第19話
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8/23 誤字脱字を修正しました。
「……メ殿、カナメ殿? どうかしたか」
アルヴァンの問いかけに、ハッとする要。
「いえ、何でもありません」
王子も怪訝な顔をしたが、それ以上は追及してこなかった。王子にとって要の様子よりも、喫緊の問題が山積みだからだ。
この村が襲われた以上、恋人の安全を確保するにはどうするか。また、人有党に対処する方法や、黒ずくめの暗殺者達が、一体誰の差し金で送り込まれたかを確かめるなど、やらなければならないことや調べなければならないことは多い。
「それでこれからどうします? この連中?」
「そうだな」
要は内心の動揺を素早く鎮め王子に問う。 王子は思案するように腕組みする。
「取り敢えず、城に連行して背後関係を……」
王子が話をしていると、突然異形がガバッと身を起こす。
「‘*!}>&%$ー!!(師よ!どうか我らにお力をー!!)」
異形が絶叫する。
不意を突かれた王子たちが、何事かと注視するなか異変が起こる。異形の体から黒い靄が立ち昇り始めたのだ。そしてそれは他の暗殺者達も同様で、気絶した暗殺者達の体から黒い靄が立ち昇る。
みるみるうちに、暗殺者達の顔から肌の張りが失われ、幾筋も深い皺だらけになり、髪も色を失ない無残に抜け落ちていく。
萎れていく様を見た要は、まるで木乃伊だと思った。
その靄は急速にひとつの塊になり、地上十メートル程の高さまで浮き上がった。
そして、その輪郭が徐々に形を変えて定まっていく。
見た目は人の男の上半身を持ち、下半身は大蛇となって身をくねらせる、全長十メートルの巨大な怪物だった。
「ガアアアァァァァッ!!」
化け物は吼え、くねらせる身体からあふれ出た瘴気が撒き散らされる。その瘴気に触れた木や草花は急速に枯れていく。
「王子、離れて! 瘴気に触れてはなりません!! みんなも離れるんだ!!」
アルヴァンが王子や周囲の者に注意を促す。
「あの瘴気、厄介だな。 このまま暴れられたら被害は甚大だ。 アルヴァン頼めるか」
巨大化した異形から距離を取りながら、王子がアルヴァンに指示を出す。
「お任せを。 お前たち、やるぞ!」
アルヴァンを中心に、「戦斧の一撃」の面々が、異形を取り囲む。
「おいおい、怪人に変身して倒されると、今度は巨大化するって、そりゃ負けフラグだろ。 変身ヒーロー番組のお約束ってこの世界にもあるんだな」
要は後退しながら、小声で花月に話しかける。その声には巨大なモンスターの出現にもかかわらず、いささかの焦りも緊張も感じられない。
「確かに。 日本じゃテッパンの展開ですね」
返事をする花月の声も小さく抑えているが、要と同様にのんびりとしていて、それこそ日本のお茶の間で、変身ヒーロー番組を観ながらお約束の展開に文句を言っている視聴者のようだ。
「お! アルヴァンたち、仕掛けるみたいだ。 Sランクパーティの実力をとくと拝見しますか」
戦斧の一撃のメンバーは、着ていた外套を脱いで武器を構える。モンスターも自分を取り囲むアルヴァンたちを、まずは排除するつもりのようだ。
ドワーフの重戦士が盾を構えてアルヴァンの横に並び、ダークエルフの狩人と獣人の盗賊が、弓や投げナイフ等で遊撃を担当する。その後ろにエルフ神官と魔女が控える。
「ふーん。 あのキ〇肉マンに出てくるミステリ〇ンパートナーみたいな外套脱ぐんだ。 メンバーの正体は無人偵察機で調べたから知っていたけど、攻撃的なアルヴァンの前衛に硬い守りのドワーフの前衛、飛び道具や素早さを活かしたダークエルフと獣人の遊撃に……」
数少ないS級の「戦斧の一撃」のメンバーを見ながら、やっぱり要はのんびりしている。
「回復や精霊魔法担当のエルフと魔女による魔法による火力が売りの後衛。 見事に種族の特徴を活かした、バランスの取れたメンバーですね。 ちなみにあのマント、魔法が掛かっており、纏っている間はステータスが低下しますが、長く纏っていればいるほど脱いだ時にステータスに強化補正が付きます。 当然貴重品です」
魔女とは、アマゾネスなどと同様に女だけの種族で、全員が魔法を得意とする種族である。人族とは違う亜人の一族という説を唱える学者もいるが真偽のほどはわかっていない。
要の台詞のあとを花月が続ける。
「いいな、あれ。 しかし、改めて考えると、ラノベの定番である獣人やエルフなんかを生で見る機会が来るとは!!」
要が感動している横で花月はあまり興味がなさそうだ。
「そうですか。 あ、まずは解析で情報収集と分析をしていますよ。 さすがに慎重ですね」
「あの解析スキル面白いな。 相手の種族や持っているスキルなんかが分かるんだっけ?」
「はい。 どういう仕組みか、相手の情報が筒抜けになるようです。 しかし」
「技量が上の相手には、たいして効かないんだっけ?」
花月の言葉を要が引き取る。 頷きながら花月が答える。
「戦闘系の攻撃スキルや自分のステータスを倍加させるスキルなどはまだしも、相手に掛ける情報系や要も体験した威圧などの弱体化スキルは、必ずしも効果が得られるとは限りません」
「相手も当然抵抗するからな」
「はい。 どうやら仕掛けるようですよ」
要たちの見ている前で、巨大化したモンスターと「戦斧の一撃」のメンバーが戦闘を開始した。
瘴気を撒き散らすモンスターは、咆哮を上げながら縦横無尽に素早く動き回る。そして炎熱のブレスを吐き、猛毒を持つ鋭い爪を振るっている。
「それにしてもモンスターは、あのデカイ図体に加えて、いるだけで瘴気を撒き散らすなんざ、一般人にはさぞ強敵に見えんじゃね。 この討伐依頼はハンターギルドのランクでいえば、AプラスかSマイナスくらい?」
「そうですね。 下手な騎士団が護る小都市くらい単騎で落としそうですから、そのあたりではないですか」
要たちは涼しい顔をして話しているが、王子や周りの村人たちはまっ青な顔つきで心配そうに「戦斧の一撃」を見守っている。
その「戦斧の一撃」のメンバーであるエルフ神官がパーティに対し重ね掛けした補助魔法で耐久その他のステータスを底上げし、魔女が大魔法の準備を開始し、ダークエルフと獣人が弓矢や投げナイフの弾幕で牽制し、ドワーフの重戦士が攻撃を防ぎ、アルヴァンが斧を振るう。
「戦塵の唄」「聖域結界」「明日への希望」
エルフ神官は立て続けに光属性の上級魔法を味方全体に掛ける。
「戦塵の唄」は戦意・士気高揚をもたらす。 この魔法を掛けられた者は例え初陣の新兵であっても、実戦の恐怖に怯えずに訓練で培った力を発揮できる精神状態になる。 また、相手のスキル「威圧」などもキャンセルしてくれる。
「聖域結界」は、相手からの毒や麻痺、今回のような瘴気などのバッドステータスを防ぐ結界を張る。 この中では、人や亜人はわずかながらステータスに補正が付き、魔物はステータスがダウンする。
「明日への希望」は、力・素早さ・スタミナなどステータス全般が強化され、また精神に干渉する魔法やスキルにも耐性が付くという優れものだ。
エルフ神官が唱えた魔法はどれも並の魔法使いでは唱えられない上級魔法で、しかもそういった上級魔法の使い手であっても、どれか一つを唱えればMP切れを起こしかねないほど、魔力をバカ食いする魔法である。しかも彼女は「無詠唱」「賢き者」などのスキルを持ち、通常の魔法使いよりも、早く、少ない魔力で魔法が使えるのだ。彼女がどれほど優秀かわかろうというものだ。
「魔法力増幅」「高速詠唱」「上位魔法陣・三重」
魔女は自身の魔法力を一時的に高めるスキルや、魔法を放つまでの時間を短縮する高速詠唱スキルを使用し、手数を増やすための魔法陣を構築する。この「上位魔法陣・〇重」は自身の放つ魔法と同じものを同時に撃てる非常に珍しいスキルだ。ちなみに〇重の数が増えれば同時に撃てる魔法も増えていくが、当然魔法力も〇重の数だけ増えていく。しかし魔法使いが一時的に増員したのと同じ効果があり、優秀なスキルだ。そして、自身の撃てる魔法の中でも強力な魔法を打つべくさらに準備する。彼女は自身の防御は考えない。仲間が守ってくれると信頼し、そこはゆだねている。その代わり自分は強力な魔法で敵を殲滅することだけを考えている。
「連射・改」「追尾・命中」「螺旋弾」
ダークエルフが、スキルを使って矢を放つ。連射という次元を越えて一度に数十本の矢が一張の弓から飛び出し、しかも貫通力を増すためか、螺旋状に横回転している。極め付けは、追尾して、モンスターの身体に必ず命中することだ。
「曲芸撃ち」「影潜り」「影縫い」
獣人の盗賊が、モンスターの攻撃を捌きながらナイフを投げる。するとどんなに態勢が崩れていようとも、投げられたナイフは精確にモンスターに向かって飛び、そのあり得ない軌道にモンスターも虚をつかれる。また、獣人が自分の影に向かって投げたナイフが、モンスターの影から飛び出し攻撃したり、モンスターの行動を一瞬阻害したりしている。さらに自分自身が影に潜り攻撃をかわしたり移動したりと、トリッキーな行動で、戦場を撹乱する。
「あの相手の影を利用したり動きを縛ったりするスキル、便利だな。 彼女は盗賊を名乗っているが、上級職の暗殺者を持ってるんだっけ?」
「はい。 やっぱり暗殺者は外聞が悪いせいか、持っている者は隠す傾向にあります」
「標的変更」「大地の盾」「激流下り」「鋼の心」
ドワーフが構えるタワーシールドにモンスターの攻撃が集中する。彼は標的変更で攻撃目標を自分に向けさせ、強化した盾で攻撃を受け流す。モンスターの爪は容易く並の防御を容易く引き裂くが、ドワーフの持つ盾も並ではない彼専用に鍛えられた一品であり、そこにスキルでさらに強化する。そして大地のように強固な盾を使ってモンスターの攻撃を受け流す。その様子はまるで、激流を下る木の葉が岩にぶつかる寸前にスルリとかわす様に似ている。その神経を擦り減らす防御を続けるために、集中力を増すスキルを使い、いくらでもかかってこいとアピールする。
「筋肉増強」「間隙の攻め」「大樹の守り」「一点集中」「伝衝撃破・戦斧」
攻めの前衛であるアルヴァンは、力・器用さ・自身の肉体強化・集中力などの増強スキルを使い、ステータスの底上げを行いつつ攻撃スキルを発動した。
アルヴァンは自身の装備している戦斧を地面に叩き付ける。すると戦斧を起点に八本のエネルギー波が大地を伝播しながら、モンスターを取り囲むように疾走る。さながら獲物を追う狼の群れのように、モンスターをグルリと取り囲んだエネルギー波は、モンスターの真下の地面から獲物目掛けて殺到し大爆発を起こす。
要たちが見ている先では、「戦斧の一撃」のメンバーが、モンスターを圧倒し戦いの主導権をガッチリ握っている。要が感心することは、そうして優位に戦いを進めながら、メンバー全員が全く油断していないことだ。
「まさに押せ押せだな。 ただ、「戦斧の一撃」の連中は気づいているのかな?」
要は独りごとのように呟く。
「何にです?」
花月がそれを聴き逃さずに問う。
「いや、俺の目にはあのモンスターに魔力を供給して強化している電源が視えるんだが。 そうまるで、某汎用人型決戦兵器の背中から伸びたアンビ〇カルケーブルのように」
要の返答に、花月は魔力で強化した両の眼で注意深くモンスターの背中を視る。
「……はい。 確かにあの異形の背中に魔道が視えます。 急いで星華に辿らせます。 しかし良く視えましたね。 指摘された処を注意深く視て、ようやく気付くレベルですよ」
「まあね。 それでどこに通じているの?」
褒めた花月に軽く相槌を打ち、要は魔道の先を気にした。
「……分かりました。 星華の追跡によれば、あれはオリヴェイラ帝国の帝都に通じています」
「帝都? 続けて」
「はい。 正確には魔道の行き着く先は、帝城脇の古びた塔の地下からで、その場所に数人の人間の反応があります。そこで何かの儀式を執り行い、大きな魔力を生み出している模様です。 そしてその大きな魔力を、そこから伸びた魔道であのモンスターに供給しているのは間違いありません」
「ということは、人間至上主義者の集まりである「人有党」の背後には、帝国がいるということか? まあ、帝国の一部の人間の犯行で、帝国自体は関わっていないという可能性も、一応あるが」
要と花月は顔を見合わ、要は面倒なことになってきたなと嘆息した。
なるべく早く次回の投稿をしたいと思います。
感想や今後の展開の予想などお待ちしています。
誤字脱字・矛盾などのご指摘はなるべく優しくお願いします。