第七話 姫勇者のご乱心
倒しても、倒しても。
魔王は次から次へとポコポコ現れた。
なのに、ルルリカに代わる勇者は一人も現れなかった。
ルルリカに代わる勇者もポコポコ現れてくれれば、ルルリカは引退できるのに。
そして、嫁げるのに。
今でも、そう願い続けている。
けれど、願いが叶う気配すらなかった。
婚期は逃していたけれど、勇者としての溢れまくる才能と家柄があれば、いかようにもなるはずなのだ。
後釜さえ決まれば……という言質は既に父親から取り付けていた。
しかし、それは。
後釜が現れなければ、そのままずっと勇者でいてね?――――という無言の圧力でもあった。
後釜が現れる気配はない。
魔王ポコポコがおさまる気配もない。
このままだと、嫁ぎ損ねた姫勇者として生涯を終えることになりそうだった。
引きこもっていた兄二人がいつの間にかちゃっかり結婚していたこともルルリカの心を乱した。
そんなこんなも相まって、ルルリカは人生二度目の大いなる閃きを得た。
『そうだ! 人がだめなら、魔王に嫁げばいいんじゃない?』
それは、青天の霹靂にして起死回生の秘策中の秘策に思えた。
ルルリカは早速、花嫁衣裳テイストな戦装束を父親に強請った。
ティトに止められて、理由の方は内緒にした。
さすがにそれを言ったら止められるだろうなと思い至るくらいの分別は、辛うじて持ち合わせていたのだ。
父親は涙を堪えつつ快諾し、早速手配してくれた。予備まで用意してくれた。
おそらく、夢を諦めたからこそ、せめて衣装だけでも……みたいな悲しい勘違いをされているのだろうな、ということは察していたが、ルルリカはお礼だけ告げてありがたくブツをいただいた。
もらえるものさえもらえれば、細かいことはどうでもよかった。
魔王に嫁いでしまいさえすれば、こっちのものだとも思っていた。
「いい考えだと思ったんだけどなー。魔王を倒したら次の魔王が現れるってことは、倒さなければ次の魔王は現れないってことだろ? だったら、倒さずに婿にしてしまえばいい!」
「そうですねぇ……」
「私を嫁に迎えれば命は助けてやると脅せば、結婚くらい簡単だと思ったのに」
「そうですねぇ……」
平民の美女を無理やり召上げる悪徳貴族のごとき暴論にして理想論だが、理にかなっていないこともないし、ルルリカならば可能にしてしまえそうな案だった。
ティトは心を無にしたような表情で、機械的な相槌を打つ。
「結婚さえしてしまえば、こちらのものだ。うまく躾けて魔物被害復興の手伝いをさせれば、父上も民も認めてくださるだろう。躾がうまくいかずに暴れるようなら、討ち取ってしまえばいいだけだしな」
「そうですねぇ……」
かつての面影は微塵も感じられない山賊のような野蛮な考えだが、相手は魔王なのでティトは特に反論はせず、やっぱり機械的に頷いた。
「一度でも結婚出来れば、私はそれで満足するのに……。未亡人勇者としてなら、勇者として生涯を終えることも吝かではないのに。世のため民のために身を捧げるのに。それなのにっ……。どうしてなんだっ!」
「…………」
ルルリカの遠吠えが始まった。
姫勇者どころか、とても人とは思えない獣のごとき咆哮だった。
これがあるから、宿には泊まれないのだ。
個室に閉じ込めておけば何となるレベルの声量ではない。
これが人に聞かれたら「姫勇者様ご乱心か?」などと不名誉な(真実ではあるが)噂が広まってしまう。
ティトは、そっと目を逸らし、顔を伏せた。




