第7話
ちょっとグロいシーンがございます。ご注意ください。
一部変更しました。
✕傭兵ギルド 〇ハンターギルド
「もうすぐ冒険の始まりだ。待ってろハンターギルド!!」
街道を歩き続け、太陽が中天に差し掛かるころ、広大な草原にでる。すると遠方に城壁に囲まれた街が見えてきたところで、これから始まる冒険への期待から、変に高いテンションで要は叫ぶ。隣を歩いていた花月がビクッ!とする。
「急に叫ばないでください。ビックリするじゃないですか」
「ゴメン」
取り留めのない話をしている要と花月が今いるのは、東南の海沿いの小国であるファルカオ王国だ。転移先は王国で王都に次いで2番目に規模の大きい街で、交通の要衝にあり他国との貿易によって利益を上げる「トゥチェス」という街から、少し離れた人の目のない街道脇の林の中だ。何故2番目の街を選んだかというと、深い意味はなくこの世界に来て初めての街になるのに、いきなり王都に行くより2番目位の規模の街で様子を見ようと思ったためだ。
要は黒の皮製のライダースーツ風の上下に黒のブーツに黒の外套を纏い、黒髪黒瞳と相まって全身黒ずくめの恰好だ。そして、腰には刀を佩き、背には皮製の鞄を背負い、棍を持っている。花月は黒の乗馬服の上着とズボンに、材質の違うミニスカートを合わせ、黒のロングブーツを履き要と似た黒の外套を纏っている。こちらも黒ずくめだ。ちなみに花月の外套の下の装備は、腰の両サイドにショートソードを佩き、背中に弓と矢筒を背負っている。
ところで、この服や装備品は一見すると革や丈夫な布製に見えるのだが、その正体は地球の科学技術の結晶だ。後にそのとんでもない性能が明らかになる。
要たちの当面の目標は、ハンターギルドに加入登録し、ハンターとして活動することと、ぶっちゃけ観光である。
この国ならばしばらく戦争などは起きなさそうなので、ハンターが軍に協力しなくて済みそうだ。つまり、要の愛読したラノベの「異世界トリップ」もののように思う存分に、薬草の採取や魔物の討伐を行い、景勝地なんかを見て回るつもりだ。
要と花月は城門に近づいていくと、徒歩の旅人やハンター達が街に入る手続きの列をなしていたので、その後ろに並ぶ。商人の荷馬車の列などは別になっている。すると何人かが花月の美貌に気づき、チラチラと盗み見てくる視線を感じる。並んだ人の中には女性もいて、その人たちの熱い視線の先にいるのは要だ。この辺りでは黒髪黒瞳の色は大変珍しく、容姿と相まって非常に目立っているが、要たちは無表情ですべて無視した。
前の人たちの手続きのやり方を見て、要は羊皮紙に必要事項等を記入し税をいくらか納めれば良いことを確認した。それにしても、王国で2番目に規模の大きい街ということで、入国審査は厳しく時間もかかるだろうと思っていたが、割と簡単に入れるんだなと意外に思った。だが、あまりここで締め付けると、他国との貿易によって利益を上げるている街なのに、商人が寄り付かなくなってしまうからかもしれないと思い直す。
順調に列を消化し、もうすぐ要の番が回って来るという時になって、トラブルが降って湧いてきた。
数人の男たちが、並んでいる列を無視して、後ろから割り込みを掛けてきたのだ。
見れば男たちはみな、筋骨隆々の大きな体に血で汚れた大剣や大斧を装備し、安っぽい兜や鋼鉄の胴当てをしている。そして、これ見よがしに討伐の成果らしき魔物を背負っている。どうやら魔物の討伐の帰りらしく、揃って全身埃や汗にまみれ薄汚く、無精ひげがはえたその顔は尊大な表情を浮かべている。
「おい門番、ヘテレ様とその一行が魔物の討伐からご帰還だ! 直ぐに手続きしろ!」
ヘテレ様とやらの取り巻きの一人が、門番に走り寄り大声ですごむ。自分たちは特別で、列に並ぶ必要はないと思っているようだ。
要はビビッいる様子の門番に、そんなんで門番の仕事が務まるのか心配になりながら、自分の後ろに並んだ人たちを振り返った。
要としては、割り込まれても気にせず順番を譲ってもよかったが、後ろに列を作っている人たちの反応は様々だ。ヘテレとその一行を知っている者は苦虫を噛み潰したような顔で怒りを飲んでいる。どうやらヘテレたちはこの辺りでは、それなりの実力者で通っているらしく、文句を言えないらしい。もしかしたらモメて、煮え湯を飲まされたのか。それとは別に、初めてこの街に来た商人やハンター達は、横車を押すヘテレたちにかなり苛立っている様子だ。
要は自分が列の一番後ろなら多少横入りされても気にしないが、後ろにキチンと並んでいる人たちがいるのを確認し、自分たちが注意すべきだなと思い声を掛けようとした。
しかし要が声を掛ける前に、相手が花月に気付いた。
「おい、見ろよ。この辺じゃ珍しい黒髪のイイ女がいるぜ」
「どれどれ、おっ! ふるいつきたくなるような上玉じゃねーか!命がけの討伐から帰ってくるなりツイてるぜ」
「ヘテレ様、見かけない顔の別嬪がいますぜ」
「ほう!これは大した上玉だ。おい、お前らあの女を連れてこい」
ヘテレの指示に、ギラギラとそれこそそこいらの動物よりも獣欲に塗れた男達の視線が、一斉に花月に向けられる。
「おいおい。いきなり何言ってんだコイツら?」
事態の急変に、花月を庇うように前に出る要の口調も、自然とキツくなる。
そうしているうちに、取り巻き連中が要達を取り囲んで武器を構える。
「なんだ? どうしたんだ」「喧嘩だ!」
「警備の兵士はまだか!」「今呼びに行っている!」
列に並んでいた人たちが、巻き込まれてはたまらないとばかりに離れていき、周囲が喧噪に満ちていく。
「おい兄ちゃん。その女を置いて失せな!」
「んなワケにいくか!アホか!?」
取り巻きAが無茶苦茶なことを言ってくるが、当然要は一蹴する。
「面倒だ!男は殺って、女を犯るぞ!」
ヘテレがそう取り巻きに声を掛けたその瞬間。
「……あ゛?」
今まで黙って成り行きを見ていた花月から、お腹に響くような重低音の言葉がもれる。
周囲の空気が一気に重苦しく張りつめた。同時に季節はこれから夏に向かうというのに、冷気じみた気配が肌を突き刺す気さえする。
遠くで馬車を引く馬がこの気配を感知したのか、いななき暴れる馬が馬車を大きく揺れらしている。周りの群集が青ざめ口を閉ざし、自分の腕をさする。
「誰が、誰に、何するって……」
奇妙な沈黙の中、花月は庇う要をよけて前に出る。そしてヘテレ達を一人ずつ見つめながら、単語単語を区切るように話す。まるで、誰一人として逃がさないというように。
花月に見つめられた男達は、自分の体が金縛りにあったように、全く動かないし喋ることもできないことに気づく。
「確か、要は殺って、私を犯るぞ、……と言っていましたね」
いつの間にか、花月の両手にショートソードが握られていた。
「人を殺めるなら、自分が殺されても文句はないですよね? ……フフフッ」
「花月。そんなヤツらでも一応、九割殺しにしておけ」
完全に殺る気で薄ら笑う花月に、内心ビビリながらおくびにも出さず、一応殺しは止める要。
「なんですって? 要?」
「九割殺しだ。言うことを聞け」
要の顔をじっと見た花月は、要が引かないことを見て取り、いかにも不本意そうに九割殺しに変更する。
「ふうっ、仕方ないですね。九割殺しにしておきます」
そして、か弱そうな女性一人が、屈強そうな男たちを蹂躙する。
花月の姿が霞んだ。
と思った瞬間、右側の男たち3人の両腕が、肩の先から斬り落とされた。
斬られた男たちは、何が起こったかわからなかった。
何故武器を持った自分の両腕が、地面に落ちているのか分からないまま茫然としていたが、遅れて絶叫した。
「ぁぁぁああああ!!」
「うるさい」
花月は男たちの絶叫に無慈悲に答えると、さらに股間に蹴りを入れ、〇玉を潰していく。
「金輪際女性を襲おうなんて、考えないことね」
股間を蹴られた男たちは気絶したのか、絶叫が途絶える。
残りの男たちは金縛りから解放されたが、何が起きたか理解する間もなく、武器を持ったまま立ち往生している。
さらに、左側3人が同じ目に遭う。要はせっせと泡を吹いて気絶する男たちに、応急処置として止血だけしておく。
残りはヘテレ一人だ。花月はヘテレの前に立ち、右手のショートソードを突きつける。
「あなたは、両腕と去勢だけじゃ済ませないから」
「なめるな!」
剣を突きつけられ、我に返ったヘテレは大剣を振り下ろす。力加減、速さ、体重移動など自身で最高と思える渾身の一撃を繰り出す。
「遅い」
光が閃いたときには、両腕両脚を切断されたヘテレが地面に叩き付けられていた。
「おまけ」
前の6人同様〇玉を蹴り潰す。
「また、詰まらぬものを潰してしまった」
「それ、ここじゃ誰も元ネタ知らないぞ」
ショートソードを鞘に収め、ネタを呟く花月に、要がツッコミを入れる。
「良いんですよ。気分の問題ですから」
花月はすねたように口を尖らせ、要に答える。もう最前の冷たい雰囲気はない。
要は花月もストレスが溜まっていたのかもと思ったが、ヘテレ一味に同情はしない。男を殺して女性に乱暴するような奴等は逝ってよしと思っているからだ。
ただ、この世界に来て、いきなり殺しは少しだけマズいかなと思っただけだ。
その時、警備の兵士数名が駆けつけてくるのが見えた。それと同時に周りの群集が、我に返ったように騒ぎ出す。何人かは恐れたようにこちらを見てヒソヒソ話をしているし、また何人かは溜飲が下がったように喝采を上げている。
「喧嘩の現場はここか」「ヘテレ貴様、何度問題を起こせば気が済む!?」
周りの群集をかき分け近づいてきた兵士たちが、要たちの周囲に転がる男たちを見て絶句する。
「なんと……」「これは一体……」
「これは突然喧嘩を吹っ掛けられたための正当防衛です。周囲の人たちに聴いていただければ分かります」
要がしれっとした顔で話す。花月はわれ関せずと明後日の方向を向いている。
駆けつけた警備の兵士の中でも一番年上らしい中年の男が、周囲の状況を見て取り要たちに声を掛ける。
「あ~~。一応詰所で話を聞かせて貰えるか?」
「やっぱり、この場で無罪放免とはいきませんよね」
苦笑いした要は、いつになったらギルドに行けるかな、と考えていた。
次回こそギルド登録です。……きっと。
✕この国ならばしばらく戦争などは起きなそうなので、
〇この国ならばしばらく戦争などは起きな『さ』そうなので、
✕商人が寄り付かなくなってしますからかもしれないと思い直す。
〇商人が寄り付かなくなってしま『う』からかもしれないと思い直す。
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