当たり前。私が一番彼女に寄り添って親身に相談に乗ってあげるべきだったのに、つい、調子に乗りすぎて肝心の彼女を置いてきぼりにしてた事に気付けなかったのは、私の責任だわ」

 「――調子に乗りすぎ、のくだりは私も他人事ではありませんねぇ」 

 葉月は、頭をかきながら宙へ視線を投げた。


 「咲月様のためのお式のはずが、いつの間にか誰のための式だか分からないような状況にしてしまったのは、私たち全員の不手際です。よく反省して、明日から気をつけましょう、という事で」


 そして、葉月は相好を崩し、朔海に温かな眼差しを向けた。

 「……実は、先頃ファティマー殿に神饌用のワインをいただきに行った時に、もう一本やはり日本酒も欲しいと思って街の酒屋を覗きに行きまして。とっておき、年代物の酒を見つけましてね。これが、二本ありまして」


 「おい、二本で日本酒、とかいうつまらない事言うつもりじゃないだろうな?」

 「いいえ。二本あるので、一本は神饌用に、もう一本を、今ここで空けて飲みませんか? と」


 尋ねながらも葉月は朔海の答えを聞く前に立ち上がり、キッチン脇の小さな冷蔵庫を開け、一升瓶を一本取り出す。棚からからグラスを二杯取って、戻ってくる。


 見た目は十代の少年でも、実年齢は三百過ぎ、それに日本人でもなくそもそも人間でもない。

 目の前でグラスになみなみ注がれた酒を、朔海は葉月のグラスと軽く触れ合わせ、一気に干した。

 「……ああ、確かにこれは旨いな。――しかし、つまみが何もないのもな……。下から何か持ってくるか」


 「――だったら」

 葉月は、瓶に栓を戻し、瓶ごと朔海に差し出した。

 「これを持って、彼女の部屋へ行くといい。私と二人でちびちび飲み明かすより、彼女とゆっくり飲みながら話をする方がずっと有益な時間を過ごせますよ」

 殆ど押し付ける勢いで、そのまま部屋を追い出される。


 パタン、と背後で扉の閉まる音がして、広いホールに音の余韻が響く。

 朔海はそろそろと左に首を回し、件の扉を見つめ、そして手にした酒瓶を見下ろす。

 「女の子に、いきなり日本酒ってのもどうなの……?」

 こういう時はもっと、お洒落なカクテルとか、甘い酒の方が良いのでは……?

 いや、そもそも予告もせずにいきなりこんな時間に酒を持って部屋に押しかける事自体がどうかとも思うのだが……。


 「……何だ、青彦」

 いつの間にか足元で、黒猫がにやにやとこちらを見上げていた。

 「うん、どうした、行かないのか? 坊ちゃんが行かないなら俺が、色々楽しい話をしに行ってやろうかと思ってな」

 「……一応、念のため聞くけどその楽しい話ってなんだ?」

 「勿論、俺の見知った坊ちゃんのイロイロ、あれやこれや……」

 「……………………」

 朔海は、瓶を持たない方の手で、青彦の首根っこを掴んで、すぐさま背後の扉を開け、中へと放り込んだ。

 「葉月、今夜一晩そいつを部屋から絶対に出すなよ」

 

 朔海は、それだけ言って扉を閉める。階段を下り、、キッチンで軽くつまめるものを見繕い、再び階段を上る。


 トントン、と軽くノックをすれば、すぐに中から返事が返った。

 どうやらまだ寝てはいなかったらしい。


 「葉月に、いい酒を貰ったんだ。よかったら、一緒に飲まない?」

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