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Need of Your Heart's Blood 2  作者: 彩世 幻夜
第八章 Visit of the Lucifer
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古の契約

 弱肉強食が唯一の掟たる魔界に於いて王とは、絶対の強者である。故に、その命令は絶対であり、背くことは許されない。――それでも背くならば、相応の代償を覚悟せねばならない。その代償が命という取り返しのつかないもので贖われる可能性は、決して低くない。

 昨日、朔海が紅龍王の命令に頷かなかったのは、その絶対強者たる王と対等に渡り合えるだけの力を確信できたから――己と、咲月のの安全を保証しうる力があったから出来た事である。


 魔王は、魔界で最強を示す位だ。当然、紅龍王よりその実力は上――、この魔界に於いてそれに比類する者は居ない。

 その、魔王からの命令だ。首を横へ振る、という選択は許されない。

 ――紅龍王も、朔海も。言葉を発する余裕もなく、固まった。


 「――そして、これはいにしえの契約に基づく命令でもある。よって、お前たちに否を唱える権利は元より無い」

 そこへ、畳み掛けるように魔王が退路を塞ぐセリフを放った。

 「……古の、契約」

 喉に何かを詰まらせたかのごとく、苦しげに呟く紅龍王に、魔王がまるで幼子をあやすような甘い声で尋ねる。

 「紅龍王よ、お前が持つその魔力の由来は当然知っているな?」

 「は……、我らが始祖が、いずれかの悪魔との契約によって得たものだと――」

 紅龍王が、かつて朔海に聞いたのと同意の説明を口にすると、魔王は満足げに頷いた。


 「そう、そのいずれかの悪魔とは、他でもない、このルシファーである」


 「――――――!!!!」

 火のついた爆薬に等しい衝撃の事実を、ぽんと軽く投下され、紅龍王と朔海は揃って顔色を変えた。

 咲月ももちろん驚いたけれど、その裏で一つ納得する。

 晃希の長女瑠羽の治療を引き受けた時。悪魔としては高位にあったサハリエル由来の魔力を押さえ込む事が出来る程の魔力を有する朔海、その彼の先祖と契約を交わした悪魔がこの魔王ルシファーだというなら……成る程、納得だ。

 いかにサハリエルが高位であろうと、かつて熾天使として神に次ぐとすらされたこの存在と比べれば大人と子どもを比較するようなものだ。


 「かつて、お前たちの始祖にある可能性を見出した。そして、その可能性を現実のものとするために、契約を交わした。我が魔力を貸し与える代わり『その時』が来たら我が命に従え、と。そしてその契約は、お前たちの血族全てに、我が力とともに継がれている」

 魔王は、淡々と事実としてそれを口にする。

 「――我ら悪魔一族との契約は絶対、それはもちろん承知しているな?」

 

 それは、単なる魔王陛下からの命令より、拘束力の高いもの。

 絶対の契約を違えた場合の代償は――命より重い。


 「僕が……王……」

 これまで第一王子の肩書きを持ちながら、一度も考えた事のなかった未来に向け問答無用で敷かれていくレール。自分だけでなく、咲月まで巻き込むそれは――


 「我が悲願を叶えるには、その地位が必要不可欠だ。仮にも王族の一員として生を受けたんだ、潔く覚悟を決めろ。お前もな、第一王子の肩書きを持つ男を選んだ以上は、その可能性を全く考えなかった、とは言わせない」

 「………………!」

 もちろん、彼が王子だと、吸血鬼になると覚悟を決めた時点で確かに理解していたはずだった。

 けれど、彼は王族でありながら、一族の者から軽んじられ、本人も王になる気はないと言っていたから、その未来を真剣に考えた事は無かった。


 今回だって、彼の力を認めない者たちの鼻を明かしてやろうとは考えていたけれど、その後は彼と平穏な日々を、次元の狭間のあの屋敷で送るのだと当たり前のように信じ込んでいた。

 しかし、彼が王族の一員である事実が無くならない以上、その可能性は確かにゼロではなかった。

 それを一度も真剣に考えなかったのは、咲月に認識の甘さがあったせいだ。


 「先刻の通り、今すぐとは言わない。――だが、綺羅星の朔海、準備が整い次第、双葉葉月を喚び戻せ。それが済み次第、我が王城へ来い」


 否と言うことを許さない命令。


 「我が命に逆らうならば、お前たち王族のみならず、全ての吸血鬼が咎を負う事となるだろう。そうと聞いてもまだ、この話を潰そうと動く輩が居るなら――」

 不意に、魔王がパチンと指を鳴らした。

 「ぐあっ!」

 同時に、聞き覚えのあるうめき声が降ってくる。

 どさっと、紅龍王らと咲月たちの前の赤絨毯の上に落ちてきたのは――


 「霧人、お前――っ!?」

 声を上げたのは、紅龍王だった。

 更にその上からとどめのように大量の白い粉末がその体を埋め尽くす勢いで降り積もる。

 キラキラ輝く純白の粉、匂いはないが、なんとなく見覚えがある気がする。


 「これは……塩……?」

 小さく呟いたのは朔海だ。

 その呟きを聞きつけた紅龍王が青白く染まっていた顔色を一気に真っ赤に染め直したかと思えば再び、今度は先程よりもさらに白く――まるで腐った粥か何かのような色になる。


 「――申し訳ございません!」


 そして、突然大声を上げたと思ったら、いきなり床に這いつくばって土下座を始めた。

 何事かと朔海の顔を伺えば、こちらも王程でないにしろ、固く強ばった顔を青ざめさせている。

 「塩……って……」


 朔海たちに比べれば、まだまだその手の知識に乏しい咲月が彼らと同じ結論に至るには少々時間がかかる。

 しかし、日本では葬式の後など、清めのための塩が配られる。実際殺菌作用もあるそれが、一説によれば悪魔の弱点ともなる事は咲月も知っている。

 だが、玉石入り混じる流説のどれが真実で、どれが虚偽なのか、まだまだその事実を知るたびに一々驚いているような状況だ。

 けれど、その説がもしも真実なのだとしたら――?


 これは、王に向かって矢を射たも同然の行為なのでは……?

 そしてそれは、謀反と解釈されてもおかしくないものであり――もしもそうなったら……?

 ここは弱肉強食が唯一の掟である魔界、即手打ち、というのもあり得るのではないだろうか? 

 そして、刃を向けた相手は魔王だ。そして、刀を抜いたのは吸血鬼の王族に名を連ねる第二王子。

 王家の体面問題にもなる可能性もあるのでは……?


 そこまで思い至れば、ふと「連座」という言葉が咲月の脳裏をよぎった。


 「この愚か者は、ぜひ、魔王陛下の好きに断罪を……いえ、陛下の手を煩わすまでもなく今すぐここで私自ら始末してくれましょう。ですから、どうか……ご慈悲を……!」

 あの紅龍王が恥も外聞も放り捨てて必死の嘆願をする様を見て、咲月の体から血の気が一気に引いていく。

 

 (まさか、どうして……。ただ『王族認証の儀』を受けに来ただけの話がこんな事になるの!?)

 いっそのこと叫び出したくなるのをなんとか堪える。


 「紅龍王よ、たった今命じた事をもう忘れたか? 今、お前たちを断罪して困るのはこちらだ。今回の一件は無かった事にしてやる」

 「あ、ありがとうございます……!」

 「――ただし」

 魔王の赦しにホッと顔を上げた紅龍王に、深々と釘を刺すようにルシファーは告げる。

 「二度目は、無い。心しておけ」

 おもむろに立ち上がり、こちらを睥睨する魔王に、紅龍王が改めて畏まり、深々と礼を捧げる。



 「――では、また後日会おう。綺羅星の朔海、そして双葉咲月」

 

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