第4話
短くてスミマセン。
「双方、静まれーー! 静まれーー!」
ついに、一触即発の事態に見ていられなくなり、黒狼は光学迷彩を解除するのももどかしく、大木からジャンプし二つの勢力の真中、クレーターの中心に降り立った。
そして、大声で双方を制止する。
「短気は損気! 仲裁は時の氏神というだろ、双方落ち着け!」
黒狼は、自分たちが原因の騒ぎなのだが、すっかり失念して仲裁する気マンマンで叫ぶ。しかし、言葉が通じていないこと、そして自分の今の姿や、新たに得た魔力の力がうまく制御できていないことなどなど、イロイロなことをキレイサッパリ放置している。
地球では精気は発見、研究が行われ、軍などで実用化されており、黒狼も制御する術をマスターしている。しかし、魔力については地球でもいろいろと研究はされていたが、ついに発見には至らず、結社との戦いが始まってしまった。そのため、この世界では自然と制御されるはずの魔力が制御されずに、現在黒狼の体の周りを取り巻くように、あふれ出し絶賛ダダ漏れ中だ。
「黒狼!!」
様子をモニターしていた花月は、頭を抱える。
「伝えていないから知るはずはないですが、黒狼の今の姿はこの世界の魔物と呼ばれる存在に似すぎてる!」
黒狼は現在変身したままだ。その姿は、狼を模した形状のマスクを備え、身長も2メートルを優に超えスラリとスマート体型である。そしてその全身を覆うスーツは、筋肉が盛り上がり、いくつかの装飾品が見て取れる。また、色は限りなく黒に近いメタリックな艶のある紺色だ。その姿形、体色などが魔物に似ているのだ。
そんなこととは露知らず、クレーターの真中では黒狼は両手を左右に広げ、ストップストップ!などと叫んでいる。
驚いたのは、王国と帝国の調査隊の兵士達だ。
「なんだ、人狼か!」「突然現れたぞ。どこから来た!?」
予想外の闖入者の出現にパニックを起こすものがいれば、
「咆哮による威圧のスキルか!?」「なんと禍々しい姿だ!」
黒狼が発した制止の声を何らかのスキルと勘違いしたり、その姿を見て魔物と勘違いして、恐れ慄いている者などなど収拾が付かない。
隊長も、突然の出現した魔物の放つプレッシャーと漂う魔力に隊員に退却を指示しようとしたが、隣から聞こえてきたうめき声にそちらを見ると魔導士が、茫然とした声で何かをつぶやいている。
「魔導士殿?」
声を掛けてみるが小声でブツブツ言っている。
「目に見えるほどの質と量のある魔力持ちの魔物なんて伝説級じゃないか……。 なんでこんなところに……」
隊長はこれだから、実践経験のない連中はと呆れた。
思いがけない危機に遭遇した時の行動は、一時その場を放棄し退却し、その後奪還等の行動に出るのが定石だろうが。
やはりと思いながら、さっさと退却の指示を出す。
宮廷魔導士として派遣されたからには優秀なのだろが、修羅場の経験がないのではいざというとき使えるかどうか分からないため、戦力としては不安要素のあると危惧していたのだ。
隊長は国の依頼で隊を率いているが、本職はハンターだ。ハンターギルドに登録しており、依頼があれば魔物退治や、時には国同士の戦に出ることもある。そうした経験によって、わざわざ戦わずとも相手が強いことは肌で感じられた。
「お前ら、死ぬ気で逃げろ! 殿は俺がする。それと誰か魔導士殿を連れていけ、早くしろ!!」
兵士たちは命令どおり魔導士を引きずりながら一目散に退却していった。それを見た隊長は苦笑いを浮かべた。
「現金なモンだな。普段の訓練も同じくらい素早く行ってほしいもんだ。……っと帝国の連中も逃げたか」
隊長は帝国軍もすでに退却した様子を見て取り、黒狼の様子を見ながら自身も素早く退却した。なんで襲ってこないんだ?と疑問を抱きながら。
「ふう……。引いてくれたか」
黒狼が安堵の溜息をついたとき、花月からの通信に気が付いた。
「黒狼、また後先考えずに飛び出しましたね!」
どうやら花月はお冠のようだ。
「いや……。あの……」
「いつも言っているじゃないですか! 突発的に行動するんじゃなく事前にまずよく考えてくださいって!」
黒狼はさながら頭から角を出す花月を想像しながら平謝りした。
しばらく続いた説教もようやく終わり、というか毎度のことで説教のネタもループしていることに気が付いた花月がどうでも良い気になったのだが。
「はあ……。 まあ、もう良いです。今、星華が黒狼の概ね百 ㎞上空に到着しました。星華への転移を開始します」
「すみません。よろしくお願いします」
黒狼が答えると、すぐに黒狼の頭上の空間がグニャリと歪み、光り輝く魔法陣のようなものが現れ、スーッと静かに頭から足へと降りてくる。すると魔法陣の過ぎた部分は消えていく。そして、完全に黒狼の姿が消えると、魔法陣はゆっくりと消えていった。
あとには、静かな森が残るのみだった。
10/20 少し花月の口調をいじりました。大筋には影響しないと思います。