第18話
前回の投稿から時間が経ってしまって申し訳ございません。
今回は説明の回になってしまいました。
矛盾やおかしいところは、やさしくご指摘ください。
2/1 少し会話を修正しました。
8/23 誤字脱字を修正しました。
「ニーナ! どこだ!? ニーナァァァ!?」
大きな声で叫びながらフードをかぶった人影が走ってくる。
その後ろをアルヴァンと、「戦斧の一撃」のメンバーらしきマントの人達が、追いかけてくる。
「これは一体……?」
アルヴァン達はこの現場の状況に驚いている。確かに驚くだろうと要は思う。暗殺者達がゴロゴロと打ち上げられたマグロのように転がっているし、異形と俺の戦闘であちこち地面はボコボコで、いくつか民家もぶっ飛んでいる。
「イアン様!!」
「ニーナ!! 無事だったか! よかった」
要が聞こえてきた声の方を見ると、叫びながら走ってきたマント姿の人影が、被っていたフードをおろした。現れたのは30歳前後の人間の男性で、くすんだ金髪に白い肌の白人男性で、碧い瞳のイケメンだ。その男性が亜人女性と抱き合う。
護衛の三人の男たちも安堵の表情を浮かべているところを見ると、マントの男性が来るまで亜人女性を護れという任務だったのかなと思う。
「ん? イアン? どこかで聞いた名前だな。 それにあの顔も見覚えがある」
そんなことを考えつつ、要は花月と合流し村の入口の様子を聞く。
花月によると、山賊は全員捕縛しているが、先ほどの要たちの戦闘で殺気がバンバン飛んできて、村人が恐慌をきたし、なだめるのに苦労したらしい。
そんな花月の苦労を労いつつ、『威圧』スキルなるものを体験し真似したら習得できたこと等、ここで起きたことを話していると、暗殺者達をロープで縛り上げたアルヴァン達がこちらに歩み寄り話し掛けてきた。要は花月との話を切り上げ、アルヴァン達の方を向く。
「ちょっとよろしいか?」
「はい?」
「部下達に話は聞いた。 私の名はアルヴァン。 王都のハンターで、「戦斧の一撃」というパーティを率いている者だ。 失礼だが、貴殿らは「アース」のお二人では?」
「あなたがSランクパーティのアルヴァン殿ですか。 私は要、こちらはパートナーの花月。 お尋ねの通り、私たちは「アース」というパーティを組んでいます」
要はアルヴァンを知っていたが、知らないフリをして話しを続ける。
「やはりそうであったか、先ほどの戦闘では部下が貴殿に大変世話になったとのこと、まずは礼を申す」
アルヴァンはそう言って頭を下げる。それにならいアルヴァンの後ろにいる、先ほどの護衛の三人も要たちに頭を下げる。彼らが部下なのだろう。
それはそうと、要は貴殿という呼ばれ方に戸惑いを感じた。地球じゃ貴殿なんて創作物の中だけで、実際にしかも自分が呼ばれるとは思わなかった。違和感がハンパないわーと思った。
……と要が思っている様子に、花月も密かに苦笑した。
「いえ、大したことはしていません。 村長にも言いましたが、「義を見てせざるは勇無きなり」と申しますから」
要の予想通り、アルヴァン達は初めて聞くことわざに不思議な顔をしたが、スルーした。
「なるほど、それにしても大した実力だ。 独りであの者たちを蹴散らし、あの異形の化け物も倒したとか。 失礼だがハンターをされていると聞いたが?」
「はい、ハンターをしながら旅をしている者です。ところで、私はあちらの男性のお顔と、イアン様というお名前に心当たりがあるのですが?」
要が自分の身元をうやむやにしながら話題を変える。この国の情報は無人偵察機から得ている。当然、王室などの情報もだ。
「貴殿の考えている通りだ。 あの方はイアン王子。 このファルカオ王国の王太子殿下だ」
「やはり。 じゃあ、あの女性は?」
「あちらの方は、あーその……」
アルヴァンが言い難そうにする。
「恋人のように見えますが、事情がおありならば、無理にはお聞きしません」
訳ありの様子にちょっと厄介事のにおいがした要は、突っ込んで聞くのはやめておこうとする。実際要は山賊なるものが近くにいることが我慢できず、目障りなのでギルドの依頼でもないのに叩き潰したのだ。思いもかけず「人有党」だの暗殺者の集団だのが出てきたが、要の目的は達成されたのだ。長居は無用と思っている。
「この村は偶然通りかかっただけですので、私たちはこれで失礼します」
偶然を強調し、そそくさとその場を後にしようとする要たち。
「待ってくれ。 貴殿たちだろう。オーガの番を倒した新人というのは」
しかしアルヴァンが慌てて引き止める。
「確かに私達が倒しましたが、どこでその事を?」
面識のないはずの相手に問われ、仕方なく答える要。
「最近頭角を表してきた二人組の凄腕のパーティ、「アース」のことはギルドで聞いていた。 二人とも揃って珍しい黒髪黒目で整った容姿だ。ギルドで聞いていた特徴と一致していたので、すぐに分かった。 ……これから話すことは他言無用で頼む」
アルヴァンは一瞬ためらったが、何の関わりもない村、しかも亜人の村を助けた要たちを信用できると判断したようだ。要たちには実感がないが、亜人を積極的に助けようとする人間はこの世界では少ない。そこがアルヴァンの心の琴線に触れたようで、要を信用して話を始めた。
要としては村を救う以上のことには、あまり深く関わり合いになる気は正直無かったのだが、仕方なくアルヴァンの話を聞く。
「実は我々は王都とこの村の往復する際の、王子の護衛を極秘に依頼され、すでに何度か受けていたのだ。 王都のハンターである我々がトゥチェス近郊の村まで来た理由は、表向きにはトゥチェスのギルドからオーガの番討伐の依頼を受けたためということになっている」
どうやら王子はこの村に足繁く通ってくるそうだ。目的は勿論、あの亜人女性だろう。しかし王子に亜人女性の恋人がいることが「人有党」に漏れると、奴らは亜人女性を人質にとって、今の亜人差別撤廃の政策を止め、亜人は奴隷か国外追放を迫ってくるだろう。そこでアルヴァン達が毎回苦労して、亜人女性の存在を秘密にしつつ、なんだかんだと理由を付け王子の護衛をしているらしい。時にはS級として強力な魔物の討伐だったり、時には全くのお忍びで誰にも気づかれないようにトゥチェスにも寄らなかったりといろいろ偽装工作をしていたらしい。ついでに、村長の様子がおかしかった理由が分かった。村長は事情を承知していたのだろう。
そこまで話して、アルヴァンは難しい顔をする。リザードマンなので、その表情は要には分かりづらいが。
「しかし、どういうわけか我々の行動が、「人有党」に漏れていたのだ。 そこで念のため女性の護衛として腕の立つ者を選んで先行させていたのだが」
要は先日のキムという男や、貧民街の男達を思い出して、ああ、そういうことかと納得した。
あそこが彼らのアジトであり、彼らは「人有党」のメンバーということだ。要的にはあまり興味が無かったのでアジトはそのままに、山賊がこの村を襲うという計画だけを潰すつもりで出向いてきたのだ。というのも、彼らは王子がアルヴァン達「戦斧の一撃」と同行していることを知らなかったのだろう。「人有党」としては以前から、アルヴァン達亜人がハンターとしてS級の評価を受け、活躍していることに憤っていた。そこでオーガの番討伐の依頼を受けてやってくるアルヴァン達を待ち伏せて亡き者にするつもりだったのだろう。勿論、そのままでは敵わないので、アルヴァン達が足繁く通う村を突き止め、人質に取ろうと考えた。だが情報が中途半端で、18歳前後の亜人の娘が目的らしいがどの村の娘かわからなかったのだろう。この辺りの村を虱潰しに探したようだ。
「しかし、貴殿たちがこの村を訪れてくれて良かった。 山賊はまだしも、あの暗殺者たちは部下には荷が重い相手のようだ。 危うくニーナ嬢に危害を加えられるところだった」
ニーナというのが、あの王子の恋人の亜人女性のことだろう。要は何となく、派手さはないが可憐な風情の、控えめな性格の美人という印象の女性だと思っていると、イアン王子が当のニーナという女性を伴って歩み寄って来た。アルヴァンは要の正面を王子に譲って、自分は脇に退く。
「余からも礼を言う。 ニーナを守ってくれたことに感謝する」
「先ほども申しましたが、この村はたまたま通りかかっただけですので。 しかしご無事でなによりでしたね」
要はもう一度偶然を強調したが、王子は気さくに話しかけてくる。
「しかし、そなたたちは強いな。 なんでも山賊を一蹴しあの暗殺者たちも倒し、なおかつあの異形の化け物も退けたと聞いたぞ。 見れば二人ともえらく若いが、そなたたちは一体何者で、どうやってその力を身に着けた?」
「それは……」
要は自分と花月の設定を話をしながら、さりげなく鞄から取り出した物を投げた。
要が無造作に投げたボーラは、スキを見て逃げようとしていた暗殺者の一人の両足を捕らえ絡みつく。
「残念、逃がさないよ」
ボーラは複数のロープの先端に球状のおもりを取り付けた形状で、主に標的の脚の二本に絡み付き、歩行を妨げ捕獲する狩猟用の道具だが、おもりをぶつけてダメージを与える打撃用としても使える投擲用の武器だ。
要の突然の行動に驚いた王子たちと戦斧の一撃のメンバーだが、慌てて逃げようとした暗殺者を取り抑える。
「もう少し気絶していると思ったけど、回復が早いな」
「オイ! 奴らの覆面を剥ぎ取れ」
感心したようにボーラを見ていた王子が、パーティメンバーに覆面を剥ぎ取るよう指示を出す。
覆面の下から出てきた素顔は、獣人のそれだった。
「やはり、獣人だったか」
王子は悔しそうに呟く。
「へえ、リーダーは人間だから、全員人間だと思ったけど、獣人もいるんだね」
「いや、むしろ人間よりも身体能力の高い獣人やエルフなどの方が、こういった汚れ仕事に就くものが多いのが現状だ。 知らなかったのか」
「田舎者なんで常識がなくてスミマセン。 しかし、なぜです?」
「いや、子どもでも知っていることだが、どこの田舎だ? まあいいか。 神聖連合王国を見習い、わが国でも人間と亜人を差別しないことを謳っているが、そういった国はまだまだ少ない。 ハンターや傭兵になった亜人はまだマシな方で、差別されまともな職に就けない亜人は犯罪を犯したり借金返済のためだったりと色々な理由で奴隷にされたり、人間よりも優れた身体能力や魔法の力で暗殺者にされたりする場合が多いのが現状だ」
王子やアルヴァンのなんともやるせない心情が、要たちにも伝わってきた。
「そしてそれが、ますます亜人が見下される原因でもある」
地球から来た要は、地球でも信じる神が違うこと、肌の色が違うことなど様々な理由で差別はあったなと思う。そして最悪は要の戦った秘密結社ゾルゲーだ。
ゾルゲーは大総統という神を頂点に、結社の幹部やその部下の怪人と、それ以下の人間という絶対的な階級社会であった。
奴らは世界征服の企みのために、要人から一般人まで彼らの基準でピックアップした人物を、拉致しては強制的に改造・洗脳して怪人を産み出し、自分たちの尖兵として利用した。そして捕えた一般人は奴隷・家畜化して支配した。
彼らは秘密結社らしく世界の至る所に、それこそ大国から新興国までの政治・行政・司法・軍事・経済活動・マスメディアと多岐に渡って深く静かに溶け込んでいた為、敵味方の識別が非常に難しかった。
そして彼らは一斉蜂起からの電撃的な作戦により、世界中を大混乱に陥れた。そう、一時は実際に世界を征服されかけた程に。
要たちは沢山の犠牲者を出し、沢山の友人や仲間を失ないながらも、なんとか大総統を倒し彼らの基地を破壊することが出来たが、もし負けていれば個人の自由や人権など無い世界になっていたことだろう。
要は思い出す。ゾルゲーの電撃作戦やテロにより娘を失い、悲しむ母親がいた。理不尽に親を亡くし、途方に暮れていた子どもたちがいた。一人でも多くの怪我人を助けようと、走り回っていた女性がいた。恋人を失い復讐に狂って、ボロボロになりながらも武器や兵器の開発に挑む男性がいた。
皆がある日突然訪れた悲劇に、暴力に、運命に悲しみ、抗い、足掻いて、諦めない意志を、意思を、遺志を持って戦い抜いた。
だから王子やアルヴァンの話を聞き、要はなんとも言い難い暗い気分になった。
この世界では、人間と亜人の種族の違いを理由に、人間は獣人やエルフを人ではなく獣と呼んで差別するそうだ。
要からすれば、人間に産まれたのはたまたまで、その人間の手柄ではないし、亜人に産まれたことも彼らのせいではないだろうという思いがしてならない。
無理やり暗殺者に仕立て上げるとは、どこの世界もどうしようもない人間はいるものだなと思う。
だが、人間と亜人を差別しない国も出てきていることに、希望もあると思うことにしたし、北の神聖連合王国というものに少し興味が出てきた。いずれ訪れてみたいなと要は思った。
そんな要が物思いに耽っている様子を、花月が気遣わしげに見守っていた。
次回も今回に引き続き、説明の回になってしまいます。
感想や今後の展開の予想などお待ちしています。
誤字脱字・矛盾などのご指摘はなるべく優しくお願いします。