第13話
最後の方にグロい場面がございます。ご注意ください。
矛盾やおかしいところは、やさしくご指摘ください。
ギルドに入ってきたパーティに気付いたギルド職員や、用事があり居残っていた周りのハンターたちが息をのむ。
「アルヴァンと「戦斧の一撃」だ」「王都のSランクパーティだぜ」
「なんでアルヴァンが!!」「もしかしてオーガの退治にきたのか!?」
ハンターたちがてんでんばらばらに隣の奴と話始める。
入ってきた者たちの先頭にいるのは「リザードマン」だ。
「リザードマン」は直立し二足歩行するワニという外見の生き物で、手(前足)は道具を扱えるため、一般的に剣や盾などで武装している。人間よりも膂力があり、堅い鱗を持ち防御力も高い。また腰から伸びる長く太い尻尾は、もっぱらバランスを取る用途に使われるが、戦闘にもなればその尻尾は充分な武器にもなる。戦闘能力に優れた戦士が多いため、単独でも強敵だが集団戦ではさらなる恐るべき存在となる。他種族とコミュニケーションをとる知性もあり、けして邪悪な存在ではないが、攻撃的な性格のため縄張りなどに無断で侵入した場合は、戦いを避けられない場合もある。
このリザードマン、名前はアルヴァンといいパーティ名にもなっている大きな戦斧を装備している。その身長は190センチほどで、体重は100キロオーバーの巨漢だ。その後ろに従っているのは仲間だろう、全員頭からすっぽりとフードをかぶりマントを着ているため、人物はおろか性別さえも判然としない。
「リザードマンだとっ!」
要も周りのハンター同様驚いたが、その理由は周りと少し違う。要はそもそもリザードマンを初めて見たため、改めてここが剣と魔法の世界だと実感し興奮していた。勿論、要は興奮してもそれを表に出さず、その表情は変わらず穏やかなままだし、視線も向けない。しかし花月には星華経由で、要のその興奮がビシバシ伝わってきた。もし、要に尻尾があれば強く振っているだろう。
「うーむ、無人偵察機とここの資料でどんなものかは知っていたけど、実際にこの目で見るとなんだか凄いね。さすがファンタジー! けしからん……もっとやれ!!」
「確かに実際に動いている亜人の姿は、なんというか凄いですね」
要と花月がそんなやり取りをしているとは知らず、アルヴァンたちは窓口に近寄り話し掛ける。
「おう!夜遅くまでご苦労さん。王都のハンターで、アルヴァンと「戦斧の一撃」いうパーティだ。早速だがオーガの依頼書を見せてくれ」
漢臭く野太い声で話し掛けながら、懐からギルドカードを取り出す。
「は、はい!確認しました。それで……、オーガの討伐依頼なのですが、ちょうど本日討伐されました」
ギルドカードを確認した窓口の女性職員はカードを返しながら、申し訳なさそうに、アルヴァンに依頼が完了したことを告げる。
依頼が達成されたことを告げられたアルヴァンは、以前に会ったヘテレたちのことを思い出していた。
アルヴァンの記憶では、ヘテレは王都の試験を突破しBランクになれる実力がありながら、格上の相手には諂い、格下を虐げる性格で、当然のように自分たちより弱い相手としか戦わない主義だったはず。
「ヘテレたちか? 性根は腐っていてもBランクのハンターだからな。しかし……?」
アルヴァンはそんな彼らがBランクパーティでは難敵のオーガを討伐したと聞き、意外な印象でひとりごちたが、それを聞いていた女性職員が訂正する。
「いえ、ヘテレさんたちではありません。彼らは他のハンターに喧嘩を売って、相手に一蹴され大怪我を負いました。再起は絶望的です」
そう話す女性職員の顔には、ザマを見ろ、せいせいしたと書いてあった。過去にヘテレ絡みで嫌な思いをしたのだろう。
「ヘテレたちではない? では誰だ?」
聞かれた女性職員は、自分が上司から聞かされていることを話す。
ちなみに、この時点では要たちの情報は支部長室にいたギルド幹部までで止まっているため、女性職員は新人のハンターが薬草採取の途中で、たまたまオーガに遭遇したまたま不意を突いた一撃がたまたま会心の一撃になり、討伐出来たそうです、と自分でも信じていないのか、首をかしげながら説明している。説得力が乏しいことおびただしい。
「なんだと!? 新人がたまたまオーガを討伐しただと!? バカも休み休み言え!!」
それを聞いたアルヴァンは、ガァーッ!!と女性職員に詰め寄る。女性職員は怒鳴られ涙目になる。
仲間の一人がまあまあとなだめる。
それに落ち着きを取り戻したアルヴァンは、女性職員に詫びる。
「すまなかった。君を責めている訳じゃない。ところでギルド支部長はいるか。夜遅いが、いるなら取り次ぎを頼む」
「は、はい! 少々お待ちください」
涙目の女性職員は、急いで支部長室に向かう。
「また、アルヴァンは人を怖がらせて、ダメじゃない!」
仲間から責められるアルヴァンは、面目なさそうにしている。
そして戻ってきた女性職員に案内され、アルヴァンたちは支部長に面会のため支部長室に向かって行った。
アルヴァンたちが移動するのをホールの隅の暗がりで見ていた要たちは、ギルドカードに今日の成果を記録してもらおうとしたとき、一人のハンター風の男に気が付いた。
その男はアルヴァンたちのやり取りを見ていた、周りのハンターの中の一人だが、要はなんとなくその男が気になった。根拠はなく勘だ。
その男が周りのハンターを抜け、表に出ていくのを見た要は花月に合図し、無人偵察機を一機向かわせて監視するように指示した。
要が監視を指示した男はギルドを出た後、夜の暗闇の街を迷いの無い足取りでどんどん進んでいく。その向かう方角は貧しい人々が暮らす貧民街だ。そのあとを無人偵察機が地面から5メートル位の高さで音もなく付いていく。
ここトゥチェスは他国との交通の要衝にあり貿易によって利益を上げる街で、人や物資が集まり大商人の高級店から露店や屋台も多く様々な人が暮らしている。当然、中には富豪もいれば貧者もいる。貴族の屋敷や一部の大商人の豪邸もあれば、日雇いの人足や難民からチンピラや犯罪者もいて、そういった者たちが暮らす地区もある。
そのうち複雑に入り組んだ狭い路地を抜け、男がたどり着いた先は行き止まりだった。しかし、男が壁をコツコツとノックすると、突き当りの壁に見えていたものがどういう仕掛けか動き出し、人一人がやっと入れる程度に隙間が空いた。男はそこに滑り込む。
男はそのまま暗い建物内を進み、明かりが漏れている部屋にたどり着いた。
中には数人の男たちが、テーブルを囲んでソファーに座り、何かを話し合っていた。
「どうした、キム?」
部屋にいた男たちの中で、一番上座の男が問いただす。
「団長に至急お知らせ下さい。アルヴァンと「戦斧の一撃」がギルドに現れました」
ギルドから来た男は返答する。
「良し! 予定通りだな」
「はい、現在支部長と面会中です」
「そうか、では団長にお知らせして、計画を第二段階に進めよう。準備を始めろ」
上座の男の指示で、その場にいた男たちは皆部屋を出ていく。
男たちのその様子を一部始終、侵入したハエサイズの子機が撮っていた。
翌日から要たちはギルドに顔を出し、昼間は依頼を受け薬草の採取や魔物の討伐を行い、夜は星華に転移してゆっくり休むというサイクルで活動を始めた。
愛読のラノベに出てくる主人公たちのように、ハンターとして活動するのはいわば要の趣味だ。依頼は手紙の配達から魔物の討伐まで幅広く受けたが、採取系は特に頻繁に受けた。無人偵察機を動員して空から薬草の群生地を見つけ、取りすぎないように気を付けながらギリギリまで採取し、他にも魔物の肝や怪鳥の卵など薬の素材となるものは多く採ってきた。
おかげで貯金がどんどん貯まり始めた。
というのも、通常なら宿代や食事代に始まり、武器の補修や新調する分、薬草や毒消しなどのアイテムの代金に怪我をすれば治療代だってかかるが、要は本来食事も睡眠も必要ないし、花月も毎晩星華に転移して休んでいるので、二人には不要だ。また二人とも怪我もしなければ、武器のメンテナンスは星華で行えるため劣化もない。唯一費るのは、街を拠点にしているのに宿に泊まっていないと不信がられるので、一応とっているダミーの宿の代金だ。つまり出費は抑えられ、依頼の報酬や魔石や素材の買い取り代金が増えていくのだ。
要はもぐりの高利貸しでも始めようか? とも考えたが違法性のあるものは止め、代わりにいくつかの孤児院を調べ身寄りのない子どもに愛情をもって運営しているところに、報酬の一部をナ〇ト・ダテの名前で、こっそり寄付することにした。要たちは、子どもは宝だ、皆が大人になるまで育ってくれればよいと思っている。
そんな日々の中、今日は依頼とは別に、以前から発見し偵察機に監視させていた山賊たちが、動き始めたので朝から向かうことにした。
山賊たちは要たちがこの世界にくる前から、森の中にある放棄された砦を根城にして、通行人や近隣の村から金品や時に女性を略奪していたことはわかっている。
しかし近隣の村から出された被害届が、なぜか黙殺され山賊たちは取り締まられることもなく、村の窮状は放置されていた。
これはギルドの依頼ではないが、この手の賊が弱者を暴力で言うことを聞かせようとする行為に我慢がならない要たちは、見付け次第ぶっつぶすことにしている。賊が何人いようと関係ない。特に金品だけでなく、女性を拐って乱暴するなど許し難いと花月が怒り心頭で、九割殺しが希望の要は皆殺しにしないかを心配している。
今回山賊が狙う村はチェック済みだ。小さな村で住民はみな人の好さそうな人たちばかりである。すぐに向かうと、ちょうど山賊たちが村の入口に着いたところだ。
朝の清々しい青空の下、村の入口の少し開けた広場に村人達が集まって、ざわざわと不安そうにざわめいていた。とても荒事には向かなそうな住民たちの視線の先には、薄汚れたボロい装備を身に纏った中年の山賊が立っていた。
その男の後ろには、荒々しい雰囲気と身なりの仲間の山賊が、十名ほどがにやにやと下卑た笑いを浮かべながら事の成り行きを見守っていた。
要たちの視線の先にいる山賊は現在、村長とおぼしき人と会話している声が聞こえてきた。
「……、外には危険な魔物や賊がたくさんいるが、俺たち歴戦の傭兵団が守ってやる。だが、あんたらも危険な仕事をタダでやってもらおうとは思っていないだろうし、俺も部下たちに危険な仕事をさせるからにはそれ相応の報酬を与えなくてはならないと言っているだけだ!」
「そ、そんな、急に押しかけてきて頼んでもいないことを……。 第一、この村には住民が飢えずにいるのが精一杯で、差し上げられるようなものなんて……」
「あぁん? 俺がこれだけ事を分けて話しても、まだわからねえのか!」
腰の剣に手を掛け凄んだ山賊はそのままゆらりと村長に寄り、握り拳を作ると村長の頬を殴り飛ばそうと振り上げる。
唐突な暴力を避けることも防御することも出来なかった村長は、吹っ飛び地面に叩き付けられた。 ……と村人の誰もが想像し、思わず目をつぶった。
「なんだ! てめえは!?」
山賊の声におそるおそる目を開けた村人たちは、村長が無事なことに安堵し、次いで山賊と村長の間に割って入った人物がいることに気づく。
「うるせえよ、山賊が!」
男の拳を軽々と掴んで割って入った要と花月は、問答無用で山賊たちに襲い掛かった。
要が掴んだ拳を支点に、完全な力技で男を地面に投げて叩き付ける。そして男の腹に踵落としを見舞い、おまけに顔面をキックする。投げられた男は腕を複雑骨折したと同時に腹に一撃喰らい、最後のキックで鼻骨や前歯数本を骨折し血反吐を吐いて気絶した。
花月は山賊たちの輪の中心へ、ゆっくり歩いていく。
突然現れた要たちに驚きつつも、直ぐに剣を抜き臨戦態勢に入る山賊たち。意外に統制が取れているなと思う要だが、男たちに向かって歩いていく花月には、多少統制が取れていようがいまいが関係なかった。
そして花月を取り囲んだ山賊たちは、一斉に襲い掛かろうとした。……が、花月の方が速かった。すでに両腕にショートソードが握られている。
姿が掻き消えるほどの速度で、片っ端から順に両腕切断と金〇潰しを見舞う。
花月のなかでは、一応警備兵に引き渡すために、連中が生きて歩ければ良いだろうという考えのもと、辛うじて死なない程度に加減している。
要の出番は最初だけで、決着はほんの一瞬だった。
「花月、おまえな……。いや、いいです」
振り返った花月を見て、要は「またかよ」という文句を飲み込んだ。
それにしても、なぜ村からの被害届が黙殺されたのか? という疑問はあるが、さてと、警備兵に引き渡すために連中の止血をするか。と要は考えた。
感想や今後の展開の予想などお待ちしています。誤字脱字・矛盾などのご指摘はなるべく優しくお願いします。