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Need of Your Heart's Blood 2  作者: 彩世 幻夜
第四章 New live opening
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Lesson - 1

 「これを自在に扱えるようになれば、まず第一段階はクリアだ」

 朔海は、先程自らが造り出したコウモリの群れを指差し、そのうちの一匹をその人差し指に止まらせた。

 「これは、血の魔力で生み出した簡易の使い魔だ。魔力に念を込めて形にして、更に命令を組み込み、実行させる」

 朔海は、再びそれを宙に放つ。――宙を群舞している他の数多のそれらとは別に、部屋をぐるりと一周回って再び朔海の元へ戻る。

 「まずはステップ1、魔力を形にするところから始めよう。姿形は何でもいい、コウモリでなくとも、カラスでも犬でも。作りたい形をしっかりイメージして、魔力に念を込めるんだ」

 

 咲月は、改めて自分用に貰った小刀の鞘をポケットにしまい、あらわになった刃をじっと見下ろした。

 ――さて、どうしようか。

 吸血鬼=コウモリ、というのはあまりに定番のイメージで、空を飛ぶ事のできるそれは、彼らにとって即席の使い魔とするには何かと便利な存在なのだろう。

 けれど、以前草津の動物園で見たオオコウモリの気味悪さを思い出し、咲月はあれをしっかりイメージなどしたくなくて、もっと何か可愛い生き物を思い浮かべようと自分の記憶に検索をかける。


 これだ、と思ったそれを頭に思い浮かべながら、咲月は小刀の柄を握る手に力を込め、ずぶりと皮膚の下へ刃を沈めた。

 ぴりりと痛みが脳を刺激し、手のひらが見る間に赤く染まっていく。

 咲月はそれを固く握り締め、目を閉じる。一層脳裏に浮かぶイメージを強く意識しながら、握り締めた拳の中の血に意識を集中する。


 すると、もぞもぞと手のひらの中で何かがもがいているような感触を覚え、咲月は握った拳を開いて手のひらを上に向けた。

 閉じていた目を開け、自分の手のひらの上を見る。


 「えっ、一発で成功したの!?」


 朔海が、手のひらの上にちょんと鎮座するそれをまじまじと眺めながら驚きの声を上げた。

 少し小さいながら、鋭い嘴。まるっと小さい頭からスラリと緑や紫色に輝く首元、か細い足から短い尾羽までまるっと流線型の身体。折りたたまれた翼も含めればふくふく丸い体型。

 公園や駅前の広場、日本中の街中のあらゆる場所で見かける事のできる、それは――」


 「凄い、どこからどう見ても完璧な鳩だ……」

 ドバトと呼ばれる、日本で最もポピュラーな鳥の一種。かつて伝書鳩として飼われていたものが野生化したと言われるそれだ。

 場所によっては嫌われ者にもなるが、公園などで餌付けをした経験のある者も少なくないだろう。


 実際は、実物よりふたまわりほど小柄で、咲月の手のひらに納まる手乗りサイズではあるが、それでも間違いなく、鳩だ。

 朔海の目の前で、鳩は畳んでいた翼を広げ、わしわしと音を立てて羽ばたき、宙へ飛び立つ。


 群舞するコウモリたちより一回りほど大きな身体だが、それ以上に違う点が一つ。

 赤く、血の色そのままのコウモリたちと違い、咲月の鳩は本物同様の色を持っている。

 全身の灰色、首元の輝くエメラルドグリーン、足のピンク色。


 「ステップ1はほぼ完璧だよ。一度でこれだけ完成度の高いものを作れるなんて……、成程、ファティマーの言葉も納得だ」

 腕を組み、何やら一人で納得したようにうんうん頷く。

 「これなら、意外に早く外へ連れて行ってあげられるかもね」

 朔海は嬉しそうに微笑んだ。

 「それじゃあ、ステップ2だ。咲月、これを――」

 ポケットから一枚の紙切れを取り出し、咲月に差し出した。何の変哲もない、ごく普通の白紙のメモ用紙。

 「使い魔にこれ持たせて、僕のところへ持って来させるんだ」

 そう言って、彼は咲月から距離をとり、部屋の一番奥まで歩いていく。

 部屋の壁に背をつけ、ひらひらと手を振る。


 さっき鳩を作った時は、その形にしか気を配らなかったが、今回はそれに加えてもう一つ。作り出した使い魔に命令を組み込まなければならないのだ。

 もう一度、改めて形をイメージし、それにさせたい事を具体的に思い描いて、刃で肌を裂く。


 握った手の中から手品師のように鳩を取り出し、その嘴に朔海から渡された紙切れをくわえさせ、放つ。

先ほどと同じように羽ばたき、宙へ放たれた鳩は2、3度咲月の頭の上を旋回したのち、一直線に彼のもとへ飛んで行き、彼が掲げた手の甲に止まり、嘴にくわえた紙切れを、朔海のもう一方の手に落とした。

 「これも一度で成功か……。やれやれ、このままいくと……僕もうかうかしてられないかもなぁ」


 朔海は宙を群舞していたコウモリを、指をひとつ鳴らして血霧に変え、消した。


 「今のこれこそが、術の基本中の基本だからね。……文字や言葉、魔法陣の助けを借りるにしても、結局は自分のイメージ次第だ」

 少し情けなさそうに朔海は頭をかいた。

 「それこそ、自転車の乗り方の練習みたく、僕が君の練習に付き合って、良くないところやこうした方が良いっていうアドバイスをしてあげることはできるけど……」

 「私が、自分で練習を重ねて感覚をつかんでいくしかないって事……だよね?」


 咲月は、既に綺麗に治った自分の手のひらを見下ろす。

 「……ああ。この場所は、いつでも好きに使って構わないし、二階の書庫の資料も――。この家はもう、君の家でもあるんだ。だから、この家のものは全て咲月の好きに使ってくれて構わない」

 その言葉に、咲月は無言で頷いた。


 「うん。……試してみたいこと、色々あるの」

 晃希に教わった魔法の知識。清士に習った対魔物戦での自衛方法、そして稲穂に叩き込まれた武術の数々。

 それらを、新たに得た力と合わせてどこまで生かせるかも、全ては咲月次第なのだ。


 ――こんなに、前向きにやりがいを感じるのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。

 「やるよ。――この未来さきを、掴むためにも」


 咲月は、改めて小刀を強く、握り締めた。


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