表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

第17話

矛盾やおかしいところは、やさしくご指摘ください。


8/24 誤字脱字修正しました。

「おいおい、ヤバイ薬キメて本当に人間やめちゃったよ」


 呆れたような声を出す要を尻目に、何が起きたのかわからない後ろの四人は茫然と立ち尽くす。

 

 そして、暗殺者アサシンたちのリーダーだったその異形の体からは、人間だった先ほどとは比べものにならない量の魔力マナがあふれている。

 要が倒したオーガよりも強い魔力マナを纏っており、おそらく生半可な武器や攻撃は通らないだろう。


 その異形が口らしき穴に、大きく空気を吸い込み―――。


「ガアアァァァァッ!」


 えた―――。


 ビリビリと空気が振動するほどの叫び声と共に、辺りに殺気が巻き散らされ、村を囲む森に棲む鳥たちが一斉に飛び立ち逃げる。


 この咆哮と共に『威圧』スキルが発動され、要やその後ろの四人に向かって飛ぶ。強烈なプレッシャーに晒され、真正面から受けた要たちの体が硬直する。と同時に異形が、その巨体に似合わぬ素早さで間合いを詰め、要に襲い掛かる。


「これが戦闘系の『威圧』のスキルか!」


 スキルを受けた要の視界が、体の状態異常を示すエラーの赤文字に埋め尽くされる。


「ヒッ!!」「しまっ!!」「あっ……か、かはっ!」「あんた、避けろ!!」


 要の後ろの四人も『威圧』スキルの影響で、硬直し行動不能になる。特に亜人女性は荒事に慣れていない様子で、尻餅をついて硬直する。

 

 そして間合いを詰めた異形は右腕を振り上げ、その指の鋭い爪が日の光できらめく。


 必殺を確信したのか、異形ののっぺりとした顔が、確かに薄ら笑いに醜く歪む。


「面白い!!」


 要が呟くと即座に精気オーラによる補助と修復が行われる。世界から音が消え全てがスローモーションになる程の一瞬で要の体は正常な状態オールグリーンとなる。


 そして要も魔力マナを纏う。オーガの時よりも強く、10%ほどの出力で。


 飛び込みの勢いと体重を、存分に乗せて振り降ろされた異形の鋭い爪は、『威圧』スキルによって硬直した棒立ちの要を袈裟懸けに斬り裂いた。


 と、この場の四人全員が思った。


 スガアアアァァァ!!!


 振り下ろされた鋭い爪が地面を引き裂く。埃がもうもうと立つ。


 完全に仕留めた筈だったが、手応えのなさに困惑し警戒する異形。


「『威圧』スキルは便利だな。決まれば相手をスタンや萎縮状態にさせ、正常な判断や動きが出来なくさせるのか。相手との力量差によって決まる確率が変わったりしたら、よりゲームやラノベっぽいな」


 要の声に慌てて振り返る異形や、驚いて声の方を向く四人のギャラリー。


 あの瞬間に何が起きたのかというと、要は状態異常から回復すると、まるで氷の上を滑るような滑らかさで右足を大きく左前方に一歩踏み出し、振り降ろされる異形の腕の下を潜り抜け外側の死角に入り、交差するように後ろに回り込んだのだ。


「ただ大声を出すだけじゃなく、声を出すときに気合と共に腹の中で練り上げた魔力マナを乗せ、相手に叩き付けるのか。 スキルには魔力が必要で、魔力量が多いほど効果が上がるのかな? 面白いな、俺もやってみよ!」


 喰らったスキルの分析しつつ、自分も使ってみたいと考える要に対し、姿を見失っている内に攻撃を仕掛けてこない事をいぶかしむ異形。


 要は再び棍を構え、それとほぼ同時に再び異形が、咆哮をあげて襲い掛かってきた。


「ガアアァァァァッ!」


ぁぁぁ!!」


 異形の『威圧』を要が同じ『威圧』で跳ね返す。異形の『威圧』が容易たやすく無効化されるのを見た三人の護衛は、信じられないと驚く。先ほどの要の独白によると、初めて見たスキルを戦闘中に習得したことになる。通常、そんなことはあり得ないし、増して実戦で使用するなんて、狂気の沙汰だ。


「!!」


 『威圧』が無効化され驚く異形に、要は一気にダッシュして異形との間合いを詰めた。


「消えたっ!」「なっ!」「速い!」


 三人の護衛から口々に思わずと言った声が漏れる。


 要の棍は迷い無く、異形の胸に狙いをつけている。慌てて異形も右腕を振りかぶる。


「ガッ!」


 異形の振り下ろされた右腕と、空気を切り裂いて突き出された要の棍が激突する。


 ドガッ!!


 掌と棍が打ち合わされ、鍔迫り合いのように互いに押し合う。


 巨体の異形と体がそう大きくはない要が、一進一退の力比べをしている異様な光景だ。すると、力押しに押しきれないことに焦れた異形の左腕が、ムチのようにしなり要を横から襲う。明らかに腕の長さリーチが伸びている。


 要は横からの攻撃を飛び退いて躱し、距離を取る。


「ほうほう。 腕が伸びるのか、けっこう色々なことができる体に変わったもんだ」


「グフフフッ」


 どうやら異形は余裕を取り戻し、高笑いを浮かべている。


「なんかムカつくな」


 要は棍を構えて、再びダッシュし突く。異形も当然防御するが、構わずに要はどんどん速度と回転数を上げて手数を増やしていく。突き・払い・振り下ろしと棍が円を描いて連続で打ち込んでいく。途切れることのない、連続攻撃の嵐だ。


「オラオラオラ!」


 某スタ〇ド風に要が打ち込む棍の連撃ラッシュに対し、異形は必死に腕や爪でガードする。そして、このままではまずいと思ったのか要に向かって強引に、異形は腕を横一文字に一閃させた。


 引き戻した棍で受けた要は何メートルか吹っ飛んだが、空中でクルリと回転し足からキレイに着地する。どうやら腕の勢いに逆らわず、自ら跳んでダメージを回避したようだ。


 息を呑む音が聞こえる。護衛の男達は目の前で繰り広げられる戦闘をただただ食い入るように見詰める。そして、このまま猛攻を仕掛け押し切れと願う。


「いけー!」「押し切れ!」「休ませるな!」


 『威圧』スキルの効果が薄れてきたのか、護衛の男達の声が響く。


 しかし、戦闘の流れを引き戻そうと、距離の離れた要に向けて、異形は何事か唱えながら腕を振る。


「……!!」


 要は原因が何かは分からないが、首筋がスッと寒くなる感覚に、バックステップでその場を飛び退く。


 その瞬間、要がいた場所の地面から土が無数の円錐形の槍となって串刺しにしようと突き出された。


「魔法! それじゃあの意味不明な言葉が詠唱か!?」「初見でかわした!」「……俺なら、間違いなくあの魔法で終わっていた」


 要は次々と突き出てくる円錐形の槍を、バック転や側転でかわす。


「これが魔法か?」


 30メートルくらい離れたところで、ようやく射程範囲の外に出たらしく、土の槍の攻撃がおさまった。


「結構射程距離あるんだな」


 双方の距離が空いたため、そのまま対峙する要と異形。


 異形は、どうやら要には遠距離攻撃の手段が無いと判断したのか、魔法を使って要との距離を取って戦うつもりのようだ。


 要はその後も何度か突撃したが、魔法に迎撃され避けるの繰り返しになり、膠着状態になった。


「ヤバイぞ、彼の武器は近づかなきゃならないのに、遠距離から魔法を撃たれるのを避けるのが精一杯だ。いや、あれを避けることも十分凄いことだが」


「ああ。彼には攻撃する手段が……」


「このままじゃ、いつか避けきれなくなり、喰らってしまうんじゃないのか」


 後ろの男たちの会話が聞こえる中、要は喜んでいた。


「野郎、そんな面白い魔法ものを! じゃあ俺も」


 要は背中の鞄から30センチ程の黒い色の筒のようなものを取り出し異形に向ける。


圧縮空気砲エア・カノン!!」


 ドンッ!!


 掛け声と共に、空気の砲弾が飛び出し異形を襲う。


 今度は異形が驚いた。近距離専門の戦士系で、遠距離攻撃の手段がないと思っていた要から、何かはわからないがヤバそうなものが飛んでくる。


 異形は無様に地面に転がり、必死に避ける。


 避けられた砲弾は後ろの民家に着弾し、轟音を響かせ大爆発して民家を吹き飛ばす。


 異形も戦闘を見ていた四人も、とんでもない威力に唖然とする。


 ちなみに近くには要たちしかいないことは、戦闘が始まる前から確認済みだ。


「どーだ! 本家の青狸型ロボも真っ青のこの威力!! どんどん行くからかわせよ!」 


 異形は続けざまに打ち出される空気の砲弾を、ゴロゴロと転がって避けていた。しかし、間近に着弾した空気の砲弾に、爆発とともに異形の巨体が吹っ飛ばされる。


「おおっ!」「やった!」「ザマミロ!」


 要が圧縮空気砲エア・カノンを撃つのを止め、吹っ飛ばされた異形の様子を見る。


 舞い上がった砂煙が晴れ、姿を現した異形は左腕がちぎれかけ、ところどころに大怪我を負って出血していた。


「その様子じゃ、もう戦えないだろ。素直に負けを認めて降参しろ」


 要の呼びかけに、再び咆える異形。


「ガアアァァァァッ!」


 するとまたあの黒い粘液質な液体が、口から噴き出し異形の全身を覆う。


 要たちが見ている前で、異形のちぎれかけた左腕や怪我がみるみるうちに、治っていく。


「ああ!」「そんな……」「ウソだろ」


 三人の男たちが驚きの声を上げ、復活した異形の反則技に意気消沈する。


 しかし観察していた要は、最初に姿を現した時と比べ、異形が明らかに背の高さも縮み、体の厚みも薄くなっていることを見て取る。そして体を覆っていた魔力マナも弱まっている。


「復活するのに大量の魔力マナを使うのか。 無限に回復するわけじゃなく、せいぜいあと二回か三回が限度だな」


 異形は傷を治すと、慌てた様子で『威圧』スキルを使いながら、距離を詰めてきた。要の圧縮空気砲エア・カノンを警戒したのか、遠距離では不利だと思ったのかもしれない。


「ガアアァァァァッ!」


ぁぁぁ!!」


 勿論、要も『威圧』スキルで相殺する。


 気にせず襲い掛かってくる異形に、先ほどまでのパワー、スピード、威圧感などが感じられない要は、もう引き出しはないのかとがっかりする。


「このままでも押し切れるけど、もう見るものがないなら、さっさと勝負を決めちゃうか。 20%くらいにギアを上げれば十分かな」


 次の瞬間、要を中心に先ほどの異形の『威圧』スキルなどとは比べものにならない位の、濃密な重圧プレッシャーが巻き散らされる。


「!!」


 後ろの四人も目の前の異形も、要の発する気配に一瞬にして飲まれてしまい、指一本動かない。


「じゃあ、おやすみ」


 次の瞬間、異形の頭上に現れた要は、棍を振り下ろす。


 轟音を響かせ、異形が地面にめり込み沈黙する。


 音もなく着地した要に、見ていた四人は言葉を失った。


「おーい!!」 


 決着と同時に「戦斧の一撃」のメンバーが駆けつけて来るのが見えた。その後ろには、花月もいる。戦いが終わると駆けつけてくるのはお約束だなと要は思った。







 



感想や今後の展開の予想などお待ちしています。

誤字脱字・矛盾などのご指摘はなるべく優しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ