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Need of Your Heart's Blood 2  作者: 彩世 幻夜
第七章 Imperial family qualification ceremony
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宴の余興

 「さ、咲月……!?」

 朔海が慌てたように振り向くが、咲月はまっすぐ玉座を睨みつけたまま、声を張った。

 「『宴の余興』なのでしょう? あまり勿体ぶり過ぎては興醒めですよ」

 賭けを申し出た二人に対し、挑発するように揶揄の言葉をぶつける。

 「咲月、落ち着いて……」

 朔海が必死な面持ちで囁くが、咲月はもう我慢の限界を迎えていた。

 

 正直、まだ床に足をつけているのが不思議なくらい、あの嫌味なほど綺麗な顔を殴りたくて殴りたくて仕方がない。

 ――先日の襲撃時、紅狼は巨大な狼の姿をしていたから、人の姿をした彼を目にするのは初めてだ。しかし、髪の色はあの狼の体毛を思わせ、またその瞳も、確かにあの狼が彼だと咲月に知らせてくるけれど、あの葉月の父だとは思えないほど若々しい。

 顔の輪郭や体格なども、葉月とは似ても似つかない。よくよく見てみれば、口や鼻の形や目の位置など、葉月の面影が無いわけではない。だが、その面に浮かんだ表情は、彼が浮かべたことのない、醜悪な笑みを形作り、その面影を消してしまっているのだ。


 そして、玉座に座る王と、その隣に座る王妃も――。

 (あれが……朔海の、実の両親――)

 実の息子を前に、ねずみでも前にしたような態度を取る彼らにも、パーツ以外に朔海の面影を見ることはできなくて。

 そして、この場に押し込められている者たちの眼差しは、あの幻でみたそのままの風景を切り取って貼り付けたように、少しでも気を抜けば、取って食われるーーそんな空気が満ち満ちていて。


 あの扉をくぐってから今まで、必死に堪えてきたけれど、向けられた視線に対する憤りは膨らむばかりだ。


 「――それもそうだ。では早速支度をさせよう」

 王が、玉座の傍にはべっていた侍従らしき男に何やら耳打ちをする。

 何事か囁かれた男はそそくさと部屋を出て行った。


 「さて、お集まりの客人方。こういう次第にて、急遽余興の場を設けることになった。何しろ飛び入り故、どれほど皆を楽しませられるか分からんが、まあ話のタネにはなろう」

 

 王の指示に従い、侍従や近衛の兵たちが慌ただしく動き出す。

 客を誘導し、扉から祭壇へと続く通路を広く空けさせ、場所を作る。その場所を囲うように兵が等間隔に並び、仰々しい盾を構えて立った。

 その間に、先程出て行った男が戻ってきて、王に何やら合図を送る。


 「支度が整ったようだ。――では、娘よ、我らを存分に楽しませるが良い」

 その台詞に被せるように、不意にガラガラと耳障りな音が天井から降ってくる。

 何事かと見上げてみれば、降ってくるのは音ばかりではない。頑丈な格子に覆われた箱、まるで虫取りのカゴを巨大化させたようなそれが、重力に任せた凄まじいスピードで落ちて来るではないか。

 

 まさか、あれで押しつぶそうと言うのかと思ったが、その檻の四方の壁の縁の軌道は咲月の頭上を僅かに逸れていた。

 ドガシャン、と鼓膜を破らんばかりの大音声と共に落ちてきたそれは、咲月のすぐ目の前に壁を築き、床が震える程の衝撃と共に、朔海との間に割って入るように二人を隔てた。

 「――咲月、……っ!」

 慌てて格子を掴んだ朔海は、何か熱いものに触れたかのように顔をしかめて手を離した。

 

 「――綺羅星よ。これは、そこな娘に対する試しの場。余計な手出しをするでない。衛兵たち、しばらくこれを押さえておけ」

 王の命令を受けた、揃いの隊服を身につけた兵たちが、たちまちのうちに寄ってたかって朔海を拘束しにかかる。彼の足を払い、地面に押し倒し、うつ伏せに地面に張り付ける。後ろ手に両腕を拘束し、その上から何人もが寄ってたかって体重をかける。  


 「――大丈夫だよ、朔海。だって、朔海だって分かっていたでしょ、こうなる事は」

 それを、力ずくで振りほどこうとした朔海を、咲月は止めた。

 「そこで、見ていて」


 『手出しをするな』という王の命令に逆って良いことなど何もない。

 

 すぐ後ろの格子の壁を隔てたところに朔海、両の壁の向こうに観客、そして対面の壁は、先程入ってきたばかりの扉に接している、その部分だけ扉と同じ大きさに合わせて上下にスライドするようになっていたらしい。観音開きの建物の扉が開き、外の風が中に吹き込んでくる。


 客人の全てを建物内に飲み込み、外は警護の衛兵が居るばかりで静かだったはずのそこは、咲月が先程見た光景とは随分様変わりしていた。


 整然と並んでいた兵の代わりに居たのは――


 「魔物……!」

 朔海が低く呻く。


 わさっと、どこからか山盛り抱えて来て、そこに置いたように。

 黒山の人だかり――もとい黒山の如く集まるものは、どれもまともな人の姿をしていない。――どころか、まともな獣の姿もしていない。


 例えば、三つも頭を持つ犬。二本足で立って歩く、牛頭。顔だけ人面の怪鳥。馬の頭と魚の尾を持った海馬。

 それこそ、RPGゲームの敵として描かれるようなモンスターが、絶賛大量発生中、という場面。


 真っ当なゲームなら、きっとここらでピンチをお知らせするBGMとか警告アラームが鳴り響いていることだろう。……だが、これは現実だ。

 会場の奥で、BGMを奏でる楽隊は居るけれど、客のお喋りを邪魔しない程度の控えめな音量と曲調の調べを延々流し続けている。

 現状、パーティーメンバーなど居らず、応援役が一人居るだけ。

 咲月が装備している武器らしい武器は、朔海から贈られた例の小刀のみ。


 ――でも。

 紅狼の襲撃を受け、葉月の命が失われていくのを止めることが出来なかったあの時とは決定的に違う。


 ゆっくりと、檻の扉が開く。

 咲月は、静かに小刀を鞘から抜き、右の手でしっかと握り締めた。

 その数を考えればあまりに狭い入り口で押し合いへし合いしながら、魔物たちがどっと部屋の中へなだれ込んでくる。


 「……吸血鬼だ何だって言っても、結局人間とやってる事は大して違わないじゃない」


 まるで、奴隷を相手に猛獣をけしかけその戦いの様子を高みの見物で楽しむ、闘技会――。

 相手は猛獣ではなく魔物で、会場も円形競技場コロッセウムではないけれど。

 

 猛獣相手に勇敢に戦い、観客を楽しませた奴隷は、相応の褒美を与えられたという。


 「これまでの修行の成果、見せてあげる」

 咲月は、素早く刃を走らせ、手のひらいっぱいに血を溢れさせる。

 

 ――次の瞬間、檻の中が、朱に染まった。

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