彼はかなりの天然で
私が瑞希の家を出たのは九時半ちょうど。外は真っ暗で、電灯の薄明かりを頼りに、いつも通る坂道を下っていた。
「あ」
下り切れても居ない坂道で、私は同じ高校の制服を着た男子生徒とすれ違った。あ、確か野球部の。えっと、名前は……
「瀬野さん。こんな遅くに一人で、どうしたの?」
あ、村上修也。肌黒くて、背が飛びぬけて高いから何と無く見覚えはある。
「村上くんこそ、何してたの?」
遅いのはお互い様だった。高校生なら夜遊びくらいはするかもしれないが、少なくとも私にはそんな勇気なんてない。
「俺っ?!部活終わって寄り道しててさ」
「ふぅん。頑張れっ、甲子園志望☆」
修也の背中をバシっと叩いて、カツを入れる。
「ははっ。あんた、ウケるね」
と、不意を突かれたかのように彼は笑う。
「キャハ☆」
いつも友達と話してる時みたいなノリ。どう話してイイのか困惑するばかりだ。
「おまぇ。なんだ、そりゃ……」
目に涙を浮かべて必死で笑いを堪えている。こんなに笑う奴だったんだ。
…………。
彼は沈黙とともに落ち込みモードになり、私が耐え切れず『何かあったん?』と問うと、いきなり語り始めた。
「実は、映画見に行っててさ。彼女と別れて来た」
はっ?!いきなり具体的に言われても……。
「へぇ、彼女居たんだ」
どうして別れたのか、何で私に話すのか、色々と聞きたいことはあるけれど、困惑してるうちに、気にもとめない風を装っていた。
「わりィかよ?!」
「イヤ、別に……」
彼は苦笑していた。それが自分にも解らないくらい嬉しくて、羨ましい。
「ところで最近、映画見た?」
彼は話しを三六〇度回転させて、また映画の話になった。
「見た見た!!あまりにもつまらなくて、寝ちまったぜっ☆」
私の冗談に「瀬野さんってかなり、笑える」と彼は微笑んでくれる。