第10話
ちょっとグロいシーンがございます。ご注意ください。
矛盾やおかしいところは、やさしくご指摘ください。
要たちは獣道すら無い森の中を爆走する。時に樹木の幹を次々に蹴って飛ぶように進む。
すでに置き去りにした尾行者のことは頭にない。
上空の星華を経由するように転移した方が圧倒的に早いが、地道に自分の足で移動するのは、依頼遂行中のハンターの基本だと要は思っている。
なので星華は使わずに、自分の足で急いで移動している。変なところで頑固なこだわりが要にはある。
要の予定では、今日の夕暮れまでにギルドに受理された依頼の他に、掲示板にあった討伐依頼を三件達成して帰るつもりだ。
これは裏ルールみたいなもので、依頼中に出くわした別の依頼の魔物や価値のある薬草などは、討伐や採取したことが証明出来れば、事後承諾で依頼を達成したことになると説明されているからだ。
そこで、昨日の内に無人偵察機を多数動かして、依頼の出ている魔物の位置や採取する植物の場所を特定しておいた。魔物は移動するので、見つけた無人偵察機がそのまま張り付き、位置情報を随時送ってきている。そこから最短ルールを割り出し、現在そこを目標に移動している。
相手と要たちの位置情報を把握している星華にナビしてもらっている花月の案内で、要はどんどん進んでいく。
最初のターゲットはすぐに見つかった。
洞窟に巣くうゴブリンの団体さんだ。近くの農村から、危険なので退治して欲しいと依頼が出ていたのだ。
しかしゴブリンは一匹一匹はそれほど強くないのだが、群れの数がすくに増えるので調査や準備をしている間に、ゴブリンたちがますます増える悪循環だ。
その数を調べたところ52匹にまで増えていた。
ちなみに、無人偵察機はかなりいろいろな機能がついている。というか、元々星華と一緒に秘密結社ゾルゲーからブン獲ったものを、要の要望で花月が星華の設備を使ってカスタマイズしたのだ。その形はバレーボールサイズの球体で、空気中の精気を取り込み空を飛ぶ。動力は精気を使い、サブ的に自家発電した電力も使用する。
機能はまず広範囲に情報を収集するための各種センサーと、高性能カメラや集音マイク、それにサンプルを採取する機能を持ち、光学迷彩で姿を消し、消音性も完璧だ。採取したサンプルは星華へと送る。
これでいろいろなところに入り込んで情報収集し、さらにより狭いところにも入り込めるように、ハエサイズの子機もいくつか持っている。
そして攻撃機能としてレーザービームを備え、万一敵に発見され捕獲されそうになった場合や何らかのトラブルで星華への帰還が困難になった場合は証拠を残さないように、家一軒吹き飛ばす威力の自爆を敢行。
そんな多彩な機能を搭載している。
ともあれ、話がそれたのでもとに戻そう。
ゴブリンたちの行動は、本人(?)たちがそうと知らずに、要たちにずべて把握されている。洞窟の入り口に5匹が屯し、残りは洞窟内にいる。外に出掛けているものがいないのが、好都合だ。
要は花月に話しかける。
「じゃあ、実験開始だ」
「はい。データを採ります」
要は繁みを出て、5匹のゴブリンたちに近づいていく。
当然気付いたゴブリンたちは、それぞれが人間から奪った武器を持って要に襲い掛かる。
頭上からの大振りの攻撃を難なくかわし、体勢を崩したゴブリンの脇腹めがけて棍を横から叩き付けた。ゴブリンの脇腹が陥没し骨がヘシ折れる。
要はそのゴブリンには目もくれず、2匹同時に襲ってきたゴブリンの喉に素早く突きを見舞う。2匹のゴブリンは喉を突き破られ絶命する。味方をよけて横から回り込んできたゴブリンの横薙ぎの剣を、ジャンプでかわし棍を上段から振り下ろし頭を潰す。
着地した要の背後から、背中を切りつけようとするゴブリンの腹に、ノールックで脇から手繰った棍で突く。痛撃を受け動きの止まったゴブリンに、右足を軸に体を半回転させ遠心力を効かせたキックを叩き込む。すると、プロのサッカー選手に蹴られたサッカーボールの如く、ゴブリンが飛んでいく。ゴブリンが飛んでいった先にいたのは、騒ぎを聞きつけ洞窟から出てきた、ゴブリンメイジたちだ。魔法を唱えようとしたゴブリンメイジ2匹は、飛んできたゴブリンを避けきれず、巻き込まれて一緒に背後の岩に突っ込んだ。
魔法を阻止した要は、新手のゴブリンが洞窟からぞろぞろ出てくるのを待ちつつ、花月に声を掛ける。
「花月、昨日調べて立てた仮説の通りだ。魔法として発現していなくても、ゴブリンの体の表面に魔力を感じる。こいつらはレベルが低いから、実際にはあまり関係ないが、それでもこの魔力が攻撃の威力をわずかながらも吸収している。もっと上のレベルの魔物は、きっと魔力の大きさに見合った強力な防御膜を纏っているに違いない!」
「はい。こちらでもデータを確認しました。ゴブリンのレベルでは魔力を操れず、体の周囲にダダ漏れしていますが、これを操る魔物はただの人間の攻撃は通らないでしょう」
「よし、実験第二段階だ」
「はい」
要は自らの体に魔力を纏う。当然棍も魔力で包む。この世界に来てわずかだが、精力の使い方を参考にした魔力のコントロールは完璧だ。
「魔力同士がぶつかるとどうなるのか確かめるか」
「仮説通りなら、魔力と魔力が反発して、より強い方が相手の魔力を突き破って、ダメージを与える筈です」
要と花月は、昨日資料室で調べたことと、要がこの世界に初めて来た日のことやその時の王国の調査隊の宮廷魔導士が呟いた言葉、さらに要のラノベの知識などを勘案した結果、ある仮説を立てた。
まず魔物とは何か?資料によると、魔物とは魔力溜りと呼ばれる魔力が異常に高濃度に発生する場所からわいてきた、魔力を帯びた石=魔石を体内に持った動物たちのこととある。魔物にとって魔力は、生きていくのに欠かせないもので、捕食によって多くの魔力を摂取し魔石に蓄えることで、より強力になっていく。人間はほとんどの人が大なり小なり魔力を持ってるため、捕食の対象として魔物からよく狙われる。ギルドでは魔物は確認されたものを種類ごとに分類し、また危険度も合わせてランク付けしている。危険度が高い魔物は通常の武器や下級魔法では、ダメージを与え難いとある。倒すには上級魔法や魔法を付与された武器、ステータスをアップするような魔道具や戦闘系のスキルが必要になるとも記されていた。
何故ランクが上の魔物は、倒すことが難しいのか。要たちは魔力は当然魔法を使うのに必要だが、それ以外の使い道が関係しているのではないかと仮説を立てた。魔力は魔法に変換しなくても、無意識的に体を覆っていて、それが攻撃から身を守るバリヤーの役目をしているのではないか。もちろん人間も同様だ。そしてどうやら伝説では、かつて世界には、体を覆うようにあふれ出した魔力が目に見えるほど強力な魔物も存在したらしい。ただ、人や弱い魔物は単なる物理的な攻撃でも簡単にダメージを負わせられるのは、この魔力のバリヤーが弱いからだというのが要たちの結論だ。
しかし要からすると、精力や魔力が身体強化や防御バリヤーになるのはファンタジー小説ではもはやお約束である。この世界の人間はこんなことも知らないのかと要は疑問に思う。魔力は魔法を使う時にのみ必要な力であると思い込んでいるのか。それとも一部の人は経験的に気付いているが、体系的に知識が継承されていないのか、結論が出ない問題を要は棚上げすることにした。
「最初は軽く、5%くらいの魔力で試してみよう」
花月の声に返事をしながら、集団の先頭にいたゴブリンに魔力で強化した飛び蹴りを喰らわせる。喰らったゴブリンは地面と平行に吹き飛び、ボーリングのピンよろしく後続のゴブリン多数がはじけ飛ぶ。
ゴブリンの集団が飛び蹴り一発で分断され、要はそれぞれの集団に飛び込む。
棍を振ると、一度に5、6匹のゴブリンたちが上半身と下半身で真っ二つになる。ゴブリンたちはラノベでよく聞く「まるで豆腐のように」簡単にはじけ、潰され、両断されていく。ゴブリンメイジやゴブリンアーチャーなどが魔法や飛び道具を要に向けて撃ってくるが、常に集団の中にいる要が難なく避けるため、同士討ちになっている。
ゴブリンたちの中には、恐れをなして逃げようとするものもいたが、巧みに位置を変え一匹も逃がさない。
最後にこの群れのリーダーのゴブリンを無傷で倒すまで、さしたる時間はかからなかった。
「ゴブリン相手じゃ魔力を纏うと、オーバーキルも良いところだ」
「はい。しかしこの世界に来て初めての戦闘データや、魔力や魔物という未知の存在に対するデータは採れました」
「だな。本当はこの世界でも精力がちゃんと機能するかまで、きちんと確認したかったがそれは次の相手にするとして、急いで討伐部位と魔石を採取しよう」
「はい」
二人は手分けして、ゴブリン全てから討伐部位と魔石を採取した。採取したものは、要の背負っている鞄や、花月の腰の後ろに付けたポーチに次々に放り込んでいく。
この鞄やポーチも、ラノベを読んだ要が花月に星華の設備で造らせたもので、いわゆる「四次元ポケッ〇」とか「アイテムボッ〇ス」を参考にしている。鞄とポーチ、それに星華の倉庫の中はつながっており、空間は無限でいくら入れても鞄の重量も増えないし、中は時間の進みが極端に遅いため、劣化がほとんどない。入れたものがごちゃごちゃに混ざることもないし、生物は入れられない安全装置もつけた。もちろん使用者は要と花月のみで、他人にはただの鞄やポーチだ。
手早く作業を終えた要たちは次の場所に移動を開始する。
次回も引き続き初依頼です。
10月7日誤字脱字修正しました。
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